千切屋治兵衛の着尺の帯合わせ

第三千二百五十回目は、千切屋治兵衛の着尺の帯合わせです。

今日でこの着尺の帯合わせは最後にします。今日は使い残しの写真です。

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いちばん上の写真は、洛風林の袋帯「名物小枝文」を合わせてみました。「名物小枝文」は洛風林によるネーミングで、一般名は、名物裂である「大黒屋金襴」です。名物裂の金襴手には、多くの牡丹唐草文があって、花が大きかったり小さかったりしますが、これは小さな花に宝尽くしが合わせてあります。

「洛風林」というと個性的というイメージがありますが、この帯の意匠は名物裂に意外に忠実です。個性があるのはむしろ色で、白地に青と赤茶の3色だけという配色のおかげで、元の名物裂とは大きく違うイメージになっています。模様は赤茶と青で平等にシンプルに織られているように見えますが、じつは青色が絹なのに対し、赤茶はポリエステルのフィルムが使われていて、質感が大きく異なるのです。

常識なら、花がポリエステルで光沢を持ち、蔓や葉が絹で自然な質感で良いと思うんですけどね。それが逆というのは、洛風林でないと思いつきません。そういうところから個性が生まれるんでしょうね。

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写真2番目は、龍村の名古屋帯「春秋宴」を合わせてみました。「花下遊楽図」のような寛永ごろに流行った遊楽図をテーマにしているようです。元絵は、男女がお酒を飲んだり踊ったりしていますが、ここでは人物を全部省略し、幕の模様だけで場の雰囲気を表現しています。そのおかげで、華やかながら上品な雰囲気になっていますね。

「春秋」というのは、桜と楓が生えていることですが、これは金銀だけの表現です。幕は茶と緑と青が主役で、赤系を避けています。だから華やかでも派手にならないんですね。

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写真3番目は、花也の名古屋帯「横段文刺繍とアールヌーヴォー亀甲」を合わせてみました。横段模様はすべて刺繍、亀甲のような模様は防染によるものです。「アールヌーヴォー亀甲」は、明治大正ごろの友禅の図案集にある名前でしょう。当時の図案家は、西洋ではアールヌーボーというのが流行っているらしいと聞き、断片的な知識からこういうものを描いたんでしょうね。

うちにある明治末期の紋帳には、新しい家紋としてアールヌーヴォー調の家紋も載っていますので、言葉とおおまかな知識は、あまりタイムラグなく日本に入ってきているんですんね。

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写真4番目は、花也の友禅名古屋帯「四季花市松文」を合わせてみました。市松の地紋のある生地を生かして、その地紋に沿って友禅の模様を描いています。模様の一部分だけが白揚げ友禅で、意外に強い赤を色挿しし、金彩加工しています。その他の多くは線描きによる表現です。

友禅の糸目は模様の輪郭のための堤防ですが、線描きは絵画そのものですね。堤防である輪郭は正確なら良いわけですが、線描きはそれ自体が絵画ですから、正確なだけではなく芸術的である必要もあります。作者によって、かすれて美しい線描きもありますし、温かみのある線描きもあります。私は意外と、見ていて不安になる神経質な線描きも好きです。

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写真5番目は、花也のダンマル描き名古屋帯「苧環」を合わせてみました。ダンマルというのは、ダマールという地名がなまったものです。樹液から作ったゴムを揮発柚で溶かしたものです。筆で描いて防染しますが、薄く塗ると半防染効果があり、白と地色の中間の色ができますから、それを利用して陰影や遠近感を表現し、友禅よりも絵画的になります。

友禅に例えると、パラフィンによるホンモノの蝋染が糊糸目、ダンマル描きがゴム糸目という位置づけかもしれませんね。ダンマル描きの方が描きやすいですが、だから簡単とは言えません。描きやすいということは絵画に近いということであり、純粋な芸術として評価されてしまうからです。

この作者は、技術的なレベルは高いですが、職人らしい控えめな表現をしていて好感が持てます。「俺は画家だ」みたいな描き方をした着物の模様は、横山大観が余興で描いた、なんていうものでないかぎり、いやらしいですよね。
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[ 2015/10/31 ] 帯合わせ | TB(0) | CM(0)

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