紫紘の袋帯「蔦」の細部

第三千八百七十八回目は、紫紘の袋帯「蔦」の細部です。

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いちばん上の写真は、葉と蔓のルーペによる拡大です。絵画のばあいは、透視遠近法や空気遠近法で遠近感を表したり、明暗を付けたりして絵が平面的にならないようにするものですが、織物のばあいはそれらの表現に加えて、織りの組織や糸の撚り方の違いで実際に高低を変えて奥行表現することもできます。

この写真で言えば、蔓は断面が丸いですから甘く撚った糸で盛り上がる表現をしています。一方、葉は薄くてヒラヒラしているものですから地の組織と絡む表現で平面的にしているのです。

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写真2番目は葉のルーペによる拡大です。地がベージュ色の糸で、葉は緑色の絵緯糸なわけですが、絵緯糸の地の組織との絡み方で、ベージュが強いところと緑が強いところを作り、それで葉に対する陽光の当たり方による明暗や、葉脈を表現しています。こういうところは絵画にはない織物独自の表現方法ですね。

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写真3番目は蔓のルーペによる拡大です。蔓は葉と違って断面が丸いわけですが、糸の甘い撚りと地糸と絡まない織り方で、実際に膨らんでいます。絵画にはできない表現です。絵画では実際の立体にすることはできないですから明暗を付けることで立体に見せるんでしょうね。でも油彩画だったら絵の具を盛り上げてしまうかなあ。

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写真4番目は蔓のライトスコープによる拡大です。実際の盛り上がっているところを撮ってみました。このように糸が膨らんでいると、帯を締める時に擦れたり、締めている時に尖ったものが引っかかったりして毛羽立つリスクがあります。表現によっては実際に使用した時のリスクも背負っているわけです。このことは購入者には説明してあります。

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写真5番目は花のルーペによる拡大です。小さな地味な花ですが、それだからこそ絵緯糸で立体的な表現にしてアイキャッチポイントにしているのでしょう。

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写真6番目は参考図版です。今回の帯のような蔓がグルグル回る意匠の源泉として、昨日は鈴木其一の朝顔図を紹介しましたが、今日は蔓草模様といわれる江戸後期に流行った小袖の様式を紹介します。時代で言えば同じごろでしょうから、鈴木其一の絵もその流行の中に有ったのかもしれません。

アールヌーヴォーが世界的に流行る数十年前、日本では蔓草模様といわれる曲線模様が流行っていました。はじめは蔓植物を好んでテーマにしていましたが、そのうちこの楓や菖蒲、桜など絶対に蔓でも曲線でもあり得ない植物まで曲線で表現するようになりました。つまり蔓植物を真面目に描いて曲線になったのではなく、曲線自体を美しいものと感じそれを目的に題材を探していたんだと思います。

それがアールヌーヴォーの先駆けなのか偶然なのかわかりませんが、美術史では直線の時代と曲線の時代は交互に来るものですよね。数学的な透視遠近法のルネサンスの後にマニエリスムが来たり、ロココの後にナポレオン一世様式が来たり、アールヌーヴォーの後にアールデコが来るような感じですね。
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[ 2017/09/25 ] 西陣・綴 | TB(0) | CM(0)

紫紘の袋帯「蔦」

第三千八百七十七回目の作品として、紫紘の袋帯「蔦」を紹介します。

以前仕入れて、そのうちブログに掲載しようとして写真を撮っておいたのですが、実際に掲載する前に売れてしまいました。もはや宣伝する意味もないのですが、帯合わせまで入れるとかなり時間がかかっているので、もったいないから掲載します。

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いちばん上の写真は帯の幅を写真の幅として撮ってみました。タイトルは「蔦」ですが、実際の植物図鑑を見ると「ヘクソクズラ」ではないかといわれてしまいました。どうでもいいことのように思いますが、庶民的な植物だということは、帯合わせに影響を与えますね。格の高い訪問着などには合わせづらいですから。

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写真2番目は少しずらして同じように撮ってみました。蔓がぐるぐる巻いて躍動的な画面になっています。描く植物が蔓植物のばあい、人間の都合で形をつくれますから、良い絵になるかどうかも描く人次第ですね。

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写真3番目は、帯の端のロゴがある辺りが見えるように撮ってみました。

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写真4番目は近接です。

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写真5番目は、もっと近接です。

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写真6番目は参考図版です。鈴木其一の朝顔図屏風ですが、蔓植物が作者のセンスでグルグル回っているというのはこの作品が起源ではないでしょうか。

写真はネット上から拝借しました。このばあいの著作権の考え方は、平面作品については作者の死後50年経っていれば問題になりません。その写真を撮った人は、プロの写真家にお金を払っているかもしれませんし、機材を担いで苦労しているかもしれません。しかし著作権は創作を保護するものであり、コストや苦労を保護するものではないんですね。

立体作品のばあいは、写真を撮る角度に創作性がありますし、その結果生じた影に作者の意図が有る場合があります。だから写真を撮った人の著作権もあるのではないかと思います。染織品については迷いますね。皺や影があると撮る人によって違い創作性があるような気がします。
[ 2017/09/24 ] 西陣・綴 | TB(0) | CM(0)

喜多川俵二の名古屋帯「鉄線唐草」

第三千八百六十八回目の作品として、喜多川俵二の名古屋帯「鉄線唐草」を紹介します。

先日紹介した喜多川俵二さんの作品は有職文様の二陪織物でしたが、今回は名物裂の唐草文に取材したものです。最初の牡丹唐草は舶載されたものですが、菊、桜など日本でもいろんなバリエーションがつくられました。

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いちばん上の写真は帯の幅を写真の幅として撮ってみました。

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写真2番目は近接です。

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写真3番目は、もっと近接です。

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写真4番目は拡大です。鉄線部分は絵緯糸による表現です。

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写真5番目は裏側です。裏側は唐草部分の色でした。鉄線部分と唐草部分は、表から見ると同じ組織で織られているように見えます。しかし裏を見ると、鉄線部分は絵緯糸で表現してありますが、唐草部分は地の組織に絡んで黒い糸と共に地を構成しています。

この違いは、鉄線の花は4色あって毎回違うのに対し、唐草部分は1色でしかも全体に均等に広がるデザインなので組織に絡めてしまった方が合理的なのでしょう。生地も丈夫になってしわになりにくいですし。

さらに写真4番目に戻って見ると、唐草の色の糸は組織に絡んでいるために、表地に点々と露出しているんですね。この点々のおかげで、地色が真っ黒ではなく含みのある黒に見えています。それが作品全体を優しく見せているんですね。実利もあるし視覚効果もある、それで合理的というわけです。

ちなみに織物における合理性とは、同じ機能と視覚効果をなるべく少ない糸で実現するということだと思います。無駄に糸を使っていれば、資源が無駄であるばかりでなく重くて着づらくなりますものね。

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写真6番目は裏側の近接です。鉄線の花を表現している絵緯糸の状態を分かりやすく撮ってみました。模様と模様をつなぐところが裏で渡り糸になっています。同じ色が横につながるようなデザインであれば、渡り糸が横1列につながるような組織が合理的なわけですが、この帯のデザインはそれぞれ色の違う花の形の塊が点在するデザインなので、その模様の塊の中だけ糸が渡っています。
[ 2017/09/15 ] 西陣・綴 | TB(0) | CM(0)

喜多川俵二の名古屋帯「梅花文」

第三千八百五十八回目の作品として、喜多川俵二の名古屋帯「梅花文」を紹介します。

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いちばん上の写真は帯の幅を写真の幅として撮ってみました。

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写真2番目は近接です。模様は3色なので、以下、色ごとに撮ってみました。有職文様というのは文様の形だけでなく、色目や色の組み合わせでもありますね。

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写真3番目は近接です。

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写真4番目は近接です。

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写真5番目は裏側です。絵緯糸で模様を表現しているので、裏側は渡り糸が有ります。模様は固まりごとに整理されている意匠なので、渡り糸は耳までは繋げないで済んでいます。
[ 2017/09/05 ] 西陣・綴 | TB(0) | CM(0)

龍村美術織物の間道の袋帯「常磐間道」

第三千八百五十二回目の作品として、龍村美術織物の間道の袋帯「常磐間道」を紹介します。

龍村の間道のシリーズをまた仕入れてみました。もともと間道のシリーズはほとんど高島屋専用で、一般の小売店が取り扱うことができるのは「海老殻間道」だけでした。しかし近年ようやく一般の小売店が扱うことができる「たつむら」ブランドでも間道が売られるようになりました。よほど売れ行きが良いらしく次々新作が出ています。

もともと間道などというものは織物としての組織には差が出ないものですし、デザインも縞の太さと色の順番が変わるだけで本質的に変わりません。では高島屋専売と一般販売のどこが違うかといえば、タイトルだと思います。高島屋で販売されるものは「弥兵衛間道手」とか「青木間道手」というように実在する名物裂に倣って作られ、そのままの名前が付いています(「手」というのは完全な復原ではないという意味)。

それに対し一般販売のものは、なんとなく縁起が良いような、お茶を濁すようなタイトルがついているんですね。この「常磐間道」も本当は元にした名物裂があるのですが、高島屋に遠慮してそれを名乗れず、「常磐」というなんとなく縁起が良いだけの名前が付いているのです。なんだ名前だけのことか、と思われるかもしれませんが、正倉院裂や名物裂については、何を継承しているかという意味で名前は大事です。名跡みたいなものですね。

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いちばん上の写真は帯の幅を写真の幅として撮ってみました。

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写真2番目は近接です。

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写真3番目は、タイトル部分の近接です。

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写真4番目は拡大です。

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写真5番目は、帯の裏側がわかるように撮ってみました。裏も同じ間道です。
[ 2017/08/30 ] 西陣・綴 | TB(0) | CM(0)