千切屋治兵衛の着尺を羽織またはコートとして使ってみる

第二千四百九十四回目は千切屋治兵衛の着尺を羽織またはコートとして使ってみます。

今回紹介している光悦垣の着尺は、羽織またはコートとして使っても威力を発揮するアイテムだと思います。おしゃれの主役は着物と帯で、羽織やコートは防寒具にすぎないと考えれば、羽織やコートはどんな着物にも合うように、無地や暈しになるはずです。

じっさいに当店で売れ残っている羽尺も、多くは無地染または暈しで、そのかわりに個性のある地紋で模様表現をする程度です。あくまで着物にに合わせやすい道具なんですね。

それに対し、今着物雑誌などで紹介されている羽織またはコートは、積極的に模様を付けてコーディネートの中心にしたものがあります。極端なものでは絵羽にして、訪問着のような模様を付けています。和装のいちばん上に羽織る羽織またはコートは、世間に対しもっとも露出が多いですから、合理的なことだと思います。

しかしながら、羽織またはコートを絵羽にして、訪問着のような模様を付ければ、訪問着のような値段になります。そこまではしたくないというときは、今回の例のように大きな模様の着尺を流用するのが良いと思います。

大きな模様は、必然的に大きな余白を伴います。大きな豆を容器に入れると、大きな隙間ができるのと同じですね。生地の縫い目に模様がつながっているものと、いないものがあるなんて、着物の知識のある人しかわからないですから、私はこういう着尺を流用して、プレミアムな羽織またはコートとして使うのはコストパフォーマンスが高いと思います。

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いちばん上の写真は、野口の飛び柄の着尺を合わせてみました。地色は墨色で、羽織またはコートに対してコントラストの強い組み合わせです。飛び柄どうしの組み合わせですが、模様の大きさを大小変えて対照的にしています。

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写真2番目は、野口の大きい柄の着尺を合わせてみました。アンティークっぽい雰囲気を狙った大きい柄の総柄です。余白が多い羽織またはコートに対して対照的で、これが組合わせの基本ですね。

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写真3番目は、野口の配色が上手な着尺を合わせてみました。水色と茶色というのは、外国のブランドものにもありそうな都会的な配色ですね。着物にした場合は、単にきれいな配色というだけでなく、水色という若向けの色に対し、茶色という年輩向けの色を合わせることで、対象年齢を広くする効果も持っています。流行のある洋服と違って、長く着る着物には大事なことです。

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写真4番目は、野口の横段または市松の着尺を合わせてみました。もっとも野口らしい個性的な、人によっては大胆と感じる着尺です。着物の個性にも負けず、この組み合わせも結構成り立っていますね。

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写真5番目はおまけです。
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千切屋治兵衛の着尺の帯合わせ

第二千四百九十三回目は千切屋治兵衛の着尺の帯合わせです。

昨日のつづきで、光悦垣の着尺に対する帯合わせです。昨日は名古屋帯を合わせましたが、今日は袋帯で試してみます。花模様の袋帯はいくらでもあるので、選ぶ相手に不自由はありません。

しかしながら、合わせてみて気が付いたのは琳派模様を本歌とする意匠が多いためか、意匠の中にあらかじめ垣根が含まれてしまっているものが多く、モチーフが重複してしまうということです。重複は野暮なのか、気にしなくていいのか、その辺も実際に試してみたいと思います。

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いちばん上の写真は、織悦の袋帯を合わせてみました。タイトルは「能衣秋草花繍唐織」というややこしいものです。本歌は能衣装で、唐織によくある秋草模様だが、刺繍で表現された作品だった、という意味でしょう。

同じ秋草模様でも、本歌が唐織であったばあいと刺繍であったばあいはどうちがうのか、それぞれ図案だけ真似て織物にしたら差が出るのでしょうか。

おそらく、本歌が近世以前の空引機で織られた織物であれば、技術的な制約で規則性は免れないでしょう。しかし刺繍ならば自由で柔らかい意匠ができたということだと思います。手織りの織物で再現するにしても、現代のジャカードならば、昔なら刺繍でしかできなかったような自由な意匠ができるのでしょうから。

この帯はおとなしい雰囲気ですが、じつは織悦の中では高いバージョンです。織悦の価格設定は論理的で、色数でわかります。その色数の多さも本歌が刺繍だからでしょう。

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写真2番目は、山口織物の唐織の帯で、タイトルは「篭目秋草文」です。唐織の能衣装の意匠をそのまま袋帯にしたものですね。金糸はすべて、細く裁断された本金の平金糸です。

垣の種類には、今回の着尺の光悦寺垣のほかに、建仁寺垣など何種類かあるわけですが、帯に違う種類の垣が来てしまうわけですね。帯合わせと考えれば、着物が垣、帯が花とすっきりした方が良いですが、西陣帯の意匠は琳派秋草文など琳派由来が多く、垣がセットで付いてきてしまうことが多いです。まあしょうがないというところです。

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写真3番目は、織悦の袋帯を合わせてみました。タイトルは「柴垣秋草文尽し」ですが、こちらも琳派の秋草模様です。白地に濁りのない多色で秋草を並べた意匠で、単純ですがこれで十分だ、と思わせる完成した意匠だと思います。帯合わせでは、垣が白地に金糸なので、あまり目立たない分、上の例よりいいかもしれません。

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写真4番目は、紫紘の袋帯を合わせてみました。暗緑色の地色に、桜楓の意匠です。藤色の着物に暗緑色の帯で、コントラストのはっきりした組み合わせです。桜と楓を見ると、枝がすべて縦縞としてつながり、それが風に吹かれたように左右に揺れています。そのためか、フォーマルながら粋でしかもカジュアルな雰囲気もありますね。

ここからはfc2だけの特典です。

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写真5番目は、梅垣の「蒔絵花鳥文」というタイトルの帯を合わせてみました。高級イメージの強い梅垣の中でも特に高級なものです。着尺の相手としては高級すぎ?上品すぎ?でしょうか、きれいですけどね。

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写真6番目は、紫紘の「松重ね」というタイトルの帯を合わせてみました。垣根の中は花だけでなく松があってもいいだろうという趣旨です。フォーマル感が強まり、友人としてなら結婚式に行けそうな感じなりますね。
[ 2013/09/29 ] 帯合わせ | TB(0) | CM(0)

千切屋治兵衛の着尺の帯合わせ

第二千四百九十二回目は千切屋治兵衛の着尺の帯合わせです。

昨日の光悦垣の着尺に対する帯合わせです。一方のテーマが垣根であれば、意味的に合わせる相手は、もう草花に決まっています。おばさんにとっては、もはや気恥ずかしいようなお花満開の帯でも、垣根を描いた着物と合わせることで、気持ちよく着られるようになると思います。なぜ着られるようになるのかと考えてみれば、花と垣根は、鳥と鳥籠のようなもので、勢いにストップをかける組み合わせだからでしょう

琳派の意匠でも、花と垣を合わせたものが多くありますが、それを着物と帯に分けて試してみるということになりますね。

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いちばん上の写真は、橋村重彦さんの糊糸目の友禅の名古屋帯を合わせてみました。琳派風に四季の花を描いた作品で、テーマにひねりがないだけに、橋村さんが絵が上手いのが良く分かる作品です。ただ、テーマにひねりがない→素直すぎるということで、人生の屈折を経験した人には絵空事に感じるかも。垣根という制約を加えることで、意匠が現実味を帯びるかもしれません。

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写真2番目は、中町博志の菊の名古屋帯を合わせてみました。黒地に黄色というモダンなグラフィックデザインのような配色で、加賀友禅に革新をもたらしたと言われるこの作家らしい作品です。突き抜け感のある菊に対し、この程度の垣根では無力にも思いますが…。

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写真3番目は、野口の御所解模様の花の部分をテーマにした帯を合わせてみました。上の2パターンの帯合わせは、いずれも花は写生的なものを選んでいますが、ここでは小袖の意匠に取材したものを選んでいます。

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写真4番目は、千切屋治兵衛の友禅の名古屋帯を合わせてみました。制作したのは藤岡さんで、技法は糊糸目、テーマは山帰来(サルトリイバラ)です。ここでは、「華やかな花とそれを制約する垣根」という組み合わせではなく、晩秋の実と垣根で、侘びた心情を表現する組み合わせをつくってみました。見た人がしみじみすれば成功です。

ここからはfc2だけの特典です。

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写真5番目は、花也のダンマル描き+彩色+金彩の帯を合わせてみました。テーマは苧環です。秋の侘しさの演出をさらにおしすすめてみました。これより先は、ただの地味ですね。

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写真6番目は、野口の筒描きの帯を合わせてみました。野口さんが応援する女性作家の1人です。防染のための糸目の輪郭線が太く素朴で、友禅というよりも筒描きの雰囲気です。
[ 2013/09/28 ] 帯合わせ | TB(0) | CM(0)

千切屋治兵衛の着尺

第二千四百九十一回目の作品として、千切屋治兵衛の着尺を紹介します。実際に制作したのは野村さんです。

通常、模様が繰り返して連続する着尺(小紋)は、型染で制作されます。千切屋治兵衛で型染を担当するのは大和さんですから、千切屋治兵衛の小紋はすべて大和さんの作品ということになります。

しかしながら、ごく少数ながら型染でない小紋、すなわち手描きの着尺もつくられていて、手描き友禅の染匠である野村さんか市川さんがつくっています。市川さんは訪問着などを染める時とは全く作風を変えて、モンドリアンみたいな染分けが多いです。野村さんは、今日見るような作風ですね。

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いちばん上と2番目の写真は、反物の幅を写真の幅として撮ったものです。飛び柄のように一定間隔で描かれています。模様の向きは上下交互、左右交互になっているので、どこで裁っても条件は同じです。

このような大きな柄の着尺は、バランスよく柄を出すために仕立て屋さんは苦しみます。たとえば帯より下の前姿の柄は、マエミに2個、オクミはその2個の間に1個出るのが理想です。全員の身長が標準ならそのようにできるのでしょうが、身長はそれぞれですから、仕立て屋さんは工夫が必要です。その際、模様の上下左右まで配慮するのはなお大変ですから、上下左右交互の配置にして、条件を同じにしています。

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写真3番目は近接です。

テーマは光悦垣です。光悦垣は、京都鷹峯光悦寺にある垣で、「光悦垣」で検索すると実物が見られます。意匠化したものはたいていカーブしていますし、個人の庭に「光悦垣」としてあるものもカーブしていますが、光悦寺の実物はカーブしているところだけではなく、まっすぐつながってきて、端のところでカーブして終わるのです。

本阿弥家というのは、刀剣の鑑定や研磨をするのが本業ですが、光悦は徳川家康から京都鷹峯に土地をもらい芸術村をつくって、アートディレクターのような役割をしていました。俵屋宗達との合作もあり、宗達から琳派へもつながっていくわけですが、そのように思えば、光悦垣が琳派風の洒脱なタッチで描かれているのも納得できます。もしも真面目な糸目友禅で細密に描かれていたら野暮でしょうね。

野村さんは染匠として極めて融通が利き、本格的な糊糸目友禅も一流なのに、無線友禅も堰出友禅もダンマル描きも、さらにアクリル絵の具を使ったインチキ友禅もできてしまいます。よほど頭の良い人なんでしょうね。

この作品はダンマル描きで、一部彩色してあります。糊筒を使う友禅よりも洒脱な表現ができますし、糸目がないので、絵画に近い雰囲気で鑑賞できます。
[ 2013/09/27 ] 友禅 | TB(0) | CM(0)

千切屋治兵衛の名古屋帯の帯合わせ

第二千四百九十回の作品は千切屋治兵衛の名古屋帯の帯合わせです。

昨日に続いて、藤岡さんの名古屋帯の帯合わせです。今日は紬に合わせてみました。着物と帯は、友禅どうしで合わせるよりも、紬と友禅で合わせる方が楽ですね。

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いちばん上の写真は、みさやま紬と合わせてみました。松本市三才山の作家横山さんが織っている紬で、主に室町の加納が扱っており、この作品も別織であることを示す加納のマークが入っています。

一見素朴な草木染の真綿の紬ですが、よく見ると格子の色がとても彩り豊かで、こういう鮮やかな色が、信州で草木染で染められていると思うとありがたみがありますね。ただし、鮮やかな色の分量は少ないので、離れてみれば茶色の紬にすぎません。でも、友禅の帯と合わせると、その見えない色が見えてくるのか、色が連動して帯合わせに一役買っているような気がします。

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写真2番目は、紺系の紬にも合うかどうか、ということで、青戸由美江さんの出雲織と合わせてみました。出雲織のタイトルは、「昔絣」です。いちばん上の写真の例で茶系の紬にはしっくり合うことがわかりましたが、青戸さんの透明感のある藍染とはどうか、試してみました。

青戸さんの存在感のある藍の色で、上品な友禅の色が負けてしまうのではないかと思いましたが、ザクロの葉と桑の実の青のおかげで、何とか調和しているように見えます。

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写真3番目は、沖縄のロートン織で、「織の会ヌヌナス」によって織られたものです。こちらも紺系の紬にも合うかどうか、という例で試してみました。やはりザクロの葉と桑の実の青のおかげで、普通に合っちゃってますね。葉を自然な緑ではなく、多色で描くことを発案した昔の人に感謝ですね。

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写真4番目は、大城カメの晩年の紬を合わせてみました。琉球王朝時代の御絵図帳にある沖縄伝統の織物の特長の1つは、技術の高さとともに、おおらかさだと思います。この作品も、絣の細かさなど技術的な見どころもありますし、色も華やかですが、同時におおらかさも感じます。帯合わせも意外と上手く収まりました。

[ 2013/09/26 ] 帯合わせ | TB(0) | CM(2)

千切屋治兵衛の名古屋帯の帯合わせ

第二千四百八十九回の作品は千切屋治兵衛の名古屋帯の帯合わせです。

昨日紹介した藤岡さんの名古屋帯の帯合わせです。でも帯合わせをする前に、書かなければいけないことがあります。ザクロと一緒に描かれている小さな実のある植物で、これは桑です。私自身、桑がよく分からなかったので、スルーしていました。

つまりこの実は、「赤とんぼ」で「山の畑で小籠に摘んだ」実なんですね。カイコの飼料として呉服業界にとっては大恩ある桑ですが、申し訳ないことに私は全く興味がなく、子供のころ近所にあったという記憶しかありません。

しかし、桑の木は、材木としては、江戸指物や茶室の炉縁としては高級材ですよね。畑で生産する場合には、効率よく作業できるように高さを揃えていますが、自然状態では高木なんでしょうね。しかし、カイコの餌として人類が選んで生産するぐらいですから、もともと蛾系の害虫が付きやすいんだろうなあ、なんて余計な心配ですね。

さて、帯合わせですが、染め帯としては、いちばん普通に使われている四季の植物をテーマにした作品なので、帯合わせは楽そうです。

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いちばん上の写真は、千切屋治兵衛の源氏香の小紋を合わせてみました。上品だが個性の少ない総柄の小紋は、当然のようにぴったり合います。帯が明暗のある絵画的な意匠であるのに対し、着物が平面的な模様なので、両者が競争することなく役割分担ができて合うのでしょう。着物が背景役を務めてくれているんですね。

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写真2番目は、千切屋治兵衛のリスの飛び柄の小紋を合わせてみました。植物とその木に居そうな小動物という、意味のつながる帯合わせです。季節も秋でちょうどいいですね。本来であれば、着物が植物で、帯が動物であるべきでしょう。しかし、リスが色を抑えて単色表現なので、両者が調和しています。これは偶然ではなく、小紋の作成者である大和さんが、帯合わせを考慮して色を抑えてつくったのだろうと思います。

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写真3番目は、わざと合わない組み合わせということで、野口の色のコントラストの強い大柄の着尺を合わせてみました。共通することと言えば、葡萄柄ということで、季節ぐらいでしょうか。藤岡さんの糊糸目の友禅は色も模様も繊細で上品なので、野口の大胆な着尺には負けてしまいますね。しかしながら、全く駄目という感じではないのは、帯の模様の回りの余白のおかげだと思います。

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写真4番目は、野口の市松模様の着尺を合わせてみました。着物の意匠が総柄で、平面的に連続しているという点では、いちばん上のパターンと同じですね。しかし、市松ということで粋な雰囲気もあり、雅な藤岡さんの友禅とは異質です。さらに、色も野口らしく上品ながら華やかです。つまりいちばん上と3番目の要素を混ぜた感じでしょうか。

でもまあ、帯合わせとしては許せますね、たぶん、ザクロの葉の青が、着物の色と上手く関係づけられているからでしょうね。緑であるべき葉を多色で描くというアイディアを考えた昔の人に感謝ですね。

さてここからは、fc2だけの特典です。

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写真5番目は、千切屋治兵衛の市松の小紋を合わせてみました。市松の中身はクローバーです。いちばん上の平面的な小紋と写真4番目の市松小紋の要素を合わせてみました。

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写真6番目は、更紗の小紋を合わせてみました。多めの型紙を使って模様に濃淡を表現した小紋で、更紗という意匠でありながら、明暗によって多少の写生性のある着物です。まあ、明暗による写生的な帯には、写生的でない着物が合いそうですが、このぐらいなら邪魔にならないでしょうか。
[ 2013/09/25 ] 帯合わせ | TB(0) | CM(0)

千切屋治兵衛の塩瀬の名古屋帯

第二千四百八十八回目の作品として、千切屋治兵衛の塩瀬の名古屋帯を紹介します。

実際に制作したのは藤岡さんです。テーマはザクロです。最近はザクロジュースがありますが、私は子供のころ1度食べただけで、酸っぱかったなあという程度の記憶しかありません。

しかし、着物や帯の模様としてはけっこう人気がありますよね。いちばん見る機会が多いのは、帯屋捨松のペルシア風のモチーフの1つで、曲線模様を成す枝にザクロの実を合わせたものではないかと思います。たいてい、ザクロの実が熟して今にも実が落ちそうになっているという意匠ですね。

今回の藤岡さんのザクロの実は、まだ熟しきっていないようです。ザクロの意匠というと、熟して半分実が見えているのを見慣れているので、そうしないことで、かえってベタにならなくていいのかもしれません。

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いちばん上の写真はお太鼓です

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写真2番目は腹文です

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写真3番目はお太鼓の近接です

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写真4番目は腹文の近接です

ザクロの実は、適度に明暗が付けられて写生的な表現になっています。一方、葉は、形は写生的ながら、色は自然の緑ではなく、青など自然でない色も加えられて意匠的に仕上げています。葉に反自然的な多色を使うのは、江戸時代の小袖に多用された伝統的な友禅の表現方法です。

緑の葉を、赤、黄色、青あるいは紫などの五彩で表現して意匠
とするということを最初に思いついた人は、すごい天才ですよね。以来300年ぐらい、みんなが真似し続けて、まだ飽きていないのですから。

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半分実が見えているザクロの意匠について、当社に大羊居の几帳があるので載せてみました
[ 2013/09/24 ] 友禅 | TB(0) | CM(0)

千切屋治兵衛の着尺の羽織またはコート合わせ

第二千四百八十七回目は千切屋治兵衛の着尺の羽織またはコート合わせです。

今回も、先日の着尺を長羽織またはコートにしたと想定し、着物に合わせてみます。昨日は野口の着尺を使ったので、今日は紬を使ってみます。

今回目指すイメージは、上質だが地味な紬に対し、明るい色の小紋を長羽織またはコートとして合わせるというコーディネートです。結城紬や泥大島に代表されるような「一見地味だがじつは高い」紬は、着物を知らない人からは無視され、着物を知っている人からだけ尊敬されるものです。

少し昔だと、若い人が着ていると「若いくせに生意気だ」といやがらせを言われたものです。しかしそれは着物が嫉妬の対象になっていたということで、生活の中で文化として生きていた証拠、今となっては懐かしいですね。

というわけで、今回は、結城や泥染めの紬を着たら、やはり自分には地味だったと感じた人が、明るい色の着尺をコートか羽織として合わせた、という設定です。

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いちばん上の写真は、格子の泥染めの久米島紬を合わせてみました。地味な色・地味な柄の紬ですが、着方次第で絵画的な絣よりもむしろ都会的に見えるタイプの着物ですね。濃い色の地味な着物と、明るい色の羽織またはコートの組み合わせという基本パターンです。

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写真2番目は、縞の結城紬を合わせてみました。藍染の紺色地にくっきりした縞で、けっこう個性的で、しゃきっとしないと着られない着物です。この着物に対し、正反対の雰囲気のかわいい羽織またはコートという組み合わせです。着物の個性が緩和できれば着やすいと思います。

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写真3番目は、明るい色の結城紬を合わせてみました。水色に近い明るいグレーの飛び柄(百亀甲)で、現代のユーザーの好みに近い結城だと思います。水色とベージュのきれいな色どうし、昨日の小紋でもあったような組み合わせですね。

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写真4番目は、盛岡の草紫堂の茜染の着尺を合わせてみました。生地は白山紬です。草紫堂は、紫根染と茜染で知られた盛岡の自前で染めて売ってもいる工房兼店舗です。茜と言えば、赤すぎて年輩者は着られない気がしますが、この着物は茶系に発色していて、誰でも着られる感じです。明るいベージュの羽織またはコートに対しては同系色の組み合わせです。

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ここから先は、fc2の特典です。写真5番目は、郡上紬の着尺と合わせてみました。郡上紬は、手紡ぎ真綿、草木染、手織りの紬です。現物は、派手ではないですか透明感のあるきれいな色です。、

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写真6番目は、黄八丈(黒八丈)の着尺と合わせてみました。粋なイメージのある黒地に黄色い格子の黄八丈にかわいい雰囲気の羽織またはコートの組み合わせです。

千切屋治兵衛の着尺の羽織またはコート合わせ

第二千四百八十六回目は千切屋治兵衛の着尺の羽織またはコート合わせです。

いつもなら、帯合わせを考えるところですが、今回は、先日の着尺を着物にせず、長羽織またはコートにしたと想定し、着物に合わせてみます。合わせる着物は、紬でも、小紋でも、訪問着でもよいのですが、今回は、野口の着尺と花也の付下げを使ってみます。

羽織またはコートというのは、少し昔は、羽尺地という8mの専用生地を使っていました。「着尺」という言葉は「羽尺」と対語的に使われていたのです。羽尺の多くは、大げさな地紋のある綸子地で、無地か暈しで染められ、地紋が浮かび上がって柄の役割を果たしていました。多色の柄でないのは、あらゆる着物に合うように、という配慮でした。

しかしながら、現在は羽尺という製品はほとんど滅びており、着尺地で代用するようになりました。それとともに、模様も多色多様になって、着物の脇役でなくコーディネートの主役になりました。羽織やコートは、着姿のいちばん外側にあって露出が多いのですから、合理的かもしれません。

ただ、業界的に言えば、おしゃれな羽織と西陣は、じつはライバル関係にあります。羽織は室内でも着られるので、せっかく高価な帯を買っても見えないことになってしまうのです。昭和40年頃のなつかしい紀行番組など見ると、和装をしている全員が羽織を着ています。その後、羽織が廃れるわけですが、それはちょうど西陣で高級な帯が売れるようになった時代であり、羽織が長羽織として復権してきた現代は、西陣がネットで安売りされ、廃業が相次ぐ時代です。

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いちばん上の写真は、先日の千切屋治兵衛の縞の着尺に対し、長羽織またはコートとして合わせてみました。普通なら、柄物の着物に縞の羽織かと思いますが、反対のパターンでも十分通用します。

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写真2番目は、野口の水色の更紗の着尺に対し、羽織またはコートとして合わせてみました。水色と明るいベージュのきれいな組み合わせです。雪輪ながら、春っぽい感じでしょうか

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写真3番目は、野口の地味なグレー地の茶や辻模様の着尺に対し、羽織またはコートとして合わせてみました。着物役の野口の着尺は、地味な地色に対し大きめな柄の組み合わせで、このようなパターンは、地味だか派手だかわからないので、年齢幅も広く使い勝手の良い着物です。

グレーとベージュという配色は、意外にきれいなものですね。柄の大きさについては、同じような大きさどうしではなく、大きいものと小さいものを合わせるのは基本ですね。

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写真4番目は、花也の付下げに対し、コートとして合わせてみました。付下げは、京都で舞妓さんが御座敷以外で着ていそうな黄緑(私の個人的なイメージです。)に小付けの柄です。モチーフは雪輪で、わざとコートのモチーフと重ねています。

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写真5番目は、野口のオレンジの横段(仕立てれば市松にも)の着尺に対し、羽織またはコートとして合わせてみました。着物役の野口の着尺は、野口の得意な大胆な模様配置です。むしろ羽織が抑え役に見えますね。

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写真6番目は、野口のグレーの横段(仕立てれば市松にも)の着尺に対し、羽織またはコートとして合わせてみました。上の着物役の野口の着尺は、オレンジという暖色で色分け部分は暈しですから、温かみのある雰囲気ですが、こちらはグレーという寒色で色分け部分はくっきりですから、きりっとしていますね。

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写真7番目は、野口の粋な格子の着尺に対し、羽織またはコートとして合わせてみました。本来、着物役の野口の着尺は、みんながコートとして流用しているものです。ここではあえて逆を試してみました。

千切屋治兵衛(中井敦夫)の訪問着の帯合わせ


第二千四百八十五回目は、千切屋治兵衛(中井敦夫)の訪問着の帯合わせです。

地味で変な柄の訪問着に対する帯合わせです。地味な着物には地味な帯、変な柄の着物には変な柄の帯が合うのでしょうか。そうかもしれません。

中井さんというのは、突き抜けた作品をつくって人を驚嘆させる一方で、たまに大ファールも打ちます。凡打はなくて、失敗するときは場外ファールで、この作品もそんな着物の1枚です。

中井さんの作品の特長は洗練です。生涯を通して野暮な、田舎くさい着物は1枚もつくらなかったと思います。失敗作であっても野暮ではないのです。それが、先ほどの「地味で変な着物には地味で変な帯が合うのか」という問いに対する答えです。中井さんの着物は、地味で変でも洗練されているため、地味で変でも洗練された帯でないと合わないのです。

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いちばん上の写真は、北尾(証紙番号7)の綴の袋帯を合わせています。北尾の綴は、爪掻綴ではなく、地が綴組織で、模様は西陣らしく絵緯糸で表現されています。白地に淡い色の道長取りで、控えめな模様は金糸のみですから、面白味のない意匠ですが、洗練という点ではだれも異論はないでしょう。本来であれば安田の訪問着に合う雰囲気ですね。

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写真2番目は、池口平八の袋帯を合わせています。琵琶湖の湖面をテーマにしたもので、一見地味ですが、西陣らしい絵緯糸による模様表現で、湖面のさざ波を自然主義的に表現しようという、じつは野心的な作品です。実際に少し離れてみると、印象派の絵画の海の表現のようにも見えます。

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写真3番目は、池口定男の「佐波理綴」を合わせてみました。「佐波理綴」は、織物の中に玉虫がいるように不思議な光を放つ帯です。美しいといえば美しいですが、人の自然な感性を超えるものがあるのか、好きな人も嫌いな人もいますね。今日使った帯は、ごく初期のもので、光沢は白地に銀糸のみで洗練されています。モチーフは御簾ですから、烏帽子の人物と関連があるように感じさせられるかも。

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写真4番目は、今回私がいちばん気に入っている帯合わせで、織悦を使っています。通常の織悦の組織ではなく、絵緯糸で模様を表現し、同じ菊枝文が均等に並んだ有職文を思わせる意匠です。

洗練を意識して着物や帯を選ぶと、どうしても単彩とくに白、グレーなどの無彩色と金銀の組合わせばかりになりがちですが、この織悦は、多彩でありながら十分に洗練されています。配色が上手いのでしょう、さすが織悦です。

また地色ですが、経緯の糸にブルーと金を使い、両者が干渉しあって玉虫のように曖昧な色になっています。これが意外に着物のダンマルによる風の表現に連動して、妙に合っているんですね。




[ 2013/09/21 ] 帯合わせ | TB(0) | CM(0)

千切屋治兵衛の着尺


第二千四百八十四回目の作品として、千切屋治兵衛の着尺を紹介します。実際に制作したのは大和(だいわ)さんです。

みんなに愛される雪輪がテーマです。呉服屋をやっていますと、花が嫌い、鳥が嫌い、人間が嫌い、建物が嫌い、といろいろな人が来ます。もちろん着物の柄の話で、人間というのは人物文、建物というのは楼閣文様です。いきなり「人間が嫌い」と言われたら、それは客ではなく患者になってしまいます。

しかしながら、雪輪を嫌い、という人だけは会ったことが有りません。これ以上シンプルにしたら、ただの丸になってしまうというぐらいシンプルでありながら、雪のデザインだと言われれば、なるほどと思えますね。誰が考えたのでしょうか、完全に日本オリジナルなのか、それとも外国にもあるのでしょうか。

というわけで、今回は安心して仕入れることのできる雪輪の着尺を仕入れてみました。

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いちばん上の写真は反物の幅を写真の幅として撮ったものです

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写真2番目は近接です

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写真3番目はもっと近接です

飛び柄というには、模様どうしが近接していますので、総柄ということになるのでしょうか。しばらく眺めていると、飛び柄か総柄かというよりも、実際に降ってくる雪と同じような間隔で雪輪が落ちてくる気がします。たった1つのモチーフながら、見ていて飽きないのは、降雪を眺めている時のようなリズム感があるからですね。そのリズム感を演出することこそが、このばあいの意匠家の仕事でしょう。

赤い雪輪というのは少し意外です。赤い輪郭だけの雪輪と、白い雪輪はそれぞれ何をあらわしているのでしょうか。両者の重なりを見ると、赤い雪輪が白い雪輪の上に来ている場合も、その反対もあるので、赤い雪輪が近景、白い雪輪が遠景というわけではないようです。あくまで意匠ということでしょうか。

赤い雪では、226事件か修羅雪姫ですよね、なんて言ったら売れないですが。




千切屋治兵衛(中井敦夫)の訪問着

第二千四百八十三回目は、千切屋治兵衛(中井敦夫)の訪問着のつづきです。

江戸の後期から明治の前半にかけて、武士の好みか江戸の粋か、今見ると、非常に地味と感じる小袖(着物)が流行りました。模様が裾の低い位置のみにあるものですね。私は意外に好きで、平和が続いて文化的な成熟が頂点に達した結果、洗練の極みともいうべき、外人には理解できない微妙な美意識が生まれたのではないかと思います。

さらに明治になると、全体は地味ながら、模様のある裾だけを明るい色にした意匠が流行り、「曙染」と呼ばれました。私はこの作品は、人物(霊?)さえいなければ、江戸後期の地味な小袖や明治前期の曙染の系統に連なる作品ではないかと思います。形だけ真似た作品はありますが、中井さんはその情緒も合わせて真似ていますね。

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いちばん上の写真は、昨日の写真の人物(霊?)の足元の横あたりから後姿にかけて

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写真2番目は後姿(縫い目は背中心)

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写真3番目は袖

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写真4番目は参考図版です。桜に花筏のこの作品は全く違うように見えますが、春と秋を入れ替えれば、じつは同系統に思えます。もちろん人物さえいなければ、ですが。

今日は、まじめに技法から見ていきます。この作品は友禅ではなく、ダンマル描きで染められています。ダンマルとは、マレー語のダマールのことで、ダマールとは、ボルネオなどの島々に産するフタバダキ科の樹木から採取する樹脂です。それを揮発油で溶かしたものがダンマル液で、それで描いたものがダンマル描きです。

ダマールは樹脂であって蝋ではありませんが(もともと「蝋」という物質はない、常温で固形のものが蝋、ホームページ本体参照)、これを用いた染色は蝋染として解釈されることが多いです。友禅に真糊の糸目とゴム糊の糸目があるように、蝋には皆川月華らが使っていた本蝋(主にパラフィン)と液蝋(ダンマル)があると思えば、理解しやすいと思います。

本蝋は過熱して液体として使い、冷えて固まって防染効果を発揮するので、火傷の危険を冒しながら作業するのですが、液蝋は筆で気軽に描けます。しかしながら、なんでもできるという技法は、芸術性という点で評価が厳しくなり、作者としてはかえって難しいものです。

ダンマルは本蝋と同じく、半防染という性質があります。厚く置くと友禅と同じような防染効果があるが、薄く置くと半分だけ防染効果があり、半透明の表現ができるというもので、波や風の表現に便利なのです。

通常のダンマル作品では、人物や建物など固形物は完全に防染してくっきり描き、霞がかかった遠景は半防染効果を使って描くのですが、この作品では人物にまで半防染効果を利用しているために、霊に見えてしまうのです。しかしながら、中井さんがあえてそうしているということは、この人物は神話中の人物であるとか、夢に出てくる人物であるとか、何か理由があると思うのです。

風の表現は巧みですが、これは半防染効果のおかげです。また、紅葉はダンマルで防染した上に彩色しています。赤はいつもの中井の赤ですし、柔らかな形も糊糸目ではできない液蝋のタッチですね。この2つのおかげで、秋の情緒が最大限表現されているわけです。
[ 2013/09/19 ] 友禅 | TB(0) | CM(0)

千切屋治兵衛(中井敦夫)の訪問着

第二千四百八十二回目の作品として、千切屋治兵衛の訪問着を紹介します。

制作したのは中井敦夫さんです。亡くなって数年たって、まだ売れずに千治に残っている中井さんですから、相当個性のあるものだろうと想像できますが、想像以上です。

タイトルは「紅葉」と平凡ですが、何をテーマにしたのかわかりません。人物が半透明で表現されていますし、烏帽子を被りながら落ち葉を掃いていますから、子や孫が墓参りをしないので、先祖がしかたなく出てきて墓の掃除をしているようにも見えます。

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いちばん上の写真は全体です

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写真2番目は前姿です

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写真3番目は人物の近接です

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写真4番目は人物の足元、紅葉の近接です。

私には霊現象に見えますが、それは、人物が烏帽子を被っているので、古い時代の人物に見えること、白い着物を着ていること、半透明であること、顔がないこと、からでしょう。

しかしながら、それだけではないと思います。中井さんの卓越した表現力が、この作品では「秋の風情」に向けられていて、その結果、秋の寂しさが身にしみる作品になっています。そして身にしみすぎて、普通の人物が霊が見えてしまうほど寂しくなってしまったのです。写真4番目は、風に吹かれる紅葉が描かれていますが、私はこんなにも秋の寂しさを美しく描いた例を知りません。

装いは華やかであるべきと思う方は、「寂しい」着物なんて着たくないでしょうね。しかしながら、昔の日本人は「秋は寂しい」というとき、その「寂しさ」を価値あるものとして味わってきたのだと思います。

さて、この作品のテーマは何なのでしょう。本人が亡くなっているので、わからなくなってしまいました。ヒントはタイトルだけですが、「紅葉」の一言ではなんともなりません。京友禅では、源氏物語に由来する作品が多いので、これもそうかと思いました。紅葉といえば第七帖「紅葉賀」を連想しますが、落ち葉を掃く場面はありませんよね。
[ 2013/09/18 ] 友禅 | TB(0) | CM(0)

千切屋治兵衛の着尺の帯合わせ

第二千四百八十一回目も千切屋治兵衛の着尺の帯合わせです。

昨日の続きです。今日は龍村の名古屋帯を合わせてみました。だらだら仕入れていたらけっこう在庫が増えてしまったので、使ってみようという理由です。

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いちばん上の写真は、「竹屋町兎文」というタイトルの名古屋帯を合わせてみました。帯の地色は暗緑色ですから、着物との関係は同系色濃淡ですね。名物裂の「竹屋町裂」は、紗の生地に金糸を織り込んだものですが、今は生地が紗でなくても「竹屋町」のネーミングをすることもあります。

この帯のうさぎは、六通すべて本金の平金糸(裏が和紙で白い)なので、擦れないか気になりますが、近くで見るとすごく迫力があります。それが本金平金糸のありがたみなんですね。

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写真2番目は、「バルト海遊文」というタイトルの名古屋帯を合わせてみました。帯の地色は黒でメリハリタイプの帯合わせですが、バイキングの乗る船の船体がペパーミントグリーンで、意外な調和もあります。

船では楽人たちが楽しげに演奏していますが、「バルト海」とあるのでバイキング船なのでしょう。バイキングに関する写本か何かに取材しているのではないかと思います。

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写真3番目は、鳥獣戯画をテーマにした名古屋帯を合わせています。鳥獣戯画というのは、本歌が有名すぎてイラストなどにもよく使われているので、すでに手垢がついてしまったイメージがありますが、龍村は高級な帯として、繰り返しつくっています。

ここで使ってみた理由は、地色の紫です。昨日試した黄緑と紫の組み合わせですね。

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写真4番目は、「豊穣文」というタイトルの名古屋帯を合わせてみました。テーベの王家の谷あるいは王妃の谷と言われる辺りは、新王国時代の王家や貴族の墓が多く有って、有名な観光地になっています。そこで見ることができる壁画の一点ではないかと思います。

縞や格子の着物に対し、絵画性というより、もはやストーリー性と言った方が良い帯を合わせる例ですね。古代のエジプトの麦の収穫が実際には何月だったのかわかりませんが(ナイル川の氾濫の時期に前になるように合わせているはず)、日本では秋の着こなしということになるでしょう。
[ 2013/09/17 ] 帯合わせ | TB(0) | CM(0)

千切屋治兵衛の着尺の帯合わせ

第二千四百八十回目も千切屋治兵衛の着尺の帯合わせです。

昨日の続きです。今日は西陣の織帯を合わせてみました。普通はフォーマルに使う袋帯ですが、今回は袋帯でもカジュアルな雰囲気なものを選んで使っています。

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いちばん上の写真は、紫紘の燕子花の袋帯と合わせてみました。色の調和を意識して選んでいます。燕子花というテーマの着物や帯の着こなしの難しさは、単衣と袷の季節にまたがることですね。写真のような帯合わせであれば、5月ごろにしたいものですが、5月はしきたりとしては袷、体感としては単衣で着たいものです。実際に買って仕立てる人は悩んじゃいますよね。

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写真2番目は、河合康幸の松尽くしの帯を合わせてみました。松は格調高いモチーフでフォーマルの骨頂かと思いますが、この帯は、松ぼっくりがかわいくて、力まずに着られそうです。松というテーマでも、松の木や松の枝をモチーフにしないで、松葉や松ぼっくりと言う小さいものだけをモチーフにすると、かわいさが出るんでしょうか。

今は、日本の社会全体が「強い」や「格調高い」よりも「かわいい」を求めるでしょう。マーケティングでは、外人に受ける日本文化のキーワードというぐらいですものね。その感覚を上手く取り入れるのは、意匠家の知恵ですね。もちろんここでは、色の調和とメリハリを意識しています。

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写真3番目は、太西勇の正倉院御物のろうけつの屏風に取材した袋帯を合わせています。意識したのは紫の地色です。黄緑またはペパーミントグリーンの着物に合わせる帯の色として、同系色濃淡の組み合わせとして濃い緑系を合わせて見たのが上の例ですが、ここでは補色系統の紫を合わせています。

日本人の色彩感覚では、黄緑と紫の配色を見たとき、頭の中で無意識に燕子花をイメージしているのではないでしょうか。さらに言えば、美術史の興味のある方は、ホンモノの燕子花ではなく、光琳の燕子花図を思い浮かべていると思います。そういう下地があるので、この配色はみんなに好かれると思います。

象というモチーフは、イラストのテーマになりがちでカジュアルな雰囲気ですが、じつはこの象のモチーフの出どころは正倉院、すなわち聖武天皇の持ち物ですから、皇室由来の格調高いモチーフなんですね。見る人、着る人の知識の量によって性質を変える仕掛けのある意匠と言えます。

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写真4番目は、洛風林の「昇魚」というタイトルの帯を合わせてみました。洛風林というブランド名を聞けば、すごくお洒落か、すごく個性があるか、期待してしまいますが、これは期待を裏切らない個性のある帯です。

鯉の滝登りと思えば、龍になるという意味で、立身出世をあらわすわけですが、立身出世を祈願する帯ではおしゃれになりえません。それでもおしゃれに見えてしまうのは、鯉が上品なのにユーモラスだからで、洛風林の意匠の上手さですね。

個性が強すぎて、なかなか訪問着に合わせづらいこともあり、今回は縞の小紋相手の出動でした。
[ 2013/09/16 ] 帯合わせ | TB(0) | CM(0)

千切屋治兵衛の着尺の帯合わせ

第二千四百七十九回目の作品は千切屋治兵衛の着尺の帯合わせです。

昨日の大和さんの着尺の帯合わせです。こういう着物の良し悪しは、帯合わせをして初めて論じられるものだと思います。老舗ブランドの高級品と言っても、しょせんは型モノですから他社のものと決定的に違うわけではありません。技法云々よりセンスや使い勝手ですね。

合わせる帯は、友禅や絞りの染め帯、西陣の名古屋帯あるいはカジュアルな袋帯が考えられます。着物が縞なので、今回は絵画性の高いものを合わせてみたいです。

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いちばん上の写真では、千切屋治兵衛の友禅の名古屋帯を合わせてみました。制作したのは藤岡さんです。意識したのは絵画性の高いテーマ(ストーリー性のある、というべきか)とともに色で、なるべく共通性を持たせてみました。帯の笹の色は着尺の縞のうち濃い色と合っているように見えますよね。

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写真2番目は、大羊居の友禅の名古屋帯を合わせてみました。大羊居作品によく登場する「八つ手」です。ほどほど調和した地色、大羊居らしい個性のある模様の色、調和もメリハリもあるバランスの良い帯合わせだと思います。

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写真3番目は、中町博志の友禅の名古屋帯を合わせてみました。中町博志さんは加賀友禅作家として、石川県無形文化財の指定を受けた常時6~7人の作家によって構成される加賀友禅技術保存会の会員ですから、産地においてもっとも高い評価をされた加賀友禅といえます。

この帯を選んだ理由は、黒の地色です。上2つの例では、色に関連性を求めましたが、この回ではメリハリを重視してみました。もともと、この帯自体が、黒の地色に対し模様は菊の黄色というコントラストの強いものですが、その効果を100%発揮したような帯合わせになったので、作者の制作意図にもかなっているかと思います。

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写真4番目は、百貫華峰の友禅の名古屋帯を合わせてみました。百貫華峰さんは中町博志さんに負けない人気作家です。だいたい同じ世代で、加賀友禅作家としては伝統的な作風ながら、日展で入選を重ね、日展評議員も務めています。

今回選んだ理由はやはり色です。メリハリを持たせるにも、いきなり黒を使うような暴力的な方法ではなく、調和しつつメリハリのある色はないかと考えて、このような色を選んでみました。ピーコックグリーンというべきでしょうか。
[ 2013/09/15 ] 帯合わせ | TB(0) | CM(0)

千切屋治兵衛の着尺

第二千四百七十八回目の作品として、千切屋治兵衛の着尺を紹介します。

実際に制作したのは大和(だいわ)さんです。かつて千切屋治兵衛の型染は、長沢さんという方がしていたのですが、現在は引退し、その設備を使って大和さんという方が制作しています。

手描きの友禅作家はアパートの一室でもできます(地染めは外注)が、型染の作家は、反物を広げなくては均等に染められないため、最低でも12mの長さの工房が必要です。土地を確保して建物を建てると考えれば、大変な投資になります。だから、一度廃業してしまえばやり直せないし、志や才能だけでは始めることもできないのです。

長沢さんが使っていた設備は、幸いなことに大和さんに引き継ぐことができたので(買ったとか借りたとか権利関係は不明ですが、とにかく続いた良かったです)、千切屋治兵衛ブランドの型染がまだ存在できるわけです。

さて、今日紹介するのは、柔らかい色の太い縞の着尺です。

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いちばん上の写真は反物の幅を写真の幅として撮ったものです。

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写真2番目は近接です。

縞=江戸の粋のイメージがあるので、好きという人も多い反面、他人が着ているのはかっこいいと思うが、自分は自信がない、という人も多いですね。

縞には、太い・細いのほかに、色のコントラストの強い・弱いがあります。両者の組み合わせで雰囲気(粋の度合い)が異なります。太い縞で色のコントラストが強いのを着ていると、もう鬼平の悪役ですね。船宿の女将と思ったら、じつはその船宿が盗人宿だったという感じ。

縞が細くてしかもコントラストが弱ければ、少し離れてみればもう無地にすぎないでしょうから、誰でも着られる普通の着物になります。この作品のばあい、その中間で、縞が太く色が淡いパターンです。また、型染ながら手で描いたような揺らぎのある線で、それが柔らかさや温かみにつながって、「粋」を緩和しています。

生地はしぼの大きい縮緬を使っていますが、それもまた縞の線の揺らぎを増幅していますし、縮緬の持つ、きりっとしない感じ(もっさり感とでもいうのでしょうか)もまた粋の緩和に貢献しています。粋で大胆な太い縞でありながら、色や揺らぎや生地の雰囲気で、緩和の努力をしている、それがこの作品の趣旨でしょうか。その努力の過程で、作品に奥行きが出て含蓄のあるものになれば成功作ですね。

それを確かめるのは、帯合わせですね。

千切屋治兵衛の名古屋帯の帯合わせ

第二千四百七十七回目の作品は千切屋治兵衛の名古屋帯の帯合わせです。

先日来の藤岡さんの名古屋帯の帯合わせの続編です。蝶の有る無し、どちらが良いか、もう今回で結論にします。試してみる前にまず、結果の予想ですが、この帯はもともとすっきりした帯ですが、

さて今回、素材に使ったのは野口の着尺です。前回までの紬に対し、今回は染の着物で試そうと思い、派手な大きな花柄から粋な縞まで揃っている野口の着尺をえらびました。

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いちばん上の写真は、野口の着尺のうち、若向けの大きな花柄です。着物も帯も春らしい明るい色であり、さらに着物の花に対し、帯の蝶という意味的なつながりも作れる教科書的な組み合わせになりました。

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写真2番目は、野口の着尺のうち、吹き寄せを選んでみました。地色は茶系の色で派手ではありませんが、花や葉が綺麗な色で彩色され、野口らしい華やかさやかわいらしさがあります。年齢幅はかなり広いのではないでしょうか。

しかしながら、吹き寄せは晩秋のモチーフでしょうか。松葉が風の通り道の形に流れていく意匠は、木枯らしの季節に実際に見るものです。しかし花は秋の菊だけでなく、春の梅も桜も含まれていますから、すでに季節に関係のない普遍的な模様にすぎないのかもしれません。

そういうことは、蝶の帯を合わせる時は気になってしまいますね。他人の着姿は雰囲気が合っていれば良いと思えますが、自分のこととなると細部が気になってしまう、それが普通の人の感情だと思います。

蝶がマイナスに働いてしまう例ですが、葉陰だけではつまらないと感じるときは、作り手としてはどんな作り方をすればよいか。私なら、葉陰の中にウサギの耳を混ぜます。よく見ると2本だけ変な形の葉がある、という仕掛けですね。

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写真3番目は、ごちゃごちゃ柄の更紗を合わせてみました。このような着物には、すっきりした縞などが良いのですが、この着物は縞更紗であり、すっきりした縞さえ柄が重なってしまうという難物です。まさにこの帯はこの着物のためにあるような気さえします。

さて、葉陰」だけの図案であれば、気になってくるのは輪郭線の存在です。手描き友禅のばあいは、技法上の特性からどうしても模様の回りに白い輪郭線が出てしまいます。低いレベルでは、ホンモノの手描き友禅の証拠と歓迎することもありますが、もっと高いレベルでは、元絵とした日本画にない白い輪郭線があることで、本絵の雰囲気を損なってしまうという感じ方もあります。

近代以降、輪郭線を残さない技法として無線友禅や堰出し友禅が生まれました。作者は、自分が目指したい作風に合わせて、技法を選択できるようになりました。この作品のばあい、堰出しにすれば画面はすっきりした2色の面の色分けになるでしょう。

私は、この作品は同系色の濃淡の美しさが見せ場なので、邪魔な白い線で隔てない方がよい気がしますが、まあ個人の感じ方で正解はありませんね。

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写真4番目は、すっきりした着物とすっきりした帯の組み合わせを考えました。ごちゃごちゃをすっきりで緩和する、という発想ではなく、すっきりの極大化を目指したもので、粋、都会的、森田空美的、というようなものですね。

こうしてみると、「すっきり同士」というのは誰でも出来て、失敗の少ない着こなしと言えます。しかし、「逆もまた真」であるなら、「ごちゃごちゃ同士」もまた可能なはず。これはむずかしいです。それで成功した人がいれば、その人は森田空美より難しい課題に挑戦したのであり、より才能があることになるはずです。誰かいかがですか。
[ 2013/09/13 ] 帯合わせ | TB(0) | CM(0)

千切屋治兵衛の名古屋帯の帯合わせ

第二千四百七十六回目の作品は千切屋治兵衛の名古屋帯の帯合わせです。

昨日帯合わせに使った藤岡さんの名古屋帯の続編です。なぜしつこく続編があるのかといえば、私が蝶が嫌いだから。蝶は好きで、蛾は嫌いというのが普通の人のセンスだと思いますが、私は蛾が嫌いという気持ちが強すぎて、同じ鱗翅目の蝶も嫌いになりました。

嫌いというか、正確には恐いです。翅から鱗粉が落ちてくるんじゃないかと思って。実際には蝶は蛾ほど鱗粉が落ちないそうですが、よく考えると蝶と蛾の区別も曖昧。昔はとまるときに翅を閉じているとか、広げているとか言いましたが、じつは例外が多いらしい。私は鱗翅目の基本は蛾で、蝶と分類されなかったものは、すべて蛾になるのではないかと思います。

もしこの帯が、私が企画してつくったものならば、葉陰だけにして蝶は描かないでしょう。絵画性は減少しますが、帯合わせの汎用性は増すのではないでしょうか。少なくとも、蝶があると春限定になりますが、葉陰だけなら秋も使えるようになるというのは確かでしょう。

蝶のないパターンは、実際につくったわけではないので見ることはできませんが、しかしこの帯は、腹文が蝶のない葉陰で、しかも葉陰の意匠がお太鼓と同じパターンだったので、腹文をお太鼓に見立てて試すことができました。

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いちばん上の写真は、秋山真和さんの紬を合わせてみました。琉球王家時代の衣装として、現在博物館に所蔵されている作品をそのままさいげんしたものです。現物は退色していますが、この作品は制作時の色を再現して、茶色地ながら華やかな雰囲気です。茶系とペパーミントということで、ブランド物の服にもありそうな美しい配色ですが、意匠的にもちょっとしつこい紬とシンプルな帯という組み合わせで、ごちゃごちゃどうしにならないと思います。

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写真2番目は、久留米絣を合わせてみました。重要無形文化財の要件を満たすもので、作者は、絣の手括りと手織が田中キヨ子、藍染が森山虎雄です。

藍の色と帯のペパーミントの配色がどうか、というのが見せ場ですね。森山虎雄の藍染というのは、藍甕に60回浸けるということで有名なだけに黒に近い青ですが、それでも藍は青でペパーミントに合っていますね。

最近は何度も染めた濃い藍よりも、明るい藍のほうが華やかで人気があるように思いますが、伝統工芸展で、仮絵羽として広げてものを見ると、森山虎雄の黒に近い藍に細かい絣を入れた作品は、夜空を見上げて宇宙に吸い込まれたように見えるのです。私も森山虎雄は何反か持っていますが、反物でしか見ないのでその良さに気が付かなかったのでした。

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写真3番目は、比較のため昨日も利用した小岩井工房の上田紬を合わせてみました。蝶がいて絵画的要素の多い帯には、すっきりした格子の着物、葉陰だけのシンプルな帯には、絵絣や多色の絵画性の高い着物、という考え方もありますが、ここでは、あえて葉陰だけの帯に格子だけの着物という組み合わせにしてみました。浮世絵の美人もしている伝統的な着こなしですが、着物雑誌であれば森田空美風というでしょうね。

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写真4番目も、比較のため昨日も利用した青戸由美江さんの出雲織を合わせてみました。昨日私がいちばん気に言った帯合わせが、今日も通用するか試してみたかったのです。

結果を見ると、青戸さんの存在感がすごくて、帯に多少の絵画性が有ろうが無かろうが、そんなことどうでも良い気がしてきてしまいます。

みなさんは、蝶の有る無し、どちらが好きですか。次回は結論を。
[ 2013/09/12 ] 帯合わせ | TB(0) | CM(2)

千切屋治兵衛の名古屋帯の帯合わせ

第二千四百七十五回目の作品は千切屋治兵衛の名古屋帯の帯合わせです。

昨日紹介した藤岡さんの名古屋帯の帯合わせです。爽やかなペパーミントの地色とすっきりした図案が特長の帯ですが、爽やかなペパーミントの地色は、藍染の紬や茶系の紬に合いやすいですし、すっきりした図案は、ごちゃごちゃ柄の小紋に合いそうです。

そう考えると、単体で絵画的に鑑賞するよりも、帯合わせをして真価を発揮する帯だと思います。
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いちばん上の写真は、林宗平の「越後繭布(えちごまゆふ)」とネーミングされた紬を合わせてみました。越後上布や本塩沢の工房の林織物の先代の宗平さんの時代のものですが、現在も制作されていると思います。「越後繭布」は、玉糸と手紡ぎの真綿とを混ぜて織られたもので、染は草木染、とてもまじめな織物です。爽やかなペパーミントの地色を生かすべく、明るい藍色の紬ということで選んでみました。

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写真2番目は、小岩井工房の上田紬を合わせてみました。小岩井工房は、ちゃんと手織りで織っている工房で、昔から、呉服業界の流通経路を使って販売するよりも、工房でユーザーに直接販売する方が多いと思います。

ネットで情報発信できるようになるとそういう工房が増えるでしょうね。呉服業界はふがいないし、長野県であれば、観光しながら買い物もできます。何より織り手と直接会って、手織りを確認して買えるのがいいですね。

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写真3番目は、青戸由美江さんの出雲織を合わせてみました。「矢絣」という見た通りのタイトルですが、経糸をずらして作る本来の単純な矢絣ではなく、中間色になる経絣とともに真っ白になる経緯絣を併用して、濃淡で奥行きのある作品になっています。

絣の適度なズレを利用して美しいグラデーションをつくっているところも見事ですし、濃い藍にも透明感があって、帯のペパーミントとの相性が良いです。藍に透明感があるということは、おそらく夾雑物を上手く取り除いていて、藍を直接見られる状態になっているということではないかと思います。ようするに、藍染が上手いんですね。

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写真4番目は、今日のいちばんの帯合わせですね。もちろん青戸由美江さんの出雲織です。タイトルは「雪おこしピカッと落ちて霰かな」です。「雪おこし」とは雪雷ともいい、雪が降りながらの雷です。雪国の住人でないと想像もつきませんが、壮絶な風景でしょうね。
[ 2013/09/11 ] 帯合わせ | TB(0) | CM(0)

千切屋治兵衛の塩瀬の名古屋帯

第二千四百七十四回目の作品として、千切屋治兵衛の塩瀬の名古屋帯を紹介します。

実際に制作したのは藤岡さんです。最近ブログを読み始めた方や、ホームページ本体を見ていない方のために、久しぶりに解説しますが、京友禅のメーカーというのは、自前の工場を持っているということはほとんどなく、ほとんど下請けにつくらせています。

その下請けとは、悉皆屋という存在です。消費地における悉皆屋はしみ抜きや仕立てを請け負う業者ですが、産地における悉皆屋は制作者を意味します。悉皆屋は自分で筆を持つわけではなく、各分野の職人をアレンジして制作します。

千切屋治兵衛は、かつては自社工房を持っていましたが、バブル後の不況のさなかにリストラし、その後はすべて悉皆屋を利用するようになりました。しかしながら、もともと自社工房では、糸目型とゴム糸目がメインで、それほど良いものは作っていませんでした。

ようするに、悉皆屋という制度は、経済史的には問屋制手工業に似た古い形態ですが、標準品を効率良く作る近代の工場に対し、芸術要素の強い製品を製造するのに向いた制度なのだと思います。

似たものに「作家」がありますが、1人で友禅も刺繍も箔もできるわけではないのですから、結局は外注を使っているので、悉皆屋の社長と変わりません。作家と悉皆屋のちがいは、下請けに甘んじてメーカーに販売を任せるか、自分をブランド化するかというマーケティングの違いだけですね。

最近は「染匠」という言葉も使われます。メーカーや問屋があまりにもふがいないので、悉皆屋の社長が主導権を握って創作しようという覚悟から生まれた言葉のように思えます。もっとも早い時期に「染匠」を名乗った1人は市川和幸さんの「染匠いちかわ」ですが、実際にブログで情報発信していますものね。

さて、やっと本題ですが、爽やかなペパーミントグリーンの地色に、葉陰と蝶が描かれています。このような図案であれば、葉陰は堰出しの方がすっきりしてよいように思いますが、今回は糸目です。堰出しか糸目かというのは、白い輪郭線があるかないかの問題で、一般には些細な問題ですが、日本の美術史ではかつて大きく論争された問題です。

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いちばん上の写真はお太鼓です

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写真2番目は腹文です

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写真3番目と写真4番目はそれぞれお太鼓の別の部分の近接です。

今日、余計なおしゃべりをしたのは、このような帯は帯合わせをしてから論じるべきだと思うから。その時合わせて輪郭線の問題も。明日は帯合わせです。
[ 2013/09/10 ] 友禅 | TB(0) | CM(0)

藤井絞の男物とされる浴衣

第二千四百七十三回目は、藤井絞の男物とされる浴衣を紹介します。

それぞれ%は違いますが、すべて綿と麻の交織で、普通の綿の浴衣に比べると小千谷縮のような風合いがあります。今回は、男物として使えそうな浴衣を仕入れてみました。

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いちばん上の写真は、墨色地(じつはよく見ると暗緑色)の細かい縞の生地(綿70%、麻25%、レーヨン5%)に、小さなホタル絞りをしたもので、反物の幅を写真の幅として撮ってみました。

ホタル絞とは、原理としては生地に綿を縫い付けて染液に浸けるというものです。綿には染料が浸透しますが、その綿の密度や生地への密着度を加減することで、適度なグラデーションをつくります。しかし、実際の作業は、商品に値札を付ける時に使う樹脂製ののタグピンを使って、生地に丸く切ったフェルトを付けるのだそうです。

いちいち縫い付けるよりも、タグピンをつかった方が作業が早いのでしょうし、大事なことは人が快く感じるグラデーションを作ればよいので、フェルトでも効果は同じなのでしょうね。

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写真2番目はホタル絞りの近接です。

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写真3番目は、水色の地に、交差する直線と四角形の幾何学模様の絞りです。反物の幅を写真の幅として撮ってみました。
生地は綿58%、麻42%ですから、上の生地より小千谷っぽさが強いと思います。

明るい水色というやさしい配色、幾何学模様とは言っても、絞りならではの、過度の丸い柔らかいタッチから、女性的な雰囲気があります。男物として着るのはやや技が要りますね。

男物というのは、地色がグレーか焦げ茶か紺色で、模様は無地か縞であれば、だれが着てもまともな男のままでいられます。しかし、少しでも柄が入ったり、色が明るかったりすると、オカマかヤクザになってしまうのです。

夏のテレビ番組では、男性タレントは結構いろいろな浴衣を着ていますが、それはジャニーズ系だからこそで、普通のおじさんは無理。男が男であり続けるのもまた、多少の努力や才能は必要です。

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写真4番目は、黄緑色の地に、矢の模様の絞りです。反物の幅を写真の幅として撮ってみました。生地は綿70%、麻30%で、写真5番目の拡大で見る通り、紅梅織です。

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矢というモチーフから、男物に使えるかと思いましたが、やはりこの黄緑色はオカマの色ですね。実際の販売は女性が対象になるでしょう。
[ 2013/09/09 ] 絞り | TB(0) | CM(0)

大羊居の訪問着「春秋華映」の帯合わせ

第二千四百七十二回目は、大羊居の訪問着「春秋華映」の帯合わせです。

今回は、世間の慣例通り龍村の帯で合わせてみます。合わせてみた感想は、やっぱり自宅に帰ってきたときみたいで落ち着くなあというところ。今日も昨日と同じく着物の柄と重なる花模様は避けました。

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いちばん上の写真では、「錦秀遺芳文」というタイトルの帯を合わせてみました。平家納経をテーマにした作品です。着物や帯の意匠には、平家納経に由来すると名乗っているものが結構ありますが、実際の模様はそれぞれ違い、どれが平家納経なのかわからないことがあります。

平家納経は33巻あって、それぞれの経巻の「表紙」や「見返し」に装飾があるので、それらに取材すればいろいろな意匠がつくれるのです。この帯のそっくり返った鹿はとくに有名ですが、これは福島正則が修復したときに、俵屋宗達が付け加えた表紙の絵です。
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写真2番目は、「陶楽騎馬文」というタイトルの帯を合わせてみました。イスラム陶器の皿の模様に取材した意匠です。本歌はおそらく出土品で退色していると思いますが、この作品は龍村らしい色で創作的に再現しています。

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写真3番目は、「経巻彩花錦」というタイトルの帯を合わせてみました。タイトルに「経巻」というヒントがあるので、「経巻」の装飾の唐草模様に取材したものだとわかります。着物の華やかさに素直に合わせればこんな帯が良いのででしょうか。

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写真4番目は、「瑞鳥遊園錦」というタイトルの帯を合わせてみました。前回、「公共公園のタイル装飾のよう」と書いた問題作ですが、着物の花模様の華やかさの中で、意外におとなしいかも。

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写真5番目は、「スキタイ歌詠錦」というタイトルの帯を合わせてみました。古代の蛮族の名前を持っているというだけで、個性的かと思ってしまう帯ですが、実際には白地に金糸の模様、上品なパステルカラーというなんにでも合いそうな使い勝手の良い帯です。

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写真6番目は、「錦花春秋文」というタイトルの帯を合わせてみました。着物や帯に多用される鏡裏文をテーマにした帯です。紫の地色がやや個性的ですが、その程度の個性は、着物の花柄が呑み込んじゃっていますね。

ところで昨日、「木の幹よりも、下草の笹の葉の意味が気になる」というメールをいただきました。たしかに、下前の見えるか見えないかの3個だけの笹、唐突ですね。遠慮することもないが、それ以上展開することもない存在です。私はわからないからスルーしていたんですけどね。
[ 2013/09/08 ] 帯合わせ | TB(0) | CM(0)

大羊居の訪問着「春秋華映」の帯合わせ

第二千四百七十一回目は、大羊居の訪問着「春秋華映」の帯合わせです。

華やかな訪問着です。「華やか」というのは、大羊居を語る際のキーワードでもあるのですが、それを若向きと思えば、商品としては多少の矛盾があります。ご存知の通り、このクラスを高島屋で買えば198万円するのですが、そのような着物は成功者へのご褒美であるべきで、これから成功する予定の人が買えるものではないからです。

もちろん、それを買ってもらえる幸運な人もいるでしょうし、そういう時は素直に受け取るべきと思いますが、今回は、幸運でない人のために、できるだけ年輩になってから着られる帯合わせを考えます。

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いちばん上の写真は、とりあえず幸運なパターンとして、お嬢さま、若奥様向けの華陽の綴の袋帯を合わせてみました。素直の綺麗な帯合わせです。帯の意匠は、銀(経糸が白糸、緯糸が銀糸)の綴地に器物文様ですが、箱の1つは極彩色の花鳥文様、もう1つは蒔絵であることを表すような焦げ茶に金の抑えた配色の菊模様で、メリハリのある意匠になっています。

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写真2番目は、坂下織物という、10年以上前に廃業した織屋の綴地の袋帯です。当時のネーミングは「御門綴」でした。複雑な光沢のある地(経糸が白、緯糸が黒糸と金糸)に正倉院に取材したモチーフを創作的に配置したものです。唐花模様がメインですが、よく見るといろんな正倉院裂の模様を取り込んでいて面白いです。

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写真3番目は、河村織物の綴の帯を合わせてみました。上記の華陽や坂下と同じように、地の部分が綴組織、模様部分は絵緯糸による表現で裏に渡り糸があります。抑えた色の横段模様です。この2番目、3番目の抑えた色の帯は、年齢幅を伸ばすのに貢献できないでしょうか。

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写真4番目は、紋屋井関の「御寮織」とネーミングされた袋帯を合わせてみました。白地(経緯ともに白糸で、緯糸に多少金糸)に金糸のみの絵緯糸による模様という、全体のイメージとして明るい金色の帯です。模様は正倉院にある銀平脱の碁石入れです。

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写真5番目は、織悦の袋帯「彩籠目」を合わせてみました。単体で見れば面白みのない意匠ですが、モダンな配色でカバーしています。

たいていの着物は花模様ですから、花籠を連想させる籠目模様は、たいていの着物と意味的なでつながりを作ることができます。おそらくそれを計算した意匠の帯で、重宝なものですね。
[ 2013/09/07 ] 帯合わせ | TB(0) | CM(0)

大羊居の訪問着の続き

第二千四百七十回目の作品は、大羊居の訪問着の続きです。

昨日の「春秋華映」の続きです。菊と牡丹という春秋合わせた競演で大団円かと思ったら、下前のほとんど見えないあたりから、楓の太い幹が現れて、主人公のもう1つの顔が発覚しはじめた、というところまでが昨日の記事でした。

もう1つの顔とは何か、下前から人知れず始まった新たなストーリーはどこへ行くのか、それが今日のテーマです。

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いちばん上の写真は菊部分の近接です。この作品の中で、私がいちばんきれいだと思う部分ですね。

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写真2番目は牡丹の近接です。

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写真3番目は前姿の牡丹の上の方に描かれた菊の花です。脇役的な部分ですが美しいので撮ってみました。

さてここで、昨日の全体の写真を思い起こしてほしいのですが、下前から生えた楓の幹は、そのまま着てしまうと見えないところを通り、上半身で枝を広げます。着物というのは、帯で上下が寸断されますから、上と下は違う画面のようにも見えます。つまり2つの異なるストーリーが展開するんですね。そして上のストーリーは、桜と楓です。

桜と楓もまた「春秋」の関係です。つまり「春秋華映」とは、帯の下の菊と牡丹の関係だけではなく、帯の上の桜と楓の関係も含めた二重の意味だったのです。しかしながら、1つの作品の中に、いきなり関係のない2つのストーリーを盛り込むというのは、統一感が無くて認知症の老人の身の上話のようです。

それを避けるために、下前から幹をつなげてきたのです。ドラマで、全く関係のない事件かと思ったら、前の事件の加害者が今度の事件の被害者であった、とつなげるようなものだと思います。

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写真4番目は上半身後姿(帯の上あたり)の色の濃い八重桜です。とても美しいですが、肩の後ろ側に集まっていて、衿など顔の回りは避けられています。それが絵画とは違う着物の意匠としての配慮ですね。顔の回りをショッキングピンクの花で囲まれたら、オスカル様が登場するシーンみたいで、照れくさくて着られませんものね。


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写真5番目は帯の上あたりの楓で、配色が美しいです。着物の柄における「桜楓」という組み合わせは春秋の意味で使われるものですが、実際の絵は春の青楓ですね。
上半身後姿(帯の上あたり)の八重桜です。

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写真6番目の袖では両者が出会っています。1つの幹から2種類の花や葉が出てはまずいです。しかし、幹を2本描いては着物の意匠としてごちゃごちゃしてしまう。そこで考えられたのが、桜の花を雲の取り方の中に閉じ込めることですね。

友禅の図案では、取り方という便利な道具があって、不自然な組み合わせをする時は、それぞれのモチーフを雪輪や扇面や色紙の中に隔離することができます。

これはかつて友禅染の創始者とされていた扇面画工の宮崎友禅の発案ですから、友禅の歴史の初めからあったといえます。取り方によるモチーフの隔離というアイディアは、友禅の意匠の根幹ということですね。ついでながら、下前の幹を桜でなくて楓と判断したのは、さくらの方が雲形の隔離されていたからです。
[ 2013/09/06 ] 友禅 | TB(0) | CM(0)

大羊居の訪問着

第二千四百六十九回目の作品として、大羊居の訪問着を紹介します。

タイトルは「春秋華映」です。「春秋」は、牡丹と菊が描いてあって春も秋も着られるよ、いうことでしょう。大羊居のような着物は、一生に1枚買えればかなり幸運な人生です。季節によって買い替えることができるとも思えないので、「春秋」は大事なポイントですね。

「華映」も、この作品の雰囲気を見るとおりで、かなり華やかですから年齢について注意が必要でしょう。ただ、実際に着る場は大勢のパーティーでしょうから、地味派手の基準も変わってきます。小さな呉服店の店内で派手と思えた着物も、華やかな会場では普通になってしまうことがあります。

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いちばん上の写真は全体です

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写真2番目は前姿です

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写真3番目は後姿です

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写真4番目は下前を含む後姿です。

ただ華やかな植物を総出演させただけの着物に見えますが、全体の意匠を眺めれば、かなり工夫していることに気が付きます。まず、主役に見える牡丹は、大きいながら意外に数は少なく、蕾を含めて6個です。

大きさでは譲るものの、数と面積で主役なのは菊です。菊と牡丹ははっきり棲み分けされていて、両者が混ざっている場所はありません。図案を整理するということで、意匠上のテクニックですね。ごちゃごちゃした印象になるのを避けることで、「豪華」と「すっきり」という相反する美の要素を両立させているのです。

「豪華」なのに「すっきり」というのは、大羊居の意匠の基本です。「江戸の粋」というと紺やグレーや焦げ茶の地味な縞を連想しますが、「豪華」なのに「すっきり」だからこそ、大羊居は、多色なのに江戸の文化の一部なのだと思います。

下前の、着た時に見えるか見えないかの境あたりに、楓の太い幹がいきなり現れます。絵画でも音楽でも論文でも、テーマを絞ったのが良い作品だと思っている方には、意外ではないでしょうか。

まあこんなものかと思ったとたんの再スタートです。ドラマなら、もうこれで大団円と思ったところで、主人公の意外な過去が発覚したというところ。
[ 2013/09/05 ] 友禅 | TB(0) | CM(0)

藤井絞の辻が花の帯を紅型に合わせてみる

第二千四百六十八回目の作品は藤井絞の辻が花の帯を紅型に合わせてみます。

帯合わせの最難関は紅型です。憧れて買った方もたいてい悩んでいるのではないでしょうか。なぜ難しいかといえば、鮮やかな多色で全面ごちゃごちゃ柄だからですが、さらにそれに加えて顔料なので色が強いからでしょう。柔らかい色の友禅の帯という選択肢は最初からないわけですし、織りの帯でも柄が連続しているのは使いにくいのです。

それともう1つ、買った方にしてみれば、高額品なので相応の帯を合わせたいという期待があるからだとも思います。無地の帯であれば合うわけですが、よほど特殊な素材でないかぎり高いものではないので、紅型とは心理的に合わないのでしょう。

私は、紅型に合うのは、顔料に負けない重厚な織帯で、模様がつながらないように、お太鼓の模様の回りに無地場があるものだと思います。またユーザーを心理的に満足させるように、紅型と釣り合いが取れる程度に高額なことも必要でしょう。イメージとしては細見華岳の綴などですね。

しかしながら、先日、辻が花の帯合わせをしながら、ふと紅型にも使えるのではないかと思いました。染織史的に考えると全く被らない関係ですね。値段もずっと安いわけですが、実際のところどうなのか、着尺に帯を載せて実証してみました。

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いちばん上の写真は、城間栄喜さんの紅型の着尺と合わせています。澄んだ水色地のきれいな作品ですが、意外に帯も負けていなくて自然な組み合わせに見えます。

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写真2番目は、宮城里子さんの紅型の着尺と合わせています。緑系の地色で鮮やかな印象のない作品で、かなり普通の小紋として着やすそうな紅型です。あまり本土の趣味に合わせすぎて、着やすい紅型をつくると、肝心の紅型らしさが薄くなってしまうものですが、この作品については紅型の存在感は失われていませんね。帯合わせについては、全く問題なしと思います。

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写真3番目は、藤村玲子さんの紅型の着尺と合わせています。グレー地ですから、南国イメージの派手モノではありませんが、藤村玲子さんの作品らしく、どんな相手も霞ませてしまう存在感があります。帯合わせとしては難しいところですが、正面からぶつからず上手く力を逃がしたような印象があります。辻が花と紅型の無関係性が功を奏したのでしょうか。

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写真4番目も藤村玲子さんの紅型の着尺と合わせています。透明感のある地色と動きのある模様を組み合わせた作品で、紅型云々というよりも、型染一般として優れた作品としての条件を揃えていると思います。

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写真5番目は、城間栄喜さんの紅型の着尺と合わせています。着物の模様の大きさと帯の模様の大きさが一致してしまうと、ごちゃごちゃ感が生じると思うのですが、この着尺の模様の大きさは帯の模様の大きさと一致しやすく、難しいところだと思います。

模様の大きくすっきりした上の辻が花の帯と合わせればいいのでしょうが、ここではあえて描き絵主体の辻が花と合わせてみました。紅型の豊かな色の世界に対し、色のない墨描きの世界、いかがでしょうか。

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写真6番目は、城間栄順さんの紅型の着尺と合わせています。琉球藍で染めた藍型です。模様の細部がところどころ染料が浸食して消えているので、浸染であったことがわかります。防染糊が溶けはじめる温度と藍が発酵する温度が近いために起こる現象で、ホンモノの証拠でもありますね。

今回は、あえて描き絵だけの辻が花を合わせてみました。濃厚な藍色に対し、細い墨の線ですが、いかがでしょうか。
[ 2013/09/04 ] 帯合わせ | TB(0) | CM(0)

大羊居の訪問着「石橋」の帯合わせの続き

第二千四百六十七回目は、大羊居の訪問着「石橋」の帯合わせの続きです。

大羊居の訪問着「石橋」の帯合わせの続きです。昨日の帯合わせは、いまさら定番の帯合わせである大羊居=龍村を見ていただいての仕方がないということで避けていました。

しかし試しに帯合わせをしてみると、さすがに良く合うんですね。不思議に龍村でさえあれば、色もテーマも関係なく合ってしまいます。まあしょうがない、ということで、今日は龍村を使った帯合わせです。ついでに言えば、私自身は世間の慣習に従うタイプなので、家族に大羊居を着せるときは龍村を合わせると思います。

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いちばん上の写真は、龍村の「瑞鳥遊園錦」というタイトルの袋帯を合わせてみました。銀色地に原色の赤・黄・緑もすごいですが、公共公園のトイレのタイル模様のような意匠も理解しがたい作品です。

しかしながら、手で触ってわかる質感がすばらしく、さすが全面本金の引き箔なんですね。さてそんなあらゆる着物に合わなそうな問題作ですが、写真で見ると、なんとなく合っている気がします。

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写真2番目は、龍村の「鏡花春秋文」というタイトルの袋帯を合わせてみました。帯の地色の紫と着物の地色のクリームが補色的な関係になり、メリハリがきいています。帯のモチーフは鏡裏文ですから、着物との意味的な関連性は、ちょうど良い無関係度合ではないでしょうか。

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写真3番目は、龍村の「陶楽騎馬文」というタイトルの袋帯を合わせてみました。テーマはイスラム陶器ですから全然無関係、地色は黒で模様は原色ですから、最強度のメリハリですね。それでもなんとなく合っています。

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写真4番目は、龍村の「西域舞踊錦」というタイトルの袋帯を合わせてみました。テーマは西域ですから、中国と交流はあっても、山西省の清涼山とは無関係ですね。地色は黒でメリハリがあります。それでもなんとなく合っています。

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写真5番目は、龍村の「錦秀遺芳錦」というタイトルの袋帯を合わせてみました。テーマは平家納経(経巻の表紙や見返しにいろいろな装飾がされてる)ですから無関係、地色は藤色でほぼ補色関係で、適度なメリハリがあります。無難な感じの合いかたですね。

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写真6番目は、龍村の「海老殻間道手」という縞模様の袋帯を合わせてみました。私はこれを選ぶかもしれません。権威的な文芸テーマが、なんだか粋に見えてきます。石橋物は歌舞伎舞踊にも取り入れられていますが、縞と合わせると不思議と能ではなく歌舞伎の石橋物を連想するような気がします。
[ 2013/09/03 ] 帯合わせ | TB(0) | CM(4)

大羊居の訪問着「石橋」の帯合わせ

第二千四百六十六回目は、大羊居の訪問着「石橋」の帯合わせです。

先日の大羊居の訪問着「石橋」の帯合わせを考えてみました。舞台衣装のようにも見えてしまう訪問着ですが、舞台衣装のように見えない帯合わせ、ということを目標にしてみます。

有名な能の演目をテーマにした着物ということで、意味のある帯合わせをしたくなってしまいます。しかしながら、ここではあえて意味を無視した帯合わせをします。石橋、獅子、牡丹など関連したモチーフで合わせてしまうと、ますます舞台衣装のようになってしまいそうな気がしますので。

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いちばん上の写真は、捨松の「ヴィクトリア唐花文」というタイトルの袋帯を合わせてみました。「帯屋捨松」のロゴのない手織りの帯(当時は日本製でしょう)です。ヴィクトリア朝時代のデザインに取材したものでしょう、着物に負けない豪華さを持ちながら意味的につながらないものを選んでみました。

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写真2番目は、捨松の「桃山立沸文」というタイトルの袋帯を合わせてみました。「帯屋捨松」のロゴのない手織りの帯(当時は日本製でしょう)です。オリジナルは桃山時代の唐織の能衣装です。着物の意匠には直接関係ないですが、能つながりで微妙な関係があります。

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写真3番目は、捨松の「帯屋捨松」のロゴのある標準的な袋帯を合わせてみました。選んだ理由は地色の青で、着物に描かれた急流の青と連続し、帯がなにげに着物に溶け込んでいくような帯合わせを考えてみました。

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写真4番目は、大庭の袋帯を合わせてみました。たぶん昭和63年ごろの古いものです。大庭の袋帯は、かつて最高級の引き箔・手織りの帯として知られていましたが、近年ではネットで安く売られているイメージが強いです。この帯はみんながあこがれた時代の品質のものですが、今回選んだ理由は上と同じく地色です。急流と同じ青系にすることで、なにげに溶け込んでいくようにしてみました。

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写真5番目は、太西勇の袋帯を合わせてみました。名物裂の有栖川錦の龍文に取材したものです。龍がモチーフということで、織られたのはおそらく明代の中国でしょう。「石橋」は舞台が中国ということで、緩い関連性を求めてみました。

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写真6番目は、すでに販売しているもので、帯合わせはできないので参考図版なのですが、狩野永徳の唐獅子に取材した池口平八の袋帯です。

「石橋」でありながら、主役の獅子が描かれていないので、帯で付け加えたものです。着物の意匠で足りないものを帯で補強するというのは、帯合わせの極意です。たとえば、早春の梅の着物に対し松の帯を合わせて、竹のバッグを持ち、松竹梅にするような方法ですね。

この場合は獅子の帯を合わせることで能の演目としての石橋が完成しますが、どうでしょうか。大羊居があえて描かなかったものをユーザーが加えて良いのか。作家が行間を読んでほしくてあえて書かなかった言葉を、装丁家が表紙に書いてしまった気もします。
[ 2013/09/02 ] 帯合わせ | TB(0) | CM(2)

藤井絞の辻が花写しの帯の帯合わせ

第二千四百六十五回目の作品は藤井絞の辻が花写しの帯の帯合わせです。

8月22日(二千四百五十五回)で紹介した描き絵主体の辻が花と同じ時期に仕入れた作品です。上杉神社に所蔵されている上杉謙信が着用した小袖の中に、辻が花として分類されながら、絞りのない描き絵だけの作品があります。その描き絵がまた圧倒的に上手いのです。

辻が花とは絞りの小袖のことを指すと思いがちですが、この作品が存在することで、当時の辻が花作家は、ただ美しいものがつくりたいだけであって、絞りにこだわっていたわけではないということがわかるようになりました。上杉謙信がこの1枚が残してくれなかったら、染織史が変わってしまったぐらいの1枚でもありますね。

8月22日の作品は、その描き絵だけの辻が花の様式を踏襲したもので、染織史を解説するような意義ある作品でしたが、現代の商品としてどれだけ魅力があるかわかりません。それに比べて今日の作品は、絞りと描き絵が併用された別の作品を本歌としたものですが、商品としてのバランスが良いのではないでしょうか。

それでも、商品としてウケれば良いという安易な作品ではないんですよ。それは墨で葵を描いた部分です。ここには絞りはありませんから、絞りに対する補足ではなく、あくまで描き絵主体の辻が花の様式を踏襲しているのです。そして、描き絵の上手い下手があからさまになってしまうごまかしのきかない部分ですね。

さて帯合わせですが、帯は、ナチュラル感の強いベージュの地色に藤色と紫を使っていて爽やかさを感じる配色です。本歌は退色して元の鮮やかな色はありませんから、配色は創作と言っていいように思います。帯合わせとしては、この爽やかさを追求したいですね。

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秦荘紬を合わせてみました。水色とベージュの組み合わせはモダンで爽やかですね。帯は薄手の生紬ですから単衣のコーデとしても。

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南部紬を合わせてみました。南部紬とは、佐藤トシさんが岩泉町の一貫工房で織っていた草木染・手織の紬です。もともと地元の製糸工場の人だっただけあって、糸が良いのか手触りがすごくいいですね。水色とベージュの爽やかコーデを追求してみました。
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久米島紬の夏物を合わせてみました。単衣の帯合わせです。着物と帯の色が同系色のベージュですし、帯が生紬地ということで素材感も似ています。質感も色も同系の帯合わせというわけですね。メリハリが足りない感じもしますが、押しつけがましくない都会的な帯合わせとも感じます。
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南風原の大城織物工場(大城哲)の平織の絣(緯糸が真綿)を合わせてみました。格子(沖縄では碁盤(グバン)といいますね)の中に緯絣ですから沖縄伝統の手縞の様式ですね。帯の模様の藤の色を意識して合わせてみました。

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真栄城興茂の琉球美絣を合わせてみました。木綿の藍染の絣で青の濃淡がとてもきれいな作品です。

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大城カメの晩年の作品です。上から4番目の大城哲さんの祖母です。
[ 2013/09/01 ] 帯合わせ | TB(0) | CM(0)