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坂下織物の「御門綴」シリーズの「唐織」袋帯

第二千九百八十六回目の作品として、坂下織物の「御門綴」シリーズの「唐織」袋帯を紹介します。

坂下はかつて超高級な袋帯で知られていましたが、十数年前に破産しています。ブランドとしては「御門綴」というネーミングがされていて、無地の部分が綴組織になっており、模様は西陣の織物らしく絵緯糸で表現していました。「御門綴」シリーズは、このブログでは何度か帯合わせに使っています。正倉院御物に取材したもの(2014年4月26日)や、中国の織物文化を代表するような蜀江錦)に取材したもの(2014年5月8日)ですね。そして今日の帯は唐織をテーマにしたものです。

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いちばん上の写真は、帯の幅を写真の幅として撮ったものです。唐織は、その名前から中国から渡来した織物だと思ってしまいがちですが、古代以来の日本の織物の技法はほとんど中国から伝わったものですから、日本の織物はほとんど唐織ということになってしまいます。唐織でないものはインド起源の絣だけということになってしまいますから、この名前はおかしいですよね。

じつは、皮肉なことに、日本の伝統的な織物の中で唐織がもっとも日本的な織物といわれます。その意味は中国代表の「蜀江錦」と比較するとわかります。蜀江錦は、左右対称で無限繰り返しの厳格な構造をもっています。それに対し唐織は、カチッとしたところがなく花鳥風月の世界観そのものです。この坂下織物の「御門綴」シリーズでは、同じ金糸の綴地のシリーズでありながら、正反対の織物を上手に再現しています。

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写真2番目は近接です。西陣の織物ですから、絵緯糸で模様を表現するのは同じですが、唐織はだるま糸という太く撚った糸を使います。それで糸が浮いて立体的に見えるのです。「唐織」とは、技法的には絵緯糸による表現ですが、それに加え、太く撚った糸による立体的な表現と、厳格な構成を持たない花鳥風月を思わせる意匠を持ったものだと思います。

しかしながら、近世に能衣装として使われたホンモノの唐織には、この定義に反して、厳格な繰り返しの構成を持ったものが多くあります。昔も今も芸術家が考えるのは自由ですね、科学と違って定義しようとすると例外がいっぱい現れてしまいます。

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写真3番目は裏側です。立体感を生み出す太く撚っただるま糸です。

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写真5番目は拡大です。この帯は、綴組織は織始めの模様がないところだけで、模様部分の地は本金の平金糸です。それが豪華な金屏風のような雰囲気を生み出しています。

ユーザーにとっては、このようなホンモノすぎる素材を使った帯は、かわり結びをしても大丈夫か、と気になるところです。成人式当日の朝に臨時で集められた着付け師さんは、本金の平金糸の扱いを知らないかもしれませんよね。先日、うちの長女の成人式に使った織悦の全面本金平金糸の損傷状態を紹介しましたが、その後、きちんと補修したらきれいに直りました。高いものは、それを直す技術も職人もいるものなのです。それを直すことがビジネスになるからで、やっぱり経済の原理なんですね。

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写真6番目は、帯合わせをしてみました。この白黒金だけの瀧模様振袖は完成品なのか、それとも刺繍による彩りを欠いた未完成品なのかという答えがここにあります。現代の着物は、小袖の時代の着方と違って太い袋帯と合わせるので、彩りの役割を帯にさせることができるのです。ここでは、着物にあるべき多色の刺繍の代わりということで、多色の糸が浮いた唐織がふさわしいと思います。
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[ 2015/02/06 ] 西陣・綴 | TB(0) | CM(0)