千ぐさの色留袖の続き

第三千七百七十三目は、千ぐさの色留袖の続きです。

今回修理した色留袖は、江戸時代後期に流行した蔓模様小袖に想を得たものです。世界的にアールヌーヴォーが流行る100年近く前、なぜか日本に曲線の植物模様が流行しました。最初は蔓植物を選んで模様にしたのかもしれませんが、やがて菊とか楓とか杜若のような蔓ではありえない植物まで蔓のような曲線で表現するようになりました。曲線の植物模様が雪持ちになっている例もあり、この作品はそれを写したと思われますが、鴛鴦を加え、雪が止んだ朝の池の景色にしたのは創作です。

雪に金加工がしてあって、部分的に金色に光っています。雪に朝日が当たってキラキラ光っているからで雪はすでに止んでいることがわかります。葉に乗った雪も水分を多く含んでもう溶けかかっています。その雪の形もちゃんと写生されていますね。鴛鴦は5羽です。本歌の小袖では植物の背景は地染めだけですが、水鳥がいることで背景は水面ということに変わっています。

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いちばん上の写真は、オクミの鳥です。重厚なあしらいをしていて前姿のアイキャッチポイントになっています。よく見ると縫い目の近くが少し地色が濃い痕跡が残っています。友禅というのは蒸して発色するわけですから、直すときは別の色で直していて、蒸してから色が一致するわけです。しかし完璧な予想はできないので、多少うっすらわかるところがあるのではないかと思います。今後は、仕立てた後に、縫い目近辺を中心に色刷毛という方法で直します。直すというより調整という感じですが、それで完全に直るでしょう。

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写真2番目はマエミの鳥です。色が地味なメスの方が前を泳いでいるようですし、表情が生き生きしているように見えます。

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写真3番目は後姿ですが、背中心の手前側ですね。今回の修復では、全体が縫い目の奥のやけていなかった本来の色に戻りました。鳥の周辺は私が思っていたよりくっきりしていて、私が知ったつもりでいたものより綺麗でした。

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写真4番目も後姿ですが、背中心を越えた向こう側です。あしらいもなくメスで色も地味ですが、溌溂としていて、私にはこの鳥がいちばん魅力的に見えます。この作品ではオスは全て不活発、メスは全て生き生きしています。この着物を選ぶのは女性ですから、作者は女性に配慮しているんじゃないでしょうか。その辺も図案のテクニックかもしれませんね。

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写真5番目は、マエミの模様の重心がある部分です。唐突に菊が現れたりしてけっこう不自然ですが、これは本歌である小袖を忠実に写したものです。変だなんて思わないで、江戸時代の人の感性をそのまま受け入れればいいと思います。

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写真6番目は参考図版で、元になった蔓模様小袖です。今回この色留袖は、袖に金描きで加工して訪問着化する予定です。袖にどのような模様を付けるかと考える時、袖に模様がある元の小袖を復活させればいいわけで、その通りにはできないですが、参考にはなるわけです。私は、この小袖の中ほどから生えている蔓の束を小さくして、袖の裾から生やしたら良いように思います。
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[ 2017/06/11 ] 友禅 | TB(0) | CM(0)

修繕が完了した千ぐさの色留袖

第三千七百七十二回目は、千ぐさの色留袖を紹介します。

かつて北秀で仕入れたものです。後に販売するにあたって絵羽を解いたところ、見えていた部分と縫い目の奥で陽に当たらなかっところの色の差が激しく、かなりヤバい商品をつかまされていたことを知りました。写真で見てわかるとおり、絵画的にはとても魅力的な作品です。しかしその一方、雪持ちということで季節限定ですから売りにくいです。そのためあちこちの展示会で貸し出され、どこでも客寄せに壇上に飾られてライトを当てられたのでしょう。

返品するか、北秀の責任で直させればよいのですが、そのときすでに北秀は破産していて文句を言う相手もいませんでした。今回、この難度の高い仕事を引き受けてくれたのは千切屋治兵衛の野村さんですが、けっこうお金もかかりました。模様部分全部を縁蓋で防染して染め直したのです。今回めでたく新装なりましたので、ぜひ見てください。今日は裾模様一周です。

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いちばん上の写真は、前姿(マエミ+オクミ)です。

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写真2番目は、マエミ~脇縫い辺りです。

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写真3番目は、後姿です。中央の縫い目が背中心です。

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写真4番目は、身頃~下前です。
[ 2017/06/10 ] 友禅 | TB(0) | CM(0)

花也の夏の名古屋帯「流水に色紙取り撫子」の細部

第三千七百六十三回目は、花也の夏の名古屋帯「流水に色紙取り撫子」の細部です。

今回の作品は、個性のある変わり織の生地に友禅染を重ねたものですから、今日は両者の関係をテーマにしてみたいと思います。

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いちばん上の写真は、腹文の片側です。花のある側で、たいていの方はこちらを表に出すでしょう。着物の意匠は、モチーフは同じであっても、それを全体に散らす場合と一か所に集中させる場合があります。集中させる場合はその模様よりもむしろ模様のない部分が重要です。模様が集中する着物は余白の多い着物になるわけで、模様面積を抑制して着ている人間を主役にする着物とも言えるからです。

模様を集中させる装置が取り方で、この帯ではメインのお太鼓が色紙取り、サブの腹文が散らす模様と両方見せてくれています。帯ということで、元々面積が小さいから効果は限定的ですが。

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写真2番目は、腹文の片側です。お太鼓の模様を見ると、生地の紋織は横段で、水平の流水模様と馴染んでいます。しかし帯の構造上、お太鼓で横段だった紋織のパターンは、腹文では縦縞になってしまいます。それで水平であるべき流水との間で辻褄が合わなくなるんですね。これはどうしようもないですね。

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写真3番目は、生地を拡大してみました。紋織部分は2種類ですが、これは一見、沖縄の花織みたいに見えるところです。ちゃんと見ると違いますね。表裏完全に同じです。

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写真4番目は、生地を拡大してみました。3本ずつ束ねて紗のように織っているのがわかります。束どうしの間には隙間が空いているので、やはり紗で夏の生地だとわかります。しかしこうしてみると、絹地というより顕微鏡で見る微生物か、侵略してくるインベーダーのように見えますね。

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写真5番目は、生地を拡大してみました。紋織と友禅の模様が重なる部分です。今回の作品は3本束ねた紗の上には模様が無く、花織のように見える紋織の上には友禅模様が有ります。生地に凹凸があって立体的な紋織の上に友禅の模様を乗せると、絵に陰影が付いているような錯覚が生じることがあります。

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写真6番目は、生地を拡大してみました。紋織の上に箔を置くとどうなるか撮ってみました。案外しっかり被さっていますね。凹凸のために光の反射に差が出て、面白い視覚効果を上げています。
[ 2017/06/01 ] 友禅 | TB(0) | CM(0)

花也の夏の名古屋帯「流水に色紙取り撫子」

第三千七百六十二回目の作品として、花也の夏の名古屋帯「流水に色紙取り撫子」を紹介します。

変わり織の生地に、色紙取りにした撫子と流水を描いたものです。安田様式の訪問着では、取り方の中に多色の重厚な模様を入れ、取り方の外側は白揚げの波などをあっさり描くことで、豪華と洗練を両立させますが、それを帯のお太鼓に移した意匠ということになります。

生地は、横段のパターンに沖縄の花織のように見えるパターンの紋織が入っています。花也さんが特注しているオリジナルの生地で、30反発注すれば生地屋さんが織ってくれるそうです。一応夏物と考えていますが、絽や紗のように生地に隙間が空いているわけではありませんから、夏物ではないのかもしれません。持っている30人が勝手に解決めればいいことですから、単衣用などと解釈して使っても良いと思います。ただしこれは撫子が描いてありますから、それが矛盾しない時期に。

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いちばん上の写真はお太鼓です。色紙は3色で6枚です。色紙ではなく多角形にも見えますが、段文である変わり織部分で模様が切れているんですね。そこに水面があって、色紙が水に浸かっているのでしょうか。普通に見ていると見過ごしてしまいますが、けっこう謎や矛盾が有ったりします。

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写真2番目は腹文です。腹文の撫子は色紙取りになっていません。取り方に模様を閉じ込めない、自由に広がるパターンです。実際に締める時は撫子か流水を選ぶことができます。

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写真3番目は、お太鼓の近接で、焦げ茶色の色紙を撮ってみました。撫子は友禅、背景の萩は線描きの友禅です。撫子の1つは豪華な金彩で、赤い色挿しをして装飾的な表現になっています。

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写真4番目は、お太鼓の近接で、水色の色紙を撮ってみました。水色と茶色の色紙が重なっている部分は、よく見ると撫子がはみ出していたりして、絵として矛盾しています。

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写真5番目は、お太鼓の近接で、黄緑色の色紙を撮ってみました。
[ 2017/05/31 ] 友禅 | TB(0) | CM(0)

花也の付下げ「道長取り更紗模様」の細部

第三千七百三十九回目は、花也の付下げ「道長取り更紗模様」の細部です。

今日は迷宮感覚を味わっていただくように細部を近接で撮ってみました。

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いちばん上の写真は細部の近接です。更紗模様の背景に斑点の模様が有りますが、これが単なる更紗を越えた濃厚な感覚を生んでいるのだと思います。技法としてはダンマル描きで、蝋染特有の半防染という特質を生かしているために、くっきりした友禅と共存できているとともに、遠近関係が成り立ち絵に奥行きが生じているのです。

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写真2番目は細部の近接です。一部の花や葉の輪郭は、友禅の白い糸目ではなく青い輪郭線になっています。これは仕上げ段階で糸目の上から筆で描かれたもので、技法で言えば辻がなどにつかわれる「描き絵」です。

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写真3番目は細部の近接で、斜めから撮ってみました。一部の輪郭線は銀彩になっています。普通の友禅であれば金彩にするところですが、青系に合わせるため銀彩になっています。そのため涼し気な感じも生じ、単衣で着られそうです。

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写真4番目は細部の近接です。着物雑誌の写真のように生地にしわを寄せて撮ってみました。

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写真5番目は細部の近接です。マエミ辺りで、花弁に銀糸のあしらいがあります。

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写真6番目はほぼ同じ場所の比較です。比較のために多色作品のほぼ同じ場所の写真を掲載してみました。こちらは熱帯雨林に紛れ込んだような雰囲気です。

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写真7番目は細部の近接です。

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写真8番目は同じ場所の比較です。チラッと見ただけでは、同じ図案だということは気が付かないのではないでしょうか。
[ 2017/05/08 ] 友禅 | TB(0) | CM(0)