東京刺繍の帯の続き

第三千七百七十五回目は、東京刺繍の帯の続きです。

個別の模様の近接の続きです。このような作品の魅力は、個別の模様ですから、今日は細かいところを見てください。

IMG_08442.jpg
いちばん上の写真は、お太鼓にある個別の模様の近接です。車輪がついている大型の楽器です。撥を持っているので太鼓なのでしょうか。ヨーロッパの街の縁日の風景だと思いますが、そのような意匠では、音が出る楽器を持った人を含めると、見た人が音を感じるようになります。

IMG_08482.jpg
写真2番目は、お太鼓にある個別の模様の近接です。子供も欠かせない要素ですね。子育てを経験した人は感情移入しやすいのでは。

模様の表現ですが、どの模様も色糸を使って面を埋める刺繍をしつつ、金糸のまつい繍で細部の線表現をしています。面を埋める刺繍はすべて地の目に沿っていますが、生地が垂れない配慮でしょうか。面を埋めることでボリュームを感じさせるのと、線表現で細密さを感じさせるという対照的な2つの技法で、絵として魅力にあるものにしているのです。

IMG_08492.jpg
写真3番目は、お太鼓にある個別の模様の近接です。ガス灯で、梯子はガスに点火するためのものでしょう。芸能人のヘタウマなえのような表現ですが、これが温かみを生んでいます。

IMG_08522.jpg
写真4番目は、腹文にある個別の模様の近接です。コンバーチブルの自動車でしょうか。これだけは線表現が多いですね。

IMG_08532.jpg
写真5番目は、腹文にある個別の模様の近接です。自動演奏の機械でしょうか。この模様は綿を埋める表現が多いです。線表現が多い自動車の隣にあるので、この2つでバランスをとっているんじゃないかと思います。なんでも一生懸命たくさん仕事をすればよい、という発想だととても高いものになってしまいます。一生懸命やるところ、少し休むところ、緩急自在っていうのも刺繍作家のセンスですね。

IMG_08552.jpg
写真6番目は、腹文にある個別の模様の近接です。私はこれがなんだかわからないんですよ。

IMG_08562.jpg
写真7番目は、お太鼓の模様の裏側です。
スポンサーサイト
[ 2017/06/13 ] 繍箔 | TB(0) | CM(0)

東京刺繍の帯

第三千七百七十四目は、東京刺繍の帯を紹介します。

今回はメーカー名やブランド名はありません。実際の制作は東京のどこかで行われていて、それを問屋さんが集めて、主に他の問屋さんに販売しています。そのような問屋を仲間問屋と言います。東京にも知られている刺繍工房はありますが、そういう工房を退職したり卒業したりした人が、自宅で内職として制作することもありますから、誰がつくっているのかわからないのです。

刺繍の工房で働いている人は女性が多いですから、結婚や妊娠を契機に辞めて、子育てが終わった後に自宅で始めるというケースが多いのではないでしょうか。工房は経ず問屋と直接契約し、問屋は制作者の氏名は明かさないのです。それが分ったら小売屋やユーザーが直接仕事を頼んでしまい、問屋が成り立ちませんから。

そのようなことができるのが、刺繍という技法の特徴なのです。友禅であれば水洗とか蒸しとか一定の設備が要りますし、大量に残った染料を捨てるばあいは工業地域あるいは準工業地域でなければなりません。地染めをするには長さ12mの作業場が無いとムラになってしまいますしね。その点、刺繍は突き詰めれば針だけですから。場所も要らない、元手も要らない、仲間も要らない、自分の技術とセンスだけなのです。

というわけで、この作品も誰がつくっているのか全然わかりません。ただ分かっていることは、元締めになっている問屋が東京にいて、京都の問屋にも貸し出していることです。京都の問屋、例えば野口でこんな作品を見たら、刺繍の本場の京都には面白いものがあるなんて思ってしまいますが、じつは東京だったということもあるわけです。

IMG_08382.jpg
いちばん上の写真はお太鼓です。縁日に移動サーカスが来たような楽しい雰囲気です。ヨーロッパのお祭りだと移動式の回転木馬が来たり、大道芸人が来たりしますよね、そんな情景でしょうか。

個人で創作している人にとって、いちばん難しいことは魅力のある図案を手に入れることだと思います。技術は工房で鍛えているので、多少歳を取ったって劣化することはないでしょう。デザインも自分が感動したものをそのまま表現すれば良いものができるでしょう。しかし業として日々制作していくときに、毎回、人を喜ばせる図案を思いつき続けることができるでしょうか。

野口や洛風林のようなセンスが売りの会社は、展示会では毎回、みんなの期待を裏切らないデザインを発表し続けます。それはデザインを生み出す組織を持っているか、複数のプロのデザイナーと契約していて、デザインについてしっかりお金を払っているからだと思います。個人はそれができません。お風呂で思いつけばタダですが、毎回思いつくとは限りませんから。

今回の作品はとても楽しい雰囲気で私は大好きですが、こういうのって、じつは何十本の中から選んでいるんですよね。この仲間で、前回良いなと思ったのは、いろんな種類の鳥、その前は香水瓶です。じつは1年に1回も出会ってないのです。

IMG_08502.jpg
写真2番目は腹文です。

IMG_08432.jpg
写真3番目から下は、個別の模様に近接してみました。

IMG_08452.jpg
写真4番目はお太鼓にある個別の模様です。汽車です。

IMG_08462.jpg
写真5番目はお太鼓にある個別の模様です。飛行機ですね。

IMG_08472.jpg
写真6番目もお太鼓にある個別の模様です。気球で飛んでいる人でしょうか、大道芸人でしょうか。
[ 2017/06/12 ] 繍箔 | TB(0) | CM(0)

千切屋治兵衛の名古屋帯「高砂」(実際の制作は倉部さん)の続き

第三千七百三十三回目は、千切屋治兵衛の名古屋帯「高砂」(実際の制作は倉部さん)の続きです。

IMG_91322.jpg
いちばん上の写真は、お太鼓の近接でメインの模様です。細かいところにかなり近接した画像です。金描きで写生的な表現をしています。塩瀬の生地の目と比較していただくととても細密なことがわかります。この職人さんの技術は凄いですね。

IMG_91232.jpg
写真2番目は、お太鼓の近接で色紙の重なる部分です。色紙の輪郭線は、端正というよりも意外と手描き感のある温かみのある線です。青い色紙には、振り金砂子(箔の切り屑を細かくして竹筒に入れ、オトシ刷毛で揉み落として砂子状に撒くもの)またはオトシぼかし(金網を使って霧状に金粉を撒く方法、現在はエアブラシも多いのではないか?)という技法が多用されています。一方、茶の色紙には切箔といわれる、いろいろな形に切った箔を撒く技法が使われています。

今ここで、「切箔」「振り金砂子」「オトシぼかし」という3つの金箔の技法を紹介しましたが、これらは大きさの違いで、たいていは併用されることが多いです。箔を貼るときは模様の形に切って不要な部分が生じますが、それを細かくして切箔として使い、さらに細かくして金砂子として使い、さらに細かくしてオトシぼかしとして使うのでしょう。たいていすべて併用して1つの作品になっているものです。

IMG_03092.jpg
写真3番目は腹文の近接です。書道で文字がかすれた部分を飛白といいますが、この作品では金描きの松の枝で意識的に飛白表現をしています。「高砂」では、図像学的には老松であるべきですが、この作品では若松になっています。実際に作品を見ると、この部分は老松の曲がりくねった枝を描くよりは、若松の方がお洒落ではないかと感じます。あまり「高砂」のテーマに忠実すぎると結婚式専用みたいになってしまいますしね。

IMG_91242.jpg
写真4番目は、お太鼓の裏側です。金描きは裏に透けないので、友禅部分だけが見えます。金描きをする前の工程ではこんな感じだったんですね。

IMG_02782.jpg
写真5番目は、色紙の青を生かした帯合わせをしてみました。合わせた着物は松枝哲哉さんの久留米絣です。藍が明るいのが特徴で、色に共通性が有るので選んでみました。
[ 2017/05/02 ] 繍箔 | TB(0) | CM(0)

千切屋治兵衛の名古屋帯「高砂」(実際の制作は倉部さん)

第三千七百三十二回目の作品として、千切屋治兵衛の名古屋帯「高砂」を紹介します。実際に制作したのは倉部さんです。

能の演目である「高砂」をテーマにした作品です。高砂のストーリーはこんな感じです。阿蘇神社の神主が京に上る途中の播磨の国高砂の浦で、松の根元を掃き清める老夫婦に出会います。二人は、この松は高砂の松といい、摂津の国住吉にある住の江の松と合わせて「相生の松」と呼ばれていると語ります。さらにこの二人は高砂と住吉の相生の松の化身であると告げるというものです。

IMG_91202.jpg
いちばん上の写真はお太鼓です。相生の松の化身である2人は省略され、持っている道具だけで象徴的にあらわされています。その道具は色紙取りで表現されていますが、色紙は夫婦なので2枚です。上の青い色紙は2人がいる高砂の浦の景色ですから、下の茶色い色紙は住吉の景色なのでしょう。今2人は高砂に居るので、こちらは留守なのでしょうか。

能のストーリーでは、神主は老夫婦の後を追って舟を出し、高砂の浦から住吉へ向かいます。住吉の岸では住吉明神が姿を現し、真って長寿を寿ぎます。下に有って見えない色紙には、住吉明神が描かれるのかもしれませんね。

色紙の外には2本の松が描かれていて、これが高砂の松と住吉の松だろうと見当が付きますが、能の内容と違うところは化身の姿が老夫婦なのに松が若松であることです。まああんまり細かいこと言わないで、というところでしょうか。

IMG_91292.jpg
写真2番目は腹文です。金描きによる霞と松です。意味のあるお太鼓の模様に対し、さらっと流す感じです。

IMG_91222.jpg
写真3番目は、お太鼓の近接です。この作品は色紙の青がすごく綺麗なのですが、近接してみるとそれほど鮮やかな青ではないです。外の茶と中の金に挟まれているという配色の妙で、美しい青に見えているのです。

IMG_91282.jpg
写真4番目は、腹文の近接です。

IMG_91162.jpg
写真5番目は参考図版です。安藤広重による双福の作品で、数十年前の図録に有ったもので、解説によると広重が晩年に逗留した天童市に伝来したとあります。これが高砂の基本の図像で、省略された元の人物はこんな感じだったんですね。
[ 2017/05/01 ] 繍箔 | TB(0) | CM(0)

花也の刺繍と白揚げ友禅の名古屋帯

第三千七百六回目の作品として、花也の刺繍と白揚げ友禅の名古屋帯を紹介します。

刺繍は、先日の付下げと同じ鹿児島寿蔵の人形の衣装に使われている模様に想を得たものです。白揚げ友禅は、寺などにある石畳を意匠化したものではないかと思います。ただ「石畳文」または「石畳模様」と言ってしまうと市松模様と同じ模様を意味することになってしまうので、名前を付けにくいです。

石畳文と市松模様は同じパターンですが、私のばあいは、遠州緞子のように佐野川市松より前のものに付いては「石畳文」、佐野川市松以後のものについては「市松模様」と分けて表記しています。

IMG_71332.jpg
いちばん上の写真はお太鼓です。刺繍は5個でお太鼓の中に納まりますが、石畳の模様はお太鼓をはみ出しています。無駄なようですが、お太鼓の中だけで納めようとすると絵が縮こまることがあるので、このようにはみ出す表現をしたのだと思います。ドガの競馬の絵でも、わざと馬が途中で途切れる表現をしたものがありますね。

IMG_71442.jpg
写真2番目は腹文です。刺繍は片側だけですね。実際に締める時は折るわけですが、友禅は見えないところに描いて無駄にしても、コストの高い刺繍は惜しいわけです。

IMG_71362.jpg
写真3番目は近接です。石畳部分を見ると、四角い模様の縁に乳白色の部分があります。ちゃんと糊糸目を置いているようです。

IMG_71372.jpg
写真4番目は近接です。

IMG_71482.jpg
写真5番目は近接です。他の箇所では刺繍と友禅が重なることはありませんでしたが、全体でここだけ模様が重なっています。模様を多く見せるには、重ねないで面積を稼ぐ方が良いですが、多少は面積を犠牲にしても模様を重ねた方が、意匠に遠近感が出て奥行きが生まれます。

IMG_71492.jpg
写真6番目は裏側です。刺繍の技法がわかります。
[ 2017/04/05 ] 繍箔 | TB(0) | CM(0)