一の橋の絞りと刺繍の名古屋帯の細部

三千百七十五回目は、一の橋の絞りと刺繍の名古屋帯の細部です。

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いちばん上の写真は、お太鼓(腹文も同じ)の近接です。

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写真2番目は、さらに近接です。朱色の花は、形が流動的で乱れているように見えますが、刺繍の糸自体はまったく乱れが無いですから、全体の意匠の雰囲気に合わせて、花の形を崩しているのでしょう。この花がぴちっとした形だったら、全体の意匠がぎこちないものになってしまいますね。

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写真3番目は、上の写真の少し下辺りです。大きな絞りの取り方の輪郭線の一方の側だけが、朱色の糸で刺繍してあります。染色作品における作画技法というのは、糊防染(友禅染)、型染、刺繍、箔、絞り、などいろいろありますが、他の技法では輪郭線はくっきりしますが、絞りだけは輪郭線がくっきりしないんですね。だから絞りを選ぶ理由は輪郭の凹凸とグラデーションを求めてのことだと思います。

この作品もまた、輪郭線の凹凸とグラデーションを求めて絞りで取り方を表現しています。もし型染で取り方が描かれ輪郭線がくっきりしていたら、安っぽい平板な作品になっていたでしょうから、手間とコストをかけて絞りをしていることも意義があるんですね。ところが、です。そうやってやっと得た凹凸とグラデーションの半分を、刺繍で隠蔽して無にしているのです。その刺繍だってさらに手間とコストがかかっているはず。

もう全然合理的ではないですよね。なんでそうするのか、もう頭がくらくらするほどです。この意味が不明な刺繍も、倉部さんの刺繍だから高いんですよね。

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写真4番目は、上の写真の少し下辺りです。草の刺繍は緑色のグラデーションが美しいです。朱色の花はグラデーションが無く均一な表現であるのと対照的です。何で表現を統一しないんだろう、なんて私は思ってしまうのですが、たぶんそうしてしまったら作品の深みが無くなってしまうんでしょうね。

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写真5番目は、垂れの部分の近接です。疋田絞りの「X」の形の崩れと、朱色の花の形の崩れがちょうど合っている感じですね。

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写真6番目は、お太鼓の笹の模様の近接です。型疋田によって笹が描かれているのですが、1つの作品の同一画面で、本当の絞りの疋田と型疋田が並んで併用されている例というのは珍しいと思います。そのような作例が、江戸時代の小袖に有るのかどうかよくわからないですが、外見上似ていて、違う進化の経路をたどった2つを並べることに意味が有るとも思えず、迷宮に入り込んだような気がします。

このように矛盾を3つも4つも抱えることで、深淵を覗きこむような魅力のある作品になっています。私はこれを仕入れず、もっと合理化した様式で作った方が良いかとも思ったのですが、そうするとこの魅力も薄くなってしまうのだろうということで思いとどまりました。
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[ 2015/08/15 ] 繍箔 | TB(0) | CM(0)

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