井尻茂子の帯留を帯に合わせてみる

第二千六百七十四回目は、井尻茂子の帯留を帯に合わせてみます。

個性があるとしか言いようがない帯留ですから、使い方で最良にも最悪にもなると思います。しかしながらもっとも恐れるべきは最悪の帯合わせをすることではありません。最悪の帯合わせをするのもまた才能で、何も考えない場合は変わった帯留をしていること自体気が付いてもらえないような無意味な帯合わせになってしまうだろうと思います。

今回紹介している帯留は、共箱の箱書きに有職とありますし、冷泉家の入江相政が序文を書いているのですから、京都の公家文化と考えて、帯も有職文様や平安貴族をルーツとする文様を選んでみようと思います。

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いちばん上の写真は、喜多川俵二の名古屋帯「鳥襷文」を合わせてみました。有職文といえばとりあえず喜多川俵二ですね。文様はそれぞれ本籍ともいうべきものがあるので、その文様が元々どこに属するのか考えると帯合わせのヒントになります。正倉院、有職、名物裂、琳派・・・・など多様ですからちゃんと分類するのは難しいです。文様を見たときに、それが現れた代表的な作品を思い浮かべることができればいいんですよね。

京都の公家の文化というのは平安時代のものと思ってしまいますが、実際には鎌倉時代から近世にかけて理論化・体系化が強化されて行きます。政治の主役で無くなったことで、かえって文化にこだわる、人間ってそういうものですね。

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写真2番目は、織悦の袋帯「業平菱」を合わせてみました。菱文は世界のどこにもある普遍的なデザインとも思いますが、唐草文、立涌文、亀甲文、七宝文などとともに公家の装束の地紋として織られた文様なので、日本では有職文ということになるんですね。

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写真3番目は、織悦の道長取りの袋帯を合わせてみました。道長取りの中身は有職文になっており、公家の文化をテーマにした帯と分ります。

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写真4番目は、織悦の袋帯「厳島彩絵花鳥蝶文」を合わせてみました。「厳島」という言葉からわかるように平家納経に取材したものですから、これもまた平安時代の公家の文化に属する文様ですね。
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[ 2014/03/31 ] 小物と小物合わせ | TB(0) | CM(0)

井尻茂子の帯留

第二千六百七十三回目の作品として井尻茂子の帯留を紹介します。

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今日はまず箱書きの写真を見てください。骨董のオークションで買ったものですが、共箱があるので作者だけでなく作品周辺の情報がわかります。私は京都の人形の文化や伝統については全く素人なので、箱書きを読んで初めて「京ほり人形所・京ほりや春堂」を知ったという次第です。

井尻茂子さんは、かつて「京嵯峨彩色・京ほり人形」という作品集を出したことがあるようです。この本の序文を川端康成と入江相政が書いています。川端康成というのは骨董の目利きですから期待できますし、入江相政(すけまさ)は冷泉家の出で昭和天皇の侍従長ですから有職の人形作品の序文に相応しいだろう、程度の認識で買っています。

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井尻茂子さんの作品は、もともと像高7,5cm程度の小さな木彫彩色の人形です。この帯留は像高4cmですが、人形作家が帯留として特別に小さく作ったわけではなく、本来の作風が帯留に向くぐらいの小ささなのです。帯留用として本来の作品と違うところは背中が平なところだけですね。
[ 2014/03/30 ] 小物と小物合わせ | TB(0) | CM(2)

大羊居の名古屋帯の帯合わせ

第二千六百七十二回目は、大羊居の名古屋帯の帯合わせです。

昨日の続きで「更紗遊苑」の帯合わせを考えてみます。更紗の帯に対し更紗の着物を合わせた回でコメントをいただいた時に思ったのですが、更紗の着物は相手の帯が限定され帯合わせが難しい一方で、更紗の帯はいろんな着物に合って帯合わせがしやすいです。

今回は更紗の帯の相手の着物を更紗とは対照的な縞にしてみようと思います。織と染を区別せずとにかく縞に合わせます。結構なんでも合ってしまうというのがわかります。

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いちばん上の写真は、地機の結城紬の縞を合わせてみました。同系色3色の濃淡による太い縞です。鰹縞と分類すべきでしょうが、太い縞の中に細い縞も含まれていて2重の縞になっていることで、鰹っぽさを緩和しているように見えます。

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写真2番目は、山下八百子の黄八丈の縞を合わせてみました。黄色に鳶色という黄八丈の本来の配色による縞です。くっきりした縞で、黄八丈によくある格子よりも個性が強いですね。

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写真3番目は、野口の着尺を合わせてみました。蝋防染をつかった自然な手描きタッチのよろけ縞です。縞の地紋の生地を使っていて、地紋の縞は真っ直ぐなわけですから、その上によろけ縞が重なるという野口らしい遊びセンスです。

防染によってできた縞の上に後で彩色していますが、それも手挿し感を強調したタッチで、縞にありがちな粋な雰囲気を緩和しています。

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写真4番目は、野口の着尺を合わせてみました。黒地の縞で縞の途中に丸紋の花模様が飛んでいるという意匠で、色が抑えられていることで、粋な、あるいは世間を良く知っている女性が着るようなイメージがあります。
[ 2014/03/29 ] 帯合わせ | TB(0) | CM(0)

大羊居の名古屋帯の帯合わせ

第二千六百七十一回目は、大羊居の名古屋帯の帯合わせです。

今日は付下げに合わせてみます。染の名古屋帯ですから、本来なら合わせる相手の着物は紬かせいぜい小紋まででしょう。しかし大羊居の名古屋帯というのは、そこそこの西陣の袋帯より値段も高いですから、フォーマルに使って華やかなパーティーに連れて行ってやりたくなりますね。

合わせるルールとしては、やはり友禅の付下げは無理だと思います。絵画性の高いものどうし競争させても仕方がありませんし、たいていのばあいは面積が小さくても大羊居の方が勝ってしまうからです。

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いちばん上の写真は、一の橋の付下げを合わせてみました。制作したのは倉部さんで「宝飾リング」というタイトルです。刺繍と箔による作品で、倉部さんらしく仕事は完璧ですが、リングは重なったり斜めになったりしているものの、飛び柄小紋のように並んでいるだけで意匠に発展性がありません。絵画性・物語性に欠けるわけですが、そこが良いということで今回採用となりました。

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写真2番目は、千切屋治兵衛の付下げを合わせてみました。制作したのは倉部さんで「霞取金彩唐花」というタイトルです。上の作品と同じく刺繍と箔による作品ですが、中国の古代以来の文様である唐花文が日本の意匠である霞取りにアレンジされているわけですから、意匠的に多少の発展性があるといえますね。帯との関係は良好と思います。

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写真3番目は、一の橋の付下げを合わせてみました。「斜取り唐草文」という作品です。染めの名古屋帯だから、相手の着物は付下げでもなるべくカジュアルに、ということで紬地を選んでみました。

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写真4番目は、大松の付下げを合わせてみました。大松とはもともと大黒屋松三郎のことで、大彦(大黒屋彦兵衛)の本家筋になります。今回は上の3例よりもリスクを冒して多色の友禅による洋花模様を合わせてみました。

大松の友禅は、大彦や大羊居にも通じるような西洋的な色彩ですから、着物と帯が似た感じになってしまうかもしれません。その部分がリスクというわけですが、その一方でこの作品は、一般的な付下げに比べても柄が少なく宇宙のように黒い余白(余黒というべきか)が広がっていますので、それが救いになっているように思います。
[ 2014/03/28 ] 帯合わせ | TB(0) | CM(0)

大羊居の名古屋帯の帯合わせ

第二千六百七十回目は、大羊居の名古屋帯の帯合わせです。

昨日の続きで「更紗遊苑」の帯合わせを考えてみます。今日は着尺を合わせてみようと思うのですが、たいていのものは合ってしまうので、少しハードルを上げ更紗限定で合わせてみたいと思います。

更紗の帯に更紗の着物を合わせるというのは、あまり頭の良い帯合わせとも思えません。これはホンモノの帯合わせではなくエア帯合わせですが、こんな悪条件でもできるんだ、と思っていただければありがたいです。

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いちばん上の写真は、岡重の手挿しの更紗を合わせてみました。カチン描きによる墨色の輪郭線に手彩色をした更紗です。岡重の更紗には京友禅による糸目のものもありますが、こちらのカチン描きの方が江戸時代の和更紗の様式に忠実ですし、雰囲気もオリジナルを良く再現していたと思います。

この着尺は、振袖として私が注文したものですが、コストがかかりすぎて商品としては企画倒れでした。美しい裂ではあるので、なんとなく保管しています。

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写真2番目は、野口の更紗の着尺を合わせてみました。大きな更紗模様で若い人向けのようですが、地色の暗緑色がやや年齢不詳にしています。

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写真3番目は、野口の更紗の着尺を合わせてみました。余白の全くない多色の更紗で、沖縄の紅型と同じく帯合わせの難しい着物です。帯は模様の回りに余白があり、直接模様が接しないので大丈夫なようです。

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写真4番目は、本場のバティックの着尺を合わせてみました。スカルノ時代にインドネシアと貿易していた商社がバーター取引を要求され企画した商品で、日本から紬の反物を輸出し現地の一流の作家が本物のチャンティンで制作し日本に再輸入したものです。当時のネーミングは「ジャワ更紗」でした。

貿易不均衡を解消するという姿勢を見せるために作られたものですから、出来るだけお金が現地に落ちるようにいちばん上手い作家を使っているはずです。このような背景があるので期待できる作品ですね。バラエティ番組でおなじみの夫人が現役の夫人だった時代の話です。
[ 2014/03/27 ] 帯合わせ | TB(0) | CM(2)

大羊居の名古屋帯の帯合わせ

第二千六百六十九回目は、大羊居の名古屋帯の帯合わせです。

一昨日と昨日に紹介した「更紗遊苑」の帯合わせを考えてみます。絵画性・物語性ともに強い友禅の帯ですから、帯合わせの相手は縞や格子の方が無難ですね。というわけでとりあえず最初は紬に合わせてみます。

こういう帯のベストなパートナーは、極めて上質で高価であるが、その価値は着てはじめて分かるというようなもの、例えば結城紬に代表される手つむぎ・手織りの紬だと思います。しかし、わかっていることを試しても仕方がないので、今日は作家モノを中心に。

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いちばん上の写真は、青戸柚美江の出雲織の着尺「流星群」を合わせてみました。モノとしては藍染の木綿ですが、テーマやデザインはモダンで個性的、いかにも作家モノです。青戸さんの藍の色は透明感があってとてもきれいです。夾雑物が少ないすなわち染め方が上手ということでしょうか。

着物と帯の関係を考えると、意匠は更紗と天体ということでエキゾチックと超エキゾチックの組み合わせ、色は多彩な友禅と透明な藍という組み合わせになります。

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写真2番目は、大城カメ(大城織物工場)の琉球絣の着尺を合わせてみました。作家晩年のものと思われる作品で、絣は細かく色も多彩でとてもきれいです。着物も帯も多彩どうしの組み合わせです。多彩どうしの組み合わせが美しいとは言えませんが、美しい多彩どうしは美しいのかな、と思わせます。

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写真3番目は、真栄城興茂の琉球美絣の着尺を合わせてみました。藍染と福木の黄色を使って、青と黄色と両者を重ねた緑色でグラデーションを作った美しい作品です。帯も着物も含めて全体から透明感を感じます。どんな分野でも良い美術作品は色に濁りが無いですね。

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写真4番目は、小岩井工房の上田紬を合わせてみました。上の3つとは趣向を変えて、地味でも派手でもない創作をウリにすることもない大人っぽい格子を合わせてみました。自分で着るならこれ、と思う方が多いかもしれませんね。
[ 2014/03/26 ] 帯合わせ | TB(0) | CM(0)

大羊居の名古屋帯の続き

第二千六百六十八回目の作品は、大羊居の名古屋帯の続きです。

「更紗遊苑」の続きで、今日は腹文です。帯のお太鼓と腹文の関係は、腹文の模様がお太鼓のダイジェストになっているのが普通で、腹文の模様がお太鼓の模様に対し新たな要素を加えているのは稀です。

単純なダイジェストでない場合にはどんなパターンがあるか考えてみると

①元々1つの絵であるべきものをお太鼓と腹文に分割しているばあい。
たとえば月と芒と兎を描いた絵を、お太鼓には兎だけを描き月と芒は腹文に描く場合があります。そのメリットはお太鼓を1つのテーマにすることで良くできたポスターのすっきりさせることでができるということと、お太鼓を見た人がコマ割りのマンガを見るようにわざわざ前に回って腹文を見るという楽しみがあることです。

②お太鼓で全体を描き腹文でその細部を描くばあい。
たとえばお太鼓で建物全体を描き腹文でその建物の中にある壁画や調度品を描く場合があります。一見、全く違うテーマのように見えて実はつながっているというパターンですね。

さて作品ですが、
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いちばん上の写真は腹文全体(実際に身に着ける時は折りますからこの半分が表に出ます)、

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写真2番目以後は腹文各部の近接です。

お太鼓は「遊苑」の全体を描き、腹文はそこに咲く花とそこに遊ぶ鳥を描いています。なんといっても鳥がかわいいですね。芸能人がクイズ番組で解答として描く程度の脱力感のある鳥です。こういう鳥が描けるところが大羊居ですね。

周囲が金糸の刺繍で、翼端と嘴なども刺繍で表現しているから刺繍は豊富ですね。友禅とはいうものの色挿しは意外とわずかです。すっきりと華やかが同居できている理由かも。
[ 2014/03/25 ] 友禅 | TB(0) | CM(0)

大羊居の名古屋帯

第二千六百六十七回目の作品は、大羊居の名古屋帯を紹介します。

「更紗遊苑」というタイトルの作品です。2つのアーチに立木模様を合わせたインド風の更紗模様ですが、「遊苑」ということなので宮廷の庭園を象徴的に表しているのではないかと思います。

モダンな色のおかげで都会的な雰囲気になっています。元絵があるのか気になるところですが、残念ながら私の知識ではわかりません。

今回はお太鼓だけ紹介し腹文は明日にします。理由は腹文の模様がお太鼓のダイジェストではなく、腹文に新たな要素を加えているからです。

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いちばん上の写真はお太鼓、

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写真2番目以後はお太鼓各部の近接です。

更紗(キャリコ)というのはインドが起源でペルシアやインドネシアにも広がっていましたが、近世になって東インド会社が輸出商品としたため、世界に広まりました。また輸入した国においても自製されたので、各地のオリジナルの更紗も生まれ世界的な流行になりました。

更紗という模様が伝搬した国は、その国独自のモチーフを勝手に更紗に組み入れるので、和更紗には扇面が並んでいるものもあり、何を持って更紗とするか定義は難しいですよね。技法的にも元のインドでは木綿で茜染、技法はブロックプリントが基本ですが、世界にはシルクも手描きもありますから、素材、モチーフ、デザイン、染料、技法とも自由としか言いようがありません。それでも更紗を見ると更紗と感じますから不思議ですね。

大羊居にも更紗の作品が少なからずあって、どれも魅力的です。手描きですから、繰り返し連続する模様ではなく、江戸時代の小袖ににある更紗をアレンジした「立木模様」に近い感じです。伝統とも外来とも言えることになりますね。
[ 2014/03/24 ] 友禅 | TB(0) | CM(2)

桜特集

第二千六百六十四回目は桜特集です。

今日は花也の桜をテーマにした付下げを選んでみました。昨日とは別の作品で、地紋が市松の生地を使い、その地紋を生かすような柄付けをしています。

昨日の帯合わせの方針は、季節も意味も桜とはなるべくかかわりのない帯を合わせるということでした。日本の春を彩る桜は女王みたいな存在で、他の模様から支援される必要はなく、ただ邪魔になるだけという発想でした。

しかし今日の帯合わせは、意味的にも季節的にも、もう少し桜に積極的にかかわってみたいと思います。

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いちばん上の写真は、龍村の「甲比丹縞格子」を合わせてみました。名物裂として有名な「カピタン縞」を思わせるというタイトルがついていますが、金糸も使ってあるので、木綿の縞というよりも絹のモールのイメージに近いですね。

近世には東インド会社経由で、インドの裂も日本にもたらされました。木綿の縞(唐桟)が代表ですが、さらに高価な裂があってそれがモールです。絹製でしかも金銀糸も使った織物ですからね。

ここでは帯の格子模様に着目し、着物の生地の市松の地紋とシンクロさせてみました。

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写真2番目は、織悦の袋帯を合わせてみました。扇子と霞を組み合わせた意匠の帯です。今回は着物の桜の相棒として、帯の霞を選んでみました。春霞という意味を作って見たのですがどうでしょうか。

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写真3番目も、織悦の袋帯を合わせてみました。流水文様で、これはもちろん「桜に流水」です。

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写真4番目は、龍村の名古屋帯を合わせてみました。「ほかけ」というタイトルです。お子さまの入学式に桜の付下げを着る方もいらっしゃるだろうということで、「船出」とか「旅立ち」という縁起に良い意味を持たせました。
[ 2014/03/23 ] 帯合わせ | TB(0) | CM(0)

桜特集

第二千六百六十三回目は桜特集です。

昨日までは帯が桜であるばあいの帯合わせをテーマにしてきましたが、今日は着物が桜であるばあいの帯合わせを試してみます。使用するのは花也の付下げです。

全体は雪輪取りで、その取り方の中に柳を背景に桜の花が描いてあるという意匠です。取り方を使った意匠は、取り方の外側は広い余白となり軽い付下げの雰囲気になりますが、この作品は本題の雪輪に対し影のように疋田のみの雪輪が描かれており、さらに霞も加えられて余白を埋めていますので、訪問着的な雰囲気に近くなっています。

特に霞は暈しではなく、きっちりと糸目友禅で描かれているので強い存在感があり、作者の余白を埋めようという強い意志を感じます。

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いちばん上の写真は、龍村の「海老殻間道手」を合わせてみました。龍村はいくつかの名物裂の間道手を再現していていますが、ほとんどは高島屋と三越の限定になっていて、唯一「たつむら」ブランドで販売される間道がこの「海老殻間道手」です。たいてい売り切れなので、欲しい方は見たときに買った方が良いですよね。

今回、雪輪の取り方の色が青と茶色で、この帯の色と偶然合うので試してみました。間道には意味も季節もありませんから桜を邪魔することはありません。

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写真2番目は、名物裂の「荒磯」に取材した刺繍の名古屋帯を合わせてみました。黒地に白糸と金糸の刺繍でちょっと東京っぽい粋な雰囲気もあります。名物裂を選んだのは桜と無関係なものを合わせたかったからです。桜というのは女王のようなもので、他の花から支援してもらう必要が無いですから、相手を選ぶときは邪魔をしないという理由だけで選べば良いと思います。

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写真3番目は、捨松の袋帯を合わせてみました。いかにも捨松らしいペルシア文様で、桜と無関係という理由で選んでいます。桜の名所というのは、たいてい桜だけが植えてあります。桜と別の花が混じってなお美しい、という感覚はあまりないですよね。文様でも多いのは「桜楓」、反対のものを対比させることはあっても、似たものに支援させるという発想は少なかったように思います。

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写真4番目は、北尾の道長取りの袋帯を合わせてみました。地が綴組織で模様は絵緯糸による表現なので、裏に渡り糸があります。季節でも意味でも桜というテーマに直接干渉しないという条件で、道長取を選んでみました。
[ 2014/03/22 ] 帯合わせ | TB(0) | CM(0)

桜特集

第二千六百六十二回目は桜特集です。

本来フォーマルである全体が引き箔の金地の袋帯を、強引に紬に使ってしまうという、きもの本のネタとして登場しそうなテーマを選んでみました。

きもの本のネタとして登場する時は2つの扱い方があって、1つは着物初心者の失敗談として、もう1つは着物は本来お洒落として自由に楽しむべきなのに、頑迷な呉服屋が格だのしきたりだの言って邪魔をしている、それが着物離れの原因になっているというものです。

着物の専門誌ではさすがにありませんが、一般紙は着物をテーマにした記事を書くときに「最近の若者の着物離れ・・・」などという見出しを平気で付けているものがあります。しかし若者が着物から離れたのは昭和30年代のことです。当時の若者はもう70代ですから、正しくは老人の着物離れというべきですね。

呉服店はかつては、着物の格や季節にうるさかったのですが、それは1人の顧客に複数の着物を売るためでした。今はもっとも寛容なのが呉服店で、それは全く着物を買わない人に1枚でも買って欲しいからです。一方、着付け教室など呉服周辺産業は格や季節にこだわります。そういう知識が商品なのだから仕方がありませんが、呉服店の多くはありがた迷惑と思っているのではないでしょうか。

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いちばん上の写真は、昨日の織悦の「彩悦錦」を新田機業の紅花紬に合わせてみました。

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写真2番目は、19世紀に沖縄で織られて今も実在する織物を秋山真和が再現した作品に合わせてみました。

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写真3番目は、菱一のオリジナルである「橡紬」ブランドとして十日町か米沢で織られた紬を合わせてみました。

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写真4番目は、佐藤トシさんの南部紬を合わせてみました。

4通りの帯合わせとも、透明感のあるきれいな色の紬を選んでいます。「橡紬」以外は手織り草木染とされるもので、本来素朴なものであるはずなのですが、実際の作品は色が綺麗で素朴というより都会的ですね。

今回はどのような場所に着て行くのがふさわしいか、ということは考えていません。ただ、着物の知識がある人からも無い人からも、素敵とかかわいいとか言ってもらえるということを目的として帯合わせしています。個々の帯合わせに解説がついていないのは、合わせること自体が間違っている可能性が高いからです。
[ 2014/03/21 ] 帯合わせ | TB(0) | CM(0)

桜特集

第二千六百六十一回目は桜特集です。

今日は昨日使った織悦の「彩悦錦」を着尺に使ってみます。常識であれば訪問着のようなフォーマルに使うべき堂々たる袋帯ですが、今日だけは小紋に使ってパーティー着として演出してみます。

もちろん普通の小紋に合わせれば不均衡なので、野口の飛び柄の大きな模様の着尺に使います。大きな模様は、必然的に余白も大きくなりますから、縫い目で模様がつながらないということを除けば訪問着っぽい存在です。

今日使用する4点の着尺は、すべて岡重が制作した手挿の作品と思われます。かつて岡重はすべて野口などのメーカーや問屋の下職として制作しており、小売店にも消費者にも直接販売することはなかったので、当店は野口ブランドとして仕入れていました。

今は業界内のあらゆるしがらみがなくなってしまったので、だれでも自由に取引できます。当店も岡重が制作したものを、岡重から仕入れることもありますし、野口を経由して野口ブランドとして仕入れることもあります。もちろん岡重はユーザー相手にネット販売もしています。

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いちばん上の写真は、岡重の大きい飛び柄の着尺を合わせています。これは当店が野口経由で仕入れなかった岡重の着尺です。髪飾りをテーマにした大きな飛び柄で、紺の地色が斬新ですね。

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写真2番目は、野口の大きい飛び柄の着尺を合わせています。和本というテーマは江戸時代の小袖にもあって、教養があることを示す意味であったと思われます。教養を表現しているというと性格が悪そうな感じがしますが、ここでは本は市松模様で表現されていて粋な感じがします。江戸時代以来の意匠であっても本の中身は論語ではなさそうですね。実際に江戸時代の和本の意匠のばあい、その本の中身は源氏か謡曲の本をイメージしているのではないかと思います。

上の例とこの例では着尺のモチーフはいずれも器物です。桜に対し重なりすぎない、逆らわないというモチーフを選びました。

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写真3番目は、野口の大きい飛び柄の着尺を合わせています。蝶を大きな輪郭で表現し、輪郭の環に桜を含む花模様を並べたものです。

桜と蝶ですから、意味的にベストな組み合わせということになりますね。さて今日の帯合わせですが、どこに着て行くんだという疑問を持たれた方も多いのではないかと思います。結婚式に行くようなフォーマルではないのに、誰よりも目立ってしまい主役しか演じられないコスチュームだからです。まあ単純にパーティー着ということで。生まれ変わるならこういうのが似合う人生が良いですね。

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写真4番目は、野口の大きい飛び柄の着尺を合わせています。上の3例と同じパターンですが、ここでの問題は着物のテーマも桜だということです。全身桜です。押しつけがましいですか。
[ 2014/03/20 ] 帯合わせ | TB(0) | CM(0)

桜特集

第二千六百六十一回目は桜特集です。

東京は来週にも桜が咲くとのことですので、今日から何日か桜特集にしたいと思います。桜をテーマにした着物や帯は、絵としてはきれいですし作品としても魅力的なものが多いのですが、季節限定ということで、見るだけなら良いが自分のものにするのは躊躇するという方が多いですね。

商店街を歩く人にとっては、桜の開花に合わせて呉服店のウィンドウにも桜の着物が飾ってあって欲しいでしょうね。しかし呉服店が遅くとも2月ぐらいまでに売ってしまっておかなければ、人が桜の時期に桜の着物を着ることはできないはず。呉服店で桜の時期に桜があるとすればそれは売れ残りとも言えますね。

今日テーマにする帯は、昨年11月23日(二千五百四十七回)で紹介した織悦の垂れ桜の袋帯です。絵緯糸が唐織のように浮いて模様表現をする組織で、このような織り方の帯を織悦では「彩悦錦」とネーミングしています。

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いちばん上の写真は、中井淳夫の黒地の華やかな訪問着に合わせてみました。桜=華やかという発想の帯合わせです。写真で見るかぎり、このような合わせ方は桜というモチーフの扱いの王道だと思います。

この中井の作品は、近世の花の丸の小袖に取材したもので、オリジナルは総刺繍であったものを友禅に変更しています。もう1つの変更点はオリジナルに無い鈍い銀箔の花の丸を加えたことです。多彩で美しい花の丸に対し影のように寄り添う無機的な感触の花の丸を加えることで、おおらかな古典作品から陰影を含む近代作品に生まれ変わっています。芥川龍之介が今昔物語を近代小説に変換したのと似た技法だと思います。


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写真2番目は、花也の付下げ「和本」を合わせてみました。単一モチーフだけを繰り返し並べた意匠です。模様の面積だけ見れば実質訪問着ですね。

やはり桜=華やかという発想の帯合わせです。桜だけを題材にした着物や帯を合わせる時の難しさは、季節限定というだけでなく、桜という花が日本人にとって特別すぎて、他の植物を合わせることができないことです。桜の帯に梅や燕子花の着物を合わせれば、感動は増すどころか減殺されてしまいます。実際の花見でもそうですが、桜はセットで鑑賞する花ではないんですね。

桜の純粋な美を守ろうと思えば、帯合わせの相手は「桜に流水」ということで、波や流水ぐらいしかなくなってしまいます。そうであれば、これはもう帯合わせという文化の敗退ですね。今回は桜の純粋性を守りつつ、何かをプラスできないかということで「和本」を選んでみました。

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写真3番目は、一の橋の「花筏」を合わせてみました。「花筏」は日本の代表のような古典柄ですから、桜=古典という発想の帯合わせです。金地の帯に対し黒地の着物ということで、強いメリハリを演出してみました。古典というテーマで合わせるならば、個性的にしなくてはただの通俗になってしまいますものね。

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写真4番目は、花也の地味な訪問着を合わせてみました。彩色のほとんどない白揚げで、しかも裾の低い位置だけに模様があるという江戸時代後期から明治の前期にかけて流行った小袖の様式を踏襲したものです。

江戸時代後期という友禅の技術も縫箔の技術も円熟していたであろう時代に、なぜ色彩も模様面積も最小限にしたような小袖が流行ったのか不思議ですね。一般には武家の好みとか江戸の粋で説明されますが、江戸後期というのは文化が爛熟した時代ですが、洗練がきわまると人はこういうものを美と感じるのかもしれません。

帯は金地に多彩な桜の花を織り込んだ華やかなものですが、これにあえて地味な訪問着を合わせたパターンで、桜+地味でどうだ、という発想の帯合わせです。
[ 2014/03/19 ] 帯合わせ | TB(0) | CM(0)

野口の経絽の着尺の帯合わせ

第二千六百六十回目は、野口の経絽の着尺の帯合わせです。

帯合わせも3回目でちょっとしつこいですが、この着尺はさりげない気品とともに、友人としてなら結婚式にもいかれるような格の高さも感じるので、袋帯に対応できるか試してみます。

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いちばん上の写真は、織悦の紗の袋帯「すすき」を合わせてみました。夏帯のテーマに芒は多いですね。大輪の花を咲かせるわけではないので、主張しないところが合わせやすいのだと思います。

この帯合わせは、色は淡い色どうしで模様は有るような無いような・・・。夏の着物や帯は、よほどの着物マニアでないかぎり複数は持っていないでしょう。1つの組み合わせで、長く飽きずに、そして他人におぼえられずに着続けるには、こんな帯合わせが良いように思います。

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写真2番目は、龍村の絽の袋帯「水衣若松文」を合わせてみました。個性を封印した上の写真の帯合わせの全く反対の、メリハリのある帯合わせです。単彩で上品な着物に対し、黒地で大きな模様で箔糸も多用した龍村を合わせたことで、懐石の途中でステーキが出たようなメリハリがあります。

こういう帯合わせがピタッと決まると着物を着る悦びみたいなものを実感しますね。ただそのためには、みんなに覚えられるから来年のパーティーまでに新しい帯を買わないといけないというコストを強いられます。毎回、違う団体のパーティーに出る人ならいいですね。

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写真3番目は、織悦の紗の袋帯「菊」を合わせてみました。織悦の帯に使われている色は、濁りが無いので透明感を感じます。そのため赤・黄・青の信号のような配色であったとしても上品であり続け、そこそこ年輩の人でも着ることができるのです。この帯もそんな帯ですね。

ベージュ+墨描きの着物に対しこの帯は色目が違いすぎて、空気読めないんじゃないの、という気もしますが、それでも一般には及第レベルだと思います。私の経験で言えば、初心者ほど帯合わせに理想を抱きすぎます。現実の世界では他人から笑われるほど帯合わせに失敗している人はいません。

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写真4番目は、当社に昔から在庫としてある黒地の袋帯を合わせてみました。色数を増やさない帯合わせです。ただし模様の大きさは着物は小さく帯は大きいというように反対パターンになっています。
[ 2014/03/18 ] 帯合わせ | TB(0) | CM(0)

野口の経絽の着尺の帯合わせ

第二千六百五十九回目は、野口の経絽の着尺の帯合わせです。

昨日は染めの名古屋帯で合わせてみたので、今日は織の名古屋帯で合わせてみます。

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いちばん上の写真は、龍村の絽の名古屋帯を合わせてみました。タイトルは「彩波」です。読み方はおそらく「いろは」でしょう。今は女の子の名前に使われることが多いですね。

「彩」という字が使われているので、色鮮やかな帯と思ってしまいますが、実物はほとんどは白と銀糸で、色糸は微妙に使われている程度です。「彩波」を検索しても自然現象としては出てこないのですが、「彩雲(さいうん)」というのはあります。岩橋英遠の絵が有名ですが、雲がプリズムのような働きをして雲が虹のような色に見えるのです。

「彩波」というこの帯のテーマは、彩雲のイメージを波に移したのかもしれません。それならば「彩」といっても陽の光が映るだけですから、この帯程度の控えめな配色であるとともに、白と銀で光と透明感を表現しているのも納得です。

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写真2番目は、龍村の絽の名古屋帯を合わせてみました。タイトルは「颯音」です。おそらく「そうおん」と読むのでしょうが、「颯音」というのはキラキラネームにも使われる言葉で、「はやと」「そらと」「はぁと」とか読ませることもあるんですよね。

描かれているのは楓ですが、タイトルから見るテーマは「音」です。楓が落ちる音がする→風が吹いている→涼しい→夏物の模様としてふさわしい、というつながりでしょう。


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写真3番目は、龍村の絽綴の名古屋帯を合わせてみました。上と同じ楓がテーマです。青系と茶系が使われ、派手ではないですが存在感があって地味ということはありません。「彩葉楓」というタイトルなので、制作者の龍村もまた楓の葉の配色に心を砕いたのでしょう。

絽綴は本来、趣味ものの極みで高級品のはずでしたが、近年、安い中国製の氾濫で本来の価値がわかりにくくなっていました。龍村の純粋日本製の絽綴の登場で本物の良さをみんなが思い出してくれると良いと思います。

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写真4番目は、龍村の絽綴の名古屋帯を合わせてみました。タイトルは「芒香文」です。芒もちゃんと香るのです。龍村らしい濃厚な色彩を持つ作品です。私は龍村や大彦(あるいは大羊居)の濃厚な色彩って好きですね。江戸時代以前の伝統よりも明治以後の西洋画の影響を受けた感じが良いです。
[ 2014/03/17 ] 帯合わせ | TB(0) | CM(0)

野口の経絽の着尺の帯合わせ

第二千六百五十八回目は、野口の経絽の着尺の帯合わせです。

昨日紹介した野口の経絽の着尺の帯合わせを考えてみます。まず今日は染めの名古屋帯で合わせてみました。


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いちばん上の写真は、野口の友禅の名古屋帯を合わせてみました。模様の大きさとのびのびとした雰囲気が特徴の帯です。着尺の模様は繊細で色も単彩で抑制された雰囲気が特徴ですから、正反対のものの組み合わせということになります。地色も帯が水色で着物がベージュですから補色関係ですね。

この野口の経絽の着尺は、都会の上品な年輩者向きという雰囲気がありますが、その雰囲気をすべてぶち壊すことを目的とした帯合わせです。帯も洗練された雰囲気ですから都会的なのは変わりませんが、若い人が着る感じになりますね。

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写真2番目は、千切屋治兵衛の友禅の名古屋帯を合わせてみました。実際に制作したのは藤岡さんです。元絵としては神坂雪佳の下絵集に似た作品がありますね。

墨色地に月と波をすっきり描いており粋な雰囲気があります。野口の経絽の着尺は粋な着物ではありませんが、粋な帯と合わせることで、全体を粋なコーディネートにしてみました。上品で大人しい着方から粋な着方への転換ですね。

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写真3番目は、野口の染分けの名古屋帯を合わせてみました。小千谷で織られた生地で、地紋があって薄地で単衣向きの生地ですね。それを黒とグレーの無彩色どうしで染め分けた帯を合わせてみました。グラデーション部分に生地の格子の地紋が浮かび上がりそれが景色となっています。

帯の色は無彩色で着物と同じ、模様はグラデーションのみなので無し、ということで、帯が着物の世界観に極力影響を与えないようにした帯合わせですね。

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写真4番目は、野口の麻の名古屋帯を合わせてみました。小袖の意匠に取材していますが、麻地でもあり、単彩で涼しげな雰囲気に仕上げています。一見墨描きのようでもありますが、ちゃんと糸目のある友禅です。

墨色どうしの組み合わせで色の雰囲気は似ていますが、模様を比較してみると帯はのびのびしていますから、矩形の取り方に閉じ込められた着物の模様とは反対です。色は同系、形は反対という組み合わせで、全部一致している帯合わせより押しつけがましくなくていいかもしれません。
[ 2014/03/16 ] 帯合わせ | TB(0) | CM(0)

野口の経絽の着尺

第二千六百五十七回目の作品は、野口の経絽の着尺を紹介します。

年輩者向きに見える控えめなベージュ地に、墨描きを思わせる色とタッチの飛び柄の夏の着尺です。飛び柄の模様は短冊取りで、中の模様は更紗のような雰囲気ですが、モチーフ自体は梅や桜を思わせる和様の植物文に見えます。

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いちばん上の写真は反物の幅を写真の幅として撮ったもの、

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写真2番目は近接、

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写真3番目はもっと近接です。

上品な奥さまやおばあさまの雰囲気ですから、夏にこういう着尺を着ている人を見たら、都会に住んでいて結構お金持ち、着物を買うなら、少し昔だったら銀座のきしやがメインというところでしょうか。

短冊取り内部の模様は墨で手描きしたように見えますが、おそらく型染でしょう。制作する側も巧みですから型か手描きかわかりにくいものはよくあります。そういう時は、模様のパターンが同じところを比較します。模様に全く揺らぎが無ければ型の可能性が高いですが、揺らぎがあるときでも、型のばあいは同じパターンの場所に同じ形の揺らぎがあるものです。

ただし、型と手描きの併用というのもあって、基本パターンは型で後で部分的に手挿ししている時もあります。そうなるとほとんどわかりません。描く人と見る人の知恵比べなのです。

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写真4番目は生地の拡大を見ていただくとわかるのですが、この作品の上手いところは、生地と模様の連携です。生地は緯糸を捩って経方向に隙間を作る経絽ですが、3本の経糸に対し1つの隙間が空いている3本絽です。7本絽、5本絽とあるわけですから3本絽というのは絽の中で最も透け率が高い生地といえます。

また、数本ごとに経緯ともにやや太い糸が織り込まれているため、生地に格子が浮かび上がるように見え、紅梅織の雰囲気があります。3本絽と紅梅織という2つの要素が揃って、最大限涼しげな夏着物地となっているわけです。

このような涼し気重視の生地だからこそ、加工もまた単色であっさりできているのです。さらに模様が縦長の短冊形であるのは、生地が経絽で縦方向に筋が見えるのでそれに逆らわないようにしているのです。夏だから涼しげに見せるという目標に向かって生地と模様が連携しているのです。

野口の名古屋帯の帯合わせの続きです

第二千六百五十六回目は、野口の名古屋帯の帯合わせの続きです。

昨日は紬で合わせてみましたので、今日は染めの着尺(小紋)で合わせてみます。今回の帯は模様が整然と並んでいて、手描き友禅が本来持つべき自由闊達な要素がないかわり、織物のような堅固な構成があります。

そのため織物に対しては、織物どうしを合わせたように同化して馴染んでいたのですが、染物に対してはどうでしょうか。

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いちばん上の写真は、野口の着尺と合わせてみました。明るい水色地で、大きな唐草模様です。そこそこ年齢が行っても着られますが、基本的には若向けという感じですね。帯が小さい柄が整然と並ぶのに対し、着物が曲線でつながる大きな柄ですから、模様パターンとしては対照的です。

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写真2番目は、上のパターンと同じ趣旨の帯合わせをしてみました。上は唐草でしたが、こちらは更紗です。

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写真3番目は、千切屋治兵衛の飛び柄の着尺と合わせてみました。上の例では、模様パターンが対照的なので、帯合わせとしてはすんなりいきましたが、今度は模様の大きさが同じぐらいの飛び柄を合わせてみました。帯と着物の模様が同じ雰囲気になってしまうのは、帯合わせとしては失敗になることが多いですね。

この帯合わせは、着物の地味なグレー地と、帯の花模様の抑えた色調が上手く合っていて、意外にもいまどきの頭の良い人が好むような帯合わせになりました。

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写真4番目は、野口の着尺と合わせてみました。野口の個性が爆発したような、大きな花模様で色も鮮やかな着物との帯合わせです。色も柄もすべて反対の着物と帯を合わせたもので、しかも帯よりも着物の方が存在感のある帯合わせですから、着る人もセンスがかなり疑われる危機的状況ですね。とはいうものの、帯が着物に負けないぐらい鮮やかだったら、それも合わないし、結局このぐらいしかないのかも。

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写真5番目は、菱一のオリジナル(「きものを創る」というロゴがあるシリーズですね。)の着尺と合わせてみました。おそらく蝋防染によるもので、私は好きなデザインではありますが、これで全身を覆うとなるとかなり大胆な着物になると思います。

帯合わせについては、もうこれしかない、というほど良く合っています。大胆で思いつきで行動する旦那さんと堅実で几帳面な奥さまの組み合わせなんでしょうね。

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写真6番目は野口の着尺を合わせてみました。帯合わせにもっとも苦労するごちゃごちゃした更紗です。更紗と紅型は無地系の帯でないと合わないという方が多いです。着物が余白が全くないほど柄だらけでしかも色が鮮やかなので、帯の模様が負けてしまうからです。今回も帯の模様が負けていますが、帯合わせとしては無難に収まっているように思います。帯の模様の間に余白があるので、無地系の要素もあるのかもしれませんね。
[ 2014/03/14 ] 帯合わせ | TB(0) | CM(2)

野口の名古屋帯の帯合わせ

第二千六百五十五回目は、野口の名古屋帯の帯合わせです。

絵画として単体で鑑賞して大きな喜びがある作品とも思えないので、着物と合わせるという段階で圧倒的に機能的でないと価値がありません。私は、このような帯こそ帯合わせには最高と思っていますが、今回はそれを実証してみたいと思います。

取りあえず紬から。産地のラベルのある紬でも木綿の縞でも合うはずです。

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いちばん上の写真は、山下八百子の黄八丈と合わせてみました。帯の色はベージュですから黄八丈は同系色を合わせた感じになります。模様についても黄八丈の意匠は基本は格子ですから合わないわけはありません。黄八丈ではなく鳶八丈、黒八丈であっても合いますね。

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写真2番目は、黄色以外の黄八丈で合うか試すため、黄色い細い縞があるだけの黒八丈を合わせてみました。ベージュと黒の組み合わせはもともと合いますが、黒に黄色が含まれているため、さらに相性が良いようです。

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写真3番目は、群馬シルクを使った縞の着物と合わせてみました。群馬シルクのラベルのあるホンモノの国産繭を使った手触り、着心地ともに素晴らしい、そしてデザインがイマイチの紬です。素直な縞にしておけばよかったのですが、展示会で高額で売るために縞の上から後染めで暈しなど付けてしまっているのです。写真のものは唯一おかしな加工をしていない墨色地です。

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写真4番目は、その暈しのある群馬シルクを合わせてみました。上の解説では批判的に書いていますが、実際に合わせると合ってしまいますね。

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写真5番目は、秋山真和の藍染の絣を合わせてみました。ベージュの帯とは補色関係になる藍染の色が合うか試すために、秋山さんに代表になってもらいました。佐藤さんの藍を使っている作家のうちでも、素晴らしくきれいな藍として知られていますものね。

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写真6番目は、西村さんの川越唐桟と合わせてみました。江戸時代後期に各地で木綿の縞が織られるようになりました。当店のある青梅もまたそのような産地の1つで、青梅縞という言葉があります。

川越はその中心で、他の産地の多くは川越の影響下で始まったのです。川越唐桟または川唐と呼ばれますが、江戸時代の人は略して言うのが好きですよね。

現代まで続く木綿の産地は3パターンあるように思います。1つは伝統工芸展に入選するような作家を輩出して手織りを守っている産地、反物の幅で機械織りをしている産地、洋服の幅の生地を2つに分けて着物地としている産地です。洋服地としての木綿の縞というのは世界普遍のものですから、それを切って着物にすればユニクロのシャツ程度の値段になるはずです。ちなみに川唐ではすべてあり、この西村さんのものは機械で反物の幅で織られたものです。

さて帯合わせですが、木綿の縞と合うかというのは、究極のカジュアルユーズが可か、ということですが、可ですね。
[ 2014/03/13 ] 帯合わせ | TB(0) | CM(0)

野口の名古屋帯

第二千六百五十四回目の作品は、野口の名古屋帯を紹介します。

ゴム糸目の平凡な名古屋帯です。私はゴム糸目で輪郭を描き内部をきれいな色で彩色した友禅を憎悪しています。そのような様式の作品はみんなに愛される一方、絵葉書のように見えてしまうからです。

なぜ絵葉書が悪いのかといえば、「絵葉書のようだ」というのは美術品をけなす場合の常套句だからです。表面的な美しさだけを追求した通俗なものという意味で、量産品にありがちな特徴ですね。手描きの友禅というのはたいてい数十万円で売らなければならないものですから、100円で買える絵葉書と一緒ではまずいわけです。

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いちばん上の写真はお太鼓、

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写真2番目は腹文、

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写真3番目はお太鼓の近接です。

この作品は、なんでも自由に描けるゴム糸目でありながら、型染に向いていそうな同じモチーフが連続する意匠であり、絵画的要素を抑制しいるといえます。色についても手描きだから自由に染められるのも関わらず、型の数を制限した安い型染のように色数を抑制しています。

それでもじっくりと眺めると、安価な型染とはちがう手描きらしい色の深みや形の微妙な揺らぎがあります。それが無ければ包装紙のデザインになってしまいますね。

作者、あるいは制作を指示した野口は、着物に合わせるという機能に特化した帯としてこの作品を作っています。絵を上手に見せようとか、絵画的に鑑賞してもらおうとか、ものづくりをする者のささやかな希望さえ排除して、着物に合わせるという機能に徹してい
るのです。

私は、作者の驕ったところの全くない謙虚すぎる態度に感心して思わず仕入れてしまいました。値段も謙虚です。

[ 2014/03/12 ] 友禅 | TB(0) | CM(0)

野口の紗の付下げの帯合わせの続き

第二千六百五十三回目は、野口の紗の付下げの帯合わせの続きです。

先日の「青楓」のときも名古屋帯を試したので、今回の「菊」も袋帯だけでなく絽の名古屋帯でも合わせてみます。今回ももちろん植物文様どうしを合わせて良いのかというのが大きなテーマになりますが、今回は色合わせにも配慮します。なぜなら、この着物の印象はなんと言っても「青がきれい」ということですから、その青を帯を含めた全体のコーデにも生かしてみたいからです。

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いちばん上の写真は龍村の「風矢羽」というタイトルの絽の名古屋帯を合わせてみました。矢羽の形が、マンガでスピード感を表現するときにように、水平方向にグラデーションになっています。それが「風」の意味でしょうか。地色が黒でなく紺なので、着物の菊の葉の明るい青に対応しています。

矢羽の意匠というのは着物や帯に多くありますが、鏃を描いたものはみたことがありません。殺生に関わるものは意匠としては避けているのでしょう。この帯のように矢の先端まで描かない場合もありますが、描く場合には神事に使う鏑矢や古代のダーツゲームである投壺矢をテーマにすることが多いです。

また矢羽というのは、絣の意匠としては、絵絣のような複雑な計算をしなくても、絣を作るときは等間隔で括り織るときにずらすことで容易く得ることができます。そのために絣の基本形として1800年ごろの矢代仁の見本帳にすでに現れて、今でも人気柄として続いています。

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写真2番目は龍村の「硝波文」を合わせてみました。「硝」の一字でガラスに陽光が当たってキラキラしている様子を表しているという、いつもながらの巧みなタイトルです。

動きがあって勢いが良いので大胆なようですが、波や風や光というのは、季節もなく意味的な制約も少なく使いやすい意匠だと思います。ここでは青系で合わせるために選んでみました。

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写真3番目は龍村の「光浪文」というタイトルの絽綴の名古屋帯を合わせてみました。青い波と金銀の波というテーマです。金銀の波に加え、絽綴の地に銀糸が織り込んであって、全体が光るイメージですが、それが「光浪文」のタイトルの意味でしょう。

今回は青というテーマで合わせてみました。波というのは他のテーマに対して干渉し合うことが少なく便利です。純粋に色合わせを楽しめると思います。

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写真4番目は龍村の「花流水」というタイトルの絽綴の名古屋帯を合わせてみました。青というテーマで合わせてみましたが、これは植物文どうしですから迷うところですね。あまり深く考えなければ良いように思います。
[ 2014/03/11 ] 帯合わせ | TB(0) | CM(0)

野口の紗の付下げの帯合わせ

第二千六百五十二回目は、野口の紗の付下げの帯合わせです。

紗の付下げすなわち夏物のフォーマルですから、合わせる帯は紗または絽の袋帯というのが基本ですね。この帯合わせは先日の「青楓」と同様に厄介です。着物のテーマが単一の植物であるばあい、帯は植物でない方が良いのでしょうか。

「青楓」で試してみた結論では、器物文様なら安泰で、植物文様で合わせようとするならかなり頭を使わないといけないというところでした。そして現実には帯の多くは植物文様なので悩むのです。

今回も安全な帯合わせである器物文様の帯と、失敗かもしれない植物文様の帯の両方を試してみました。

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いちばん上の写真は龍村の「彩簾文」というタイトルの絽の袋帯を合わせてみました。「青楓」の付下げでも試してみた安全な帯合わせです。帯の意匠として「簾」というテーマは意外にも万能ですね。

帯の簾の模様の中に青が多く含まれているためか、色目にも関連性が感じられて「青楓」よりもさらに相性が良いように思えます。菊の葉の明るい青は、反物を解いた瞬間にも人の目を奪いますが、帯合わせも全体の着姿も支配しますね。

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写真2番目は龍村の「古伊万里扇」というタイトルの絽の袋帯を合わせてみました。器物文様であるため植物文様とは干渉しあわないということで安全な帯合わせです。それに加えて、どちらも青の色が綺麗なので、色目があって相性が良いですね。

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写真3番目は織悦の「露すすき」というタイトルの紗の袋帯を合わせてみました。草花文どうしが重なってしまっていますが、芒という華やかさのない植物であるため、なんとなくテーマどうしが干渉しあわないで済んでいる気がします。

他人からすれば、着物の菊の青い葉は強い印象が残っても、帯の模様が何だったかは記憶に残らない気がします。それもまた有効な帯合わせの戦略です。

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写真4番目は織悦の「菊」というタイトルの紗の袋帯を合わせてみました。菊どうしをぶつけてみるということで、これは冒険と言って良い帯合わせですね。もしこの帯合わせが法廷で裁かれて私が弁護士ならば、着物の菊の花が小さくて目立たない一方、帯の菊には茎が無いところから、菊という植物を表現するのに帯が花、着物が茎と葉を分業して1つの絵としてまとまっていると言うでしょう。

野口の明るい青は、織悦の透明感のある青と似ていますね。おかしな理屈を持ち出すより、その方が帯合わせの根拠になるかもしれません。
[ 2014/03/10 ] 帯合わせ | TB(0) | CM(0)

野口の紗の付下げの細部

第二千六百五十一回目の作品は、昨日の野口の紗の付下げの細部です。

この作品の第一印象といえば、なんと言っても葉の裏の青ですね。唐突とも思える明るい青で、地色の白茶に対してとてもきれいです。もう、この青のためにこの作品があると言っても良いぐらいです。

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いちばん上から3番目までの写真は各部の近接です。菊の葉の裏は自然の色に近いオリーブ色ですが、葉の表は明るい青色と暗い紺色で、光の当たっているところと当っていないところを表しているようです。

凡庸な制作者は華やかな着物を作れといわれると、赤系の色を使って派手な若向けの着物を作ってしまい、大人が着られなくなってしまうものです。野口のこの付下げは華やかですが、明るい青を使って華やかにしていて、赤系の色を使っていないため若向け限定にはなっていません。

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写真4番目は花也の付下げで、ここでは参考図版として載せてみました。全く違う雰囲気ですが、よく見ると菊の葉が同じような形をしていて、遡ると同じ小袖を本歌としているかもしれませんね。

花也作品は、おそらく中井系の下職によるものですが、葉の表があまり光らない金、裏が白藍とか藍白と言われるような白に見える水色です。

渋い大人っぽい着物で、華やかという雰囲気ではないですが、そのかわり存在感があって決して脇役の着物ではありません。2つの付下げを比べてみると、同じ京友禅ながら野口と花也の作風の違いというか、目指すものの違いがよくわかりますね。
[ 2014/03/09 ] 友禅 | TB(0) | CM(0)

野口の紗の付下げ

第二千六百五十回目の作品として、野口の紗の付下げを紹介します。

菊をテーマにした夏の付下げです。先日紹介した青楓と同じシリーズとしてつくられたものでしょう。地色は乳白色、染めていない生成りの色ですね。

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いちばん上の写真は前姿(マエミ+オクミ)、

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写真2番目は後姿、

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写真3番目は袖、

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写真4番目は参考図版です。

葉を見ると形は菊の葉ですし、花を見ると小さいながら形は菊の花なので、菊を描いた付下げだとわかりますが、全体の形はおかしいですよね。菊は蔓植物ではないのに、蔓のような曲線を描いています。

これは自然の菊を写生したものではなく、江戸後期に流行った蔓草模様の小袖を踏襲した意匠でしょう。江戸後期の小袖に蔓草模様に呼ばれる枝を曲線的に表現した一群の作品があります。蔦のように本来の蔓植物をテーマにしたものだけなら理解ができますが、その中には絶対に蔓植物ではない、というものも含まれるので不思議なのです。

写真3番目がその作例ですが、これはなんと燕子花です。燕子花といえば直線だからこそ美しく、絵師が燕子花をテーマにする時はその直線のきりっとした美しさを強調するものでしょう。それを何と自然の美に逆らって曲線で描いているのです。

他にも楓など、絶対蔓植物ではありえない植物を蔓として描いた作例が多く有りますが、当然菊もあります。彼らは自然の美に敬意を表するよりも曲線という形が好きで、曲線を描くために植物を利用しているだけなので、植物の種類や自然の形などどうでも良かったのでしょうね。

「直線は無限に大きい円の弧にすぎない」と言ったのはボルヘスでしたっけ。曲線愛好は美術史にしばしば現れます。いちばん有名なのはアールヌーヴォーですが、江戸の蔓草模様はそれに数十年先行します。
[ 2014/03/08 ] 友禅 | TB(0) | CM(0)

野口の紗の付下げの帯合わせ

第二千六百四十九回目は、野口の紗の付下げの帯合わせの続きです。

今日は絽の名古屋帯も合わせてみます。着物は付下げで一応フォーマルの仲間ですから、合わせる帯は基本的には袋帯ですが、フォーマル感の強い龍村に限って名古屋帯も試してみます。今日も波や器物文様など植物文様を避けた帯を使うか、植物文様をぶつけてしまうかが焦点になりますね。

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いちばん上の写真は龍村の「清山文」というタイトルの絽の名古屋帯を合わせてみました。古典文様の1つである遠山ですが、ここでは山は橙色や青磁色など鮮やかながら透明感のある色(その透明感が「清山」のタイトルの元なのだろう)、霞は金糸でとても華やかな作品です。

野口の青楓の付下げも色が美しくて華やかなのが特長ですから、どちらも華やかどうし、パーティーに相応しい帯合わせだと思います。

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写真2番目は龍村の「涼玉文」というタイトルの絽の名古屋帯を合わせてみました。帯留をテーマにした帯です。色がモダンで美しいですが、考えてみれば帯に帯留の模様を付けるなど、ワイシャツにネクタイが描いてあるようなもので奇妙な意匠でもあります。

そこのあるのに誰も思いつかない、ありそうでない、というような意匠を持つ作品は、それだけで名作だと思います。モダンな色と雰囲気というだけで野口の相棒としては合格ですし。

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写真3番目は龍村の「夏蒐文」というタイトルの絽の名古屋帯を合わせてみました。タブーの草花文どうしを合わせてみました。意外と違和感はありません。その理由を考えてみると、1つは着物の楓が広がっていく意匠なのに対し、帯の萩と朝顔は丸紋で形の違いがあるからでしょう。

もう1つは、着物と帯を分けず草花の種類を数えてみると、萩と朝顔と楓の3種類ということになります。最初から3種類の花のコーディネートと思えば良いのではないか、ということです。

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写真4番目は龍村の「芒香文」というタイトルの絽綴の名古屋帯を合わせてみました。本来は高級な趣味品である絽綴ですが、誰かが中国で織ることを思いついてしまったために、値崩れして絽の小紋のおまけとしてタダで配る帯になってしまいました。それを再び日本で織って高級品の戻したのがこの龍村の絽綴です。しかし、三越オリジナル品として販売されるものなので数も限られており、実物を見た方は少ないのではないでしょうか。

白地の着物にベージュの帯という組み合わせです。白でも黒でもなくこのぐらいの配色がちょうどいいかも。テーマは草花文でも個性の少ない芒ということで、まあまあというところでしょうか。
[ 2014/03/07 ] 帯合わせ | TB(0) | CM(0)

野口の紗の付下げの帯合わせ

第二千六百四十八回目は、野口の紗の付下げの帯合わせです。

紗の付下げすなわち夏物のフォーマルですから、合わせる帯は紗または絽の袋帯ということになります。この帯合わせは意外に厄介です。着物のテーマが楓という単一の植物であるばあい、帯はどうしたらよいのでしょうか。

普通に考えたら、流水や雲あるいは器物文様というところでしょう。植物文様は楓との相性が気になりますが、現実には帯の多くは植物文様ではないでしょうか。普通の袋帯ならともかく夏帯を植物、器物、流水と複数取り揃えている個人は少ないでしょう。

今回は安全な帯合わせである器物文様の帯と、失敗かもしれない植物文様の帯の両方を試してみました。当社の在庫も植物文様が多く、けっこう悩みました。これから夏帯を買うという方は、植物文様以外を選ぶという選択肢も良いかもしれません。

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いちばん上の写真は龍村の「古伊万里扇」というタイトルの絽の袋帯を合わせてみました。古伊万里の皿の縁部分だけを重ねて帯の意匠としたものです。純粋な器物文様ですから着物の意匠が草花文でも波でも千鳥でも影響がありませんね。

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写真2番目は龍村の「彩簾文」というタイトルの絽の袋帯を合わせてみました。簾は帯の意匠にしてしまえば縞になってしまいますから、意外に使い勝手が良いテーマと言えます。さらに模様を入れれば縞更紗のような感じになります。

貴人が使う御簾と思えば、帯が御簾で着物の裾に草花文などの模様があれば、貴人が御簾を半分上げて下から庭を見ているような意味になります。

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写真3番目は龍村の「水衣文」というタイトルの絽の袋帯を合わせてみました。草花文どうしが重なってしまっています。何度も見直してみたのですが、意外と違和感が無いように思います。水の表現の印象が強いからでしょうか。

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写真4番目は紫紘の紗の袋帯を合わせてみました。撫子という単一の夏の花をテーマにした帯ですから、着物の青楓と単一テーマどうしで対決してしまいます。撫子と青楓、両者は争ってしまうのでしょうか、癒着してしまうのでしょうか、それとも最後まで他人のふりなのでしょうか。調和していると言ってしまえばウソになるでしょう。

せめてもの救いは、帯が淡い色調で統一されて模様を強調していないことです。紗であるため光を透してしまうこともあって、じっと見ないと柄自体が良く見えないのですが、それが幸いしているように思います。
[ 2014/03/06 ] 帯合わせ | TB(0) | CM(0)

野口の紗の付下げの細部

第二千六百四十七回目の作品は、昨日の野口の紗の付下げの細部です。

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いちばん上から3番目までの写真は各部の近接です。

3つの写真を見比べてみるとどの写真も同じようで、3つ並べたのが無駄だったような気がします。やはり1つのテーマで成り立っている作品というのはこのようなものですね。友禅の着物とテーマの数の関係を考えてみますと、付下げであれば「梅と鶯」というように2つぐらい、訪問着であれば四季の草花に流水に東屋に千鳥に鹿にというように複数のテーマが展開します。

あまり多くのテーマを登場させてしまうとごちゃごちゃして、作者が何を言いたかったのかわからない作品になってしまいます。ごちゃごちゃさせないためには、「取り方」(雪輪や短冊の中に模様を閉じ込めてしまうこと)を使ってそれぞれのテーマを分離して整理してしまえばいいのですが、あまり整理しすぎるとそれぞれのテーマが絡まず展開不足の作品になってしまいます。

中井や大羊居の訪問着を見ていると、一見無関係なテーマが予想外のところで絡んでおり、さらに大きなテーマへと展開しているということがあり、なるほどと感心させられます。そういう作品は展開と整理のバランスも良いのです。

さてこの作品ですが、テーマが1つですから展開もないですが、しかし単調にはならない仕掛けがあります。それは色のバリエーションで、テーマは1つでも色は巧みに整理され展開もしているのです。

たとえば全体で見れば、紅葉していないときの緑の楓で、7,8月の自然な楓の色と思えるのですが、近接で見ると紺や青磁色のような自然ではありえない色も使ってあって、全体の色も緑の濃淡とは言えず結構バラバラです。これらの色が効き色になって調和しすぎない小さくまとまらない役割を果たしているんですね。

また疋田で表現された葉は、1枚すべて疋田ということはなく途中ですべて自然の彩色に切り替わっています。これが反自然すぎない調和の役割をしているのです。すべてが調和しつつ単調にならないための仕掛けですね。

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写真4番目は生地の拡大です。紗というのは生地の隙間に風が透って涼しいわけですが、風が透るということは光も透るということです。透る光を計算に入れて彩色すべきですから、写真ではきつく見える色彩も着た状態ではちょうど良いのかもしれません。
[ 2014/03/05 ] 友禅 | TB(0) | CM(0)

野口の紗の付下げ

第二千六百四十六回目の作品として、野口の紗の付下げを紹介します。

青楓をテーマにした夏の付下げです。地色は乳白色、染めていない生成りの色ですね。テーマは青楓です。楓は赤が混じると秋物ですが、青楓であれば春物または夏物ということになります。

テーマが1つだけの着物というのは意匠的に優れたものが多いように思います。おそらく純粋な芸術として描かれた絵画に近いからでしょう。問題は、季節が限定されてしまうことですが、夏物ははじめから季節が限定されているので、ワンテーマ物を着るチャンスでもあります。

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いちばん上の写真は前姿(マエミ+オクミ)、

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写真2番目は後姿、

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写真3番目は袖、

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写真4番目は胸です。

見どころは、緑系だけの楓の葉の中でも黄色~緑~青緑までの色の変化があることでしょう。まさに絵画的な美しさだと思います。しかしながら、わずかながら疋田で表現された楓が混じり、そのためにこれは絵画ではなく京友禅なのだと気づくのです。

小袖の時代から、着物の意匠というのは絵画になりすぎないように発展してきました。明治時代に無線友禅が開発されたわけですが、無線友禅の作者たちは、着物の意匠を西洋の写生画のようにしたいと思っていたのでしょう。

しかし現代の友禅作品の意匠は、自然界にはない糸目という白い輪郭線がある方が主流ですし、普通に疋田表現も混じっています。この付下げのように写生的な美しさを追求しても、やはり写生とは一線を画すのですね。
[ 2014/03/04 ] 友禅 | TB(0) | CM(0)

野口の絽の名古屋帯の帯合わせ

第二千六百四十五回目の作品は、野口の絽の名古屋帯の帯合わせです。

今日は昨日の野口の絽の名古屋帯を着尺(小紋)に合わせてみました。無地系とも言える今回の絽の名古屋帯は、ごちゃごちゃした柄の着物にも合わせられますから、紬よりも染めの着尺(小紋)に合わせる方が本領発揮できるはずです。もちろん縞や余白のある飛び柄の着物に合わせて、すっきりした着姿を作ることもしてみます。

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いちばん上の写真は、野口の紗の着尺を合わせてみました。金魚と波紋を染めた飛び柄の小紋ですから、その水色の地色は水面の色を表していることになります。であれば水の泡をテーマにした帯はテーマ的なつながりが作れたことになります。

金魚、波紋、水の泡とつながるとテーマが重なりすぎるかなあという気もします。しかし、着物は水面を上から見ているように感じるのに対し、帯は水の中から見ていることになるので、視点の違いが帯合わせに重層感を与えるように思います。

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写真2番目は野口の紗の着尺を合わせてみました。薔薇をテーマにした飛び柄の着尺で、先日白地を帯合わせに使いましたがこれは色違いの焦げ茶です。薔薇と水の泡が意味的につながるとは思いませんが、この薔薇は草間彌生風のドットとしか見えないし、水の泡もただの無地系とも見えますから、意味が分からないどうし同居可能と思われます。

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写真3番目は野口の絽の着尺を合わせてみました。波の中に草花という意匠ですが、これは江戸時代の小袖にある伝統的な意匠です。着物は波もテーマなので水の泡の帯とは意味的につながりそうですが、残念ながら全く異質な感じがします。

野口は280年の歴史を持ち、本社には小堀遠州作の茶室もあります。そのイメージを生かして「桃山江戸の美」というテーマでものづくりをしてきました。この着尺も小袖の雰囲気を引き継いでいて小紋としてはフォーマル感があり、袋帯と合わせてパーティー着にした方がよさそうです。

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写真4番目は千切屋治兵衛の着尺を合わせてみました。無地系の帯ですから、ぜひ総柄の着物に合わせてみたいと思いました。総柄の着尺といっても単色しかも無彩色ですから、合わせるのは容易ですね。
[ 2014/03/03 ] 帯合わせ | TB(0) | CM(0)

野口の絽の名古屋帯の帯合わせ

第二千六百四十四回目の作品は、野口の絽の名古屋帯の帯合わせです。

今日は昨日の野口の絽の名古屋帯を紬に合わせてみました。無地系と言っても良い今回の絽の名古屋帯は、ごちゃごちゃした柄の着物にも合わせられます。もちろん無地系の着物に合わせて、全体としてすっきりした着姿を作ることもできるので、帯合わせについては万能タイプと言えますね。

今回は紬に合わせてみます。夏の紬の柄は無地か縞か格子か絣で、絣はたいてい幾何絣ですから、ごちゃごちゃ柄と合わせられるという特長を披露できないのが残念です。

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いちばん上の写真は夏琉球を合わせてみました。紺の濃淡で横段文様になっていて、その上に沖縄本来の模様単位の絣が重なるという、伝統スタイルの中でもちょっと個性的な意匠です。帯があらゆる着物の個性を受け入れる無地系ということで夏琉球の中でもできるだけ個性的なものを選んでみました。

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写真2番目は東郷織物の夏大島を合わせてみました。黒地の白い格子という、「粋」と言っても良いようなきりっとした印象の夏大島です。無地系の帯と粋な格子の組み合わせで、全体がすっきりした着姿を狙っています。

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写真3番目は小千谷縮を合わせてみました。茶色の格子という、夏の着物としては涼しげとは言えない色の小千谷縮です。夏に茶色を上手に着こなすのは大人の女って感じですね。帯の水色に対しては補色関係ということで選んでみました。

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写真4番目は小千谷縮の絵絣を合わせてみました。現代の小千谷縮としては珍しい大きな絵絣ですが、かつて「まつりばやし」というブランドで制作されたことがあるのです。柄どうしが干渉しあわないという点で、無地系の帯の特長が生きてきますね。
[ 2014/03/02 ] 帯合わせ | TB(0) | CM(0)