紫紘の袋帯「七条織成樹皮色袈裟」

第三千九百三十八回目は、紫紘の袋帯「七条織成樹皮色袈裟(しちじょうしょくせいじゅひしょくのけさ)」を紹介します。

七条織成樹皮色袈裟は、正倉院御物すなわち聖武天皇遺愛の品で、国家珍宝帳に記載されているものです。正倉院展にも出品されたことがあり、それを見て商品化を思いついたのではないでしょうか。色も模様も地味ですが、大仏を造ってしまうほどの人が、自分の宗教用の衣装として織らせたものですから、じつは正倉院御物の中でも最高の宝なんじゃないでしょうか。大仏開眼の日に着たかもしれませんし。

本歌についてはこれを参考にしてください
http://shosoin.kunaicho.go.jp/ja-JP/Treasure?id=0000010003
織成というのは、綴の発展形で綴の弱点である「はつり孔」を無くしたものです。現代の伝統工芸展では「織成」ということで作品を発表している作家がいますが、日本の染織史では「織成」はこれ1点しかありません。

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いちばん上の写真は、帯の幅を写真の幅として撮ったものです。今回の帯は、組織はもちろん織成ではなく絵緯糸で模様を表現する普通の西陣織です。本歌を再現したわけではなく、本歌のイメージを生かしたという程度です。

出家した僧侶は財産を持ちませんから、衣服もボロボロであるべきということで、袈裟はボロ布を縫い合わせた構造になっています。しかし仏教も組織が大きくなればその精神も形式的になり、高位の僧侶は高価な裂をわざと切って縫い合わせるような袈裟を着ることもありました。この袈裟は天皇が着るものですから、複数の裂が縫い合わされているように見える1つの裂として織られています。

そのような意匠には絵画性が高い(色が自由に変えられる)綴が向いているわけですが、より細かく色を替えようとするとはつり孔だらけになってしまいます。そのため自由に色を替えつつはつり孔も生じない織成という技術が採用されたのです。正倉院時代の後は、近代まで織られなかったということはそれだけ難度の高い技法ということです。そのように書けば、この意匠の意味も織成で織られている意味も理解していただけるのではないでしょうか。

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写真2番目は近接です。海の水面のように見えます。「七条織成樹皮色袈裟」なんて言わないで、水面を写生的に表現したとか言った方が作品としても魅力があったのではないでしょうか。この袈裟は、織られた直後はもっと色が華やかだったと思いますが、1300年経って退色しているはずです。この帯はこの袈裟の現在の状態をイメージして織られています。点々も元はないはずですが、正倉院展で現物を見るとそう見えるのでしょう。

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写真3番目は、もっと近接してみたところです。点々は絵緯糸による模様表現でした。

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写真4番目はルーペで拡大してみたところです。模様の上に撚金糸を格子のように織り込んでいます。それによって全体が金の輝く靄に覆われたように見えています。それがなければただの年輩者向きの帯になってしまうのだと思います。金の靄に覆われることで、地味でも華やかになっているのです。それは帯合わせでどういう効果を発揮するでしょうか。

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写真5番目は、別の箇所をルーペで拡大してみたところです。
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[ 2017/11/24 ] 西陣・綴 | TB(0) | CM(0)

紫紘の袋帯「梅」の細部

第三千九百三十一回目は、紫紘の袋帯「梅」の細部です。

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いちばん上の写真は、白い絹糸の梅と撚銀糸の梅です。シンプルに見えてじつは光る梅と光らない梅というバリエーションがあるのです。

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写真2番目は白い梅の縁部分の拡大です。地の部分が平銀糸(完全な銀糸ではなく和紙に銀を撒いている)で平面的であるのに対し、梅の花は絵緯糸で盛り上がる表現にしています。

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写真3番目は、銀の梅の縁部分の拡大です。地の部分が平銀糸で平面的であるのに対し、梅の花は撚銀糸という糸の形状の違いで立体性を表現していることになります。

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写真4番目は、梅の花の花芯部分の拡大です。

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写真5番目は梅の枝の先端の近接です。花ほど立体性のない表現です。

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写真6番目は梅の枝の先端のさらに近接です。地が平銀糸と白い絹糸の組み合わせであるのに対し、枝は平金糸と緑色の絹糸の組み合わせであることがわかります。
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写真7番目は梅の枝の拡大です。平金糸と緑色の絹糸の組み合わせることで光沢のある緑を演出していることが分かります。意匠はシンプルでも技術はシンプルではないですね。
[ 2017/11/17 ] 西陣・綴 | TB(0) | CM(0)

紫紘の袋帯「梅」

第三千九百三十回目は、紫紘の袋帯「梅」を紹介します。

洗練された雰囲気の作品です。モダンでシンプルということは誰でも感じると思うのですが、その背景に琳派が透けて見えるところが、この作品の存在の意味だと思います。

このようなデザインは、外部の図案家ではなく野中さんのお姉さんがやっているということです。とてもセンスの良い方のようで、最近注目しています。いきなり「野中さんのお姉さん」と言われてもわからない、という方はfacebookを見てください。私も本人にお会いしたことは無くfacebookでしか知りません。

このシリーズには、枝垂桜、松、楓、菊があります。機会があるごとに紹介しようと思いますが、facebookで探してみることもできます。

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いちばん上の写真はお太鼓です。

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写真2番目は、お太鼓の近接です。

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写真3番目は、お太鼓の近接です。

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写真4番目腹文です。腹文は枝無しの花だけです。

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写真5番目は、腹文の近接です。シンプルなのに存在感があるのは立体性のある表現だからです。その辺は明日、細部をお見せします。
[ 2017/11/16 ] 西陣・綴 | TB(0) | CM(0)

龍村の袋帯「異邦しま文」の細部

第三千九百二十二回目は、龍村の袋帯「異邦しま文」の細部です。

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いちばん上の写真は、お太鼓のいちばん複雑な模様がある部分の近接です。金を背景にしていて豪華な雰囲気になっています。この部分がなければ紬に合わせるのが専用の帯になっていたでしょう。

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写真2番目は、その部分のさらに近接です。本歌の「モール段文」であれば、まさに薄い金板を巻き付けた金糸の部分ということになりますが、このアレンジでは模様に金糸を使うのではなく模様の背景に金糸を使っています。

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写真3番目は、その部分を拡大してみました。よく見たら模様の背景は金糸ではないです。

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写真4番目は、さらに拡大してみました。背景は金糸で覆われているのではなく、辛子色の絵緯糸で覆われてました。輝いているのは絹糸の自然な光沢です。そしてその絹糸に極細の撚金糸(芯糸に金色のポリエステルフィルムが巻き付けてある糸)が一定割合で混ぜてあるだけでした。その割合は、遠くから見て金色に光って見えるイメージほど多くないですね。

一方、模様の青い糸はそれほど鮮やかな色ではないですし、絹糸として光沢を強調した糸でもないです。

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写真5番目は、赤い糸が使われている部分を顕微鏡で拡大してみました。なんと赤い糸の部分はポリエステルフィルムの平糸を混ぜて光沢を積極的に演出していました。青に比べて赤の模様面積は少ないですが、その代わりこんな仕掛けをしていました。西陣織は創作ですね。

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写真6番目は品質表示です。ポリエステルが金糸と赤糸、レーヨンは撚金糸の芯糸です。指定外繊維(紙)があるので本金糸も使われているのでしょう。金色に見える面が全面金糸ならば、絹糸割合は75%ぐらいだったのでしょうが、そうではなかったので絹の割合は高いです。

なお「ニトル」は参考上代を表す符丁です。百貨店はとりあえずこの金額で店頭に出し、外商などと交渉すると安くなるわけですから、最初にこれより高い値段を付ける小売店は存在価値が無いですよね。ときどきこれより高い値段を付けているネット業者があるのですが、多分符丁の見方を知らないんだと思います。龍村と直接取引していないと有りがちなのです。

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写真7番目は、よろけて見える横段の拡大です。いちばん上の赤い糸の部分で、途中で消えている段があります。これは絵緯糸による表現で、じつは裏に潜っているのです。しばらくするとまた表に出てきます。このようにしてよろけを演出しているわけです。けっこう単純でした。
[ 2017/11/08 ] 西陣・綴 | TB(0) | CM(0)

龍村の袋帯「異邦しま文」

第三千九百二十一回目は、龍村の袋帯「異邦しま文」を紹介します。

先日なにげなく仕入れた帯ですが、このブログのために帯合わせをしてみると、ものすごく優れた帯だということがわかりました。黒留袖から紬まで広く使えますし、フォーマルに使えば豪華、紬や小紋に使えばカジュアルをお洒落なパーティー着に変えてしまいます。おまけに季節も関係ないですし。

同じように便利なものに間道があります。間道は人によっては縞と一緒にされて粋と勘違いされますが、これにはそれもない、ほんとにありがたいです。もっともこれ1本で済まされては、呉服屋にとっては良い帯ではないかもしれませんね。 

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いちばん上の写真はお太鼓の部分で、帯の幅を写真の幅として撮ってみました。

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写真2番目は、お太鼓の模様の全てです。実際に身に着ける時は、上下の部分は隠れるでしょう。

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写真3番目は腹文です。お太鼓の模様と同じで、横倒しになるだけです。いちばん上の写真と同じになってしまいますが、こんな感じ、ということで写真に撮ってみました。

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写真4番目は、帯の端のタイトル部分です。「異邦」とはどこの国なのでしょうか。おそらくインドで、近世に東インド会社を通して輸入された「モール段文」でしょう。本来なら「モール段文」というべきですが、あえて「異邦」ととぼけたり、「しま文」と中途半端な言い方をしているのは、意匠登録の関連だと思います。

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写真5番目は、近世に東インド会社を通して輸入された「モール段文」のうち、なるべく似たものを図録などで探してみました。モールは金の薄板を芯糸に巻き付けたもので、きわめて高価なものです。日本の金糸は金箔を和紙に貼りそれを撚り付けるにすぎません。金の薄板を直接巻き付けるとなると日本の金糸とは比べようがないぐらい金の使用量が多いはずです。

でも私はまだ実物を確認したことが無いので、どういう状態で金が糸にくっついているのかわからないんですよ。東博の東洋館にはありますが、ガラス越しですし。
[ 2017/11/07 ] 西陣・綴 | TB(0) | CM(0)