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千切屋治兵衛の訪問着(中井淳夫)の続き

第二千九百二十五回目は、千切屋治兵衛の訪問着(中井淳夫)の続きです。今日は細部です。

今日は、取り方の内部の琳派風の草花を個別に撮ってみます。この作品では、1つの取り方の中には1種類の草花しか入っていませんが、それぞれの草花は、意匠としてみても、友禅の技術としてみても、とても巧みで参考になることが多いです。

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いちばん上の写真は、マエミのいちばん目立つ辺りの近接です。山の形の取り方の中に、紅梅と白梅が入っています。琳派らしく「紅白梅図」になっているんですね。紅梅の色は中井独特の重い朱色です。白梅はなんとグレー。これは中井しかできない配色ですし、私がいちばん好きな部分ですから、さらに近接してみます。

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写真2番目は、白梅の近接です。花は全部正面を向いていますが、これは小袖にもある伝統的な表現を踏襲したもの。意外にも写生的ではなく、粉本主義的な表現をしています。咲いた花はグレーですが、蕾には重い朱色もつかっています。主役になるような色をわざと端の方に小さく使うと、肩すかしをされたような感覚があって、ちょっと憎いです。

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写真3番目は、燕子花(菖蒲かな?)を撮ってみました。ここにもグレーがありました。なぜグレーかと思えば、墨絵的な表現を取り入れているということでしょう。白梅では見られませんでしたが、燕子花では葉が重なるので、グレーの濃淡を見ることができ、墨絵のタッチなのだと気が付きます。

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写真4番目は、上半身にある模様を近接で撮ってみました。山の形の取り方に対し、霞の形の取り方が入り組んでいるので、2つの草花が混じっているような印象があります。チラッと見ると、真っ直ぐな茎が、途中から急に蔓植物に変わってしまったように見えて、あれっと思うのです。その後、よく見なおすと、取り方が入り組んでいるために2つの植物がつながって見えるのだと気がついて、「ああ、そうか」と納得できるのです。

この時の一連の脳の作業は、一時期、脳学者がテレビでよくやっていた「アハ体験」ですよね。わからないことがあると脳が緊張する、それが解決すると緊張が解けて喜びを感じるというものです。そういうのが脳の体操になるとか。中井さんは数年前に亡くなっているので、「アハ体験」のテレビは見ていなかったでしょうが、同じようなことを仕掛けていたようです。
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[ 2014/12/06 ] 友禅 | TB(0) | CM(0)