花也の刺繍と白揚げ友禅の名古屋帯

第三千七百六回目の作品として、花也の刺繍と白揚げ友禅の名古屋帯を紹介します。

刺繍は、先日の付下げと同じ鹿児島寿蔵の人形の衣装に使われている模様に想を得たものです。白揚げ友禅は、寺などにある石畳を意匠化したものではないかと思います。ただ「石畳文」または「石畳模様」と言ってしまうと市松模様と同じ模様を意味することになってしまうので、名前を付けにくいです。

石畳文と市松模様は同じパターンですが、私のばあいは、遠州緞子のように佐野川市松より前のものに付いては「石畳文」、佐野川市松以後のものについては「市松模様」と分けて表記しています。

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いちばん上の写真はお太鼓です。刺繍は5個でお太鼓の中に納まりますが、石畳の模様はお太鼓をはみ出しています。無駄なようですが、お太鼓の中だけで納めようとすると絵が縮こまることがあるので、このようにはみ出す表現をしたのだと思います。ドガの競馬の絵でも、わざと馬が途中で途切れる表現をしたものがありますね。

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写真2番目は腹文です。刺繍は片側だけですね。実際に締める時は折るわけですが、友禅は見えないところに描いて無駄にしても、コストの高い刺繍は惜しいわけです。

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写真3番目は近接です。石畳部分を見ると、四角い模様の縁に乳白色の部分があります。ちゃんと糊糸目を置いているようです。

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写真4番目は近接です。

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写真5番目は近接です。他の箇所では刺繍と友禅が重なることはありませんでしたが、全体でここだけ模様が重なっています。模様を多く見せるには、重ねないで面積を稼ぐ方が良いですが、多少は面積を犠牲にしても模様を重ねた方が、意匠に遠近感が出て奥行きが生まれます。

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写真6番目は裏側です。刺繍の技法がわかります。
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[ 2017/04/05 ] 繍箔 | TB(0) | CM(0)

千切屋治兵衛の着尺の帯合わせ

第三千六百九十二回目は、千切屋治兵衛の着尺の帯合わせです。

今日は染めの名古屋帯を合わせてみます。今回の着尺は、縮緬と比べれば薄手でありながら縮緬よりむしろしっかりした生地なので、単衣にも使えそうな気がしますが、その一方で晩秋にちょうど良いような焦げ茶です。チグハグとも言えますが、帯合わせで面白い使い方ができるとも言えますね。、

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いちばん上の写真は、野口の友禅の名古屋帯を合わせてみました。しぼの大きい縮緬地を使っています。秋に着ることを想定してみました。

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写真2番目は、一の橋の金、銀描きの名古屋帯を合わせてみました。本歌の作者は俵屋宗達で、光悦の謡本の下絵です。このばあいの「下絵」は和歌の下に描いてある絵です。銀描き部分は馬にも見えますが、安心してください、ちゃんと全部鹿です。鹿には季節はありませんが、楓とセットで描かれることが多いので秋のイメージですね。

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写真3番目は、千切屋治兵衛の友禅の名古屋帯を合わせてみました。実際に制作したのは野村さんで、生地は紬地です。

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写真4番目は、千切屋治兵衛の友禅の名古屋帯を合わせてみました。実際に制作したのは藤岡さんで、生地は塩瀬地です。描かれているのは柘榴と桑です。柘榴は花は初夏ですが実は秋です。輸入品が多いので意味がないかもしれませんが、八百屋で見るのは秋の後半ですね。

一方、桑は染織関係ではカイコの餌でしかないので、実について論じる人はいませんが、春だそうです。春と秋のコンビで季節に幅広く対応できる意匠だったのです。パッと目に入るのは柘榴のみですし、地色も秋っぽいので、秋が主、春はアリバイづくり程度でしょうか。

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写真5番目は、千切屋治兵衛の友禅の名古屋帯を合わせてみました。実際に制作したのは藤岡さんで、生地は塩瀬地です。焦げ茶色でも春用として使ってみました。ペパーミントグリーンと焦げ茶の配色は綺麗ですよね。

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写真6番目は、花也の友禅の名古屋帯を合わせてみました。これは春使用、水色と焦げ茶の配色です。

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写真7番目は、秀雅の友禅の名古屋帯を合わせてみました。実際に制作したのは大松です。花は菊が多く秋ということになりますが、綺麗な水色地で華やかな印象なので、吉祥としての菊で季節はないと言うことでしょう。
[ 2017/03/22 ] 繍箔 | TB(0) | CM(0)

花也の付下げ「斜め変わり波に寿蔵文」の細部

第三千六百七十四回目は、花也の付下げ「斜め変わり波に寿蔵文」の細部です。

いつも紹介している倉部さんの刺繍に比べれば、刺繍の量が多いわりに値段がリーズナブルで、お得感が強い作品です。ただし刺繍の量は多いですが全て同じ形で、後姿に珍しい技法を発見した、というような楽しみはありません。

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いちばん上の写真は、刺繍部分の近接です。

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写真2番目は、上の刺繍をルーペで見てみました。

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写真3番目は、銀糸も使った刺繍の近接です。

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写真4番目は、上の写真をルーペで見てみました。

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写真5番目はさらに拡大してみました。

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写真6番目は裏側です。
[ 2017/03/04 ] 繍箔 | TB(0) | CM(0)

花也の付下げ「斜め変わり波に寿蔵文」

第三千六百七十三回目の作品として、花也の付下げ「斜め変わり波に寿蔵文」を紹介します。

「変わり波」となっていますが、テープ模様のように見えます。このような意匠は、能衣装である「桂帯」というタイトルにして、テープ自体を取り方にして有職文様など入れることが多いですね。

「寿蔵文」というのは聞きなれない言葉だと思いますが、紙塑人形の人間国宝である鹿児島寿蔵の作品に使われている模様の一部に取材したものです。花也さんは律儀なので、タイトルで本歌を明かしてくれています。

着物、特に訪問着の意匠というのは、1つまたは2つのモチーフを繰り返すものと、次々に新しいモチーフが登場して物語的に展開していくものとがあります。この作品は前者ですね。このようなブログで各部の模様を解説していくときは、後者のような作品の方が楽しいですが、着てお洒落かどうかというのはまた別の問題です。私はモチーフは絞り込んだ方がすっきりして良いと思いますけどね。

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いちばん上の写真は、前姿(マエミ+オクミ)です。前姿に京繍8個と値段の割に気前が良いです。

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写真2番目は後姿です。後姿には京繍6個です。模様の形は全部同じで色だけが違うように思いますが、大きさも違うようですね。

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写真3番目は袖です。袖には京繍3個です。

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写真4番目は胸です。胸には京繍2個です。
[ 2017/03/03 ] 繍箔 | TB(0) | CM(0)

千切屋治兵衛の付下げ(実際の制作は倉部さん)の細部

第三千六百五十九回目は、千切屋治兵衛の付下げ(実際の制作は倉部さん)の細部です。

今日は後姿の3つの模様の細部です。

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いちばん上の写真は、後姿の上の模様です。緯糸に沿って地を埋めるように繍っている部分と一目置く菅繍で繍っている部分があります。地を埋めた部分は完全に金色ですが、菅繍部分は一目置くために金色と地色が混じって暗い金色に見えます。その明暗の差によって模様に遠近感が生じています。

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写真2番目は、後姿の上の模様に近接して、刺繍の立体性がわかりやすいように斜めから撮っています。

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写真3番目は、後姿の波の模様です。宗達の松島図を簡略化したような意匠です。このような絵画的なテーマは刺繍より描き絵の方が表現しやすいのではないでしょうか。

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写真4番目は、後姿の途中で切り替わる模様を斜めから撮ってみました。半分は有職文様である立湧文、もう半分は霞と流水と桜です。パターン的な文様部分は刺繍で絵画的な部分は金描きです。やはりテーマと技法で相性があるんですね。

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写真5番目は、マエミのメインの模様の裏側です。模様は金糸の刺繍と金描きが混じっていますが、金描きも上手いので、どこまでが刺繍でどこからが金描きか判別しにくくなっています。裏から見るとしっかり判別できますね。

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写真6番目は、マエミの下の方の模様の裏側です。比較してみてください。金糸の刺繍と金描きが判別できます。意外に金描き部分もあるとわかります。金描きの方がコストが安いわけですから、両者を判別不能にして、金描き比率を高めることができれば、コストを抑えられるわけです。そのために必要なのは優れたデザインです。

私は自分で注文して作るときは、どういうデザインにしたら金描きと金糸の刺繍を判別不能にできるか、そんなことばかり考えているんですよ。豪華なのに意外と安い、という商品は売れますから。

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写真7番目は、袖の模様の裏側です。この作品を取り上げた最初の日の記事に、この部分の表側の写真があります。ぜひ比較してみてください。
[ 2017/02/17 ] 繍箔 | TB(0) | CM(0)