藤井絞の桶絞りの訪問着

第三千七百八十五回目の作品として、藤井絞の桶絞りの訪問着を紹介します。

美しいキモノの2015年冬号の表紙に使われた着物です。その表紙は知的所有権の問題がありますからここでお見せすることはできませんが、「美しいキモノ 2015冬」で検索していただくと、ハースト婦人画報社のホームぺージかアマゾンで見られます。

全体が桶絞りで作られた着物です。桶絞りという技法は、生地の染めたくない部分を桶に入れ、染めたい部分を桶から出した状態で蓋をして縄で縛って圧力をかけ、染液に浸けるという方法です。たかが染分けをするためだけに、なぜそんなまだるっこしいことをしなければならないのかと思いますが、それはいろんな技法がある現代人の感覚で、室町時代の人にとっては、桶を使うというのは合理的な技法だったのです。

現代の辻が花に使われる絞の代表的な技法は帽子絞です。生地の絞りたい部分を摘まんで芯を入れ、それをビニール(フィルム)で包んで防染して染液に浸けます。室町時代も同じですが、プラスティックフィルムのようなものはありませんから、竹の皮あるいは油紙を使いました。竹の皮は竹の円周を超える大きさのものはありませんし、油紙というのも心もとないですから、小さい面積しか防染できませんでした。

大きい面積を染分けるにはどうしたらいいか、そこで登場するのが桶なのです。まだるっこしく感じますがプラスティックフィルムが無い地代はそれが唯一の方法なのです。現在では大きいプラスティックフィルムで包めばいいのですが、じつはそれが問題で、巨大な帽子絞でも染分けできてしまうために、一見同じに見えてもホンモノの桶絞りとニセモノの桶絞りが生じてしまったのです。現在、京都で桶絞りをしている工房は1軒か2軒ではないでしょうか。これはその数少ないホンモノです。

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いちばん上の写真は全体です。着物の意匠と思えば、使われている技法は絞りだけですし、パターンを繰り返すシンプルなものに感じます。しかし桶絞りの工程を考えると、どうやって桶の中に入れる部分と出す部分を選択したのか、複雑怪奇な気がします。

色は爽やかですから、染め重ねることはしていないのです。つまり一色は1回で決めなければいけないんですね。おそらく水色を染める時は水色以外の部分を桶に入れて水色の染液に浸け、黄色を染める時は黄色以外の部分を桶に入れて黄色の染液に浸るということを、色数だけ繰り返したんだと思います。

染分けの内部は花の模様が白抜きになっていますが、これは小さい面積の絞ですから帽子絞りです。桶絞りをしつつ、入れ子的に帽子絞りもしているんですね。

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写真2番目は、前姿(マエミ+オクミ)です。友禅のばあいは、中井淳夫さんのような重厚な色が良い場合もありますが、絞りは失敗して何度も絞り直していればいやでも重厚になってしまいます。色が爽やかであるということは、1度で鮮やかに決めているという技の凄さを表しているわけです。

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写真3番目は、前姿~脇縫い~後姿です。現在は染分けの技法はいろいろあるわけですが、その中で特に面倒な絞りを選ぶ理由は何でしょうか。私は輪郭線が軟らかくグラデーション効果があることだと思います。特にこの作品は全身染分けで、グラデーションの見せ場だらけです。

普通の桶絞りは、刺繍や箔を併用することが多いです。絞りがグラデーション担当で、その他の技法がコントラスト担当でバランスが取れるのです。しかしこの作品はグラデーションだけで柔らかい一方ですから、漫才でいえばボケだけですね。そのことで着る人を優しく見せますし、コントラスト役を帯に任せているとも言えます。そこのところは帯合わせで改めて論じたいと思います。

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写真4番目は後姿です。中央の縫い目は背中心です。

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写真5番目は背中心辺りから下前です。
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[ 2017/06/23 ] 絞り | TB(0) | CM(0)

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