龍村の名古屋帯「バティック」の続き

第三千二百十九回目は、龍村の名古屋帯「バティック」の続きです。

今日はそれぞれのモチーフに近接してみました。いちばん上の写真から3番目までは、お太鼓のそれぞれの動植物の近接です。

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写真4番目は、参考図版として、岡重のスカーフを近接で撮ってみました。インドネシアのバティック作家がチャンティンを使って模様の輪郭を防染し、それを京都で友禅作家が染めたものです。模様は伝統的なバティック、色は伝統的な京友禅になっています。

今回の龍村の作品は、蝋染めである作品を西陣の織物に翻案したものです。本来、蝋染めで染めるのに適したデザインを、あえて織で表現しているため、軟らかい蝋の輪郭線ががっちりして立体的な織の輪郭線に変わるなどして、雰囲気が変わっています。外国文学を翻訳するような感覚ではないかと思います。

龍村の作品を見ると、モチーフの周りに桜の花が散っているように見えます。桜と思えば、龍村が創作で付け加えたように思いますが、じつはバティックの伝統的な様式として、元絵に7個の点で表現された花のような模様があり、割りと忠実に写しているということがわかります。

チャンティンの蝋と友禅の糊置きは、防染して染めるという点で似ていますが、友禅の糸目は輪郭を取り、堤防の役割に徹することが多いのに対し、チャンティンは堤防の役割だけなく、自由な作画に参加することが多いですね。

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写真5番目は、お太鼓の模様の上下の額縁のような役割をする部分です。同色で分かりにくいですが、お太鼓の他の模様と同じく、絵緯糸による表現です。
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[ 2015/09/30 ] 西陣・綴 | TB(0) | CM(0)

龍村の名古屋「バティック」

第三千二百十八回目の作品として、龍村の名古屋帯「バティック」を紹介します。

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いちばん上の写真はお太鼓です。バティックにありがちなモチーフが9個、クロスワードパズルのようにきちんと並んでいます。このような模様配置にすると、カチッとした息苦しい雰囲気になるものですが、元々のバティックのモチーフが持つユーモラスな雰囲気のおかげで中和されていますね。

気になったのは、真ん中が更紗の花だということです。普通の人なら、せっかくのセンターはいちばんかわいい動物にしたいですよね。あえてセンターを植物にするというのは、龍村のデザイナーの見識でしょう。

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写真2番目は腹文です。動物ではなく植物が来ています。合わせる着物の模様はいろいろですから、前姿は個性の強い動物より、植物の方が帯合わせが楽ということではないかと思います。

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写真3番目は、裏側です。模様は絵緯糸で表現され、裏に渡り糸が通っていることがわかります。

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写真4番目は、品質表示です。「絹100%」とあるので、金糸が使われていないことがわかります。バティックがテーマということで、元作品の雰囲気を生かすために金銀糸を使っていないのです。このことは帯合わせにも影響を与え、主に紬に合わせる帯ということになるでしょう。

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写真5番目は近接です。この作品は個々のモチーフが魅力的なので、明日は各所を近接でお見せします。、
[ 2015/09/29 ] 西陣・綴 | TB(0) | CM(0)

紫絋の袋帯「グリーンリーフ」の帯合わせ

第三千二百十七回目は、紫絋の袋帯「グリーンリーフ」の帯合わせです。

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いちばん上の写真は、千切屋治兵衛の付下げを合わせてみました。実際に制作したのは中井淳夫さんです。とりあえず、あまりフォーマルっぽくならないように、紬地の付下げを選んでみました。作品のモチーフは「陶画」で、陶器(磁器ではない)に絵付けされた洒脱な絵をテーマにしています。紬の表面の質感が陶器の質感が似ているのを生かした作品で、中井さんらしい発想ですね。

付下げの地色も緑で、帯とは同系色になりますね。この帯合わせは手堅いですね。

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写真2番目は、一の橋の付下げを合わせてみました。これも紬地の付下げです。テーマは、更紗というあまりフォーマル感のないものを選ぶことで、生地の紬との整合性を図っています。

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写真3番目は、野口の付下げを合わせてみました。実際に制作したのは岡本等さんです。岡本等さんは、朱色系など京友禅の伝統的な色彩を排し、モダンな色を取り入れたのが特長です。この作品のテーマは、城か教会の窓からヨーロッパの村の風景が見えているというもので、モリスシリーズとの相性も良いように思います。

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写真4番目は、花也の付下げを合わせてみました。今までの例は、カジュアルっぽい紬地にしたり、西洋のテーマにしたり、本筋を避けてきましたが、今回は京友禅らしい本筋の作品を合わせてみました。流水に若松と六角箱を合わせた安田様式の作品ですね。いかがでしょうか、これで大丈夫ならどんな付下げも合わせられるように思います。

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写真5番目は、花也の付下げを合わせてみました。これも波と松をテーマにした作品で、京友禅らしいテーマですが、彩色せず白揚げだけの作品です。
[ 2015/09/28 ] 帯合わせ | TB(0) | CM(0)

紫絋の袋帯「グリーンリーフ」の帯合わせ

第三千二百十六回目は、紫絋の袋帯「グリーンリーフ」の帯合わせです。

今日も昨日の続きで着尺(小紋)を合わせてみました。

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いちばん上の写真は、野口の着尺を合わせてみました。帯が葉だけなので、着物で花を足してみました。足し方が盛大すぎる気もします。染の色はたいてい織の色に負けるものですが、この場合は型染にもかかわらず負けていませんね。絶妙な帯合わせとは思いませんが、絶対ダメというほどではないかも。

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写真2番目は、野口の着尺を合わせてみました。上の写真の派生作品と思われます。同じような花の模様で、横段模様になるように無地場を配したものです。このシリーズには市松のパターンで無地場を取ったものもありますが、仕立ててしまえば、横段と市松があるわけではなく、大きな市松とすごく大きい市松という違いにもなります。

帯に個性がありますから、少しでも無地場がある方が落ち着きます。紛争国の非武装地帯みたいな感じですね。

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写真3番目は、野口の着尺を合わせてみました。多色の大きな模様の更紗を合わせてみました。モリスのデザイン自体が更紗的な雰囲気もしますから、更紗だらけの感じにもなりがちですね。地色が濃い緑色でグリーンリーフの同系色であることが、吉と出るか凶と出るか、と言うところですね。

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写真4番目は、野口の着尺を合わせてみました。少し高級な手挿しの着尺です。梅をテーマにした横段の着尺で、帯の模様が1つの大きな模様であるのに対し、着物は多数の細かい模様です。このような組み合わせの方が普通です。
[ 2015/09/27 ] 帯合わせ | TB(0) | CM(2)

紫絋の袋帯「グリーンリーフ」の帯合わせ

第三千二百十五回目は、紫絋の袋帯「グリーンリーフ」の帯合わせです。

今日は着尺(小紋)を合わせてみました。このような個性の強い帯は、無地、縞、格子あるいは江戸小紋なら必ず合います。しかしそれは、一方的に話をして他人に嫌われている人が、「私は無口な人となら話が合う」と言っているようなもので、試してもしかたがありませんから、それ以外のものにチャレンジします。

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いちばん上の写真は、野口の着尺の格子を合わせてみました。1回だけ、基本の帯合わせをしてみます。地味な色の格子に見えますが、この格子は、北斎の美人画に登場する着物とよく似ています。だから地味なのではなく、江戸の粋なんですね。北斎の絵でも艶っぽい女性が着ています。

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写真2番目は、野口の着尺の更紗を合わせてみました。多色で総柄のしつこい更紗です。模様の構成が縞になっているので、縞更紗ですね。たいていの帯が合わない厄介な着物ですが、この帯合わせは上手く行っているように見えます。しつこい着物の帯合わせには、模様自体に存在感があって、模様の周囲に余白がある帯が良いのだと思います。

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写真3番目は、千切屋治兵衛の着尺の雪輪を合わせてみました。朱色を含む明るい色ながら色数は少なく、模様は多いが余白もある、こういう着物は、仕立て易く、着易く、帯合わせもしやすいものです。

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写真4番目は、野口の着尺の意匠化された花模様を合わせてみました。多色のかわいらしい着尺です。帯が葉だけなので、花を加える気持ちで合わせてみました。

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写真5番目は、野口の着尺の更紗を合わせてみました。モリスのデザインも更紗の仲間のような気もしますし、色も緑系の濃淡ですから、着物と帯が模様の意味も色目も似ているということになりますね。いくらなんでもそれでは合わないだろうと思うのですが、どうでしょうか。意外と大丈夫?
[ 2015/09/26 ] 帯合わせ | TB(0) | CM(0)

紫絋の袋帯「グリーンリーフ」の帯合わせ

第三千二百十四回目は、紫絋の袋帯「グリーンリーフ」の帯合わせです。

今回の帯は、袋帯という形式や、地が引き箔であることを考えると、フォーマルとして訪問着や付下げに合わせたい気がします。しかし、葉が1枚というテーマや、模様の雰囲気を考えると、カジュアルとして紬に合わせたい気がします。

そういう帯は、どっちつかずの使い勝手の悪い帯ともいえますし、どちらにも使える便利な帯ともいえます。結局、同じことを、悲観的に言ったり、楽天的に言ったりしているだけなのでしょう。今回は、紬から付下げまで合わせてみます。まず今日は付下げから。

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いちばん上の写真は、秋山真和さんの「綾の手紬」を合わせてみました。「綾の手紬」は、秋山真和さんが宮崎県綾町で作る手織り・手紡ぎ・草木染の紬に付けられたブランドです。グリーンリーフの色と同系色の濃い青緑色を合わせてみました。帯の模様の配色に赤系を避けているのですから、合わせる着物も同系色にして、色数を増やさない帯合わせをしてみました。紬は、雨のような筋の意匠です。

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写真2番目は、新田機業の紅花紬を合わせてみました。綺麗な色の紬を合わせるという趣旨で選んでみました。

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写真3番目は、黄八丈を合わせてみました。グリーンリーフの色との組み合わせとして目立ちそうな辛子色系(黄色と鳶色の格子)を合わせてみました。

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写真4番目は、松枝哲哉さんの久留米絣を合わせてみました。青と緑という組み合わせは綺麗ですし、都会的な雰囲気がありますね。松枝哲哉さんの久留米絣は、藍の色が明るくて、今の感性に合っているのではないでしょうか。

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写真5番目は、秋山真和さんの「綾の手紬」を合わせてみました。グリーンリーフの模様はなんとなくクリスマスっぽい感じがしますので、赤と緑の紬を合わせて、クリスマス用のコーディネートにしてみました。
[ 2015/09/25 ] 帯合わせ | TB(0) | CM(0)

紫絋の袋帯「グリーンリーフ」の続き

第三千二百十三回目は、紫絋の袋帯「グリーンリーフ」の続きです。

今日は各部の近接と拡大です。

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いちばん上の写真は、お太鼓のグリーンリーフの近接です。毛細血管のように細い葉脈が張り巡らされています。金糸による表現で、血が流れる血管のように生き生きと表現されています。

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写真2番目は、お太鼓のグリーンリーフの葉脈辺りの拡大です。葉の中心を通る太い葉脈で、撚り金糸の束を絵緯糸として使っています。強い表現ですね。

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写真3番目は、お太鼓のグリーンリーフの先端の方の近接です。葉の先端は枯れて丸まっているのでしょうか。金色に光っていた細かい葉脈は暗い色に変わって、もう生気を感じません。加賀友禅の病葉の例はありますが、こんなに堂々と中心に持ってこないですよね。元はモリスのデザインということですが、それを主役に持ってくるところに作品の個性を感じます。

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写真4番目は、同部分の拡大です。葉と色の濃い輪郭です。
[ 2015/09/24 ] 西陣・綴 | TB(0) | CM(0)

紫絋の袋帯「グリーンリーフ」(ウィリアム・モリスシリーズ)

第三千二百十二回目の作品として、紫絋の袋帯「グリーンリーフ」を紹介します。ウィリアム・モリスシリーズの1本です。

紫絋のウィリアム・モリスシリーズは人気のようで、もう何年も継続しています。ウィリアム・モリスのデザインというのは更紗のようでもあり、西陣の織物と相性が良いのだろうと思います。今日はその1本です。

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いちばん上の写真はお太鼓です。いきなり存在感のある画面をお見せして恐縮です。明日、近接と拡大をお見せします。どんな着物が合うのか、帯合わせも気になりますね。クリスマスのパーティーにも使えそうな気もしますが・・・、どうでしょうか。

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写真2番目は腹文です。モリスのデザインですから、鳥や栗鼠を持ってくることも可能だったでしょうが、ここはお太鼓のダイジェストで。

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写真3番目は地の近接です。地は単色ではなくムラになっていますが、空に薄雲がかかった景色に見えてきます。もっとも高い空にかかる雲は、材料になる水蒸気も少ないので、こんなふうに空の青が透けて見える気がします。

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写真4番目は地の拡大です。ムラのある表現は、絵や染め物ならば下手に塗ったり染めたりすればいいのですが、織物のばあいは、ちゃんとデザインして糸を配置しなければなりません。ポリエステルフィルムを絵緯糸として織り込んで、経糸で留めています。空のように見える光沢は、ポリエステルの光沢でした。ムラは、ちゃんとそのように彩色したポリエステルフィルムを配していたのでした。

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写真5番目は、品質表示です。絹が95%、ポリエステルフィルム3%、指定外繊維(紙)1%、レーヨン1%です。地が全てポリエステルフィルムの絵緯糸で覆われていると思うと、3%は少ない気がしますが、この%は重量による比率だからでしょうか。
[ 2015/09/23 ] 西陣・綴 | TB(0) | CM(0)

花也の手描きの着尺(飛び柄の小紋)「笹の丸と羊歯文」の帯合わせ

第三千二百十一回目目は、花也の手描きの着尺(飛び柄の小紋)「笹の丸と羊歯文」の帯合わせです。

昨日まで、織の名古屋帯と合わせてきたので、今日は染の帯を合わせてみました。

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いちばん上の写真は、千切屋治兵衛の友禅の名古屋帯「松重ね」を合わせてみました。実際に制作したのは、中井亮さんで、尾形乾山の陶器の箱の意匠に取材したものです。構図も色もシンプルな絵ですが、その割に存在感があります。その秘密は、染料に微妙に顔料が混ざっていて色自体が強い、染料の上から、光らない程度に微妙に箔加工がしてあって、さらに重みのある表現になっている、の2つだと思います。

見た目にも色に存在感があるのを感じますが、ちゃんと仕掛けがあるのです。

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写真2番目は、加賀友禅作家、中町博志の名古屋帯「重陽」を合わせてみました。黒地に黄色の一度見たら忘れない菊の絵です。技法も伝統的な糊糸目ですし、テーマも花の形も江戸時代の掛け軸にもあるような古典的なものです。でもモダンで創作的に感じてしまうのは、中町さんの才能ですね。

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写真3番目は、野口の友禅の名古屋帯を合わせてみました。しぼの大きい縮緬地にゴム糸目の友禅で琳派風の草花を描いたものです。辛子色の地色に、濃紺と紫の配色はまさに野口のスタイルです。世間では若い人は派手な着物を着、歳をとると地味な着物を着ることになっていますが、野口は朱系の派手な色を使わないで華やかな着物を作ることができます。そのおかげで、地味な着物を着る年齢になっても華やかな着こなしができるんですね。

普通の常識では、派手な着物は華やかで、地味とは反対のものだと思ってしまいますが、野口は地味で華やかを可能にしたのです、そこが野口のいちばんすごい革新で、今のユーザーが求めるものと合致しているのではないでしょうか。うちで売れる着物も、地味なくせに華がある着物です。一見、矛盾するようでとても難しいのですが、私はいつもそれを探していますし、野口はそのヒントをくれますね。

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写真4番目は、花也の後染め友禅と刺繍の名古屋帯を合わせてみました。いつもの花也とは違うゴム防染による作品です。ゴム防染で白揚げの模様を作り、地色に合った彩色をわずかにしつつ、さらにその色に合った刺繍をしたものです。その過程でグラデーション効果も考慮されています。

なぜ糊糸目ではないのか、それは完璧な配色とグラデーションを作るためです。糊糸目では地色を染める前に模様の色を染めるので、完全に色を馴染ませるのは難しいのです。ゴム糸目であれば、先に地染めがしてあるので、模様の色を締める時にぴったり合わせることができるわけです。作品にとって大事なことは、伝統的な技法を使うことではない、美しいものを作ることなんだ、ということを、いちばんらしくない花也が教えているんですね。

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写真5番目は、花也の白揚げ友禅と刺繍の名古屋帯を合わせてみました。白揚げの友禅で亀甲のような模様を描き、その上から刺繍をしています。亀甲模様は「アールヌーヴォー亀甲」というらしいのですが、おそらくアールヌーヴォーと同時代か少し後の明治時代、ヨーロッパでアールヌーヴォーというのが流行っているらしいぞ、と知った図案家が考案したのだと思います。おかしいですが、それも日本のデザイン史ですね。
[ 2015/09/22 ] 帯合わせ | TB(0) | CM(0)

花也の手描きの着尺(飛び柄の小紋)「笹の丸と羊歯文」の帯合わせ

第三千二百十回目目は、花也の手描きの着尺(飛び柄の小紋)「笹の丸と羊歯文」の帯合わせです。

今日も龍村の光波帯を合わせてみました。光波帯は、基本は経錦ですが、絵緯糸を併用して重層的な表現をしたものもあります。値段は少し高くなっています。

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いちばん上の写真は、「花鳥梅花文錦」を合わせてみました。梅に似た華文なので、この名があります。花と花との間には小さな鳥の模様もあって、上代裂の中でも後期の精緻なものです。なんとなく和様の雰囲気があるのと、遺品の数が多いことから、日本製であろうと思われますが、古代には国内でもレベルの高いものが織られていたことがわかります。

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写真2番目は、「有翼牛文錦」を合わせてみました。ギルガメシュ叙事詩に、ギルガメシュが天の牛シャリバンと戦う物語がありますし、ルーブル美術館のアッシリアのコーナーにも巨大な有翼牛がありますね。龍村の光波帯のシリーズは、上代裂(正倉院裂と法隆寺裂)と名物裂の外に、干支の裂シリーズがあります。毎年末に、翌年の干支をテーマに創作裂を発売するのですが、意表を突く外国のモチーフが多いのです。これは、昔の丑年に発売されたものでしょう。これも基本の経錦ですね。

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写真3番目は、「獅子噛鳥獣文錦」を合わせてみました。豊臣秀吉の陣羽織をアレンジしたものです。本歌は南蛮人から輸入したペルシア絨毯だといわれます。これは経錦に絵緯糸を併用した、少し高級バージョンです。

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写真4番目は、「日野間道手」を合わせてみました。名物裂として有名な日野間道に取材したものです。本歌は東京国立博物館にあり、間道というよりジグザグの横段です。色は派手ですが、退色前はこんな派手な色だったと思われます。龍村としては高島屋専売の高価な手織りの帯としても販売していて、その廉価バージョンという感じでしょうか。これは経錦ではなく、地が綾織、間道部分が真田風の織物と複合になっているので、少し高いです。

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写真5番目は、「太子菱繋文錦」を合わせてみました。これは龍村によるネーミングで、法隆寺に伝来する蜀江小幡の一部に使われている裂です。幡頭と、幡頭から出ている紐状の部分です。蜀江小幡は、貴重な3種類の上代裂で出来ており、昨日紹介した「円文白虎朱雀錦」も、じつはこの小幡の一部です。これは経錦ですね。

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写真6番目は、「遠州七宝」を合わせてみました。「遠州七宝」は龍村によるネーミングで、一般名は「遠州緞子」です。模様を織り出している金糸が絵緯糸です。よく見ると6色の間道で、それに金糸の絵緯糸が交わり、石畳文が生じていることがわかります。こういうのを見ると、織物は数学で図形の問題だなあとしみじみ思いますよね。
[ 2015/09/21 ] 帯合わせ | TB(0) | CM(0)

花也の手描きの着尺(飛び柄の小紋)「笹の丸と羊歯文」の帯合わせ

第三千二百九回目目は、花也の手描きの着尺(飛び柄の小紋)「笹の丸と羊歯文」の帯合わせです。

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いちばん上の写真は、龍村の名古屋帯「鳥羽絵戯画譜」を合わせてみました。「鳥獣戯画」に取材したもので、墨の線を金銀糸の線表現に変えています。着物の模様も線描きですから、色無し線表現という点で重なってしまいます。それでも違和感はないのは、水色に濃い紫という絶妙な配色のおかげでしょう。

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写真2番目は、龍村の名古屋帯「寄せん裂」を合わせてみました。名物裂を切り嵌めした意匠です。実際に名物裂を切嵌めした作品もありますが、これは1つの裂として織られたものですから、全部つながっています。龍村は名物裂の再現でも有名ですが、これは1つの帯で、何種類も龍村裂が見られるわけです。

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写真3番目は、龍村の名古屋帯「ほかけ」を合わせてみました。帆掛け舟の配色に朱系の色が使ってないために、若向けにならず広い年齢幅で使えます。朱色が無いと華やかさが無くなってしまうと思われますが、実物を見ると、朱色が無いことでかえって都会的でお洒落なのではないかと思います。

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写真4番目は、龍村の名古屋帯「春秋宴」を合わせてみました。「花下遊楽図」のような近世の風俗画を思わせる画面です。元絵では、女性や伊達な若武者が踊ったりしているのですが、ここでは人物を省略して、幕の文様だけの意匠的な表現になっています。金銀に輝く桜と楓が、人物の代わりでしょうか。

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写真5番目は、龍村の光波帯(仕立て上がり名古屋帯)「円文白虎朱雀錦」を合わせてみました。龍村の帯のラインの中で、いちばんベーシックな商品である光波帯です。母や祖母から譲られたという方もいらっしゃるので、何十年も変わらず売っている定番商品なんですね。そのせいか安くてもなんとなく尊敬されていて、ユーザーも堂々と締めています。

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写真6番目は、龍村の光波帯(仕立て上がり名古屋帯)「獅噛太子」を合わせてみました。法隆寺に伝来する有名な上代裂ですが、「獅噛太子」は龍村によるネーミングで、一般名は「太子間道」ですね。龍村の帯のタイトルは、商標登録を意識してか、一般名とは別に独自のネーミングがされているものが多いです。
[ 2015/09/20 ] 帯合わせ | TB(0) | CM(0)

花也の手描きの着尺(飛び柄の小紋)「笹の丸と羊歯文」

第三千二百八回目目の作品として、花也の手描きの着尺(飛び柄の小紋)「笹の丸と羊歯文」を紹介します。

笹の丸紋と羊歯を合わせた文様です。飛び柄にかぎらず小紋のように、模様が繰り返すものは型染か糸目型で染められます。しかし、これはわざわざ手間のかかる糊糸目で染められています。しかも糸目友禅の中でもいちばん巧拙がはっきりする線描きです。

ユーザーの立場になれば、安い型染で出来ることを、高い手描き友禅として買うのですから、その差が目に見えなくては損ですよね。それはやはり、植物の枝葉の先端のかすれでしょう。そこに手描きでないとできない特長が出ると思います。だからやはり、手描きで小紋を作るなら、線描きで、尖った葉がある植物を描かないといけないんですね。その辺を花也さんはよく理解しているのだと思います。

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いちばん上の写真は、反物の幅を写真の幅として撮ったものです。模様どうしの間隔が広いものは、着る人の体形によって模様が上手く出るとは限らず、仕立て屋さん泣かせですね。理想は、マエミの模様が2個、その間にオクミに1個出ることですが、身長が小さいとマエミに1個しか出ませんし、身長が大きいと、反物の尺自体がギリギリなので、オクミの模様の位置が調整できません。模様配置が完璧でなくても仕立て屋さんを責めないようにしましょう。

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写真2番目以後は、各部の近接です。鑑賞のポイントは、本来型染で出来ることを、わざわざ手間をかけて糊糸目で描いているわけですから、その違いが判る部分を見ることですね。具体的には、植物の枝や葉の先端の止め方や力の抜き方です。また、手描きと型染めを鑑定するときも、枝や葉の先端の止め方や力の抜き方を見ます。型染なら一定の法則により揃っているでしょうし、手描きならそれぞれだと思います。

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[ 2015/09/19 ] 友禅 | TB(0) | CM(0)

藤井絞の男児のお宮参りのお祝い着の続き

第三千二百七回目は、藤井絞の男児のお宮参りのお祝い着の続きです。

今日は書く部を近接してみました。モチーフはほとんどが宝尽くしで、武のイメージは矢羽が1組あるだけです。それも縁起物の破魔矢で、鏃が付いていないので人を傷つけることはできません。

普通の男児のお宮参りの着物は、鷹か兜が付いています。勇ましい武士のイメージですが、男の子にそれを求めるのは、将来の夢と訊かれて陸軍大将と答えるような、戦前の価値観のように思います。現代の普通の親は、ビジネスで稼ぐ知恵を持った人になってほしいと思っているのではないでしょうか。鷹や兜より宝尽くしの方が親の願いを良く反映していますよね。

古美術の世界でも、戦前には鷹や虎の掛け軸がたくさん描かれたのですが、今はそういうのは人気が無く、うさぎや雀の方が落札率が高いですよね。同じように、人物(神像?)であれば神武天皇より天女のような柔らかいものの方が売れますよね。であれば、好まれる着物のテーマも柔らかいものへ変わっているはずで、男児のお宮参りだけ鷹や兜というのは作り手の認識不足のように思います。

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藤井絞の男児のお宮参りのお祝い着

三千二百六回目の作品として、藤井絞の男児のお宮参りのお祝い着を紹介します。掛け着とも言いますね。

まず基本の知識ですが、お宮参りの着物は男女とも、普通の着物とは構造が違います。普通の着物は背中が2枚の布で出来ていて中心に背縫いがありますが、お宮参りの着物は1枚の布で出来ているために背縫いがありません。女の子のばあいは、小改造により3歳の七五三の着物として流用できますが、男の子のばあいは、5歳の着物として流用することはできません。

3歳の大きさなら1枚の布で背中をカバーできるのですが、5歳の大きさでは1枚の布では背中をカバーできないからです。地域によっては、男の子でも3歳で七五三をするらしいですが、そのばあいはお宮参りの着物が流用できます。当たり前と思うかもしれませんが、意外と店頭では質問を受けるんですよ。

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いちばん上の写真は全体です。

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写真2番目は、参考図版です。これは江戸時代の武士の熨斗目です。上の写真と比較してみると、今回の藤井絞の男児の掛け着は、江戸時代の武士の熨斗目の様式を踏襲したものだとわかります。

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写真3番目は、藤井絞の男児の七五三の羽織です。これは辻が花を写したものです。辻が花は、室町~桃山時代の様式ですから、藤井絞の男児のお祝い着には、桃山時代までの乱世の様式と江戸時代の泰平の様式と、対照的な2通りが用意されていることがわかります。

時代劇ファンでも、信長や秀吉が出る戦国モノのが好きな人と、吉宗や金さんが出る江戸モノが好きな人がいますね。もっとも信長より暴れん坊将軍の方が大勢人を殺してますけどね。

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写真4番目は近接です。熨斗目部分を近接してみました。江戸時代の本物の熨斗目は絣ですが、現代の藤井絞の作品は絞りで表現しています。

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写真5番目は近接です。絞りで模様が散らされています。これは宝尽くしの七宝文ですね。

絞り模様の中味については、また明日。

八重山上布の名古屋帯の帯合わせ

三千二百五回目は、八重山上布の名古屋帯の帯合わせです。

昨日まで夏の織物に合わせて来たので、今日は染の着尺に合わせます。地方の土俗的な文化である紬の着物に、中央の文化である京都の多色の友禅の名古屋帯を合わせることはよくありますし、紬どうしよりも気が利いていますよね。では、反対はどうでしょうか。京都の雅な型友禅の着尺に、民芸的な絣の帯を合わせられるでしょうか。

友禅のフォーマルの訪問着に紬の帯を合わせるのは、誰が見ても絶対ダメですが、型染の小紋に絣の帯というのはどうでしょうか。紅型の着尺に花織の帯を締めている人は普通にいますから、誰も正式に悪いとは言っていないと思います。一般にはあまり見ないですが。

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いちばん上の写真は、野口の着尺に合わせてみました。草間彌生みたいなデザインですが、薔薇を表しているようです。生地は紗で、紬っぽいシャリっとした感じです。染めの着尺の中でも、紬に近い感じを選んでみました。

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写真2番目は、野口の着尺に合わせてみました。上の作品と同じ模様の色違いです。帯と着物の色は、補色関係の方がメリハリが効きますが、同系色の帯合わせもあり得ます。白っぽいどうしだと、美智子さまのイメージを紬で再現した感じになりますね。

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写真3番目は、千切屋治兵衛の着尺に合わせてみました。これは絽ですが、しゃりっとした感じの生地です。墨色地に白抜き模様の無彩色着物で、帯の絣を意識して、雅な雰囲気を避けております。

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写真4番目は、絹紅梅の着尺に合わせてみました。絹紅梅は、細い絹糸と太い木綿糸を組みあわせ織物で、糸の太さの違いによって;生地が肌に密着しないようにした着物です。密着しないので風が通るというわけです。ただし、太い糸も細い糸も絹を使った絹紅梅もありますね。

太い糸も細い糸も木綿を使ったものは綿紅梅で、ほぼ浴衣と同じ用途ですが、絹紅梅は浴衣よりフォーマルで、絹の小紋よりカジュアルといったところでしょうか。絹紅梅の加工については、浴衣のような模様を付けてカジュアル寄りにしたものもありますし、正絹の小紋のような模様を付けてフォーマル寄りにしたものもあります。

今回使っている絹紅梅は、藍染であるために浴衣っぽいですが、模様は縞更紗のようで正絹の小紋っぽいです。商品としては、カジュアルとフォーマルの中間の狭いところをターゲットにしたのではないでしょうか。夏のお茶会で、浴衣は止めてね、と言われた時にちょうど良いかなあと思います。
[ 2015/09/16 ] 帯合わせ | TB(0) | CM(0)

八重山上布の名古屋帯の帯合わせ

三千二百四回目は、八重山上布の名古屋帯の帯合わせです。

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いちばん上の写真は、夏結城と合わせてみました。夏結城は、結城紬の夏バージョンではなく、小千谷で織られている織物です。ニセモノというわけではなく、ずっと昔にネーミングされ(商標登録されているのかわからない)、そのまま続いているのではないかと思います。詳しい事情は知らないですが、本場の結城の産地は、平織の紬と結城縮だけで、完全な夏物である紗はなかったので、当時は問題はなかったのではないかなあ。ただ、これから本場結城の産地の人が、結城紬の技法で紗を作ろうとしていたら「夏結城」と商標登録できなくて困るでしょうね。

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写真2番目は、小千谷縮と合わせてみました。伝統的な小千谷縮は、重要無形文化財で、越後上布よりさらに珍しいものですが、現在普通に売られているものは、ラミーで機械織りされているリーズナブルなものです。デザインもお洒落ですし、夏の着物としては浴衣よりマニアック感があっていいですよね。この作品は、グリーンとグレーで織り分けている大胆な意匠に見えますが、よく見ると縞で、太さが徐々に変わって織分けのように見えているんですね。

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写真3番目は、近江ちぢみを合わせてみました。近江ちぢみは、本来の近江上布の産地で、ラミーで機械織りされているリーズナブルな織物ですから、現代の小千谷縮と同じような立場ですが、小千谷縮より少し値段が安いところが良いですね。

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写真4番目は、結城縮を合わせてみました。単衣の着物と夏帯を合わせる例です。

結城の産地では、昭和30年に平織の紬だけが重要無形文化財の指定を受け、その後は平織の紬が主力になるのですが、実はそれ以前は、結城縮の方が流行っていて、そちらの方が生産量が多かったのです。近年、再び縮も織られています。ただし、手紬の糸と地機による重要無形文化財の技術を引き継いだものと、そうでないリーズナブルなものがあります。それは現在のグレーの証紙の有無で区別できます。これは安い方です。
[ 2015/09/15 ] 帯合わせ | TB(0) | CM(0)

八重山上布の名古屋帯の帯合わせ

三千二百三回目は、八重山上布の名古屋帯の帯合わせです。

今日は色に着目して帯合わせをしてみました。帯の模様の色は藍の青とグールの茶色で、その対比が美しい作品です。青と茶の組み合わせは、お洒落なブランド物にもある配色ですよね。着物を合わせる際には、この青と茶を意識して合わせれば失敗はないと思われます。

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いちばん上の写真は、夏琉球を合わせてみました。琉球壁上布とも呼ばれる琉球絣の夏バージョンです。絣も本物の手括りですし、織も手織りでありながら、値段はネットや良心的な店では10万円から128,000円ぐらいですから、コスパの高い夏物だと思います。

ここでは青と茶のうち、青に反応した合わせ方にしてみました。着物と帯で、絣どうしを重ねるというのは少し抵抗があるので、なるべく絣の大きさと形が違うものを選んでみました。

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写真2番目は、東郷織物の格子の夏大島を合わせてみました。大島紬というのは本来高級品のイメージですが、それは経緯の絣のことで、格子や縞の大島は本物でも昔から結構リーズナブルな値段です。東郷織物というのは、大島紬では有名メーカーですが、これも10万円以下で買えるものです。

ここでは青と茶のうち、茶に反応した合わせ方にしてみました。着物は格子なので、絣どうしが重なるということはありません。

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写真3番目は、波筬紬を合わせてみました。十日町で織られているものです。波筬というのは、筬が可動するもので、経糸が波のように波打つように織れるものです。経糸が波打ってしまったら12mの着尺の形が保てるのか、タピストリーのような純粋な鑑賞品やショールぐらいなら成り立つが、着物は無理じゃないかと思うのですが、この作品のばあい、波打つ部分を一部に留めることで対処しているようです。経糸全部が波打っていたら、寸法を測るのも大変で仕立て屋さんが困っちゃいますよね。

今回選んだのは、波筬だからではなく、青と茶色と黄色の経絣という色が理由です。青か茶色ではなく、両方に合わせたらこんな感じ、ということです。その必要はない、ってことですね。

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写真4番目は、田島八重さんの夏久米島紬を合わせてみました。久米島紬の夏バージョンとして創作されたものです。手紡ぎの糸を使っているよことが、手触りですぐわかりような作品です。こういうのこそ、商品でなく「作品」って感じですね。(このブログでは安易に「作品」という言葉を使っているが、けっこう心苦しい時もあります。そういうときは、「佐野研二郎氏の作品」って程度に読んでくれればいいか、と思っています。)

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写真5番目は、大城永光の花絽織を合わせてみました。花織と絽織を併用したもので、かつてはすべて「花倉織」と呼ばれていました。現在は首里織として織られたものだけが「花倉織」と称することだけができ、それ以外は「花絽織」と表示することになっています。

帯が絣ですから、着物も絣にすると、絣どうしが重なることになるので、それを避けて紋織を合わせてみました。色はベージュで、帯の青と茶をバランス良く受け止めてくれているように思います。ベージュとグレーは便利ですね。
[ 2015/09/14 ] 帯合わせ | TB(0) | CM(0)

八重山上布の名古屋帯の続き

三千二百二回目は、八重山上布の名古屋帯の続きです。

今日はまず、昨日掲載した証票の写真をご覧ください。品質表示の「経・麻(苧麻) 緯・手績み苧麻糸」とあります。下の4枚の写真をどれでも良いので見ていただきたいのですが、経糸と緯糸が、素材は同じように見えますが形状が違うのがわかりますか。

緯糸は、撚っていないでただ束ねただけのように見えます。これが「手績み」です。それに対し経糸はもう少ししっかりと撚ってあるように見えます。経緯の糸で「手績み」の表示の有無を分けているわけですから、経糸は「手績み」ではないわけです。

織物ファンの理想は、「糸は手紡ぎ(手紬、手績み)、絣は手括り、染めは草木染」ですから、できれば「手績み」の比率が高い方が良いですよね。近世以前の織物なら、すべて手紡ぎあるいは手績みでしょうが、現代の織物は経糸だけはちゃんと撚ってあるものが多いです。緯糸は幅の37cmだけをしっかり保つ強度があれば良いわけですが、経糸は着尺なら12mしっかり保つ強度がないといけないからでしょう。強度が無くても生地が崩壊するとは思いませんが、細かい絣が合わなくなるのではないでしょうか。

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いちばん上の写真は、バンジョーの模様の一部分で、藍染の経糸がグラデーションになっている部分の拡大です。昨日の近接写真で探していただくと、藍色が経方向に消えていくところですね。

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写真2番目は、バンジョーの模様の一部分で、グール染の緯糸がグラデーションになっている部分の拡大です。昨日の近接写真で探していただくと、茶色が緯方向に消えていくところですね。

上の写真もこの写真もどちらも長い見事なグラデーションです。織物ファンのイメージでは、絣足のグラデーションは、伝統的な手括り防染の技法上の特性から生じるものではないでしょうか。まさにホンモノの証拠ですよね。しかしながら、ここでは、防染の藍も捺染のグールも同じぐらいのグラデーションになっています。つまり、グラデーションの具合というのは、技法の特性ではなく、作者の意図、すなわち演出に過ぎないのだと思います。作者は、ここは明快にしたいと思えばくっきりさせるし、ここは暈したいと思えばグラデーションにするのです。

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写真3番目は、バンジョーの模様の茶色い方のうち、経糸と緯糸の絣が交わって、経緯絣になるところの拡大です。地色部分、地色と茶色が半々で中間色の部分、経緯ともに茶色の部分の4通りが見られます。

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写真4番目は、鋏の部分の拡大です。緯糸が藍の絣糸ですが、1本飛ばしになっていることがわかります。×字が交わるところでは、完全に緯絣になるんですね。拡大せず普通に見ると、色の濃淡として認識されるわけです。
[ 2015/09/13 ] 各地の絣・紬 | TB(0) | CM(0)

八重山上布の名古屋帯

三千二百一回目の作品として、八重山上布の名古屋帯を紹介します。

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いちばん上の写真は、お太鼓です。沖縄の絣模様は、久留米や山陰の絵絣のように自由に作画するわけではなく、模様単位が伝承されていて、その組み合わせで模様を作ります。だから絵画的であっても絵絣ではなく幾何絣と考えられています。模様単位は、分類によって違うのでしょうが、本によって300とか600とか書かれています。

この帯の階段のようなデザインは、バンジョー(番匠、曲尺)といわれるものでしょう。個別で並んでいることもありますし、この作品のように生地全体に斜めにつながっているものもありますが、どちらもバンジョーと呼んでいるみたいですね。×の方は、「沖縄織物の研究」を見ると、模様に太さと長さの比率の違いで、雲と鋏と2通り載っていて、これがどちらかわかりにくいですが、曲尺とのセットなので、器物どうしということで鋏でしょうか。

腹文も同じなので、前姿ではこの模様の半分が横倒しになるわけです。階段状の形と×の形ですから、横倒しにしても大丈夫ですね。

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写真2番目は、近接です。色は青と茶色でお洒落ですが、これは八重山上布を代表する2つの染料である、グールと藍です。グールは山芋から取った染料で、捺染により染めます。藍は沖縄ですから琉球藍ですが、防染により染めます。染料の性質により直接染める捺染と、染めたくない部分を防染してから浸ける方法とがあるんですね。

直接染める方が便利ですが、藍は30度以上に温度をたもって発酵状態にしなければ染められないために藍甕に浸けるので、防染という面倒な技法によるのです。染めたい部分に働きかける捺染と、染めたくない部分に働きかける防染は、染色の原理として反対ですが、それが並んでいるところにこのデザインの意義があるのでしょう。

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写真3番目も近接です。バンジョーは経絣と緯絣で出来ていて、その交わるところが経緯絣になり、鋏は、一段飛ばした緯絣からできていて、交わったところが普通の緯絣になっているんですね。絣による模様表現はパズルの問題みたいですよね。

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写真4番目は、組合の証票です。品質表示があって、作者は手書きサインとハンコです。品質表示は印刷だから、品質は組合が仕切っていて、共同仕入れした糸から作家が織っているんでしょうか・・・ 作家は自分の名を印刷するほどは作っていない、ちゃんとした手織りだろう・・・  印刷と手書きの比率からいろんなことが想像できますね。

明日は、このラベルの品質表示を拡大写真で実証してみます。
[ 2015/09/12 ] 各地の絣・紬 | TB(0) | CM(0)

藤井絞の名古屋帯の帯合わせ

三千二百回目は、藤井絞の名古屋帯の帯合わせです。

今日は昨日の続きです。

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いちばん上の写真は、青戸柚美江さんの出雲織「星座」を合わせてみました。色(完全に防染した真っ白なものと、少しだけ藍甕に浸けた薄い藍とがある)と大きさに差がある十字絣を並べたものです。青戸さんの藍は黒に近い濃い色に染められていても透明感があるので、本当に宇宙みたいな気がしてきます。

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写真2番目は、深石美穂さんの川平織を合わせてみました。縦縞に見える部分はじつはロートン織です。深石さんという人は、沖縄の染織技法を縦横に使いながら、それでいておおらかな作風の作品をつくれる人です。「おおらか」というのは、王朝時代の御絵図帳にも見られる沖縄織物の雰囲気ですね。

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写真3番目は、佐藤トシさんの南部紬を合わせてみました。茜と玉葱で染めたきれいとしか言いようがない紬です。綺麗すぎて着るのは難しいですが。

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写真4番目は、菱一の「つるばみ紬」を合わせてみました。「つるばみ紬」というのは、菱一が自社の別織作品に付けるオリジナルブランドで、実際に織っているのは十日町です。綺麗な黄色の市松模様で、絣の特徴であるズレをおおげさに増幅してグラデーション表現をしています。帯との配色で選んでみました。

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写真5番目は、新田機業の紅花紬を合わせてみました。グラデーションを多用して優しい雰囲気を演出した縞の紬です。
[ 2015/09/11 ] 帯合わせ | TB(0) | CM(0)

藤井絞の名古屋帯の帯合わせ

三千百九十九回目は、藤井絞の名古屋帯の帯合わせです。

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いちばん上の写真は、真栄城興茂の琉球美絣に合わせてみました。色については、帯の地色と同系統の青系濃淡で合わせ、模様については、華文の円形に対して対照的な直線の組み合わせにしてみました。色も形も反対にしては、ただの無関係になってしまいますし、色も形も同じにしては、ただのフォロワーになってしまいます。色を同じにしたら、形を反対にするというのが基本の考え方ですね。

着物の模様がぼけて見えるのは、写真のせいではなく絣のグラデーションです。この凝ったグラデーション表現が美絣の特長ですね。

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写真2番目は、織の会ヌヌナスのロートン織を合わせてみました。首里織として伝わる技法の1つであるロートン織は、経糸が浮いて紋織を形成する織物です。常識で考えると表が経糸が浮いていれば、裏は緯糸が浮いていそうなものですが、ロートン織というのは、裏も経糸が浮いていて表裏見分けがつかないという不思議な織物です。漢字で書くと両段織と表記することもあるのですが、表裏同じという意味なんだろうと思います。実際の構造は、経糸が半分に分けてあり、その間を緯糸が通っています。浮いている経糸はじつは密度が地の半分なんですね。

経糸が浮くという組織の特性上、意匠としては縦縞になることが多いです。そのため、上の例と同じく円形と直線の帯合わせになりました。色については、着物は青系だけでなく赤系もちょっと加わった組み合わせになっています。経糸に赤が使ってあるので、緯糸の藍色と混じって紫っぽい縞に見えますね。

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写真3番目は、結城紬を合わせてみました。百亀甲の総柄です。色は近世以前からの伝統的な藍染で、帯とは同系濃淡の関係です。模様は具象的なデザインで、円と直線の関係から離れてみました。

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写真4番目は、結城紬を合わせてみました。百亀甲の総柄です。色は焦げ茶色で、同系濃淡から離れてみました。模様も具象的なデザインで、円と直線の関係から離れてみました。

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写真5番目は、個性の強い格子の紬を合わせてみました。着物は格子も太くて大きいですし、色も絵の具のチューブから出したような茶色なので、かなり個性の強い着るのが難しそうな着物です。一方帯は、色も模様も対照的ですが、色は優しいですし、模様も優しい(絞りは箔や刺繍よりも優しさを感じる技法である)ので、着物の激しさを緩和する効果があります。

優しい帯が、激しい着物を飼い馴らしているようにも見えるので、三略にある「柔は能く剛を制し、弱は能く強を制す」状態ですね。
[ 2015/09/10 ] 帯合わせ | TB(0) | CM(0)

藤井絞の名古屋帯

三千百九十八回目の作品として、藤井絞の名古屋帯を紹介します。

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いちばん上の写真は、お太鼓です。正倉院以来の格式の高い文様である華文を絞りで表現しています。絞りというのは、辻が花が流行した短い期間と、小袖に用いられた鹿の子絞りを除き、どちらかといえば庶民の染色技法です。そのカジュアルな雰囲気の技法で、格式の高い華文を表現するというところに面白みがあるのだと思います。そのちょっと不器用な面白味が、この作品の存在意義ではないでしょうか。

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写真2番目は、腹文です。折って使いますから見えるのは半分です。腹文はお太鼓の模様のほぼダイジェスト版です。華文というのは形も歴史も意義も完璧に出来上がっていて隙のない文様ですから、別の模様を差し入れる余裕はないですよね。

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写真3番目は、華文の中心部の近接です。

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写真4番目は、華文の周辺部の近接です。帽子絞りと線状の縫締絞りを併用した部分です。帽子絞りは、生地に芯になるものを入れて包み、糸で縛って圧力をかけて防染するものです。芯になるものは、昔は木、次に新聞紙を巻いたもの(巻の回数で大きさを調節する)、現在は大小さまざまの樹脂、と変わってきました。

芯を入れる帽子絞りは形は塊になりますが、芯を入れない縫締絞り線状になります。塊と線で、模様を構成しているわけですね。

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写真5番目は、華文の周辺部の近接です。線状の絞りが交差しています。意外と珍しかったりもしますね。絞りというのは模様の周囲の生地を巻き込んで加工するものですから、職人さんからすると、2つの絞りの距離が近いとか遠いとか、交差するとか、意外なところが難しかったりするようです。
[ 2015/09/09 ] 絞り | TB(0) | CM(0)

龍村の袋帯「七宝連花錦」の帯合わせ

三千百九十七回目は、龍村の袋帯「七宝連花錦」の帯合わせです。

昨日の続きで、付下げに合わせています。今日は、元々相性の悪そうな合わせ方もしてみようと思っています。

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いちばん上の写真は、千切屋治兵衛の付下げを合わせてみました。実際に制作したのは藤岡さんです。全体に青海波が描かれていて実質的に訪問着ですが、反物で制作されています。お嬢さままたは若奥さまの礼装にふさわしい着物ですから、帯も龍村がぴったり合います。龍村といえば皇室御用達のイメージがりますから、フォーマルに関しては万全ですね。

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写真2番目は、花也の付下げを合わせてみました。典型的な安田様式の付下げで、数個散らされている六角箱は友禅、箔、刺繍で集中的に加工され、それ以外の部分はあっさりと白揚げで表現されています。六角箱部分は華やかな江戸前期の小袖を継承していて、それ以外の部分は粋で渋い江戸後期の小袖を継承しているわけです。

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写真3番目は、花也の付下げを合わせてみました。白揚げだけの付下げです。このような様式は江戸後期に流行した粋で渋い小袖を継承しているものです。龍村の華やかな帯とは本来相性は悪いはずですが、どうでしょうか。

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写真4番目は、一の橋の付下げを合わせてみました。更紗模様ですが、なんと紬地です。紬地の訪問着というのは戦後登場したもので、紬好きな女優さんのオーダーが最初と言われます。生地がカジュアルで、様式はフォーマルというキメラ的な性格を持つために、カジュアルでもフォーマルでもどちらでも着られるとも言えるし、どちらにも着られないとも言えますね。

今回のようなフォーマルなイメージの強い龍村の帯にはいちばん相性の悪いものですが、あえて試してみました。実際に写真で見てみると、あまりお勧めできませんねえ。
[ 2015/09/08 ] 帯合わせ | TB(0) | CM(0)

龍村の袋帯「七宝連花錦」の帯合わせ

三千百九十六回目は、龍村の袋帯「七宝連花錦」の帯合わせです。

昨日、訪問着までは合わせられるということは確認したので、今日は付下げに合わせてみます。付下げでも、実質的に訪問着と変わらないものについては問題なく合うと思いますが、訪問着的でない洒落ものや、カジュアルに近いものはどうでしょうか。

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いちばん上の写真は、野口の付下げを合わせてみました。色紙散しの意匠で、色紙の中には花鳥画が描かれています。花鳥の種類については四季のバランスがとれていて、1枚持っていればフォーマルの場はすべてカバーしてくれる着物です。年齢的には20代で買って40代まで着るのが理想ですね。着物に興味が無い人が、世間の付き合いで1枚買うのにちょうど良い着物ではないでしょうか。

こういう着物については、この龍村はピッタリですね。振袖用の帯として買い、その次に結婚後も意識してこんな着物(訪問着的な付下げ)を買って、帯は使い続ける、というのがいちばん合理的ではないかと思います。

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写真2番目は、野口の付下げを合わせてみました。用途としては、上の付下げとほぼ同じですが、友禅主体の多色で絵画的な作品を合わせてみました。

上の付下げのような色紙散しの意匠は、色紙という取り方にすべての模様が閉じ込められているため、絵画としては寸断され、自由な展開は抑制されています。着物の柄というのは、絵画ではなくデザインです。絵画ではなくデザインである以上、思いのままに絵を描けばいいというわけではないですが、色紙散しに代表される取り方は、下絵師の思いを抑制する手段でもあるのでしょうね。

帯の意匠自体が、華文という円形に閉じ込められる取り方でもあるので、自由に展開する絵画的な意匠の着物も良いですね。

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写真3番目は、野口の付下げを合わせてみました。実際に制作したのは、岡本等さんです。教会か城館の窓(銃眼のようでもありますね)から、外の景色を見るという意匠です。景色はロマーニャ地方でしょうか。モナリザの背景とか、ローマやフィレンツェの画家の描く絵の背景に似ているからです。エキゾチックな意匠はどうかということで合わせてみましたが、帯の華文はもともと日本人が考えたものではなく無国籍的ですから、違和感はないですね。

窓が取り方になって、その中に景色が入っている取り方模様ですが、同時に余白部分にはみ出すように更紗が絡まされており、取り方的な意匠と展開する意匠の中間になっています。

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写真4番目は、花也の色留袖を合わせてみました。海中に3つの松島が描かれた図案です。描かれているのは波と松島ですが、波は静かで風が吹く様子もなく、船など人間の痕跡も無く、鳥もいないので近くに陸地もないのでしょうね。「鳥も通わね」というところから、俊寛を連想する方もいますね。私は見ていると心が落ち着きます。

色はほとんど無彩色で、効き色として松の朱色だけが使われています。華麗な龍村の帯とは反対の世界ですが、着物を着ることは哲学ではないから、それでよいのではないかと思います。

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写真5番目は、花也の付下げを合わせてみました。和本というモチーフは、謡曲の本として江戸時代の小袖にも登場します。文芸ものといわれるジャンルで、その謡曲とそれをテーマにした絵が、ページをめくると現れるという設定で描かれています。複数の和本が描かれ、3冊に1冊ぐらいが挿し絵のページになっているんですね。

この花也の和本は、挿絵のページも文字のページもなく、開いたページは型疋田と摺箔のみです。意外に絵画的要素が少ないのが、友禅の着物としては斬新ですね。
[ 2015/09/07 ] 帯合わせ | TB(0) | CM(0)

龍村の袋帯「七宝連花錦」の帯合わせ

三千百九十五回目は、龍村の袋帯「七宝連花錦」の帯合わせです。

華やかな袋帯なので振袖専用とも思われますが、昨日の写真例を見ると、帯がむしろ大人しく見えます。華やかですが若い人しか使えないというものではないんですね。そこで今日は訪問着と合わせて大人でも使える寿命の長い帯だということを証明してみます。

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いちばん上の写真は、千切屋治兵衛の訪問着を合わせてみました。実際に制作したのは中井淳夫さんです。取り方を使って、梅の蕾~桜~椿~杜若というように春の花が展開していきます。中井さんにしてはひねりのないテーマに思いますが、じつは写真で上手く写っていないだけで、余白全体にダンマル描きで女郎花が描いてあるのです。

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写真2番目は、大羊居の色留袖を合わせてみました。花兎文をテーマにした色留袖です。余白の多いすっきりした図案です。模様も色彩も満載なのが大羊居というイメージもありますが、すっきりもまた大羊居の特長ですね。すっきりしていても存在感があって、模様が少ない感じはしないんですよね。

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写真3番目は、橋村重彦さんの訪問着を合わせてみました。橋村さんが野口の専属の作家だったころの作品で、模様の配置は現代の訪問着の形式ですが、それ以外はほぼ実在する江戸時代の小袖を再現しています。橋村さんは作家として独立する前は、千總の高級品を作っていた高橋徳にいたこともあり、その後は中井淳夫さんの彩色担当でもあったわけですが、そのような経歴の人が小袖写しを作ると、千總の様式が小袖の延長であることもわかりますし、中井の色が作家の個性ではなく正統な日本美術の色だということもわかりますね。

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写真4番目は、安田の訪問着を合わせてみました。北秀の商品として制作されたものです。龍村といえば大彦・大羊居と合わせることが多いので、それとは全く違う価値観でつくられた安田と合うか試してみました。霞がテーマで、小さな霞を模様単位として多数散らしています。その霞模様は細密な友禅や描き疋田の取り方となっています。

使われている色は、地色の銀鼠色と、赤茶色と箔の金だけですから、色彩より糊糸目の美しさで勝負する作品です。色彩豊かな大彦や大羊居とは反対の作品ですが、全く違和感はなく、龍村の運用範囲の広さがわかります。
[ 2015/09/06 ] 帯合わせ | TB(0) | CM(0)

龍村の袋帯「七宝連花錦」の帯合わせ

三千百九十四回目は、龍村の袋帯「七宝連花錦」の帯合わせです。

龍村といえば、一般には、第一礼装でしかも豪華というイメージですが、これはまさにそんな帯ですから、とりあえず振袖用として使ってみます。

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いちばん上の写真は、松井青々の振袖に合わせてみました。松井青々といえば、バブル時代に京都丸紅主催の「美展」で300万とか500万とかで売っていたイメージです。当時、すごく流行し「青々調」といわれる類似品がたくさん作られました。「青々調」と明記されていましたから、ニセモノを作っているという意識ではなく、松井青々が確立した様式として尊敬されていたんだと思います。

その特長は振袖にもっともよく現れています。辻が花の要素を引き継いだ大きな面積の桶絞りの中に、友禅、箔、疋田、刺繍など京友禅に有るすべてを盛り込んだもので、この作品がその典型です。それだけ盛り込めば、ごたごたして野暮なものになりそうですが、実物を見ると、意外にすっきりして上品です。時代を席巻したホンモノとはそういうものなのでしょう。「青々調」はごたごたして野暮い割りに存在感が無いです。

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写真2番目は、藤井絞の振袖に合わせてみました。疋田絞りを多用して梅を作画したものです。疋田絞りといえば竹田庄九郎や藤娘きぬたやの有松の絞りが有名ですが、それらは全面が疋田絞りで埋め尽くされている野に対し、京都の藤井絞の疋田は余白が多いです。その代わり、色は京友禅を思わせますね。

昔の価値観であれば、全面疋田絞りは「総鹿子」と呼ばれ至高の価値を持つものでしたから、有松の方が価値があるということになったでしょうが、今は人件費の安い海外で安く絞るという手があるので、その価値も曖昧なものになってしまいました。選ぶときは、手間が云々よりも純粋にセンスで選んだほうが良いと思います。

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写真3番目は、野口の振袖に合わせてみました。大きくて色鮮やかな宝尽くし文様です。パーティーでは遠目も効きますし、集合写真では細密な友禅よりも総鹿子よりも目立つでしょう。そしてホンモノの友禅でないと安物飛ばれてしまう、ごまかしのきかない作品ですね。

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写真4番目は、千切屋治兵衛の振袖に合わせてみました。今日の4点の中では、唯一の型糸目の標準品ですが、今回の帯合わせで、いちばん気に入っているパターンです。鴛鴦をテーマにした作品として、黄緑地、黒地など数パターンが作られましたが、これは市松地にしたものです。背景を変えると雰囲気が全然変わりますね。
[ 2015/09/05 ] 帯合わせ | TB(0) | CM(2)

龍村の袋帯「七宝連花錦」の続き

三千百九十三回目は、龍村の袋帯「七宝連花錦」の続きです。

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いちばん上の写真は近接です。この帯の意匠では、華文の重なる部分はグラデーションになって消えています。グラデーション表現は、友禅であれば染料を薄めてぼかすのでしょうし、絣であれば防染の際の圧力を加減するのでしょう。西陣のばあいはどうでしょうか。

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写真2番目は、グラデーション領域の拡大してみました。西陣の織物でグラデーション表現をするときは、絵緯糸の表面に出ている部分を減らして行くんですね。この裏面では渡り糸が増えているのでしょう。

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写真3番目は、成分表示です。絹75%、ポリエステル(金属糸風)13%、指定外繊維(紙)7%、レーヨン5%とあります。絹の割合が少ないと、金銀糸の割合が多いのですから、金銀に光るフォーマル系の帯になります。この帯は絹が75%しかありませんから、完全なフォーマルですね。

指定外繊維(紙)は本金糸の裏の和紙でしょうから、その割合が多いとホンモノ感があってうれしいですね。これは7%あるのでまずまずです。もちろん、本金糸の裏の和紙ではない紙もあるでしょうが、これは龍村ですから信じて良いでしょう。

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写真4番目は、朱色の花の部分の拡大です。朱色の花に光沢があるのは、絹の自然な光沢ではなく金糸が隠してあったのです。伝統工芸的な発想では、より品質の高い絹を使ってホンモノの光沢で勝負しろ、ということになるのでしょうが、西陣的な発想では金糸を混ぜて光らせるのです。映画の特撮みたいな即物的な発想ですよね。

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写真5番目は、青色の花の部分の拡大です。青色の花に光沢があるのも、絹の自然な光沢ではありません。こちらは金糸ではなく青いポリエステルフィルムが隠してあります。朱を光らせるのは金でもできますが、青を光らせるには人工物の力を借りなくてはダメなのでしょう。伝統工芸的発想では、越後上布なら苧麻というように、素材の正当性が先に来ますが、西陣では創作のためには素材は自由なのです。西陣の方が純粋な芸術的発想に近いとも言えますね。

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写真6番目は、金色の部分の拡大です。金の地の上に金で模様を描くと、同じ色なので模様が見えません。そんなときは、平金糸と撚金糸を分けて使います。色の違いで作画するのではなく、糸の形状の違いで作画するんですね。形状が違えば、光の反射方向が違うので、絵として見えるわけです。
[ 2015/09/04 ] 西陣・綴 | TB(0) | CM(0)

龍村の袋帯「七宝連花錦」

三千百九十二回目の作品として、龍村の袋帯「七宝連花錦」を紹介します。

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いちばん上の写真は、六通の帯で模様が1回りするところまで撮ってみました。同じ模様の華文が重なっているように見えますが、一方の色が薄くなっています。

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写真2番目は、帯の幅を写真の幅として撮ってみました。

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写真3番目は、近接です。

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写真4番目は、裏側です。

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写真5番目はタイトルです。
[ 2015/09/03 ] 西陣・綴 | TB(0) | CM(0)

秦荘帯の帯合わせ

三千百九十二回目は、秦荘帯の帯合わせです。

値ごろ品の帯である秦荘帯ですが、今日も伝統産地や作家モノの割と高価な紬に合わせます。昨日の例と同じように、全く遜色なく合わせることができました。それは、この帯が自然体で作ってるからでしょう。値ごろ品でありながら高級感を出そうとして、沖縄風の花織を付けたり、格の高い名物裂のモチーフを真似たりしていないからいいのです。

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いちばん上の写真は、大城廣四郎さんの琉球絣を合わせてみました。

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写真2番目は、与那国花織を合わせてみました。首里花織と同じ、地の糸が変化して紋織を形成するものですが、グラデーションを効果的に使う美しい織物です。

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写真3番目は、大城織物工場の琉球絣を合わせてみました。大城織物工場は、有名な大城カメの後、清栄、哲と続く工房ですが、これは「三代継承紬」とネーミングした高級バージョンです。経糸、緯糸ともに真綿の糸を使っています。

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写真4番目は、真栄城興茂さんの琉球美絣を合わせてみました。地租改正は明治の初めと思われていますが、沖縄で地租改正が行われたのは日露戦争の直前です。それ以後、自由にモノを作ってそれで得た現金を納税することになったので、織物の世界でもそれぞれが創意工夫をして収入を増やそうということになりました。そうして生まれた織物の1つが、この「美絣」です。大正時代の創始ということで、沖縄織物の歴史からすれば新しいようですが、再スタートした沖縄織物の歴史で、いちばん古いとも言えます。

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写真5番目は、真栄城興茂さんの琉球美絣を合わせてみました。木綿(正絹の駒糸の作品もある)の藍染の絣で、グラデーションの美しい作風です。上の作品は福木も併用して黄色と青の対比が綺麗です。この作品は「川明かり」というタイトルで、藍のグラデーションを多用しています。
[ 2015/09/02 ] 帯合わせ | TB(0) | CM(0)

秦荘帯の帯合わせ

三千百九十一回目は、秦荘帯の帯合わせです。

秦荘帯をネットショップで見ると、38,000円(無地)から100,000円(絣)で、伝統工芸分野としては値ごろ品というイメージです。昨日はそれを意識して、値ごろ品の紬を合わせてみましたが、値ごろの帯だから値ごろの着物と合うということでは、たいしたものではありません。値ごろの帯なのに、伝統産地や人気創作家の高い紬とも合うというとき、ほんとに良い帯なんだなあと思います。ということで、今日は高そうな紬と合わせてみます。

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いちばん上の写真は、青戸柚美江さんの出雲織「矢絣」を合わせてみました。本来の矢絣は経糸をずらして作る経絣ですが、これは経緯の絣を自由に使った創作品です。青戸さんの藍は、黒に近い濃い藍でも透明感があります。きっと藍の扱いが上手で、夾雑物が少ないのでしょうね。藍は使い込んで何度も洗うと、退色するどころかかえって色が綺麗になる、なんて言いますが、それは夾雑物が徐々に洗い流されて、藍が直接見られるようになるからだといわれています。それを最初から実現しているんじゃないでしょうか。

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写真2番目は、山下八百子さんの黄八丈を合わせてみました。絵の具をぐちょぐちょ重ねてあるような油絵であっても、良い作品は色が濁ってないと言いますよね。織物もそうですね、良い作品は派手な色の作品だけでなく、地味な茶色の作品でも色が澄んでいます。山下八百子さんの黄色もとてもきれいなので、水色と合わせてみました。ちゃんと合っていますね。

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写真3番目は、奥順の結城紬を合わせてみました。帯と着物が縞どうしになるのは、さすがにまずいと思いましたので、斜線の意匠と合わせてみました。亀甲ではなく細かい絣です。藍染と水色で濃淡を作ってみました。

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写真4番目は、郡上紬を合わせてみました。郡上紬というのは、草木染・手紡ぎ・手織りですが、作品は洗練されていて都会的な雰囲気があります。良い作品は、素朴な素材や技法で作っていても田舎っぽくないということだと思います。派手ではないですが、澄んだ色の綺麗な格子です。縞と格子の組み合わせということになりますね。

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写真5番目は、モロとよばれる久米島紬を合わせてみました。普通の久米島紬は、経糸が玉糸、緯糸が真綿糸のものが多いですが、モロというのは経糸・緯糸共に真綿糸のものを言います。価格は、普通の久米島紬の2,3倍しますが、糸にコストがかかるだけでなく、12mある経糸が真綿糸だと絣が合いにくいということもあるのでしょう。

今回、値段が高くて人気のある紬を選んでみましたが、どの帯合わせでも、秦荘帯は遜色ないですね。なぜそうなのか、明日考えてみます。
[ 2015/09/01 ] 帯合わせ | TB(0) | CM(0)