花也の付下げの帯合わせ

第二千六百十四回目の作品は、昨日の続きで花也の付下げの帯合わせです。

今日の帯合わせのテーマは、黄色です。2日間にわたり無彩色どうしのばあい、多色のばあいなど帯合わせを試してきて、黄色の面白さに気が付きました。着物の地色はわずかな焦げ茶色味を含んだチャコールグレーで、それに対して黄色が合っているのか合っていないのかわからないのですが、どことなく特別な雰囲気があって、印象に残ったので、今日は黄色を集中的に。

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いちばん上の写真は、龍村の袋帯「有朋文」を合わせてみました。タイトルからは鳥獣戯画とはわかりませんが、「兎と蛙が友達で仲良く相撲を取っている」という意味のタイトルだと思います。相変わらず知的でブログの筆者に対しては迷惑ですね。伝統工芸品の意匠として鳥獣戯画は珍しいものではないですし、この着物に対して鳥獣戯画の帯を合わせることに意味があるとも思いませんが、黄色のおかげで特別なものになっています。

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2番目の写真は、織悦の袋帯「ペルシア巻花蔓」を合わせてみました。細かい更紗柄で、本来は年配者向きの意匠だと思います。色はタバコ茶ということですが、着物の地色との相性か黄色系の華やかさを感じます。

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写真3番目は、龍村の仕立て上がり名古屋帯を合わせています。龍村の仕立て上がり帯と言えば光波帯を思い浮かべてしまいますが、光波帯の多くは経錦であるのに対し、この帯は現在の西陣の織物の主流である絵緯糸で模様を表現する様式です。したがって値段も光波帯の値段ではなく名古屋帯の値段です。

薔薇の意匠が、着物に合っているとも思いませんが、黄色というだけで特別な雰囲気がありますね。なぜ黄色が特別なのかわかりませんが、街で黄色いフィアットとか見ると目に飛び込んできますよね。

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写真4番目は、細見華岳の綴の名古屋帯を合わせています。細見華岳の綴については今更論じるまでもないですが、今回はたまたま黄色ということだけで選んでいます。
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[ 2014/01/31 ] 帯合わせ | TB(0) | CM(0)

花也の付下げの帯合わせ

第二千六百十三回目の作品は、昨日の続きで花也の付下げの帯合わせです。

昨日の帯合わせは、着物が無彩色であることや、Ⅼ字型という特殊な模様配置であることを意識して、無彩色の帯や格子柄の帯を合わせました。そういう合わせ方をすれば、当然、年配者向き・粋・都会的(無地系)という感じになりがちですね。

今日は条件を付けず、色鮮やかなものやストーリー性のある模様のものを合わせてみます。年配者向き・粋・都会的(無地系)でない帯を集めた帯合わせです。

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いちばん上の写真は、龍村の袋帯「西域舞踊錦」を合わせています。年配者向きでもなく、粋でもないものを合わせてみました。都会的かどうかはわかりませんが、無地系→都会的という発想からは離れてみました。エキゾチックなテーマを持ち込むことで、モダンな雰囲気は維持されたかと思います。

ただし、すべてのエキゾチック柄が合うわけではなく、この帯のばあい、帯の意匠が横段になっていて、それが着物のⅬ字型の模様と上手く共鳴しているだけかもしれません。

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2番目の写真は、太西勇の袋帯「有栖川錦龍文」を合わせてみました。「有栖川錦」という名を持つ名物裂は、ここで紹介する龍文のほかにも鹿文や鳳凰文もあり、カクッカクッとした意匠が特徴です。前田家に伝来(前田育徳会所蔵)するもので、制作されたのはオスマントルコとも言いますが、龍が織ってあるから中国だろうともいわれます。有名なのに「有栖川」という名前の由来も不明、制作地も不明という謎の多い裂でもあるんですね。

この帯は、その裂の龍文部分に取材したものですが、今回の帯合わせでは、着物に対しては色的なつながりも意味的なつながりも一切意識していません。それでもなんとか合っているような気がしてきます。

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写真3番目は、織悦の袋帯「彩絵厳島鳥蝶花文」を合わせてみました。平家納経の装飾部分に取材した帯です。帯の地が銀色なので、無彩色の着物には自然に馴染みます。模様は鳥や蝶が鮮やかな色で織られていて、無機的な着物に対し彩色とストーリー性を加えています。

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写真4番目は、帯屋捨松の袋帯を合わせています。ロゴのある標準品で、意匠も捨松の得意な更紗がテーマです。地はグレーで無彩色の着物には自然に馴染みます。模様は大きな更紗ですから大胆な曲線模様で、着物の雰囲気とは異質ですが、上の例と同じで地色同質・模様異質のパターンを狙ってみました。
[ 2014/01/30 ] 帯合わせ | TB(0) | CM(0)

花也の付下げの帯合わせ

第二千六百十二回目の作品として、昨日の花也の付下げの帯合わせです。

どんな帯を合わせるかという前に、この付下げの性質について考えてみるべきだと思います。だれがどんな時に着る着物なのでしょうか。

まず考えられるのは、➀色が無く模様の配置も静的ですから、年配者向けの着物ではないかということですね。次に②白揚げなので江戸文化を引き継いだ粋な着物ではないかとも考えられます。さらに模様配置がⅬ字型ということで、モダンな印象がありますから、都会的な着物とも言えます。

この3つのうちどれかが正解で、他が不正解ということはありません。着物は人が着て初めて完成するものだからです。自分が年配者であるという自覚があれば、年配者らしい帯合わせをしてきれいなおばあちゃんになればいいのです。

というわけで今回も帯合わせをしてみましたが、それで気づいたことは、年配者、粋、都会派の3つが明確に分けられるものではないということです。考えてみれば当たり前で、年配者向けの帯合わせでも都会的でありたいですものね。優れた帯合わせはすべて都会的なはずですし。

今回の帯合わせは、Ⅼ字型と帯を同時に見ていただくということで、帯を変則的な置き方をしています。着た時にこういう風に見えるということはありませんが、イメージとしてとらえていただければ良いと思います。

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いちばん上の写真は、池口定男のごく初期の佐波理綴「御簾」を合わせてみました。色を着物に合わせて全体の無彩色にしたものです。年配者向けと言っても良いですし、都会的と言っても良いですが、森田空美流の無地系の着物と感じる方もいらっしゃると思います。まあ、無彩色パターンは誰でもとりあえず考えますね。

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2番目の写真は、北尾織物の綴の袋帯「道長取り」を合わせてみました。上の合わせ方と同じ発想によるものです。帯にはわずかに色が加わっていますが、やはり色数を増やさないことで、都会的と感じさせる帯合わせです。年配者向けと解釈しても良いですが、若い人が着ても良いですね。ただ、年配者の少し手前ぐらいの中途半端な立場の人は、年寄りに勘違いされるということで嫌がるかもしれません。

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写真3番目は、小機屋の結び目をテーマにした袋帯を合わせてみました。Ⅼ字型の直線的なイメージに対し、結び目の曲線的なイメージをぶつけてみました。

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写真4番目は、龍村の袋帯「カピタン格子」を合わせてみました。近世のインド渡りの金モールをイメージした織物です。帯の色は無彩色をベースにした上3つと大きく離れて、緑系にしてみました。一方、模様は格子ということで、直線幾何学文路線を守ってみました。
[ 2014/01/29 ] 帯合わせ | TB(0) | CM(2)

花也の付下げの細部

第二千六百十一回目の作品として、花也の付下げの細部を紹介します。

彩色が無く、糊糸目の技術を見せるための作品でもあるので、制作者の意図を尊重して糊糸目の細部をお見せします。

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いちばん上と2番目の写真はシダの丸紋の近接、

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写真3番目と4番目はⅬ字型部分の近接です。Ⅼ字型部分については、思い切り近接して撮っていますから、かなり細かいと思ってください。

シダ(羊歯)は、冬に枯れないために縁起が良いということで、着物の意匠のモチーフにはよく使われます。植物について全くの素人の私は、シダと言えばウラジロの形しか思いつかないですが、着物の柄に使うシダの形は多様で、この着物に使われているシダも個別の名前はよくわかりません。

シダはシダ類・シダ植物などといいますが、「類」という区分は一般語であって科学的なものではありません。科学ではあくまで界・門・綱・目・科・属ですね。そのうちシダ類はどこに属するかというとシダ門です。つまり門から下に広がる大きなグループなので、一見して同じ仲間と思えないほど多様な形をしているのです。

このような植物の存在は着物の制作者にとってはとても都合が良いことです。季節にこだわらなくてすむ縁起の良い植物で、しかも形の自由度が高ければ、好き勝手に着物の意匠にできるからです。

この着物については、よく見ると太い葉のシダと細い葉のシダの2種類だけです。太い葉のシダは、丸紋では防染されて白揚げですが、Ⅼ字型部分では線描き表現になっているだけで同じ形です。そしてその線描き部分こそ、糊糸目の技術でもっとも難易度が高くて、いちばんの見どころになっています。

糊糸目とゴム糸目はどう違うのか、糊糸目は柔らかみがあってゴム糸目はシャープというイメージがありますが、このような作品を見るとそのイメージは必ずしも正しいものではないとわかります。糊糸目でも作者がシャープに置けばシャープなのです。

本当の違いはそれぞれの操作性で、ゴム糸目は操作性が高く(扱いやすく)太い糸目でも細い糸目でも置きやすいのですが、糊糸目は操作性が悪く太い糸目でも細い糸目でもきれいに置くのが難しいということなのだと思います。

ではなぜ操作性の悪い糊糸目に価値があるのか、その答えもこの作品の3番目と4番目の写真にあると思います。操作性の悪いものを一生懸命操作すると、そこに職人の息遣いのようなものが感じられて、糸目の線が平板にならないのです。

同じことは絣における手括り防染にも言えますね。手括りの絣が重要無形文化財の要件になっている結城紬や久留米絣が、捺染の絣より珍重されるのと同じです。この例の方が着物好きにはわかりやすいですね。
[ 2014/01/28 ] 友禅 | TB(0) | CM(0)

花也の付下げ

第二千六百十回目の作品として、花也の付下げを紹介します。

着物の模様の配置と思えば、かなり個性的な意匠です。しかし友禅の意匠としては、このようなⅬ字型配置に対し「額縁取り」という名前がありますから、パターンとして認知されているわけですね。

加工は、糊糸目の美しさがウリの花也作品にふさわしく白揚げで、糊糸目の美しさを見せるものです。鑑賞の仕方としては、全体の意匠でモダンな雰囲気を楽しみ、目を近づけて糊糸目の美しさを楽し女ば良いと思います。

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いちばん上の写真は前姿(マエミ+オクミ)、

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写真2番目は後姿、

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写真3番目は袖、

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写真4番目は胸です。

模様の配置としては、前姿ではⅬ字型の空いたところのシダの丸紋が2つ、後姿ではⅬ字型は背中心を越えた辺りで終わり、その上の空間にシダの丸紋が1つですね。これは付下げなので反物で販売されますが、反物状態ではオクミの垂直な柄ばかりが気になって、どんな柄か全然見当がつかないものです。

それ以外の部分、すなわち上半身の胸や袖はすべてシダの丸紋のみですから、すっきりしていますね。色もないわけで、地味な着物と言ってしまえば地味な着物ということになってしまいますが、帯合わせで都会的な雰囲気にして着たいものです。

[ 2014/01/27 ] 友禅 | TB(0) | CM(0)

井尾敏雄の帯留を帯に合わせてみる

第二千六百九回目の作品として、井尾敏雄の帯留を帯に合わせてみます。

昨日につづいて「朧銀金彩蘭花文透彫帯留」という箱書きのある帯留を実際に帯に合わせてみます。今回は染めの名古屋帯で試してみます。今回も帯締は省略しています。

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いちばん上の写真は、花也の友禅の染め帯に合わせてみました。市松の地紋を利用して、市松に模様を配置した意匠です。模様は、花也らしく安田由来の端正な糊糸目です。地色は墨色、模様は模様は白い糸目ですから、白・黒・金の必勝配色です。また楓の金と赤がありますが、それもまた帯留の金色の応援になっています。

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写真2番目は、京正(制作は中井淳夫)の染め帯に合わせてみました。箔のみで表現された「瑞葉」という名の作品ですが、形は縁蓋でくっきりあくまで端正につくられていますし、色は金~白金~銀まで多様に変化しています。さすが中井さんなんですよね。

今回は、この中井作品の一部を隠すことになっても、その金箔の上に金色の帯留を重ねています。色も形も美しい中井の作品に欠ける唯一の要素である立体感を、帯留で補ってみたのです。(本来であれば刺繍で立体感を加えるべきであるが、この作品で中井はそれをしなかった。)

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写真3番目は、千切屋治兵衛(制作は倉部)の染め帯に合わせてみました。笹の丸を箔と刺繍で表現したもので、帯留との関係は金色どうし、同質性の高い組み合わせです。モチーフの意味としては、竹と蘭ですから共に四君子の仲間で、多少のつながりが作れていると思います。日本ではあまり意識しないですが、中国の絵画では春夏(蘭は春、竹は夏)の組合わせということになりますね。

今回は、帯の模様と帯留を少し重なるぐらいに微妙にずらしてみました。腹文がワンポイントのばあい、帯留をずらすべきか重ねるべきか迷うことがありますね。帯の柄をずらして帯留が真ん中というパターンと帯の柄は真ん中んで帯留をずらすというパターンがありますし、体形と帯の長さの関係で結果的にそうなる場合も、意図的にする場合もあるでしょう。

帯の柄と帯留をずらす理由は、帯の柄に美術的な価値がある場合、見えなくしてしまうのはもったいないということだと思います(今回の例)。一方、重ねる理由は、帯の柄と帯留が重なることで視覚的に相乗効果をもたらすことができるばあいだと思います。

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写真4番目は、花也のダンマルと箔と刺繍の帯に合わせてみました。黒に近い濃い地色にあまり光らない箔の模様です。刺繍はお太鼓に名ありますが、腹文にはありません。

今回は、帯の柄の真上に帯留を重ねてみました。光る金と光らない金と周囲の黒が階層を成すようにしてみたのです。

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写真5番目は、千切屋治兵衛(制作は中井亮)の染め帯に合わせてみました。水玉と斜線を配した抽象的な意匠です。ここでの狙いは金彩で表現された水玉で、柄である水玉と立体である金色の帯留が視覚的な混乱を招く面白さを狙ってみました。この写真では混乱することはないですが、遠くから見たら柄か帯留か迷うかもしれません。

明日は日光まで法事で行かなければならないのでお休みします。
[ 2014/01/25 ] 小物と小物合わせ | TB(0) | CM(0)

井尾敏雄の帯留を帯に合わせる

第二千六百八回目の作品として、昨日紹介した井尾敏雄の帯留を帯に合わせてみます。

昨日の「朧銀金彩蘭花文透彫帯留」という箱書きのある帯留を実際に帯に合わせてみます。友禅の染め帯でも西陣の織の帯でも使えますが、今回は織の帯で試してみます。

本来は、どんな帯締を使うかも重要ですが、帯、帯締、帯留の3つのファクターがあると、組み合わせが膨大になってしまうので、帯締は省略しています。

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いちばん上の写真は、帯屋捨松の桃(西王母というべきか)を合わせてみました。地色は黒ですが、緯糸に引き箔の糸を使っているため、やや色が柔らかく光沢があります。その一方、模様には金糸は使っていないので光沢はなく、金色の帯留だけがキラキラ光ることになります。金色の効果がいちばん発揮される状態だと思います。

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写真2番目は龍村の袋帯「陶楽騎馬文」を合わせています。この帯はお太鼓は金糸使いですし、女の子もいるという派手なものですが、腹文は金糸使いではなく、テーマも陶片です。しかしながら黒地に原色の赤と緑ですから、むしろお太鼓より癖が強いかもしれません。

赤・黒・緑という国旗のような原色の組み合わせに、金色が加わるわけで、まさに「これを見てください!」という帯留の使い方だと思います。安物だったら恥ずかしいですが、伝統工芸展で活躍していた井尾敏雄なら堂々と見せたら良いと思います。

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写真3番目は、河村織物の「栄昌綴」というシリーズの袋帯を合わせています。地は光沢のある淡い色ですが、それは色糸と金糸の組み合わせです。色糸に金糸が混じることで、色糸の色が緩和され淡い色となり、光沢もでるのです。また、模様を表現する絵緯糸は金糸です。

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写真4番目は、紋屋井関の「御寮織」のシリーズの袋帯を合わせています。地は明るい金色ですが、経糸が白い絹糸、緯糸が金糸で、両者が合わさって白っぽい金色になっているのです。一方模様を表現する絵緯糸は金糸ですから、帯全体は金の濃淡ですね。その上にに金色の帯留が乗るので、3段階の金の濃淡になります。

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写真5番目は、しょうざんの徳田義三の図案を使ったシリーズのの袋帯を合わせています。地は経緯ともに金糸で、模様の絵緯糸も金糸です。金糸同士でも模様の金糸の方に微妙に色がついていますね。それとともに地の糸と模様の糸は形状が違います、模様部分は平金糸が盛り上がるように捩れて重なっているのです。普通は模様は糸の色を変えて表現するものですが、この帯では色の違いは微妙で、むしろ糸の形の違いで表現しているんですね。組み合わせとしては、金と金です。ある意味、尖った表現かも。

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写真6番目は、龍村の名古屋帯「花韻」を合わせています。白地に金銀糸、朱と緑の色糸がバランスよく配されているので、金色の帯留を合わせるには良い環境だと思います。

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写真7番目は、同じく龍村の名古屋帯の「平泉遺宝錦」を合わせています。クリーム色の地に金銀の絵緯糸で模様表現しています。クリーム色というのは、金銀の色を平均して光沢を無くしたようなものですから、この帯は色ではなく、光沢の差で模様表現をしているということになりますね。それに金色の帯留も加わわるわけですから、やはり金銀の光沢表現ということになりますね。

[ 2014/01/24 ] 小物と小物合わせ | TB(0) | CM(0)

井尾敏雄の帯留

第二千六百七回目の作品として、井尾敏雄の帯留を紹介します。

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「朧銀金彩蘭花文透彫帯留」という箱書きのある作品です。これは当店の在庫ではなく、私が依頼によりオークションで落札したものです。帯留と帯の合わせ方というのも試してみると面白いので、取り上げてみました。

「朧銀」というのは、「おぼろ銀」または「ろう銀」と読んで、日本の伝統工芸としての金工につかわれる地金で、銀1銅3の合金(「並四分一」という。「並」でない比率もある。)です。また表面を梨地にして光沢を抑えた銀細工のことをいうばあいもありますが、おそらくその合金は梨地にし加工されることが多いので、名称が混じっているのではないかと思います。この作品もそうですね。

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作者は、略歴をみると香川県の出身のようですね。戦前は香川、戦後は世田谷にいて伝統工芸展で活躍したようです。略歴は昭和42年で終わっており、(前の持ち主がその後の略歴をペンで描き加えているので、かなり思い入れがあったのだろう。)古いもののようです。現在は息子の健二さんが活躍していますが、伝統工芸展で監査員ということですから、とても有名な方なんですね。

明日は、実際に帯と合わせてみます。普通に考えてみれば、帯留が金で光りますから、黒や濃い地の帯に合わせればきれいだろうと思います。しかし、帯が金だったり、しつこく柄があったらしたらどうでしょうね。その辺も試してみますね。
[ 2014/01/23 ] 小物と小物合わせ | TB(0) | CM(0)

龍村のバッグ


第二千六百六回目の作品として、龍村のバッグを紹介します。

革製で、一部が龍村裂です。龍村裂を使ったバッグには、別の業者が龍村裂を裂として買って、自分でバッグとしてつくったものもありますが、これは龍村自身が製品として販売したバッグです。

龍村だって革部分は外注でしょうから、突き詰めれば同じことかもしれませんが、「ブランド品」というのは、そのブランドの本来の所有者によって一貫してつくられることに意義があるはずです。

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モデルさんが割と大柄なので、バッグの本当のサイズがわかりにくいのですが、手の部分を含まない高さ20cm×幅24cm×マチ11cmです。

使われている裂は、龍村の商品名で「天平段文錦」、正倉院裂としての一般名で「目交花葉文暈繝錦」です。一般名と違う商品名が付けられているのは、商標登録のためでしょうか。

「暈繝(うんげん)」とは、ストライプのうち似た色を隣り合わせに並べてグラデーション効果を狙ったものを言います。違う色を並べてくっきりした美しさを狙ったものは「長斑」です。後世には「間道」、「縞」(近世以降)となってしまうものを、古代の人は2つに分けて認識していたんですね。

「目交花葉文暈繝錦」は古い経錦の織り方ですが、国家珍宝帳から、実は正倉院裂としては後期のものと知られています。間道の内部のデザインが単純なモチーフなのは、経錦のためかと思われますが、モダンデザインのようにも見えてきます。






[ 2014/01/22 ] 小物と小物合わせ | TB(0) | CM(0)

一の橋の付下げ「玉子地金彩流水雲錦」の帯合わせ

第二千六百五回目の作品も、一の橋の付下げ「玉子地金彩流水雲錦」の帯合わせです。

お洒落といわれる着物の中に、色を極力排した、無彩色と金銀だけのような作品群がありますね。かつての北秀には、そういう着物が普通にありましたし、地域で分ければ関東の好みということになるのでしょうか。

倉部さんには、そのような系統の作品が多いですが、この作品もその1点ですね。帯合わせについては、やはり着物の世界観を壊さないように、金銀を主体に色数を抑えたもので合わせるのが普通でしょう。

昨日の帯合わせの最後に試した桜と楓の織悦の帯合わせは、鮮やかな配色を合わせて、思い切ってそのその世界観を壊してみました。しかし不安だったので、桜と楓というモチーフを共通にしておいたのです。今日は、モチーフで小細工せず、堂々と濃厚な色彩の帯を合わせ、着物の世界観を壊してみたいと思います。


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いちばん上の写真は龍村の袋帯で、タイトルは「鏡花春秋文」です。鏡裏文ですね。龍村といえば、大彦や大羊居と合わせることが多いブランドで、濃厚な色彩派の代表です。

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写真2番目は、河合康幸(河合美術の弟だそうです)の袋帯です。唐織は、糸が浮いてボタッとした雰囲気があります。余分な贅肉が全くない雰囲気の着物に対し、温かみのあるボタッとした帯を合わせてみたわけですがいかがでしょうか。

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写真3番目は、帯屋捨松の袋帯を合わせてみました。「帯屋捨松」のロゴのある標準品ではなく、昔の手織の高級バージョンです。意匠は、近世の唐織の能衣装に取材したものです。

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写真4番目は、帯屋捨松の袋帯を合わせてみました。これも「帯屋捨松」のロゴのない手織の高級バージョンです。タイトルは「ヴィクトリア花文」ということで、エキゾチックなテーマであり、色の系統でもモチーフの背景でも、着物の持つ世界観をぶち壊すものですね。

今回、なるべく着物の良さを生かさないように帯合わせをしてみましたが、着物の世界観は思ったほど崩れていなくて、世間ではその程度の帯合わせはありがちだ、思わせるようなものばかりです。帯合わせで、本当の失敗というのはなかなかできないものですね。
[ 2014/01/21 ] 帯合わせ | TB(0) | CM(0)

一の橋の付下げ「玉子地金彩流水雲錦」の帯合わせ

第二千六百四回目の作品も、一の橋の付下げ「玉子地金彩流水雲錦」の帯合わせです。

現在紹介中の倉部さんの作品は、気品があってクールですが、遊び心のない着物です。こういう着物は、素晴らしいという人がいる一方で、つまらないという人がいるものです。

帯合わせについては、昨日は着物の雰囲気に合わせて、やはり上品だが遊び心が無いと言われそうなブランドを合わせてみました。華陽と梅垣ですね。その反対に遊び心がウリなのは、捨松や洛風林でしょう。

今日は織悦を使ってみます。私は織悦は、帯として完ぺきな織物だと思っています。上品だし、洗練されているし、ときとして大胆で、露骨には出さないけどユーモアのセンスもあります。欠点があるとしたら、もし同じクラスに、美人で成績が良く、スポーツができて人柄が良くて友達が多い、そんな人がいたらなんとなく反感を感じますよね、そんなところです。

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いちばん上の写真は、「彩悦錦」とネーミングされている唐織のシリーズです。遠山をモチーフとしていますが、近世の唐織の能衣装に使われた表現であるものの、今どきのイラストみたいにモダンでユニーク、そして洗練されていますね。

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写真2番目は、籠目をテーマにしています。単純な黒返しの地味なモチーフですが、配色のおかげか織悦が創るとおしゃれになってしまいますね。帯合わせという点では、帯のモチーフ自体には個性が無いので、どんな着物でも受け入れてしまうでしょうね。

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写真3番目は、「彩悦錦」とネーミングされている唐織のシリーズです。枝菊をモチーフにしていますが、有職文とも近世の唐織の能衣装とも思える意匠ですね。規則正しく並んだパターンは硬くなりがちですが、配色上手さでカバーしています。

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写真4番目は、色を極力使わない着物に対して、原色を思い切り使っており対照的な雰囲気です。しかし使われているモチーフは、桜と楓でじつは共通なのです。形が共通で色が対照的というパターンです。
[ 2014/01/20 ] 帯合わせ | TB(0) | CM(0)

一の橋の付下げ「玉子地金彩流水雲錦」の帯合わせ

第二千六百三回目の作品は、一の橋の付下げ「玉子地金彩流水雲錦」の帯合わせです。

倉部さんの作品というのはいつもそうなのですが、最高に洗練されている、としか言いようがありません。刺繍作品であるために、技術的なことに関心が言ってしまいますが、その点では先日サマルカンドを作ってもらった藤沢さんも同レベルだと思います。技術的に優れているのは当然として、その上にさらに倉部さんの特長を指摘するなら、意匠や配色の上手さとその結果生まれる上品とモダンですね。

この作品の特長を言えば、気品があってクール、といったところでしょう。これに合わせる帯もまた、気品があってクールであるべきでしょう。今日は、ユーザーとしてお嬢さまと若奥さまを想定し手帯合わせをしてみます。使うブランドは、上品なフォーマルの王道である華陽と梅垣です。

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いちばん上の写真は、華陽の袋帯を合わせてみました。華陽はすでに廃業しています。もともと高価な帯ですが、廃業前後、しばらく安値でネットで販売されているのを見ました。一時的にそういう現象はありますね。知識があれば、そういう時は素直に買っておけばいいと思います。

華陽は、地が綴組織で模様を絵緯糸で表現した織物です。爪掻綴ではないですが、手織という点ではホンモノであり、西陣手織協会の「手織りの証」がついています。この作品は、文箱をテーマにしていますが、その中に正倉院風のモチーフが込められており、文箱の取り方ともいえます。文箱というモチーフは、どちらかといえばお嬢さまと若奥さま向けですね。

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写真2番目も、華陽の袋帯を合わせてみました。四季草花と鴛鴦というテーマで、和装の意匠としてはありふれていて通俗的です。しかし、その通俗性を緩和するために、モチーフを屏風に閉じ込め、これは現実の風景ではなく屏風の絵です、ということにしているんですね。ドラマで、荒唐無稽なストーリーを展開した後に、ベッドから落ちて夢だったことにしたのと同じです。

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写真3番目は、梅垣の袋帯を合わせてみました。梅垣というのは、かつて東京では銀座のきしやでメインに扱っており、「きしやごのみ」の一角を形成していました。この作品は格天井をテーマにしたもので、模様が四角い枠に収められていることから、かっちとしたフォーマルな雰囲気です。

織の組織としては、地は綴組織、模様は絵緯糸で表現した織物です。爪掻綴ではないですが、手織という点ではホンモノですね。

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写真4番目も、梅垣の袋帯を合わせてみました。こちらは綴地ではなく、極細の本金の引き箔の糸を緯糸として織ったものです。梅垣ブランドにも、じつは上下があるのですが、これはおそらくいちばん上のランクに属する1本です。



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[ 2014/01/19 ] 帯合わせ | TB(0) | CM(0)

龍村の名古屋帯と光波帯

第二千六百二回目の作品として、龍村の名古屋帯と光波帯を紹介します。

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いちばん上の写真は、龍村の名古屋帯でタイトルは「飛鳥間道」です。過去に紹介したことがある(昔なのですでに消えていると思う)のですが、「飛鳥間道」なるものは歴史的には存在しないので、意匠の由来がわからず中途半端な説明をしていました。

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写真2番目は、龍村の光波帯で、タイトルは「太子菱繋文錦」です。最近気が付いたのですが、両者は色も雰囲気もタイトルも違いますが、じつは元の裂は同じなのでした。

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写真3番目がそれで、法隆寺の伝世し、現在は東京国立博物館法隆寺館のある「蜀江小幡」です。紐の部分(幡頭または幡手というべきか)ですね。帯では縞のように見えていますが、元の幡では横段に見える向きに切っていますね。

さらに見ると、幡の縁部分は「赤地格子連珠文様蜀江錦」、幡の中の部分は「円文白虎朱雀錦」です。いずれも龍村裂として商品化されています。蜀江小幡自体も昭和56年に龍村が復元しているので、それを記念しているのかもしれませんね。

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写真4番目は、龍村裂の「赤地格子連珠文様蜀江錦」です。

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写真5番目は、龍村裂の「円文白虎朱雀錦」です。
[ 2014/01/18 ] 西陣・綴 | TB(0) | CM(0)

一の橋の付下げ(倉部さん)

第二千六百一回目の作品として、一の橋の付下げ(倉部さん)の細部を紹介します。

昨日紹介した倉部さんの付下げの細部を近接で撮ってみました。倉部さんの作品は刺繍の技術が見どころなので、ぜひ近接で見てください。

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それぞれ別の場所の写真を撮っているのですが、どこも同じようです。モチーフについては桜の花、さくらの蕾、楓の葉、折れた楓の葉、流水の5つの組み合わせだけ、色については、桜の花弁の白、桜の花芯と楓の金駒繍の留糸の赤、楓と流水の金の3色の組み合わせだけ、これで全部が構成されているんですね。

まさにシンプルとしか言いようがないですね。それに奇抜なところも全くないです。それでもマンネリな感じはなく、どこを見ても美しいと言えるだけです。

こういう作品を見ると、倉部さんってすごいなあ、と素直に脱帽します。先日紹介した、私が下絵を描いているサマルカンドと比較すると、私が一生懸命地面を歩いている間に、倉部さんが空を飛んで行ってしまうような感じがします。
[ 2014/01/17 ] 繍箔 | TB(0) | CM(0)

一の橋の付下げ(制作は倉部)

第二千六百回目の作品として、一の橋の付下げを紹介します。

一の橋の付下げですが、制作したのは倉部さんです。タイトルは「玉子地金彩流水雲錦」です。先日紹介した「金彩リング宝飾」とちがって、着物の柄としては繰り返しつくられているテーマです。

「桜に流水」というのは昔からある美しい組み合わせですし、楓に流水は「竜田川」ですね。それぞれ春か秋ですが、この作品は桜も楓も有って春秋とも着られる親切な作り方をしています。実際に買う人にとっては大事なことですね。

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いちばん上の写真は前姿(マエミ+オクミ)、

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写真2番目は後姿、

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写真3番目は袖、

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写真4番目は胸です。地色は「玉子色」ともいうべき、薄い黄色またはクリーム色ですが、写真では銀鼠に写ってしまいました。

ありふれたテーマの着物ですし、なにか創作しようとしても、桜と楓と流水という3つのモチーフでは、新規な図案を創りだすこともできないでしょう。しかし加工の質を高めれば、ありふれた意匠が、みずみずしい感覚によみがえるという例だと思います。

明日以降、倉部さんの刺繍の細部を紹介します。


[ 2014/01/16 ] 繍箔 | TB(0) | CM(0)

龍村のクッション

第二千五百九十九回目の作品として、龍村のクッションを紹介します。

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久しぶりにモデルさんに働いてもらおうと思いましたが、働くというより休憩中みたいになってしまいました。クッションに使われている裂は、正倉院裂である「花鳥梅花文錦」の赤と緑です。大きさは、タテヨコ共に45cmです。

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このクッションは、クッションとしても買うこともできますが、クッションカバーとして買うこともできます。カバーとして買った場合には、中身はカインズホーム(490円)でも買えます。
[ 2014/01/15 ] 小物と小物合わせ | TB(0) | CM(0)

龍村の袋帯「海音光映錦」の帯合わせ

第二千五百九十八回目の作品は、昨日につづいて龍村の袋帯「海音光映錦」の帯合わせです。

龍村というのは高級品のイメージですが、実際の商品ラインの中には普及品もあり、ネットショップで検索すれば15,6万円でもありますね。龍村=西陣の最高級と思っていた世代の方からすれば、「おや?」という感じもあるかもしれません。

しかし、トヨタにカローラもクラウンもあるように、同じブランドでも、その中で上下があって、それぞれの需要に答えるように揃えてあるのです。今回紹介しているものは、普通に店頭で見られるものの中では、いちばん上の方のクラスですね。実物を見ると、周囲を圧する威厳みたいなものがあります。

威厳のある帯は、威厳のある着物に相応しいと考えると、どうしてもフォーマル専用になってしまいます。昨日はそれを意識して、黒留袖と色留袖に合わせています。しかしながら、描かれているのが波にすぎず、よけいな立派なものはありませんから、広い範囲で使えるかもしれません。

今日は、いろいろなタイプの訪問着と合わせて、どこまで使えるか試してみます。更紗や抽象柄まで合わせてみて違和感が無ければ、偉そうだけどじつは使い勝手の良い帯ということになると思います。

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いちばん上の写真は、千總の金彩更紗の訪問着を合わせています。重厚な装飾、広い模様面積(特に上半身)を持つ本格的な訪問着です。更紗をテーマにしたフォーマルは、和様の帯とは異質で合いにくいし、捨松などのペルシア柄とは同質すぎて合いにくいものです。「波」のような自然現象をそのままテーマにした帯で合わせていくのが良いのかもしれません。

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写真2番目は、花也の暈しと刺繍の訪問着を合わせています。暈しと刺繍で霞を描いた訪問着です。ぼかしの霞の中に、岩橋英遠の「彩雲」(北海道立釧路美術館蔵)を思わせるような淡く七色の刺繍がしてある、という作品です。加工は凝っていますが、霞がテーマということで軽快な訪問着です。

軽快な訪問着に対し、重厚な袋帯を合わせるわけですが、波と霞、両方が合わさると雄大な自然というテーマになって、結構合っていますね。

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写真3番目は、千切屋治兵衛(制作は中井淳夫)の訪問着を合わせています。淡いピンク地の抽象柄の訪問着です。重厚な袋帯と思えば、抽象柄の訪問着と合わせるということは考えづらいところですが、実際には良く合っています。中井さんの力でしょうか。

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写真4番目は、千切屋治兵衛(制作は中井淳夫)の訪問着を合わせています。もう1枚、中井さんの訪問着と合わせてみました。神坂雪佳の下絵集「百世草」にある作品に取材した作品です。今日の帯合わせでは、いちばん合っているように見えます。
[ 2014/01/14 ] 帯合わせ | TB(0) | CM(0)

龍村の袋帯「海音光映錦」の帯合わせ

第二千五百九十七回目の作品は、昨日の龍村の袋帯「海音光映錦」の帯合わせです。

今回の帯合わせのテーマは「遠くの海」。裾模様として海辺の景色を描いた着物というのは結構あるものです。そのような意匠のばあい、海辺の景色の上に描かれた海は、ぼかされて着物の地色に同化していきます。海はそのまま大海原となって、帯を越えて上半身まで続いていくのでしょうか。

今回の帯は、大海原という言葉のイメージにふさわしい海の波をテーマにしたものですから、着物の裾柄の海が、着物の地色に同化して消えていった後の海原の役目をしてもらいました。

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いちばん上の写真は、大羊居の色留袖「磯の賑わい」を合わせてみました。海岸で唐子で表現された子供が遊んでいるというテーマの作品です。裾柄として砂浜が描かれていて、その上に水色で波が描かれていますが、ぼかしで地色に同化していきます。

地色は深い海を表すような紺色ですが、東京っぽいというか、江戸っぽいですね。

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写真2番目は、加賀友禅作家であった毎田仁郎さんの色留袖「伊勢路」を合わせてみました。夫婦岩のある二見ヶ浦の風景をテーマにしています。裾模様として松林が続く砂浜が描かれ、その上に夫婦岩、さらに遠景に小さな島がいくつか描かれていますが、空気遠近法が使われて色が淡くなっています。海はぼかしで地色に同化していきますが、地色の水色は海の延長でしょうか。

なお、加賀友禅で夫婦岩が描かれる場合、有名な伊勢の二見ヶ浦ではなく、能登二見であるばあいがあります。夫婦岩ではなく、機具岩(はたごいわ)というのですが、能登のほうが規模が大きいらしいです。伊勢の二見ヶ浦は日の出を見る名所ですが、能登二見は夕日の名所だそうで、ちょうどそういう向きなんですね。

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写真3番目は、東京友禅の作家であった熊谷好博子(こうはくし)さんの南蛮渡来図に取材した黒留袖を合わせてみました。熊谷好博子さんは器用な人だったのか、型染も絞りも友禅もありますが、これはもっとも代表的な作風の、細密な表現で見る人を驚かす友禅作品です。

よく見ると、手描きで細密な表現をしているだけでなく、たたきなど糊防染を使った染色ならではの表現を多用し、さらにふんだんな刺繍で立体感を演出しており、ただの古画の写しではありません。海の表現は、船の回りに青海波の海がありますが、ほかは黒の地色だけです。帯で波を補った形ですね。

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写真4番目は、加賀友禅作家であった村田幸司さんの黒留袖を合わせてみました。若手の中では最も人気のある作家の1人だったのですが、40代で惜しくも亡くなった方です。入江の風景ですが、入江の2つの先端は色を失ってモノクローム表現になっているので、空気遠近法を使った写生的表現なんでしょうね。

その一方で近景は意匠的です。「加賀友禅は写生的、京友禅は意匠的」などと言いますが、そのようなマンネリ化を避けようとした意欲的な意匠だったのだと思います。

友禅で描かれたのは遠景の断崖までで、海は波も描かれていません。波の帯を合わせることは、海景を補う効果がありますね。




[ 2014/01/13 ] 帯合わせ | TB(0) | CM(0)

龍村の袋帯「海音光映錦」の続き

第二千五百九十六回目の作品は、龍村の袋帯「海音光映錦」の続きです。

良い作品というのは何種類かあって、古渡の名物裂を忠実に復元したものも良いし、金箔や漆箔などホンモノの素材のみを使ったものも良いですが、この作品は、一瞬ごとに変わる波の光景を織でできるだけリアルに表現したものです。

織で表現するということは、筆で描く絵と違って、一気呵成に描くわけにはいきませんから、視覚効果を計算しながら、糸の組み合わせを設計し尽す、その結果として、光が見え音が聴こえるようなリアルな絵が織れるわけです。

その過程でいろんなアイディアを盛り込み、それを実現する素材を集めてくるわけですが、それを近接写真や拡大写真で見てみます。

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いちばん上の写真は、模様の一部を近接したものです。これだけ見ると、黒と茶色と白と金を使った抽象画のように見えてしまいますが、全体がつながると波の光景になるわけです。

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写真2番目は、波の黒い部分を拡大したものです。うねる波のうち、谷間になって光が当たらない部分ですね。黒で表現されていますが、水ですから反射する光があるわけで、それが平金糸で表現されています。

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写真3番目は、波の金色の部分を拡大したものです。うねる波のうち、山になって光が当たっている部分ですね。金糸に白い絹の糸が絵緯糸として織り込まれています。絹糸は光沢があって、それ自体光っています。

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写真4番目も波の金色の部分を拡大したものです。金糸に平銀糸が絵緯糸として織り込まれています。金と銀という光るものどうしの組み合わせで、最高潮に光る部分ですね。

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写真5番目も波のうねりではなく、波の飛沫を白い糸で表現した部分を拡大したものです。徐々に色が変わるのではなく、暗い部分からいきなり白い飛沫が立ち上がっています。暗い部分を表す焦げ茶色の糸も、飛沫を表す白い糸も絵緯糸による表現です。
[ 2014/01/12 ] 西陣・綴 | TB(0) | CM(0)

龍村の袋帯 「海音光映錦」

第二千五百九十五回目の作品として、龍村の袋帯を紹介します。

「海音光映錦」というタイトルの帯です。定価は150万円で、普通に売られている龍村の帯の中では高いほうです。このブログで紹介してきた龍村の中では唯一の100万円超でいちばん高いですね。ブランドによって好き嫌いがあって、世間には龍村が嫌いな人もいますが、このクラスになると、織の良さは誰でも認めるのではないでしょうか。

作品のテーマというか、作品の存在意義は、タイトルから明らかです。一瞬ごとに変化する海の波を、光と音を映し撮るぐらいの気持ちで、織で表現するということですね。海の波というのは、一瞬ごとに形を変えますから絵で描くのも難しくて、学生のころは海を上手に描ける人には憧れたものです。それを筆で描くより難しい織で表現するということですから、まさにチャレンジで、そのチャレンジが、この作品のテーマなのだと思います。

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いちばん上の写真はお太鼓、

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写真2番目は腹文、

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写真3番目と

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4番目は近接です。

金糸については、高級品といえば本金糸のイメージですが、この作品は意外にも本金糸(金箔を和紙に貼って裁断したもの)にこだわらず、ポリエステルを多用しています。特定の素材を使ったから価値がある、という発想ではなく、音が聴こえ、光が見えるような波を織り出す、という目的のために、あらゆる素材、あらゆる手段を使う、という趣旨なのだと思います。

そのような作品の意義を十分に感じ取るには、細部を見る必要があります。今回と次回を使って、細部の近接や拡大を紹介します
[ 2014/01/11 ] 西陣・綴 | TB(0) | CM(0)

岡本等さんの動物というテーマ

第二千五百九十四回目の作品は、岡本等さんの動物というテーマです。

昨日まで紹介していたサマルカンドの刺繍は、ラクダだけ妙に評判が良かったのですが、このラクダの意匠は私のオリジナルではなく、岡本等さんの友禅作品を下敷きにしています。着物の意匠というのは、完全にオリジナルといのは稀で、たいていは何か(琳派が多いですが、福田平八郎など近代の作品であるばあいもありますね)を参考にしているものです。

岡本等さんは、もう10年以上前に、惜しくも40代でがんで亡くなった友禅作家ですが、生前は野口の人気作家でした。ただの人気作家というよりも、野口のブランドイメージ形成に貢献した人ではなかったかと思います。野口というのは、小紋などカジュアルでは以前から圧倒的なブランド力を持っていましたが、昭和50年代からはフォーマル全盛の時代ですから、カジュアルで得たブランドイメージをフォーマルでも生かす必要がありました。

京友禅というのは、たいていは悉皆屋を使ってモノ作りをしますから、カネを惜しまず、安田や中井などレベルの高い悉皆屋に依頼すれば、誰でも良い着物を作れます。しかし、それでは千治や一の橋と同じ着物ができてしまい、カジュアルで得たブランドイメージと乖離してしまいます。

そんな状況で、いちばん野口に貢献したのは岡本等さんだったと思います。野口が小紋ですでに確立していた「おしゃれ」「華やか」「都会的」というイメージを生かしつつ、れっきとしたフォーマルでもある着物をつくる、という難しい課題に挑んで成功したんですね。

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いちばん上の写真は、今回の刺繍のラクダの下敷きにした岡本等さんの友禅のラクダとウサギです。

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写真2番目は、ライオンと野牛と別のラクダです。

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写真3番目は、山羊です。アルプスの断崖で飛び跳ねているような力強い野生の山羊ですね。

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写真4番目は、象と孔雀です。象は岡本さんのオリジナルではなく、私が、キリンビバレッジのラッシーというドリンクのラベルを送って描いてもらったものです。孔雀は水色がきれいですが、これは岡本さんが多用した岡本さんのレギュラーカラーの1つです。

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写真5番目は、エジプトの船の飾りです。

岡本等さんの動物の特長がわかりますか。ただ単にかわいいというのではなく、アフリカの動物を描きながら京友禅の雅があるのです。着物の意匠にする場合、野生の動物を描いても、京都の雅か江戸の粋がなければいけないのです。そうでないと、上手に描いたつもりでも残念な動物柄になってしまうんですね。
[ 2014/01/10 ] 友禅 | TB(0) | CM(2)

昨日来の刺繍加工のおまけ

第二千五百九十三回目の作品は、昨日来の刺繍加工のおまけです。

昨日で終わりにしようと思いましたが、まだ星の写真が残っていたので、もう1回だけ続けます。

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いちばん上の写真は、4つある星の1つです。*の形の簡単な星を多数散らすというプランもありました。下絵のときに「複数散らす」という意味で、手抜きで4つだけ描いておいたら、4つ刺繍して出来上がってきました。しかも*のような簡単な形ではなく、きちんと★の形に刺繍されていました。輪郭が金糸、中埋めが白い糸です。

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写真2番目は、当初あったプランの1つです。門にドームを載せた建築物に回廊を付け、さらにミナレットも付けています。しかし、付下げとして模様配置をする時に、マエミに建造物2つ、オクミにラクダ1つと決めたので、この建造物を2つに分離したのです。

刺繍には、駒繍などで線表現する場合と、割り繍などで繍いつめた面的な表現をする場合があります。予算が無限にある場合や、安い海外で加工する場合は、広い面積を繍いつめることもできますが、たいていの場合は予算の制約があるので、繍いつめる場合は飛び柄的な表現になります。

一方、予算に制約があるがどうしても広い面積を刺繍したいという場合は、駒繍などで輪郭線だけの表現をすることになります。前者の場合は、模様が小さくてパーティー会場では気づいてもらえず、後者の場合は平板な印象でつまらないですよね。

ではどうすればいいかというと、全体を輪郭線だけで表現しつつ、要所だけは重厚な表現をするというメリハリのある繍い方をするのです。一か所だけを割付文様繍を使った重層的な表現をする一方で、他の箇所は輪郭線だけの空虚な表現のまま放置するのが良く、決して平均して仕事をしてはいけないのです。

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写真3番目は、当初のプランに有った下絵です。完成品では、門の後方のミナレットになっています。着物の意匠で模様面積の水増しのために行われるのは、後方に雲や霞を描くことです。この作品でもモスクの後方に、輪郭線のみの表現で雲か霞でも刺繍したいところですが、砂漠では水分が蒸発しないため、雲も霞も無いはずです。

そこで、星と建物の輪郭線を刺繍してみました。建物の輪郭線は星の光が直接当たるところは金糸、当たるところは銀糸、というプランでしたが、千治さんに指示し忘れました。

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写真4番目は、実現しなかった星のプランです。金糸の星と銀糸の星を重ねるというものです。星は天空にあるものですから、帯より下にレギスタン広場の建物、帯より上にこの星を配そうと思ったのですが、これは注文主により却下され実現しませんでした。

絵羽にして広げれば壮大な風景になったかもしれませんが、着た状態で胸にこの星が有ったら勲章みたいだという理由。確かに。
[ 2014/01/09 ] 繍箔 | TB(0) | CM(0)

昨日来の刺繍加工の最後

第二千五百九十二回目の作品は、昨日来の刺繍加工の最後です。

今日はマエミにある門と背後のミナレットです。多くの日本人がサマルカンドを知ったのは、井上靖の「西域物語」がきっかけではないでしょうか。私が読んだのは学生時代だったと思います。本棚にそのまま有ったので、これを制作するにあたり読み直しました。文庫版ですが、カバー表紙が、サマルカンドのレギスタン広場にある門でした。

今回はイメージだけ借用し、刺繍で表現しやすいようにかなり形を変えています。

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いちばん上の写真は、この作品のメイン部分で、観光案内に必ず載っているレギスタン広場をイメージしたものです。門とかミナレットとか適当に書いてしまっていますが、レギスタン広場を囲む3つの門のような建造物はじつはイスラム神学校です。壁面は装飾にあふれています。その装飾は美しいので、すべて作品に盛り込みたいという誘惑に負けそうになります。

友禅であれば、何でも描けてしまうので、おそらく装飾過剰のごちゃごちゃ着物にしてしまうでしょう。しかし、刺繍にはコストという壁があるので、そのような誘惑に負けないですむのです。

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写真2番目は、アーチ部分の拡大です。実際のサマルカンドの建物は壁面が装飾タイルで覆われているのですが、その雰囲気を出すために割付文様繍で装飾してみました。

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写真3番目は、この部分の下絵です。完全に下絵通りに刺繍していますね。

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写真4番目は、この部分の下絵の最初のプランです。レギスタン広場のメインは門型の建物ですが、ドーム型の建物も捨てがたい、というわけで、門の上にドームを載せています。壁面装飾を割付文様繍で表現するというアイディアは当初からあったということがわかりますね。
[ 2014/01/08 ] 繍箔 | TB(0) | CM(0)

小山憲市さんの上田紬の着尺に刺繍をして付下げっぽくするというテーマの続き

第二千五百九十一回目の作品は、小山憲市さんの上田紬の着尺に刺繍をして付下げっぽくするというテーマの続きです。

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いちばん上の写真は、ラクダの全身です。無機物である建造物ばかりでは作品に愛嬌が無いので、動物も入れています。人物でもよいのですが、サマルカンドの歴史的建造物の多くはティムール朝時代のものであるため、人物のばあいティムールの時代の衣装を考証しなければならないので避けています。

もっとも、インドのミニアチュールのおかげで、ティムール系の衣装は室内の召使いの衣装まで資料があって楽な方ですね。私は人物の衣装を考証しなければならないときは、マール社から300円ぐらいで出ているオーギュストラシネの「民族衣装」という、とてもきれいな本を使っています。小さい本なので、本ごと京都に送ってしまいます。素人には描き写すのは不能ですし、安いので戻ってこなくても悔しくないですしね。

さて、刺繍ですが、建物のような無機物の輪郭線は金糸の駒繍、動物のような有機物の輪郭線はまつい繍というルールで繍うことにしました。どちらも線を表現する技法ですが、まつい繍というのは、「ノ」の字をつなげていくような繍い方で、タッチが柔らかく、動きも感じるので、ふだんは波の表現などの使われることが多いです。

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写真2番目は、ラクダの目の拡大です。目にはマンガのように星を入れてください、と頼んでおいたところ、本当に星を入れてくれました。

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写真3番目は、ラクダの足の拡大です。爪があります。ラクダって爪がありましたっけ?偶蹄目か奇蹄目か、とか気になりますが、まあでも職人さんが頑張ってくれたので良いです。

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写真4番目は、鞍として掛けられた絨毯の縁の部分の拡大です。割付文様繍で模様表現してみました。割付文様繍とは、割繍(面を埋める刺繍)をした上に、幾何学模様などの模様を繍うものです。

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写真5番目は、ラクダの下絵の最初の案です。

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写真6番目は、ラクダの下絵の最終案です。上から見るとかなり完成度が上がっています。
[ 2014/01/07 ] 繍箔 | TB(0) | CM(2)

小山憲市さんの上田紬の着尺に刺繍をして付下げっぽくするというテーマ

第二千五百九十回目の作品は、小山憲市さんの上田紬の着尺に刺繍をして付下げっぽくするというテーマです。

最近人気の小山憲一さん(ご存じない方は検索してみてください。)の上田紬の無地の着尺に、千切屋治兵衛(実際の制作は藤沢さん)による刺繍をしたものです。

小山さんの作品は、価格的にも安いものではないですし、作家に敬意を表してそのまま着るべきだと思いますが、今回の注文主は、すでに小山さんの上田紬を数枚持っているということで、刺繍の付下げのベースにさせていただくことになりました。

すでに先染めの織物として完成しているので、友禅はできません。紬に箔というわけにもいきませんから、刺繍だけで加工しています。刺繍の良いところは、友禅と違って、自由に加工が追加できるところです。気に入らなければ、気に入るまで加工し続ければいいのです。一方欠点は、コストがかかるところですね、刺繍で友禅と同じぐらいの絵画的表現をすれば、とんでもない金額になってしまいます。

ではどうすればいいのかといえば、友禅とは別の表現方法をするしかありません。友禅が小説ならば、刺繍は俳句のように作るということですね。今回の刺繍のテーマはサマルカンドです。本来であれば、観光案内の表紙に使われるレギスタン広場を風景画のように描きたいところですが、それは友禅にふさわしい表現方法で、刺繍には向きません。というわけで、レギスタン広場風の風景を刺繍で表現しやすい意匠に変換しています。

ではなぜテーマがサマルカンドなのか、ですが、紬の地色がピーコックグリーンともサマルカンドブルーとも言えるような大胆な色で、とても加工の下地にする気にならなかったのです。それで開き直って、背景の空の色や建物のタイルの色に見立てたのです。

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いちばん上の写真は、今回刺繍をした部分の全体、すなわちマエミとオクミです。レギスタン広場にありそうなイスラム風のミナレット、門、回廊など。刺繍しやすいように簡略化しています。建物だけでは愛嬌が無いので、ラクダも付けました。

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写真2番目は、ミナレットに回廊。上が少し尖っているのがイスラムのアーチの形ですね。こういう細部をいい加減につくってしまうと、ただのトンネルになってしまい、作品の意味が全くなくなってしまいます。

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写真3番目は、その元の下絵です。刺繍が下絵に忠実であることがわかります。下絵は私が描いているので、素人の絵ですが、その素人っぽさまで忠実に再現しています。頼んではいないんですけどね。

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写真4番目は、細部の拡大です。レギスタン広場のモスクの壁面はイスラム風の模様のタイルですが、それをすべて刺繍するわけにいかないので、象徴的に1つだけ刺繍しておきました。
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写真5番目は、細部の拡大です。ミナレットの先端ですね。
(つづく)
[ 2014/01/06 ] 繍箔 | TB(0) | CM(2)

一の橋の付下げ「金彩リング宝飾」の帯合わせの続き

第二千五百八十九回目の作品は、一の橋の付下げ「金彩リング宝飾」の帯合わせの続きです。

昨日につづいて、「金彩リング宝飾」の帯合わせです。2日間帯合わせをしてきて思うのは、ガラス細工のように繊細な付下げですから、帯合わせも神経質なものになるだろう、という予想を見事に裏切って、織でも箔でも友禅でも、種類を多わず帯合わせ可能だったと言うことです。

しかしながら、どんな帯でも合うのかと言えばそうでもなくて、読者の方には見えないことですが、没にした写真が結構あったのです。採用した写真を見なおして見ると、良いもの、洗練されたものしか残ってないですね。

今回は、可能性にトライするのではなく、「もし私であったらこうするだろう」という程度の帯合わせです。

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いちばん上の写真は、河村織物の「栄昌綴」というシリーズの袋帯を合わせてみました。全体は段文で、名物裂の模様を織り出しています。

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写真2番目は、北尾の綴の袋帯を合わせてみました。北尾の綴は、上の河村つづれとともに、爪掻綴ではなく、地が綴組織で模様は絵緯糸(えぬきいと)で表現したものです。模様は道長取りですが、色数は限定して都会的な雰囲気になっています。

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写真3番目は、池口定男の佐波理綴を合わせています。佐波理綴というのは、多様な素材を使った輝く織物です。「輝き」もまた西陣織のエッセンスの1つで、龍村にもそういう志向があるわけですが、それを極端に推し進めたものではないかと思います。

けっこう光りますし、着物雑誌で派手に宣伝したり、海外で展覧会をしたりもするので、それが通俗的に感じられて嫌だという人もいます。この帯はごく初期のもので、まだ光り方が暴走していません。洗練の範囲でとどまっていますね。

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写真4番目は、しょうざんの袋帯を合わせてみました。「しょうざん」というブランドは、かつては「しょうざんウール」その後は「しょうざん生紬」で知られています。しかし世間一般で知られているのは京都鷹峯の素晴らしい庭園と巨大なリゾート施設でしょう。今年もまた東急不動産と組んだ新規プロジェクトがあるとか。かつて呉服業界で得た利益を不動産分野に再投資したということでしょう、創業者は頭の良い事業家だったのです。

今、お洒落な袋帯といえば洛風林など連想するでしょうが、少し前は「しょうざんの袋帯」もまた高級品として尊敬されるブランドでした。特にこの徳田義三の図案によるシリーズは、今見ても意匠・品質ともに逸品だと思います。徳田義三は西陣の図案家として有名で、死後残された図案や下絵は、すべて洛風林が買い取ったそうです。
[ 2014/01/05 ] 帯合わせ | TB(0) | CM(0)

一の橋の付下げ「金彩リング宝飾」の帯合わせの続き

第二千五百八十八回目の作品は、一の橋の付下げ「金彩リング宝飾」の帯合わせの続きです。

昨日につづいて、「金彩リング宝飾」の帯合わせです。今回の帯合わせの方針は、独特の世界観を持つリングの付下げに対し、その世界観を壊さない帯合わせ(単彩+モダンの帯を合わせる)と、その世界観をわざと壊す帯合わせ(多彩+古典の帯を合わせる)の両方を試してみることです。

昨日は、とりあえず、単彩+モダンの帯を合わせてみましたが、その後、単彩+古典の帯も合わせてみました。洗練を極めた作品なので、帯合わせは難しいと予想していましたが、実際に帯合わせをしてみたら、意外となんでも合うということに気が付きました。

今日の帯合わせは、多彩+古典の帯の帯合わせをしてみます。

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いちばん上の写真は、ヤマト染芸の糊糸目友禅の名古屋帯を合わせてみました。ヤマト染芸は外山憲史さんの友禅工房で、東京友禅の伝統的な産地である落合にあります。着物が金彩だけの単彩ですから、反対の多彩な友禅を合わせてみました。モチーフは着物に合わせてエキゾチック系にしています。

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写真2番目は、野口の友禅の名古屋帯を合わせてみました。制作したのは、モダンで色鮮やかな友禅が持ち味の岡本等さんです。アフリカの動物たちをテーマにしていて、上品で洗練された着物に対して、イラストっぽいという意味で世界観を壊す帯合わせです。

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写真3番目は、橋村重彦さんの「賀茂の競馬」という名古屋帯を合わせてみました。現存する江戸時代の小袖の意匠をほぼそのまま縮小して再現したものです。ここではあえて、多彩で絵画性・物語性に富み、かつ和様という、着物と正反対のものを合わせています。

私は橋村さんの小袖写しのシリーズがすごく好きなのですが、それは江戸時代の小袖と同じ糊糸目だからです。小袖写しはたくさんありますが、多くはゴム糸目ですから形を真似ただけで何の意味もありません。橋村さんは江戸時代の職人と同じ技法で勝負しています。「賀茂の競馬」は江戸時代の糸目と比べて全く遜色なく、縮小した分だけ橋村さんの方が難しい仕事をしているように思えます。

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写真4番目は、橋村重彦さんの「寛文小袖写し」という名古屋帯を合わせてみました。倉部さんの金彩や刺繍の作品は、技法的な特徴から友禅に比べれば絵画性・物語性に乏しいわけですが、自分を説明しすぎないということが、上品や洗練につながっています。人間に例えれば、おしゃべりであちこちで身の上話をしながら、上品で洗練されているのは難しいというわけですね。

さて、帯合わせですが、ここでは多彩と和様という条件だけではなく、丸い模様どうしというハードルを課してみました。
[ 2014/01/04 ] 帯合わせ | TB(0) | CM(0)

一の橋の付下げ「金彩リング宝飾」の帯合わせ

第二千五百八十七回目の作品は、一の橋の付下げ「金彩リング宝飾」の帯合わせです。

昨日来の「金彩リング宝飾」は、洗練といえば最高に洗練された作品であり、お洒落といえば最高にお洒落な作品です。倉部さんがつくって一の橋が売っているのですから、当然と言えば当然です。

それだけに、帯合わせは悩みますよね。倉部さんと一の橋の世界観を大事にしなければいけないとも思いますが、ぶち壊してやるのも良いと思います。ただ、ぶち壊すのならば、その後にそれ相応のものをつくってやらなくてはなりません。ぶち壊す方がかえって難しいわけですね。

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いちばん上の写真は、北秀の金彩の袋帯を合わせてみました。金彩加工に金糸のあしらい(刺繍)をしたもので、作者は倉部さんではありません。どちらも金だけの単彩主義ですから、ほとんど同じといえます。同じテーマすぎる帯合わせは、失敗することが多いですが、これは違和感はありません。

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写真2番目は、龍村の名古屋帯「平泉遺宝文」を合わせてみました。中尊寺金色堂内部の荘厳具の1つである華鬘をモチーフにしたものです。こちらも金だけの単彩主義です。ただし、上の帯合わせがエキゾチックものどうしであったのに対し、こちらは平安時代のモチーフということで、和洋の組み合わせになっています。

もとの「リング」はエキゾチックでモダンなテーマなわけですから、そこに和様を持ち込むこと自体、すでに世界観を壊していると言えます。金だけということで、色は単彩主義を大事にしているが、意味は壊しているんですね。

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写真3番目は、帯屋捨松の袋帯を合わせてみました。「帯屋捨松」のロゴのある標準品ではなく、手織りの高額品です。今は手織りと言っても中国製ですが、当時は日本製で、高いなあと思いながら仕入れたものです。

意匠は、名物裂として有名な「牡丹唐草」そのままで、エキゾチックなテーマが多い捨松にしては意外ですね。模様は太い引き箔のみの単純な表現ですが、ピンクと白で段になった地の組織は極めて複雑で、よく見ると本金の平金糸も織り込まれています。モダンなリングに対し、典型的な名物裂の文様ということで、やはり和洋の組み合わせで、世界観を一部壊しています。

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写真4番目は、坂下織物の「御門綴」のシリーズの1本を合わせてみました。坂下織物は十数年前に破産していて、もう現物を見ることはないと思います。テーマは皇帝の支配する中国の典型的な意匠である蜀江錦です。がちっとした構成で、花鳥風月の日本とは反対の世界観です。

堅いデザインですから、留袖などドフォーマル系に使う帯ですね。洗練された装いというのは、さりげないものが多く、ドフォーマルとは相いれないことが多いですが、これはなんとか許容範囲ですね。
[ 2014/01/03 ] 帯合わせ | TB(0) | CM(0)

一の橋の付下げ「金彩リング宝飾」の細部

第二千五百八十六回目の作品は、昨日の一の橋の付下げ「金彩リング宝飾」の細部です。

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いちばん上の写真は前姿(マエミ+オクミ)の近接、

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写真2番目はその上半分の近接、

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写真3番目はその下半分の近接、

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写真4番目は袖にあるリングの近接です。

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写真5番目は下半分のリングの生地の裏側です。箔は裏側には透りませんが、刺繍のレベルは裏側の糸で分かることもありますね。

いろいろある工芸の技法の中で、刺繍といえば、特に技術や根気が大事と思ってしまいますが、どんな分野であってもそれが芸術に類するものである限り、デザインやセンスというものが大事ですね。技術が優れているのは当たり前として、「センスはイマイチだけど名作」というのはありません。

この作品は、複数の箔の技法を縦横に使って、宝飾品を写生のように描いてしまうというものです。その技術レベルの高さにも驚きますが、ただの写真のような写生ではなく、ちゃんと着物の意匠として成り立っているのがセンスだと思います。
[ 2014/01/02 ] 繍箔 | TB(0) | CM(0)

一の橋の付下げ(制作したのは倉部さん)

第二千五百八十五回目の作品として、一の橋の付下げを紹介します。

一の橋の付下げですが、制作したのは倉部さんです。タイトルは「金彩リング宝飾」です。継続してブログを見てくださっている方は「倉部さんらしい」と思われるでしょうが、初めてご覧になる方は、「京都の刺繍」あるいは「京都の箔加工」のイメージとあまりに違うので、着物の柄と思わないかもしれません。

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いちばん上の写真は前姿(マエミ+オクミ)、

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写真2番目以後は、袖や後ろ見頃など各部を撮ってみました。前姿はリングが3個ですが、その他、後姿、袖、胸などにリングが1個ずつあります。

倉部さんは、野口、千切屋治兵衛、一の橋などの刺繍と箔の作品のうち、いちばん上のクラスのものを作っています。

刺繍と箔というのは、技術的に全く関連が無いので、同一人物あるいは工房が担当するには不合理ですが、江戸時代に小袖を制作する縫箔屋という職業があったという伝統をそのまま引き継いでいるのだと思われます。京繍の人間国宝の福田喜重さんも刺繍と箔を両方作っていますね。
[ 2014/01/01 ] 繍箔 | TB(0) | CM(0)