第二千八百五十七回目の作品として藤井絞の名古屋帯「波頭に千鳥」を紹介します。
昨日紹介した藤井絞の疋田絞りは、気が遠くなるような手間を積み上げていくことに価値がある技法ですが、今日紹介する帯は辻が花の再現で、計算された絞りで模様を表現することに価値があるものです。一方が根性勝負であれば、もう一方は頭脳と技勝負ですね。どちらも工芸にとって必要なことですが、現代の状況では、根性は中国で代用できてしまいます。しかし技は代用できないので、辻が花系の方が価値が安定しているように思えます。
しかしながら、辻が花系の絞りには、絞るだけで染液に浸けないという手段があります。この作品は、本来の絞りの技法にしたがって、絞った後に染液に浸けて染めているわけですが、絞ってから筆で着彩するという技法で染めてしまう作家もいます。絞りの難しいところは、染液に潜らせても平気なぐらいに完全に防染することですが、筆で着彩するなら不完全な防染でよいので楽なのです。作家が楽しようが苦しもうがユーザーには関係ないことですが、絵画的表現が出来すぎてしまうと、友禅に近くなって絞りの意義が薄くなってしまいますよね。
いちばん上の写真はお太鼓です。波頭と千鳥というシンプルな意匠、白も含めて3色というすっきりした配色です。友禅であれば、安易でベタなデザインといわれてしまうかもしれません。しかし、絞りだけで表現しているということならば、配色が3色も当然ですし、技法のかぎりをつくした複雑なデザインということになります。
絵画性の低い不自由な技法というのは便利ですね。何でも描ける友禅であれば意匠について人が求めるハードルは高くなります。
写真2番目は腹文です。波頭か千鳥を選ぶようになっています。ホンモノの技法を使った絞りは、ユーザーに対してサービス良くないですね。空絞なら人気モチーフを全部並べてくれるかも。
写真3番目は、お太鼓の近接です。絞りの職人さんにとっては、この図案のように波と千鳥が近接していると絞るのが難しいということで、こういう箇所が腕の腕の見せ所だそうです。実際に絞りをしたことのある人でないと気が付きませんが、そういうチェックのポイントもあるんですね。
スポンサーサイト