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千切屋治兵衛(中井敦夫)の訪問着

第二千四百九十五回目の作品として、千切屋治兵衛の訪問着を紹介します。

制作したのは中井敦夫さんです。先日紹介した霊現象みたいな訪問着と同じく、亡くなって数年たってまだ売れずに千治に残っていた中井さんです。やはり相当手強い作品ですね。

霊現象の訪問着のタイトルは、ただ「紅葉」とあるだけでしたが、この作品もタイトルは「遠山」と平凡です。ただ霊現象の訪問着と違ってテーマは明確ですね。ダンマル描きで表現された遠山と霞です。

遠山は、ダンマル描きの特長を生かして、写生的に樹々を描いています。一方、霞は、土佐派や狩野派が場面転換などに使う霞と同じ伝統的な様式なので、様式的な統一感はありません。

場面転換などに使う霞といえば、洛中洛外図のような屏風に多用されている雲が思い浮かびます。絵画の一部でもあり、場面転換の手法でもあり、城郭の内部など機密を守る手段でもあり、金箔を貼ることで、明かりを反射させ部屋を明るくする機能もあります。

改めて見ると、場面転換や装飾に使われるのは曲線的な雲と直線的な霞があって、雰囲気が異なり、直線的な霞の方がより装飾的な気もします。雲も霞も着物の意匠にはよく使われますが、これは室町以来の土佐派や狩野派の遺産を取り込んでいるんですね。

着物に使われる場合は、模様の量をコントロールして、余白を確保するのにつかわれることが多いです。特に模様面積がコストに直接影響する刺繍作品では絶対に必要ですね。

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いちばん上の写真は全体です

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写真2番目は前姿です

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写真3番目は後姿です

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写真4番目は袖です

写生的な遠山と様式的な霞のギャップは、絵画であればちぐはぐなのかもしれませんが、友禅の意匠ではありがちなので、それほど気になりません。しかし、この霞の赤がすごいですね。中井の赤は、普通の赤ではなく、独特の重い赤で、やはり重い地色とのコントラストで、凄味が生まれています。私には、犬夜叉のイメージです。
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[ 2013/10/01 ] 友禅 | TB(0) | CM(0)