花也の名古屋帯の帯わせ

第二千五百八十四回目は、先日の花也の名古屋帯の帯わせです。

名古屋帯ですから、紬か小紋に合わせるべきですが、現物は全体が箔使いですし、琳派の伝統的な意匠ですから、付下げぐらいまで使えそうです。ただし、帯というより着物にありがちな意匠のため、模様が重ならないように注意が必要です。

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いちばん上の写真は、昨日紹介した花也の紐の付下げを合わせてみました。本来、袋帯を合わせるべき付下げに名古屋帯を使うわけですから、相手はやはり軽めの付下げが良いと思います。

というわけで、昨日紹介した「紐」だけの付下げを選んでみました。模様面積は広いですが、テーマが紐だけということで軽い付下げです。地色は錆ローズですから、黒と組み合わせることで、コントラストの強い帯合わせとなりますね。

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写真2番目は、野口の付下げ(制作は倉部さん)を合わせてみました。京繍というのは、極めてコストの高いものですから、数十万円の範囲で買えるものは、模様の面積が限定されます。この作品は、花簪をテーマにしていますが、目を近づければ素晴らしいものの、大きなパーティ会場では目立たない飛び柄にすぎません。

そういう着物をパーティー用に使うには、着物に代わって目立ってくれる帯をパートナーに使う必要がありますね。帯に惹かれて近づいた人に、倉部さんの京繍をじっくり見せるようにすれば効果的と思います。

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写真3番目は、千切屋治兵衛(制作は中井淳夫)の付下げを合わせてみました。白茶地に焦げ茶色の落葉を描いたもので、普通に考えれば地味な着物です。ただ、地色にちょっと工夫があって、白茶なのに微妙にピンクを感じて、少しだけ華やかさもあるのです。

ここで狙ってみたのは、帯の模様から葉が落ちてきて着物の模様になるような錯覚です。帯の模様にある植物は槇と楓ですから、葉の種類が違いますが、ピッタリ合うのも作為的過ぎるので、この程度のずれがあった方が良いかもしれません。

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写真4番目は、花也の付下げを合わせてみました。波と松、菊などをテーマにしたもので、友禅の着物にいちばんありがちな意匠ですね。本来であれば、帯の模様と重なってしまうダメな帯合わせです。

ただ、着物が全く彩色のない白揚げの模様で、帯が箔と彩色友禅ですから、全体がモノクロで主要部分だけをカラーにした演出をしたように見えます。

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写真5番目は、花也の付下げを合わせてみました。菱形の取り方で、中の模様は柳を背景とした菊です。同じ菱取りの模様が並んでいるだけで、あまり展開のない、あくまで付下げらしい意匠です。普通に考えればこの帯にはこんな帯合わせですよね。

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写真6番目は、一の橋の付下げを合わせてみました。紬地で、シャープな印象の直線の斜め取りの更紗です。着物の生地も模様のテーマも、帯の琳派模様とは全然異質なわけですが、それほど違和感はないので、結構なんでも合うということですね。
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[ 2013/12/31 ] 帯合わせ | TB(0) | CM(0)

花也の付下げ

第二千五百八十三回目の作品として、花也の付下げを紹介します。

花也の糊糸目の付下げですが、テーマは「紐」だけです。先日紹介した硯箱の名古屋帯でも紐は添え物でした。この付下げでは、その添え物をメインテーマにしているので、テーマ的には「軽い付下げ」ということになります。

その一方で、模様の面積自体は広いです。紐として、糸が撚られている様子などを描かれている本当の紐は、前姿であっても2,3本しかないようですが、それ以外に、太めの糸目の線としてだけ描かれている紐が多く、模様の面積を水増ししているからです。

軽いテーマ+広い模様面積の組み合わせですね。その反対は、重いテーマ+余白の組み合わせで、倉部さんの刺繍作品にありがちな、凝った刺繍の模様が1つ描いてあって、それ以外の部分がすべて余白になっているような作品です。

不思議なことに、鑑賞する人にとっては、どちらも同じぐらいの満腹感があります。おそらく、重い模様が1つだけで、それ以外は放置されて余白であるような作品は、鑑賞者はその重い模様に目が釘づけになって、他の部分が余白であることが気にならなくなるのでしょう。

一方、軽いテーマでありながら面積自体が広い作品は、アイキャッチポイントが無いかわり、どこでも模様が目に入ってしまいます。そのため意識が集中する場所がないが休む場所もない、という状態になり、適度に目が疲れるのでしょうね。

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いちばん上の写真は前姿(マエミ+オクミ)、

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写真2番目は後姿、

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写真3番目は袖、

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写真4番目はマエミの近接です。

地色は、クリームより赤みがあるがピンクではない、淡い色です。色名で言うと「錆ローズ」といいます。模様は、ほとんど白揚げですが、わずかに色挿ししてあります。黄色と水色ですね。京友禅の伝統色というわけではなく、モダンな色です。
[ 2013/12/30 ] 友禅 | TB(0) | CM(0)

花也の名古屋帯の細部

第二千五百八十二回目の作品として、花也の名古屋帯の細部を紹介します。

今日は、裏側や細部の拡大をお見せします。友禅というのは、全体に友禅で模様を描いた後、強調したい部分に箔を置いたり、刺繍(あしらい)をしたりするものです。しかし、この作品では、箔については、強調したい場所にするのではなく、彩色と一緒になって全体の模様の構成に貢献しています。

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いちばん上の写真と2番目は、霞部分の表側と裏側です。霞の中は箔による波の模様ですが、裏から見ると、波の模様通りに糸目の線が見えます。つまり、表から見ると糸目の輪郭線は完全に埋没して見えませんが、見えないところでちゃんと手間をかけているわけです。

京友禅で、箔を主体にした作品では、生地に直接箔加工した作品と、一度糸目を置いて防染してから箔を置いている作品があります。完成品を表から見ると、全く差がありません。ではなぜ、この作品のように、埋没してしまうとわかっているのに、わざわざ手間をかけて防染する必要があるのか、私にはわかりません。

一般的な傾向としては、倉部さんのように箔が本業の人の作品のばあいは、直接箔が置いてあることが多く、この作品のように友禅が本業であるが、箔が多めという作品については、防染してから箔が置いてある場合が多いですね。

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写真3番目は色紙内部の流水部分の拡大です。色紙の中の槇楓図については、金屏風のように背景がすべて箔加工になっているわけですが、その箔加工を拡大してみました。白い部分は、流水で白生地そのままです。

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写真4番目は色紙内部の光悦垣部分の拡大です。光悦垣の背景も箔加工ですが、全体の写真で見ると、光悦垣の背景の金はあまり光沢が無く、流水の背景の金は光沢があります。その違いをそれぞれの拡大写真で比較してみました。

背景の箔加工は、完全に箔加工してあるわけではなく、生地の凹凸の凹部分には加工してありせん。さらに見ると輝度が高い方は塩瀬の生地の凸の部分の箔加工面積が比較的大きく、光悦垣の背景、すなわち輝度が低い方は、生地の凸部分の箔加工面積が比較的小さく、凹部分の下地の色(ベージュ)の露出が多いです。人間の目には金とベージュが混ざって見え、あまり輝かない金になるのです。箔も、貼るか貼らないかではなく、コントロールすることで作画に貢献させるわけですね。

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写真5番目は、色紙内部の楓の刺繍(あしらい)の拡大です。金糸2本の部分が楓の輪郭、金糸1本の部分が葉脈です。
[ 2013/12/29 ] 友禅 | TB(0) | CM(0)

花也の名古屋帯

第二千五百八十一回目の作品として、花也の名古屋帯を紹介します。

昨日まで紹介していた花也の名古屋帯は、安田系統の職人によってつくられたもので、糊糸目の繊細さがウリでしたが、今日紹介するものは、中井由来の職人によるものです。

中井系といえば、意匠、色、箔がウリですね。しかし、糊糸目もまた美しく、併用されるダンマル描きも上手、ついでに言えばゴムによる防染もまた上手です。全部良いと言ってしまうと、どこが良いのか焦点がぼけてしまってマーケティング理論からすればマイナスですが、中井というのはそういうもので、淳夫本人を知る人からは神様といわれていたわけですね。

中井淳夫本人はすでに亡いですが、この作品も中井らしさはありますね(たとえば意匠も)。しかし、色は中井本人より淡くて上品に変わっています。これは花也のくわ垣さんの性格だと思います。

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いちばん上の写真はお太鼓、

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写真2番目は腹文、

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写真3番目はお太鼓の近接、

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写真4番目は腹文の近接です。

お太鼓の意匠を見ると、全体が霞で、霞の中に色紙が入っています。その色紙の中には、槇、楓、流水あるいは蛇籠(または光悦垣、わかりにくいですね)が描かれていますが、これは琳派の槇楓図屏風などに似ています。一方、霞の中には波模様が描かれています。

全体がマトリョーシカのような入れ子構造になっているわけですが、マトリョーシカと違うところは、内側の方が大きいところです。工芸の意匠は、入れ子構造のばあい内側の方が大きいですよね、たとえば楓の葉の中に風景があるように。

それと似たものはナルニアですね、世界は入れ子構造で内側に行くほど大きくなる、とアスランが言っています。

腹文では、霞と色紙が分離され、どちらを表に出すか選択できるようになっています。平面の芸術ではない和装の場合、帯の構造を利用して、こんな見せ方のバリエーションがあるわけですね。
[ 2013/12/28 ] 友禅 | TB(0) | CM(0)

花也の名古屋帯の帯わせ

第二千五百八十回目は、花也の名古屋帯の帯わせの続きです。

昨日は、千切屋治兵衛と野口の着尺と合わせてみました。千切屋治兵衛の着尺に対しては、飛び柄でも総柄でもどちらもぴったり合っていました。色の系統が同じで調和しやすいのだと思います。それに対し、野口の着尺は合うものも合わないものもありました。

今日は、紬の着尺で合わせてみたいと思います。花也の作風は京都の文化そのもの、すなわち上品で洗練された中央の文化だと思います。それに対し、紬というのは、多くは地方の文化であり、真綿の糸、手織、草木染など、素朴の要素の強いものほど価値があって値段も高いです。

両者は、中央VS地方、洗練VS素朴というように正反対の存在なのですが、その帯合わせは成立するでしょうか。

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いちばん上の写真は、久留米絣を合わせてみました。作者は、絣括りと手織りが田中キヨ子、藍染が森山虎雄です。久留米絣というのは、太い糸で緯絣だけの素朴なものも、この作品のように細い糸で繊細な経緯絣を織りだしたものもあります。後者は民芸というよりは、コンクール出品用の美術品のような感じですね。

今日は純粋な素朴というのはなく、純粋な素朴であるほど、その価値が認められて中央のコンクールで入賞したりするので、創作的になったり、洗練されてしまったりしています。だから、素朴VS洗練という図式が成り立つとは限りません。それでもやはり、木綿の絵絣といえば、京都に対抗する地方文化の代表のような存在ですから、ちぐはぐな雰囲気は拭えませんね。

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写真2番目は、大城織物工場の南風原の絣を合わせてみました。福木で染めた辛子色、現地ではグバン(碁盤)といわれる、格子に緯絣の定番の幾何学模様を入れた「綾の中」という意匠です。沖縄を代表するような絣ですね。

沖縄の織物には二面性があって、南の島の土俗的な紬であるとともに、琉球王家の官服という中央文化でもあるわけです。柳宗悦は民芸と考えたので前者の解釈です。今の呉服文化の中の位置づけでも前者の解釈でしょう。正装として結婚式に沖縄の織物を着る人はいませんものね。(私は、真綿でない絹糸の首里系の花織を正装として着るのは、かっこいいのではないかと思っています。)

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写真3番目は、郡上紬を合わせています。郡上紬は、手紡ぎ真綿の糸、草木染、手織という素朴の3要素を揃えた民芸ファン憧れの着物です。そう考えると、京都の洗練された文化の代表である安田系とは対照的です。

しかしながら、実際に写真を見ると、結構合っている気もします。これは色のためだと思います。郡上紬は創作美術品としても優れていて、草木染の色が都会的なのです。そのために洗練された京都の色と合ってしまうのだと思います。

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写真4番目は、山下八百子の黄八丈の着尺を合わせてみました。黄八丈というのは、離れ島に産する紬と思えば素朴な文化のはずですが、実際には「まるまなこ」のような紋様を織り出す技巧的な織物です。そのせいか、合っているように見えてしまいます。
[ 2013/12/27 ] 帯合わせ | TB(0) | CM(0)

花也の名古屋帯の帯わせ

第二千五百七十九回目は、花也の名古屋帯の帯わせの続きです。

昨日は、2枚だけ帯合わせの写真を載せてみました。千切屋治兵衛の飛び柄の小紋に合わせてみたわけですが、安田由来の職人がつくった花也の帯は、やはり千切屋治兵衛とは雰囲気が合いますね。安田はもともとは千切屋治兵衛の下職なのですから当然のことと思います。

しかしながら、上品なものどうしの当然合うことが決まっているような帯合わせだけを見ていただいても仕方がないので、今回は本来は合いそうもない帯合わせも試してみます。

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いちばん上の写真は、千切屋治兵衛の総柄の着尺を合わせてみました。源氏香が全体に散らしてある小紋です。このように合わせてみると、色の系統が似ていて自然に調和していますね。正直なものです。

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写真2番目は、野口の着尺を合わせてみました。いわゆる御所解模様を型染にして着尺としたものです。1つのモチーフがとても大きい、小紋としてはとても大胆な野口らしい着尺です。しかしその一方で、色は単彩主義ですから、大人向けでもあります。

大きなモチーフ+グレーやベージュの単彩という組み合わせは、「年輩者でも着られる華やかな着物」というユーザーにとってありがたい着物であり、野口の必勝パターンでもあります。繊細な花也にとって、大柄の小紋は合っているとは思いませんが、着物が単彩なのが救いですね。

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写真3番目も野口の着尺を合わせてみたものですが、これは珍しい蝋染タッチの作品です。このような手描きタッチの着尺は、手描きなのか、手描き風の型なのかわかりにくいところですが、見分ける方法は、線模様のうち特徴のある凹凸を見つけ、その凹凸が繰り返す部分を探すことです。一定の間隔で同じ凹凸があれば、それが型の長さですし、繰り返すことが無ければ本当の手描きですね。

手描き(または手描き風)の蝋染というのは、手描きならではの野趣があるものですが、それは上品一方の真面目な糸目友禅とは反対の雰囲気です。ここではあえて、その反対どうしの雰囲気の組み合わせを狙っています。

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写真4番目も野口の着尺を合わせてみましたが、花が咲き誇る多彩で大柄な作品を合わせてみました。派手で華やか、もうまぶしいぐらいですが、これもまた野口の得意分野ですね。京都に行って、こういう着物を着た人とすれ違うことができたなら、もうそれだけで旅情気分ですね。

安田系統の帯とは全く違う世界観としか言いようがありませんが、あえて試しています。帯合わせとしては全くお勧めしませんが、花也の帯は繊細を極めた迫力というのもあり、全くダメ、というほどでもないかもしれません。
[ 2013/12/26 ] 帯合わせ | TB(0) | CM(0)

花也の名古屋帯の細部と帯わせ

第二千五百七十八回目は、昨日の花也の名古屋帯の細部と帯わせです。

今回の名古屋帯のテーマは、硯箱と紐です。硯箱に描かれているのは羊歯と笹ですが、その羊歯と笹は現実の硯箱に蒔絵で描かれている模様とも思えますし、硯箱の形の取り方の中に「羊歯と笹」という友禅モチーフを入れているとも言えます。前者ならば写生、後者ならば小袖以来の友禅の意匠ということになりますね。両者が判然としないのもまた小袖以来の友禅の意匠の伝統とも言えます。

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いちばん上の写真は、硯箱の中の意匠をできるだけ近接で撮ってみました。ここではぜひ、線描きによる羊歯の葉のかすれ(飛白)の表現を見てください。毛筆の飛白に見える程度に、地染めをした時に染料が浸食するように糊を置いているわけです。糸目の仕事では、本来の役割である模様の輪郭を取る仕事よりも線描きの方が難しいです。防染するという本来の機能を越えて、線のタッチ自体が芸術として鑑賞されてしまうからです。

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写真2番目は、腹文の紐と霞の側を近接してみたものです。腹文は、お太鼓の模様のダイジェストのような硯箱と、お太鼓とは違うテーマである霞があって、結ぶ方向でどちらか選択できるようになっています。紐は、特にお太鼓においては、バラバラの3つの箱を1つの意味のある意匠にまとめる役割を果たしていますね。

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写真3番目は、帯合わせを試してみました。いずれいろいろなパターンを試してみようと思いますが、とりあえずいちばん常識的なパターンです。合わせた着尺は、千切屋治兵衛の飛び柄の小紋です。生地は紬でちょっと変わっていますが、テーマは雪輪で地色は淡く、誰からも批判されることのない帯合わせです。

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写真4番目は、やはり常識的な帯合わせで、上と同じく千切屋治兵衛の飛び柄の小紋を使っています。生地は、こちらは紬というような個性モノではなく、普通のしぼの大きい縮緬ですが、テーマは当たり障りのない雪輪などではなく、個性のある栗鼠になっています。

花也の主人であるくわ垣さんというのは、真夏でもスーツの上着を脱がないような堅い人で、着物のテーマにもそれが現れています。この帯も上品としか言いようがないですものね。着物も上品で合わせればそれでよいのですが、ちょっと冒険をして、紬地にしたり動物柄にしてみました。
[ 2013/12/25 ] 帯合わせ | TB(0) | CM(0)

花也の名古屋帯

第二千五百七十七回目の作品として、花也の名古屋帯を紹介します。

昨日は年に数回の税理士業で、ずっと年末調整を手伝っていたのでお休みしました。今日は、昨日掲載するつもりだった花也の染め帯です。

画家というのは、一般的には、デッサンが得意なタイプと色彩が得意なタイプとがあって、たとえば「ミケランジェロは長くデッサン派とおもわれていて、色彩はあまり論じられたことが無かったのが、システィナ礼拝堂の壁画と天井画を洗浄してみたら、じつは色彩が美しく色彩家であることもわかった」というようなこともあります。

友禅でそれにあたるのは、糸目と彩色ですね。意匠そのものは名作の絶対条件ですが(デザインはダメだが名作、ってのは無いですね)、その上で、糸目がより優れたものと彩色がより優れたものがあります。

花也は、安田から引き継いだ職人が多いので糸目重視派ですね。特にこの作品は、2012年12月12日(2219回)と2012年12月14日(2221回)の付下げと同じ作者のもので、かすれながらも途切れない糊糸目が美しい作品です。

糊筒を使って、毛筆が本来持つ飛白の美のタッチを再現する、というのがこの作品のテーマです。糊筒というのは、ケーキに「誕生日おめでとう」と書くような道具ですが、そんな不自由な道具でなぜ「毛筆の飛白」という線の奥義みたいなことができるのか、おそらく糊の粘度から作者の秘伝なんでしょうね。

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いちばん上の写真はお太鼓、

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写真2番目は腹文、

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写真3番目はお太鼓の近接、

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写真4番目は腹文の近接です。
[ 2013/12/24 ] 友禅 | TB(0) | CM(0)

千總の訪問着の帯合わせ

第二千五百七十六回目は、昨日につづいて千總の訪問着の帯合わせです。

昨日は龍村を合わせてみたので、今回は別の銘柄を合わせてみます。鳥と花の曲線模様である更紗の着物に対し、おなじく曲線模様の更紗の帯を合わせることは、絶対に無理でしょうか。それについてもここで検証してみたいと思います。

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いちばん上の写真は、「ヴィクトリア花文」というタイトルの帯屋捨松の袋帯を合わせてみました。「帯屋捨松」のロゴがある標準品ではなく、手織りの高級バージョンです。更紗に更紗を重ねる帯合わせです。着物は生地に金線で更紗が描かれたもので平面の芸術ですが、帯は絵緯糸による模様表現、すなわち緯糸が浮いて模様を表現する立体的な芸術です。また色彩についても、着物のモノトーンに比べて帯は多彩です。そのために着物が表現したテーマを、帯がもう1度、増幅して表現しているように見えます。その重層的な感覚を面白いと見るか、しつこいと見るかですね。

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写真2番目は、「豊公花鳥錦」というタイトルの袋帯を合わせてみました。豊臣秀吉が陣羽織のしたというペルシア絨毯の模様ですね。これも、いちばん上の写真の帯合わせと同じ趣旨で試してみました。

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写真3番目は大西勇の「銀平脱合子」というタイトルの袋帯を合わせてみました。「銀平脱合子」とは、銀平脱という古代ならではの技法でつくられた碁石の入れ物で、正倉院御物です。木画の碁盤とともにあり、聖武天皇が遊んだものですね。象と鸚哥があって、この帯には両方織り出されていますが、お太鼓に象、腹文に鸚哥が出るといいですね。昨日の帯合わせと同じパターンで、着物における更紗のエキゾチックを、帯でさらに強める帯合わせです。

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写真4番目は、坂下織物の「御門綴」というシリーズの袋帯を合わせてみました。「蜀江錦」というタイトルで、皇帝が支配する中国のもっとも中国らしい意匠だと思います。すなわち皇帝を頂点とした秩序だった社会そのもののようにカチッとした意匠です。実際に中国では古代から明時代まで織り続けられたようです。

更紗とは関連のないテーマですが、着物の曲線と帯の直線という表面的な形状の組み合わせを狙っています。

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写真5番目と6番目は、着物の更紗のエキゾチズムを帯でさらに強める帯合わせの例です。朱色は山鹿清華の孔雀、紫は大西勇の正倉院蝋染屏風(象)です。どちらも色は合いません。しかし、そんなことは重要ではないと思います。着る人の勢いで乗り越えられるはずなので。
[ 2013/12/22 ] 帯合わせ | TB(0) | CM(0)

千總の訪問着の帯合わせ

第二千五百七十五回目は、昨日の千總の訪問着の帯合わせです。

百貨店の呉服売り場では、千總といえば、たいていは龍村か川島の袋帯と合わせてあるので、とりあえず龍村の袋帯と合わせてみます。問題は着物が更紗模様であることですね。

帯にありがちな意匠を考えてみると、伝統的な和様か、唐花や更紗のようなエキゾチックな曲線模様が多いです。エキゾチックな曲線模様については、帯屋捨松で探すと、必ず気に入ったのが見つかるものですし、ネットを上手く活用すれば、結構リーズナブルな価格であります。

しかしながら、着物が更紗模様だと帯で更紗は使いづらいです。デビューしたころのチェッカーズが全身チェックの衣装だったのを連想してしまいますから。一方、和様の模様も使いづらいですね。ではどうしたらいいのでしょうか。

今回は、個性的な更紗模様を単なる背景にしてしまうような、さらにエキゾチックなテーマの龍村の袋帯を合わせてみました。着物の更紗模様と違うテーマを持って来て、エキゾチックを薄めるのではなく、更紗模様を超えるエキゾチックなテーマを持ってきて、そのテーマをさらに強める帯合わせです。

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いちばん上の写真は、「西域舞踊錦」というタイトルの袋帯を合わせてみました。この場合の教科書的な帯合わせだと思います。着物が更紗という鳥と植物の文様であるのに対し、帯はその地域に住む人間を連想させます。

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写真2番目は、「騎馬陶楽文」というタイトルの袋帯を合わせてみました。ペルシアやシリアなどで出土するイスラム陶器を帯の意匠にしたものです。この帯合わせも、いちばん上の写真の帯合わせと同じように、着物のエキゾチックな更紗文を、帯のさらにエキゾチックな人物文で上書きしてしまう帯合わせです。

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写真3番目は「スキタイ歌詠錦」というタイトルの袋帯を合わせてみました。スキタイというのは古代の野蛮な遊牧民で、ギリシアやペルシアなど周辺の文字を持つ民族が残した史料には「災厄」として記録されています。しかし彼らはすぐれた金製品を残し(作ったのはギリシア人)ました。

帯の意匠だけで、「スキタイ」を連想できる人はおそらくいないでしょう。しかし、「スキタイ」という言葉を聞けば、その言葉のインパクトで着物の更紗文のエキゾチズムを上書きできそうです。

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写真4番目は、「瑞鳥楽園錦」というタイトルの袋帯を合わせてみました。銀色地に赤と黄色と緑で鳩と葡萄が描かれた意味不明な意匠ですが、元絵はかつてのローマ支配地域に残るモザイクの壁面や床面です。カルタゴを破壊した後、ローマの植民市が築かれたために北アフリカに多く残っています。

上品か、と問われれば答えに迷う帯ですが、着物も多少エグさがありますから、帯のエグさも吸収してくれるようで、全く違和感がないですね。この帯は、たいていの着物に合わない荒ぶる龍村ですが、それでも違和感なく合うこの着物の底力も感じます。

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写真5番目は、平家納経をテーマにした袋帯を合わせてみました。エキゾチックを離れて、今日はじめての和様です。和様でも合う、ということが証明できました。
[ 2013/12/21 ] 帯合わせ | TB(0) | CM(0)

千總の訪問着の細部

第二千五百七十四回目の作品として、千總の訪問着の細部を紹介します。

昨日の金線描きの更紗の訪問着の細部です。

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いちばん上の写真は前姿の近接、写真2番目は後姿の近接です。

主要な部分の花が彩色されていますが、赤茶色と紫と青ということで、上品というよりも、ちょっとエグさのある配色だと思います。アイドルのオーディションで、普通のかわいい子よりも個性のある子が選ばれたりすることがありますが、そんなことを連想させますね。

千總に限らず、高級な訪問着というのは展示会で並べられて販売されることが多いですから、ただ上品なだけではだめなのでしょうね。みんなに愛されなくても良いので、誰かの心をギャッととらえることが大事だと思います。

更紗模様の中に、地色より白っぽい色の葉がありますが、それはダンマル描きされているようです。ダンマルは蝋ではありませんが、蝋と同じように生地に薄く置くと半防染効果があります。その効果を利用して地色と白の中間色をつくり、単調で平面的になりがちな金線描きに遠近感を加えています。

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写真3番目と4番目は花のあしらい(部分を強調するための刺繍)の近接です。

細い金糸を3本撚って、わざわざ太い金糸にして、まつい繍して花弁の輪郭線を装飾しています。花の色はエグいですが、それに呼応するように刺繍もまたエグさを演出しているのです。

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写真5番目と6番目は金線描きですが、鳥がかわいいので近接してみました。金線描きというのは、糊筒に糊(金描き用の合成樹脂)と金粉を入れて、友禅の糊置きのように線を描きます。

多くの場合、友禅作品の仕上げとして、友禅模様の強調したいところだけを金線で描くという従属的な仕事をしているわけですが、この作品では主役をつとめています。

このような作品では、上手い下手がはっきり出ますね。複数の作品を比べてみるとわかりますが、線の繊細さ、流麗さは作品ごとにすごく違います。この作者は絵羽物の制作の主役を務めるだけあって、さすがに上手いです。特に6番目の写真を見ると、鳥は花よりも細い金線であることがわかります。平面に見える金線描きも、このように強弱が付けられています。
[ 2013/12/20 ] 友禅 | TB(0) | CM(0)

千總の訪問着

第二千五百七十三回目の作品として、千總の訪問着を紹介します。

金線描きの更紗の訪問着です。濃い地色に金線が美しく映える作品ですが、主要な部分を刺繍し、彩色しています。また一部にダンマルによる防染もしているようです。

普段、百貨店で見る千總の訪問着は、京友禅の王道である優しい彩色をした糸目友禅ですから、これは全く違う雰囲気ですが、京友禅は悉皆屋という下請のシステムの中でつくられるので、メーカーは同じでも悉皆屋を変えれば、いくらでも違う作風のものは生まれてきます。

全体の写真で、下前あたりを見ていただくと、落款らしき四角い白い染め抜きが見えると思いますが、これがおなじみの4文字の千總の落款ですね。

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いちばん上の写真は全体、

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写真2番目は前姿、

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写真3番目は後姿、

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写真4番目は袖です。細部は明日。
[ 2013/12/19 ] 友禅 | TB(0) | CM(0)

創作的な縫い紋に至る過程

第二千五百七十二回目の作品として、創作的な縫い紋に至る過程を紹介します。

今日紹介するのは、安田の色留袖に付けた縫い紋です。元々色留袖は黒留袖と同格ですから、比翼仕立てにして、染め抜きの5つ紋を付けるのが正式ということになります。しかしながら、近年ではそういうのは少数派で、多くの人は訪問着仕立てで、紋も1つですね。

色留袖の起源は、小泉清子(鈴乃屋の創業者)の「黒だけでなくてもいいんじゃない」という発案によるものとされています。じつは日本の服飾史において、なんの歴史も根拠もないんですね。しかしながら、喪服など黒が正式な色になったのもまた、近代になってからに過ぎないので、「色があった方がきれい」という方が、人間の自然な感情に沿っているとも言えます。

私は、いずれ黒留袖が滅んで、すべての人が自由に色を選択するのではないかと思い、積極的に色留袖を仕入れてきました。いちばん多いときは在庫が90枚もあったんですよ。しかし、私が考えるより現実の変化は厳しく、黒留袖が滅ぶだろうというのは正解でしたが、色留袖も道連れに滅んでいきそうです。

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今日紹介する安田の色留袖は、安田の中でももっとも重い仕事をしているものの1つで、本来の価格は200万から250万円というところでしょう。しかし、色留袖だから在庫処分するということで、その何分の1かで販売しています。

そして、なるべく訪問着風に仕立てるということで、紋は染め抜きでなく縫紋で、家紋でなく洒落紋にしています。洒落紋については、裾の模様と連続感を持たせることで、上半身にも模様がある感じにして色留袖ではなく訪問着だと主張する、という方針で入れることにしました。


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「裾の模様と連続感を持たせる」ためには、まず裾の模様は何かと解明する必要がありますね。扇面や松、萩や橘が描かれていて、さらに扇面内部には菊や波が描かれていますから、伝統的な友禅モチーフを集めたものなのですが、それらのモチーフは、連続するアーチの中に納められているのです。

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そのアーチは、下前の手前あたりを消失点とする透視遠近法で描かれているようです。アーチ型の列柱が並ぶ西洋の修道院の中庭みたいです。あるいはイスラム様式の中庭なのかもしれません。このわけのわからない折衷的な意匠の内容を一つの紋で表せといわれたらどうします?誰かが昨夜見た夢を記述した文章に、その内容を一言で言い表すようなタイトルを付けろ、という問題を出されたみたいですよね。

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考えられるところは、①アーチ形の紋にする(左)、日本の家紋のデザインはシンプルな美ですから、その神髄が生かせそうですね。②修道院の建物の形にする(右)、裾模様で暗示された隠れたテーマを具体的に見せるという趣旨ですね。でもまあ、いずれも顧客は却下するでしょう。というわけで、ここではアーチに込められたエキゾチズムは無視して、和様モチーフで行きます。

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私が考えたのは、松と扇面というアーチの中にあるモチーフを生かしたものです。家紋でなく模様である、と言いたいために、家紋が持つ均整の取れた美に逆らい、一方に技巧を尽くした松の刺繍、もう一方に扇面で囲った、宇宙のように広大で空虚な空間を配してみました。

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しかし、着る人のことを思えば、あくまで家紋としての機能は残すべき、と何度か修正を行い、最後に藤沢さんが刺繍をした時は、結構良識的な家紋風になってきました。

004 - コピー

さすがは藤沢さんで、刺繍の技術も配色も一流ですが、刺繍の修道院も見たかったという方、じつは別の作品で生かしています。そのうち紹介しますね。
[ 2013/12/18 ] 繍箔 | TB(0) | CM(2)

今日は手抜き

今日は久しぶりに日本橋に仕入れに出かけていて、さきほど帰って来ました。小売屋の主人というのは、店にいないと成り立たない職業で、私は仕入れに出かけるのも年に2,3回です。なんだか疲れてしまったので、今日は手抜きのテーマです。

千切屋治兵衛、鼠大黒
今日紹介するのは、千切屋治兵衛の染帯で実際に制作したのは藤岡さんです。「鼠の大黒天」という作品で、鼠が来るのは富があるということだから縁起が良い、という江戸時代の発想に基づいて作られたものです。江戸時代の絵画で、縁起物として鼠を描いたものでは白井直賢が有名ですよね。この作品では、さらに進化して大黒様と鼠が一体化して、キャラクターのようにかわいくなっています。

千切屋治兵衛、真田幸貫・谷文晁、三面大黒天
この絵のただ1つの本絵とは思いませんが、この絵の原型のような絵を見つけました。まだ大黒様と鼠が一体化していなくて、大黒様の周囲に鼠がいます。作者は、大黒様が上田藩の藩主真田幸貫、鼠が谷文晁だそうです。

そういわれてみると、大黒様の絵より鼠の絵の方が手馴れて見えますね。
[ 2013/12/17 ] 友禅 | TB(0) | CM(0)

男児のお宮参りの着物

第二千五百七十回目の作品として、男児のお宮参りの着物を紹介します。

男児のお宮参りの着物は、熨斗目、お祝い着、掛け着など、いろいろな呼び方があります。しかし、「お祝い着」というと七五三の着物を指す場合もありますし、「熨斗目」というと、着物の意匠としてよくある「熨斗」や「結び熨斗」と勘違いしやすいので、ここでは絶対に間違いのない「お宮参りの着物」という呼び方を使います。

お宮参りの着物の構造上の特徴は、背縫いが無い、すなわち背中が1枚の生地でできているということです。通常の着物は2枚ですから、背中の幅は反物2枚分の幅となっているわけですが、赤ちゃんの着物は反物1枚分の幅しかないのです。

そこで、体がこの1枚分の幅で着られる大きさである期間が、お宮参りの着物を着られる限度ということになります。女の子の場合、七五三が3歳なので、お宮参りの着物は七五三に流用できますが、男の子のばあい、七五三が5歳なので、お宮参りの着物はこの時しか着られません。

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いちばん上の写真は、藤井絞のお宮参りの着物です。藤井絞では昨日紹介したように、七五三の羽織としても鷹の羽の意匠の作品を創っていますが、これが原型だと思います。近世初期の大名が好んできた辻が花の胴服(秀吉や家康が所用していたのすぐれた作品が現存)の意匠や技法を引き継いだものです。

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写真2番目は、当店の古い在庫です。現在も継続して制作しているかわかりません。柄が無い地味な着物のようにも見えますが、じつはこれが江戸時代の武士が、裃の下に着ていた着物の形式で、「熨斗目」といいます。

辻が花の胴服の形式は、戦乱の時代の大名の衣装の写し、熨斗目の形式は、平和の時代の大名の衣装の写しということで、対になる作品と考えても良いと思います。時代劇でも、信長や秀吉が出るのが好きな人と、吉宗や大奥が出るのが好きな人がいますね。もっともドラマではたいてい最後は斬り合いになってちっとも平和ではないですが。

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写真3番目は、宝船と宝尽くしをテーマにしたお宮参りの着物です。たいていのお宮参りの着物は「鷹」と「兜」の意匠ですから、子どもに対し武力で偉くなれ、と言っているように見えますが、これはビジネスで上手く稼いで金持ちになれ、と言っているように見えます。

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写真4番目は、絽のお宮参りの着物です。お宮参りのタイミングが7月と8月に当たってしまったばあいは絽を着ます。女の子のばあいは、七五三に流用できなくなるので大問題ですが、男の子のばあいは、七五三に流用することはないので、どちらでも同じ条件です。ただし、次男が欲しいばあいは、また7,8月に合わせてつくらないといけませんね。

すっきりした意匠ですが、一般的な傾向として、高級品ほどすっきりしていて、安いものほど柄がごちゃごちゃしているように思います。このようなものはどうせ手描きではなく型で染めるので、柄が多いから手間がかかっているということもないのです。

藤井絞の七五三の男児の羽織

第二千五百六十九回目の作品として、藤井絞の七五三の男児の羽織を紹介します。

2012年6月19日(第二千五十六回目)で紹介した藤井絞の七五三の男児の羽織の色ちがいです。この作品が売約済になったときから色違いを作り始めて、先日完成してきました。

もともとこの作品は、2011年11月10日(千八百五十二回)に紹介した藤井絞の男児用のお宮参りの祝着とほぼ同じ発想でつくられたものでした。

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いちばん上の写真は背中から撮った全体、

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写真2番目は近接、

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写真3番目はもっと近接、

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4番目は参考図版です。

原型になったのは、おそらく室町時代ごろから現れた胴服でしょう。胴服というのは、小袖の上に羽織るものですから、形も機能も現在の羽織の原型です。写真4番目の参考図版を見る通り、秀吉や家康が羽織っていたという辻が花の胴服というのは現存していて、いずれも高度な技巧を使っているのに全体のデザインはすっきりして、素晴らしいものです。

さて作品ですが、男児のお宮参りや七五三の着物のテーマといえば、「鷹」と「兜」が定番です。お客さまの中には、「鷹」と「兜」以外のものが欲しいとわざわざ言ってくる人もいるぐらいですから、高級品もそうでないものも世間は「鷹」と「兜」だらけなんでしょうね。

この作品もまた鷹のモチーフを踏襲しています。しかし鷹の羽だけという暗示的な表現なので、同じ鷹のテーマにしても新鮮な感じがします。絞りだからこそできる、絞りにあった意匠といえるでしょう。

友禅や型染は絵画性に優れているのが長所ですが、そのために具象的な鷹を描かざるを得なくなるのです。反対に絞りのようにもともと絵画表現に不向きな技法であれば、羽だけという暗示表現でも十分な仕事をした感じになるのです。

いちばん上の写真で作品全体を見ると、参考図版で紹介した戦国大名の辻が花の胴服に雰囲気がよく似ています。今度つくるときは、もっと胴服を意識して、技術とコストで可能なら、そっくりに作っても良いですよね。

今回は手堅くグレーでつくりましたが、前回のようにバサラっぽく派手につくったほうがよかったかなあ。

大羊居の付下げの帯合わせの続き

第二千五百六十八回目は、昨日の大羊居の付下げの帯合わせの続きです。

大羊居といえば、とりあえず龍村の帯と合わせるのが基本です。それは、これまで何十年も「大彦・龍村展」「大羊居・龍村展」のようにいっしょの展示会を行ってきたという歴史を踏まえたものですが、昨日はあえて捨松や洛風林など龍村を外して帯合わせをしてみました。

今日は本来に戻って龍村の帯を使います。付下げと大胆な訪問着との違いを考慮して、名古屋帯を使ってみました。明日以降、袋帯も合わせてみるつもりでしたが、今日、この付下げが売れてしまったので中止しました。今日は昨日以前に撮っておいた写真を使いますが、もう消化試合みたいな感じですね。

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いちばん上の写真は、「花宝」というタイトルの名古屋帯を合わせてみました。龍村の名古屋帯には珍しく、お太鼓柄ではなく、六通です。体形を気にする方には使いやすいですね。

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写真2番目は、「花韻」というタイトルの名古屋帯を合わせてみました。「花韻」とは、「花」ではなく「花の音」なのでしょうか。小説や絵画のタイトルとしても使われていますね。私は「韻」という言葉は「韻を踏む」という時以外、使い道がわかりません。このばあい、イメージとして味わえばいいのでしょうか。

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写真3番目は、「双鳥繍華文」というタイトルの名古屋帯を合わせてみました。「繍・・・文」ということで、本歌が刺繍作品であることがわかります。元が刺繍であるものを織で再現しているわけです。

両者の違いは、織物は一定のパターンがあるために絵が硬くなりがちなのに対し、刺繍は作者が勝手に繍えるので、絵が柔らかくなりがちということが言えます。そのような目で見ると、この図案が織物でありながらパターンに嵌っていないように見えてくると思います。とくにいちばん上の写真の帯の模様パターンと比べるとよくわかりますね。

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写真4番目は、「木画狩猟錦」というタイトルの名古屋帯を合わせてみました。このような図案は、「狩猟文」「韃靼狩猟文」などといわれ、モンゴルのタタール人をテーマにしたエキゾチックな意匠として、古代から近世まで日本人に愛され繰り返し描かれてきました。

一方、木画(もくが)というのは、木製の象嵌(木に別の木を嵌める)によって作画した絵のことです。この技法でつくられた工芸品は正倉院にいくつかあり、「木画紫檀双六」がとくに有名です。双六の盤で側面に木製の象嵌による装飾があります。

この作品のタイトルである「木画狩猟錦」とは、正倉院に伝わる「木画紫檀琵琶」の表側の捍撥(撥が当たる部分)に木製象嵌で描かれた「狩猟宴楽図」に取材したものです。興味のある方はここで見てください。
http://www.geocities.jp/saitohmoto/hobby/gakki/Shosoin/Shosoin.html
ちなみに、先日紹介した龍村の名古屋帯「薫雅」は、この「木画紫檀琵琶」の裏側の意匠に取材したものです。
[ 2013/12/14 ] 帯合わせ | TB(0) | CM(0)

大羊居の付下げの帯合わせ

第二千五百六十七回目は、昨日紹介した大羊居の付下げの帯合わせです。

昨日の大羊居の付下げの帯合わせを考えてみました。テーマは「香水瓶」ということで、日本の古典とも、四季の変化とも、小袖の意匠とも関係のない作品ですから、合わせる帯について古典でも伝統でもなく、季節感もないものを合わせてみたいと思います。

そういう時、いちばん助けになるのは、捨松や洛風林のエキゾチックな意匠のものです。特に更紗系は便利ですよね。完全に西洋風の意匠の帯は、西洋風の意匠の着物に合わせるようになってしまいますが、中国風でもヨーロッパ風でもない、すなわち、地理的に東洋と西洋の間ぐらいのものは、日本人にとって正確な国籍がわかりにくいので、いろんな解釈ができて応用がききやすいです。

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いちばん上の写真は、洛風林の「インド七宝文」という袋帯を合わせてみました。インドの装飾文様に詳しいわけではないので、本歌がわかりません。軟体動物のような四つの足を持つ文様が特徴的ですが、卍をゆるキャラにしたようにも見えますね。

渦巻文様も日本では縄文的で、現代の我々の目から見ると、典雅とも上品とも思えないデザインですが、地色が白で、淡いピンク、淡い藤色といった配色は上品典雅です。その辺のバランス感覚が洛風林の才能でしょうか。

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写真2番目は、洛風林の「宝飾華紋」(織ったのは捨松)というタイトルの袋帯を合わせてみました。華やかで国籍がわかりにくい文様です。エキゾチックではありますが、もしかしたら、唐花文の一つとして日本に伝来し、ずっと日本に常駐している文様かもしれないですね。こういう帯は、西洋風の意匠の着物にも、いわゆる古典柄の着物にも両方使えますね。

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写真3番目は、捨松の袋帯を合わせてみました。タイトルはわかりません。今の捨松は帯の端にタイトルが織り込まれていますが、昔は「帯屋捨松」のロゴしかなかったのです。

今回取り上げてみた理由は、青い地色です。グレーの着物に青の帯もきれいです。青い帯というのは合わせにくそうですが、マリア様の外衣の色でもあり、上手く使いこなすと綺麗ですね。

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写真4番目は、捨松の「ヴィクトリア花文」というタイトルの袋帯を合わせてみました。「帯屋捨松」のロゴのある標準品ではなく、手織りの高級ヴァージョンです。

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写真5番目は、織悦の「彩絵厳島鳥蝶花文」というタイトルの袋帯を合わせてみました。タイトルの「厳島」から想像できる通り、平家納経の表紙や見返しの装飾に取材したものです。私も専門ではないので、俵屋宗達が修復したというそっくり返った鹿しかわかりませんが、全部で三十数巻あるわけですから、そのどこかにこの絵もあるのでしょう。

平安時代を代表する日本の工芸で、古典中の古典ですが、日本の風景というよりもあの世の風景のようで、そういう意味で無国籍です。極楽浄土は猛暑も寒波もないはずですから、ずっと春で季節感もないでしょうね。だから日本的ではないはず、そんな理由で香水瓶の相手に選んでみました。

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写真6番目は、織悦の「インド華文更紗」というタイトルの袋帯を合わせてみました。地色は桜色で、着物のグレーの地色と合わさって、全体をやさしい雰囲気にしています。
[ 2013/12/13 ] 帯合わせ | TB(0) | CM(0)

大羊居の付下げの細部

第二千五百六十六回目の作品として、大羊居の付下げの細部を紹介します。

昨日の「香水瓶」というタイトルの付下げの細部を紹介します。出し惜しみするようですが、久々の「着られる大羊居」だから惜しいです。

付下げ全体の構想は、前姿と後姿に香水瓶が1つずつ、袖と胸は花束です。

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いちばん上の写真は前姿の香水瓶の近接、

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写真2番目はそのさらに近接、

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写真3番目は後姿の香水瓶の近接、

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写真4番目はそのさらに近接です。

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写真5番目は胸の花束の近接、

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写真6番目は袖の花束の近接です。

友禅の美しさは2通りです。1つは色の豊かさ、もう1つは糸目の線の美しさですね。絵画一般でも、突き詰めれば、色と輪郭線ですから、当たり前のことかもしれません。

糸目の線の美しさを代表するのは、京都の安田です。安田由来の職人を抱える花也もそうですね。糊の糸目にはこだわるものの、色は白揚げか、同系色のわずかな彩色をしたものが多いです。一方の色彩派は、東京では大羊居や大松、京都では自分のカラーを持っている野口などいくつかありますね。

さてこの作品ですが、香水瓶や花束で大羊居ならではの深くて、ちょっとエキゾチックな色を披露し、レースの部分で糸目の線の美しさを披露しています。大羊居本来の美しさに加え、安田や花也が本来持っている糊糸目の美しさも持っているのです。実際にレースを見れば、繊細な線でありながら、糊糸目ならではのナチュラル感もあり、なかなか魅力的な糊糸目です。

香水瓶の硝子の表現も素晴らしいです。子供のころ、水の入った硝子のコップに陽が当たって反射しているのを、上手く絵の具で描くことができる人をうらやましいと思ったものです。それを、筆で描くよりさらに難しい糊筒で上手く表現しています。この作品では、この硝子表現とレースの糸目が2大見所ですね。
[ 2013/12/12 ] 友禅 | TB(0) | CM(0)

大羊居の付下げ

第二千五百六十五回目の作品として、大羊居の付下げを紹介します。

「香水瓶」というタイトルの付下げです。久々の「着られる大羊居」です。誰でもその芸術性は認めるものの、派手すぎ、豪華すぎ、高すぎということで二の足を踏んでしまいがちな大羊居ですが、今回は、派手すぎず、豪華すぎず、高すぎず、という買える・着られる大羊居の登場です。

着物に限らず、たいていのメーカーは、消費者側に立ちすぎて使い勝手の良い商品を作ると、そのメーカーらしさを失って平凡なものになってしまうものですが、そこはさすが大羊居で、派手すぎず、豪華すぎず、高すぎなくても、ちゃんと大羊居と分るテイストがありますね。

すべての大羊居がこんな感じなら商売に苦労はないのですが、やはりそうはいかないです。日ごろ、8月29日(二千四百六十二回)のような荒ぶる大羊居を扱ってくると、たまに、ご褒美のように、こういう売りやすい大羊居に出会えるんですね。

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いちばん上の写真は前姿(マエミ+オクミ)、

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写真2番目は後姿、

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写真3番目は胸、

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写真4番目は袖です。細部は明日。
[ 2013/12/11 ] 友禅 | TB(0) | CM(0)

千總の飛び柄の着尺の帯合わせ

第二千五百六十四回目は、昨日の続きで千總の飛び柄の着尺の帯合わせです。

昨日の千總の飛び柄の着尺の帯合わせの続きです。今日は「扇面と道長取り」という着物の意匠のテーマに着目して、そのテーマに沿った帯合わせ、わざと外した帯合わせ、という基準で試してみます。

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いちばん上の写真は、「寄せん裂」というタイトルの帯を合わせてみました。名物裂を切り嵌めした帯というのは昔からありますが、これは本当の切り嵌めではなく、切り嵌めに見えるように織った帯です。「笹蔓金襴」「角倉金襴」「鶏頭金襴」などの名物裂が見られます。

着物は「扇面と道長取り」ですから、平安時代の国風文化に取材しているわけですが、帯の方は中国などから渡来した裂を珍重する名物裂に取材しているわけですから、日本の古典文化という点では共通ですが、時代などにズレがあります。

帯合わせには、このズレが大事ですね。全くズレが無く、平安時代の国風文化だけでまとまった帯合わせ(たとえば帯に歌仙や源氏がいる)もまた良いですが、着る人を狭量と感じてしまうことがあります。私としては「雰囲気は同じだが意味は違う」程度のずれがあった方が良いように思います。

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写真2番目は、「平泉遺宝錦」というタイトルの帯を合わせてみました。仏教の荘厳具の1つに華鬘(けまん)というのがありますが、この帯は、中尊寺金色堂内にある国宝の金銅華鬘をテーマにしています。

どちらも同時代で王朝文化という点で共通ですが、京都と宮城の地域的な違いが、わずかなズレになっています。たいていの人は、帯の模様が「中尊寺金色堂の国宝金銅華鬘」と瞬時にわかることはないでしょうから、後で説明されてわかる程度の関連性です。「後でなるほど思わせる」というのは、良い帯合わせですね。


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写真3番目は、「薫雅」というタイトルの帯を合わせてみました。正倉院風の花鳥文です。正倉院模様は、平安時代の国風文化よりさらに先輩の日本の古典ですが、ペルシアから渡来した文物や様式も含み、エキゾチックな雰囲気があります。

どちらも同じ国の古典という共通性と、国風とエキゾチックという雰囲気の違いという、適度な距離感が、良い帯合わせになっていると思います。

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写真4番目は、「飛鳥間道」というタイトルの帯を合わせてみました。私は「飛鳥間道」というのがわかりません。上代裂の本にも名物裂の本にも載っていないからです。飛鳥時代の間道といえば法隆寺に伝来する「太子間道」ですよね。

着物の「扇面と道長取り」に対し、帯の縞模様(間道)は意外性があります。しかしタイトルを信じれば、どちらも、連続する歴史の中で生まれた古典という点で共通のはずですね。
[ 2013/12/10 ] 帯合わせ | TB(0) | CM(0)

千總の飛び柄の着尺の帯合わせ

第二千五百六十三回目は、昨日の続きで千總の飛び柄の着尺の帯合わせです。

昨日の千總の飛び柄の着尺の帯合わせの続きです。今日は袋帯を使ってみます。袋帯を使うということ自体、フォーマル寄りのコーディネートを狙った帯合わせですが、袋帯の中でも豪華なものもさりげないものもありますので、使い分けによって、フォーマル度を調整したいと思います。

着物を着て行く場は、結婚式、超豪華イベント、普通のパーティー、食事会など、結構さまざまです。着物が本来持っている格を、帯合わせで調整したり、小物で微調整したりできると、達人と言われるようになると思います。


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いちばん上の写真は、龍村の袋帯「有朋文」(鳥獣戯画に対し、龍村が付けたタイトル。兎と蛙が友達ということなんでしょうか。)を合わせてみました。フォーマル寄りかカジュアル寄りかということですが、私の感覚では中庸を得たところではないかと思います。

着物の意匠は、扇面の飛び柄で、中に道長取りという上品でまじめなだけの古典ですから、古典ながらマンガの元祖である鳥獣戯画を組み合わせることで、着る人の器もちょっと大きく見えるかな、という帯合わせです。

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写真2番目は、北尾(証紙番号7)の綴の袋帯を合わせてみました。北尾の綴は、本来の爪掻綴ではなく、地が綴組織で模様は絵緯糸による表現をしたものです。

着物の扇面内部の道長取りを意識して、道長取りの意匠の帯を合わせてみました。模様を重ねているわけですが、外見ですぐにわかる扇面ではなく、しばらく見てから気づく中身の模様にしてみました。

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写真3番目は、洛風林(織ったのは帯屋捨松)の袋帯を合わせてみました。表面的な形だけを見れば、亀甲文が並んでいるだけの意匠ですが、配色だけで十分に個性的にしてしまうのが、さすが洛風林だと思います。

この千總の小紋は、大人しそうに見えて扇面内部が意外に多彩ですが、帯は、その多彩に合わせてみました。

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写真4番目は、織悦の袋帯を合わせてみました。昨日、模様を重ねるのは野暮と書きましたが、扇面と扇子を重ねています。「フィーリングカップル5対5」の5番目の人のような気持ちで載せてみました。

全く同じ模様ではなく、開いているのと、閉じているので違いますが、やはりあまりやってはいけませんね。
[ 2013/12/09 ] 帯合わせ | TB(0) | CM(0)

千總の飛び柄の着尺の帯合わせ

第二千五百六十二回目は、昨日紹介した千總の飛び柄の着尺の帯合わせです。

昨日の千總の飛び柄の着尺の帯合わせを考えてみました。飛び柄の小紋ですから、普通の総柄の小紋よりも少しだけフォーマル寄りの雰囲気です。また描かれているモチーフも扇面で、その中は道長取りですからさらに少しだけフォーマル寄りの感じですね。

帯合わせをする上で考えるべきは、その「フォーマル寄り×2」をどう扱うかだと思います。フォーマルな雰囲気の帯を合わせて、そのフォーマル感をさらに伸ばしてやるか、カジュアル感のある帯を合わせて、そのフォーマル感を抑えてやるか、ですね。着て行く場に合わせてコントロールできると良いと思います。

ただ1つ気を付けることは、フォーマル感のある帯は、扇面が描かれていることが多いということです。同じモチーフを重ねるのは野暮ですよね。

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いちばん上の写真は、千代田染繍の友禅の名古屋帯を合わせてみました。千代田染繍は東京の友禅と刺繍の工房ですが、かつて北秀で最高級の黒留袖だけを作っていました。最低価格が200万円ぐらいだったと覚えています。この帯は、その黒留袖の意匠と技術を名古屋帯として再現したもので、当時のダイジェスト版みたいなものです。

黒留袖のダイジェスト版を背負っている状態ですから、フォーマルな雰囲気なのは当然です。着物は小紋ですが、友人としてなら結婚式でも行けるように思います。

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写真2番目は、花也のダンマル描きと箔と刺繍の名古屋帯「地割松笹文」を合わせてみました。ダンマル描きをした上に箔を置いたもので、格調高い雰囲気ですが上の例ほど極端でなく、現実的なフォーマル寄りの帯合わせと思います。

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写真3番目は、花也の友禅の名古屋帯「市松取草花尽文」を合わせてみました。描かれているのは、菊、萩、楓あるいは橘で、個別に見れば特に格が高いというわけではないですが、本格的な糊糸目のためか、格調高い雰囲気もあります。フォーマルとカジュアルの中庸を得た感じで、使いやすいと思います。

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写真4番目は、花也のダンマル描きの名古屋帯「苧環」を合わせてみました。ダンマル描きというのは、ダンマルゴムを揮発油で溶かしたもので、厳密には蝋染ではないですが、蝋染と似た性質を持っています。具体的には、半防染技法が使えるということです。薄く置くと中途半端に染料が透って中間色が表現できるのです。

この作品は、その中間色と箔や刺繍を使って、友禅とは違う雰囲気を演出しています。くっきりした輪郭線がないためかさりげない感じがあって、それがカジュアル感につながっていると思います。

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写真5番目は、藤井絞の名古屋帯「更紗文」を合わせてみました。日本におけるフォーマルな意匠の多くは中国から渡来しているように思います。古代の日本が手本にした、皇帝が君臨し秩序だった随唐帝国のイメージですね。それに対し、南国経由の更紗はカジュアルなイメージがありますね。

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写真6番目は、花也の友禅の名古屋帯「扇面取り若松羊歯文」を合わせてみました。先ほど野暮と書いた、同じモチーフを重ねてしまった例です。どの程度、野暮なのか、可視化してみました。黙って通り過ぎるだけなら、気が付かないかもしれませんね。
[ 2013/12/08 ] 帯合わせ | TB(0) | CM(2)

千總の飛び柄の着尺

第二千五百六十一回目の作品として、千總の飛び柄の着尺を紹介します。

みんなに愛される、そして出番も多く便利な着物でもある飛び柄の小紋です。今回、当店としては珍しく千總で仕入れてみました。

千總というのは、現在でも百貨店との取引が9割、専門店が1割とのことです。千總の近代以降の歴史は、百貨店の隆盛と軌を一にしており、百貨店が地方へ支店網を広げると同時に販路を広げていったのです。それから100年以上経ってもその方針が続いているんでしょうね。

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いちばん上の写真は反物の幅を写真の幅として撮ったもの、

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写真2番目は近接、

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写真3番目はもっと近接です。

モチーフは扇面、地色は淡いグレー、扇面内部は道長取りで適度に多彩、ということで、ユーザーにとって便利な着物であるだけでなく、売りやすいので商品としても秀逸だと思います。地味すぎず派手すぎず、適度な華やかさがあります。

また、よく見ると、華やかさを増すために、道長取りの上に微妙に金彩がしてあります。その撒き方も均一ではなく、大きさも変えていて芸が細かいです。こういう心遣いが視覚的には効果的で、作品の成否を分けるんですよね。

花也の付下げの帯合わせ

第二千五百六十回目は、昨日の続きで花也の付下げの帯合わせです。

昨日の竹の節の付下げは、着物の意匠に絵画的な展開が少ないので、帯に絵画性の高い友禅染の帯を合わせて、華やかさを補完させるという趣旨でした。しかし結果を見ると、友禅の帯とは言っても、すっきりして絵画性の少ないものを合わせてしまいました。

やはりすっきりした着物には、すっきりを壊さないようにすっきりした帯が良いのでしょうか。今回は、格子や縞のようなすっきりした帯で合わせてみたいと思います。

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いちばん上の写真は、龍村の袋帯「カピタン縞格子」を合わせてみました。龍村の袋帯と言えば、フォーマルの代表のようなイメージですが、じつは紬にも使えるカジュアルな雰囲気の袋帯も作っています。カジュアルと言っても、龍村らしい風格はそのまま保っています。

用途としては、結城紬のように、高いけれども地味で世間に価値がわかってもらえないという着物に合わせると良いですね。紬というのは、本来はカジュアルな八寸の織の名古屋帯か、九寸の塩瀬地の友禅の名古屋帯を合わせるものですが、高品質な紬の場合、どうしても物足りないように思えてしまうことがあります。そんなとき、この龍村のカジュアルな袋帯が役に立ったりします。

今回は、そのカジュアル系の龍村を、紬ではなくカジュアルな付下げに使ってみました。けっこう応用範囲は広いですね。

「縞格子」という言葉はあまり使わないですね。「格子縞」の方が使います。それでも、格子はもともと縞を含むんじゃないか、なんて思っちゃいますね。実物を見ると、横縞は普通の縞ではなく、金糸の模様になっていますから、同じインド渡りでも「モール」に近い気がします。

名物裂の「カピタン縞」あるいは「甲比丹間道」とは、インド渡りの絹と木綿の交織の縞で、高級品だったのですが、インド渡りとしてはさらに高級品としてモール(芯糸に薄い金板を巻き付けた糸)があります。モールとはムガールの意味です。

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写真2番目以後は、人間国宝・細見華岳の綴の名古屋帯を使ってみました。一般に販売されたものは、具象的な意匠もあったようですが、私は伝統工芸展でおなじみの幾何学模様だけ集めていました。写真2番目は「花菱文」。

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写真3番目は「光彩」。

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写真4番目は「間道」。いずれも値段は結構高いですが万能ですね。
[ 2013/12/06 ] 帯合わせ | TB(0) | CM(0)

花也の付下げの帯合わせ

第二千五百五十九回目は、昨日の続きで花也の付下げの帯合わせです。

昨日の竹の節の飛び柄の付下げは、多少の形の違いがあるとはいえ、同一のモチーフが縦に並ぶだけという意匠ですから、絵画的な展開が少ない作品と言えます。

そこで、絵画性の高い友禅の帯を合わせて、絵画的展開を補完するという帯合わせを考えてみました。今日合わせる帯は、すべて塩瀬地の名古屋帯です。

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いちばん上の写真は、千切屋治兵衛(実際の制作は倉部さん)の「笹の丸」をテーマにした帯を合わせてみました。着物の「竹の節」に対して、帯が「笹の丸」ですから、全身を竹で統一してしまった、テーマを小さくまとめた帯合わせになっています。

統一感があっていいとも言えますが、「かぐや姫」の映画とか、竹細工の展覧会を見に来たとか、特殊な意味が無い限り、着ている人の器が小さく見えてしまう気もします。

とはいうものの、実際に合わせたところを見ると結構合っています。着物の柄が縦長なのに対し、帯が丸紋だからかもしれません。あるいは、「洗練」というテーマのおいて、花也と倉部さんが同程度に一致しているからかも知れませんね。

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写真2番目は、千切屋治兵衛(実際の制作は中井亮さん)の「松重ね」をテーマにした帯を合わせてみました。意匠自体は光悦の陶製の箱を本歌としています。

着物が竹なので、帯で松や梅を追加して、全身で松竹梅をつくるという帯合わせがあります。現実には、都合よく松と梅だけを描いた帯が見つかるということはないので、松を選んでみました。

帯がすっきりして洗練された意匠なので、着物の洗練を壊すことなく、予想以上に良く合っています。

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写真3番目は花也の琳派写しの帯を合わせてみました。中井系の職人さんを使っているため、中井淳夫の作風を彷彿させます。なんと、偶然ですが、都合よく松と梅だけを描いた帯が見つかりました。実際に、着物と帯を合わせて松竹梅をつくった人を見たら、いやらしいかもしれませんね。気づかれないようにさりげなくするのが良いかも。

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写真4番目は、千代田染繍の名古屋帯を合わせてみました。疋田は、よくある型疋田ではなく、堰出の疋田と言って、堰出し友禅の技法で、一粒ずつ糊を置いて描いたものです。正確な形、正確な間隔で描かれていますが、それでも人の手の限界としてわずかな揺らぎがあり、それが美を生んでいます。型で染めれば安いのに、わざわざ手で描くのはその揺らぎを求めてのことです。

あまり絵画的展開を補完する帯合わせとは言えませんね。今日の趣旨とはずれてしまうかもしれませんが、良く合っているので載せてみました。
[ 2013/12/05 ] 帯合わせ | TB(0) | CM(0)

花也の付下げの帯合わせ

第二千五百五十八回目は、昨日紹介した花也の付下げの帯合わせです。

昨日の竹の節の飛び柄の付下げの帯合わせを考えてみました。飛び柄の小紋に近い軽い付下げですから、袋帯を使う場合にもあまり重厚な雰囲気のものでない方が良いと思います。

というわけで、留袖や重い訪問着などフォーマル限定なものを避けて試してみましたが、それで気が付いたのは着物が極めて洗練されているということです。帯にはそれぞれ、豪華とか華やかとか素朴とか面白さとか、作品が持つ雰囲気がありますが、この着物が帯に求める雰囲気は徹底的な洗練ですね。多少とも洗練に欠ける帯は違和感があります。

西陣の帯の中で、「洗練」という言葉がいちばん合うのは織悦でしょう。「洗練」という点では、龍村の洛風林もかなわないのではないでしょうか。そこで今日は織悦の袋帯ばかり4パターン紹介します。

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いちばん上の写真は、「篭目」を合わせてみました。籠は竹でできているものですから、全身竹尽くしということになります。意味的に小さくまとまりすぎるのも、それを選ぶ人間の器が小さいように見えて感心しません。

しかしながら、実際の帯合わせを見ると、竹の節の形状と、竹であろう籠目の形状が全く違うので、意外に「小さくまとまってしまった感」はないですね。

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写真2番目は、「彩悦錦菊枝模様吉向(亀甲)地文」を合わせてみました。帯の地色が、経糸が青、緯糸が金で、玉虫にように光ります。青と金の配色は、トルコ石に金の縁飾りを付けたアクセサリーで見慣れたもので、とてもきれいですが、両者を混ぜてしまう感覚が面白いです。

着物と帯の関係においては、色がよく調和しつつも、帯が意外に多色で彩りもあり、まあ成功作ではないでしょうか。

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写真3番目は、「柴垣秋草文尽」を合わせてみました。白地の多色の帯を合わせてみました。帯は、透明感のあるきれいな色の組み合わせで、多色であっても洗練されています。

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写真4番目は、「若松彩文」を合わせてみました。着物の黄緑色に対し、帯の紺色というコントラストがはっきりした帯合わせです。気になるのは模様の配置ですね。着物は、竹の節が縦に並んでいるだけの模様配置ですが、帯もまた若松文が縦に並んでいるだけの配置で、両者の模様パターンがシンクロしている状態です。

この状態を単調と見るか、リズミカルと見るか、両者の模様の大きさが救いですね。
[ 2013/12/04 ] 帯合わせ | TB(0) | CM(0)

花也の付下げ

第二千五百五十七回目の作品として、花也の付下げを紹介します。

竹をテーマにして、飛び柄のように模様を配置した付下げです。マエミとオクミ、袖など、通常の付下げや訪問着が模様を置く場所に、竹の柄を多く配置して軽い訪問着のようにしています。

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いちばん上の写真は反物の幅を写真の幅として撮ったもの、

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写真2番目以後は近接です。

見た目のいちばんの特徴は、糸目友禅の宿命である白い輪郭線がないことですね。この作品はいつもの花也作品と異なり本来の糊糸目友禅ではありません。まず白生地を模様の形に防染(ゴム糊)して、地染めをします。すると模様が白抜きになるわけですが、その白抜き部分を後で彩色しています。

仮に、この作品が花也のいつもの糊糸目で、竹の周囲に乳白色の輪郭線が有ったらどうでしょうか。その方が良いという人もいるでしょうし、輪郭線が無い方がすっきりしてよいという人もいるでしょうし、どちらでもそれなりの良さがあるはず、という人もいるでしょう。

しかし、花也のくわ垣さんは、この作品については、輪郭線のない表現にしたいと思い、いつもの糊糸目の職人さんではない人に託したのです。花也=糊糸目のようなイメージですが、そういうわけではなく、花也さんは自分の作りたいものを作っているだけで、作りたいものを作ると、たまたまその9割ぐらいが糊糸目になるということのようです。

最近、「かぐや姫」の映画が話題ですが、手描きのような輪郭線が新鮮ですね。しかし、いまどきのアニメはコンピュータの画面上でつくっているから手描きのわけがないのですから、あくまで手描き風の輪郭線というデザインです。

考えてみるとすべてのアニメは黒い輪郭線がありますね。当たり前のように見ていますが、作品のテーマや演出によっては黒い輪郭線は無くても良いはず。友禅もいっしょで、手描きの証拠として糸目の白い輪郭線があるのが当たり前と思ってしまいますが、本当は作者の意図によって、輪郭線の有無を選んでもいいのです。
[ 2013/12/03 ] 友禅 | TB(0) | CM(0)

花也の無地の着尺

第二千五百五十六回目の作品として、花也の無地の着尺を紹介します。

当店で実物をご覧になった多くの方が、ブログの写真と色が違う、と感じるようです。私の写真技術も当てにならないですが、パソコンや携帯のディスプレイも当てにならないのだと思います。普通の色の違いならともかく、安心して着物を購買できるほどには信用できないですよね。そんな状態で、無地の着物を紹介しても何の意味もないのですが、呉服屋の品揃えとしては無地もありますから、機会があれば紹介したいと思っていました。

今日紹介するのは、花也のセンスで染めた水色の無地です。みなさんの目で見えている色は実物の色とはたぶん違うでしょう。でも地紋はわかりますよね。

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いちばん上の写真は反物の幅を写真の幅として撮ったもの、

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写真2番目は近接、

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写真3番目は反物の端のメーカーの表示がある部分です。端を見ると、メーカーやブランドのほか、引き染か浸け染かなどもわかりますね。

花也は京都でものづくりをしていますが、販売や集金のために一定期間ごとに東京にも来ます。そのときに、たまたま神田駅の壁の装飾を気に行って写真を撮って帰り、この生地の地紋にしたそうです。言われてみれば、公共建築っぽい装飾に見えてきますね。

織物はロットがあるものですが、30反ぐらい注文すれば自分のオリジナルの地紋がつくれるようです。
[ 2013/12/02 ] 友禅 | TB(0) | CM(0)

織悦の紗の袋帯の帯合わせ

第二千五百五十五回目は、昨日の続きで織悦の紗の袋帯の帯合わせです。

一回で終わらせようと思った昨日の織悦の帯の帯合わせですが、帯合わせしながらすっかり気に入ってしまい、もう1日使わないと使い切れない量の写真を撮ってしまいました。

この帯は、織悦の中では安いバージョンで、簡素な柄の帯らしくすっきり感がある一方、結婚式のようなフォーマルな使い方にも十分耐えるのです。人に例えれば、他人と適度な距離をとって付き合うのが上手な都会派なのに、純朴青年のようにコツコツ努力することも、本気で怒ることもできる人ですね。

昨日は、絽と紗の生地の付下げに合わせたので、今日は単衣や紗合わせに使いたいと思います。万能ぶりをさらに発揮してもらうということです。

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いちばん上の写真は、紗合わせの訪問着を合わせてみました。紗合わせと言えば贅沢なイメージですが、その贅沢さは価格ではなく、着る時期の短さにあります。元々は6月のうちの2週間だけと言ったものですが、後に9月のうちの2週間が加わりました。現在は、各自の判断でもう少し自由に期間を広げて着ています。

難しいのは、着る期間が限定されているだけでなく、その期間が6月と9月に分かれていて、花の種類が違うことです。この紗合わせの訪問着は、秋草なので9月がターゲットですが、紗合わせを2枚買うわけにいかないので、6月に着ても良いです。理由は6月に秋草を着る方が、9月に燕子花を着るよりましだからです。

今回の帯は芒ですから、9月という時期にも合いますし、秋草の着物にも合いますね。6月をターゲットにした紗合わせだったらどうか、少し悩むところですが、芒で良いような気がします。

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写真2番目は、昔、北秀で仕入れた「にしきや」の単衣用の訪問着を合わせてみました。にしきやは京都のメーカーで今も健在です。百合がテーマですから6月の単衣ですね。

それに対し、芒の帯はどうか、というところですが、見た目の形、すなわち絵的には良く合っていますね。意味的には6月と9月が混じっている感じになりますが、でも許容範囲にしたいです。

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写真3番目は、千切屋治兵衛(中井淳夫)の十五夜をテーマにした訪問着を合わせてみました。満月と芒ということで、9月の単衣ですね。芒の帯とは9月どうしで合いますが、芒が重なってしまいます。絶対悪いというほどではないですが、ちょっと気が引けますね。それならむしろ季節を間違えた上の例の方がましにみえます。

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写真4番目は、千切屋治兵衛(藤岡さん)の玉紬の付下げと合わせてみました。京野菜というテーマで、夏の野菜が色紙の取り方もの中に配されています。このばあいは、6月でも9月でも構いませんし、帯の模様と着物の模様が重なることもなく、全く問題のない帯合わせになりますね。
[ 2013/12/01 ] 帯合わせ | TB(0) | CM(0)