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錦工芸の九寸の名古屋帯「インカ鳥波」

第三千八百三十二回目の作品として、錦工芸の九寸の名古屋帯「インカ鳥波」を紹介します。

インカの文様を意匠化した九寸の名古屋帯です。私はこの文様の本歌を正確には知りませんが、インカ文様だなあと思わせる意匠です。ただ、素人が考えるインカ風の文様はプレインカの文様であるばあいが多いですね。アンデス文明の歴史は長いですが、インカ帝国が存在した期間は長くないので、インカの文様だと思われていたものは、それ以前のチャビンとかチャンカイであることが多く、それらも最初からわかっているわけではなく、発掘の進展によって徐々に分かってくるものなので、プレインカとひとまとめに言います。

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いちばん上の写真はお太鼓です。抽象化した鳥の文様と、波などの自然現象から生み出された幾何学文様の組み合わせです。鳥の抽象化も巧みですし、波も日本の波頭文様をさらにパターン化したみたいで巧みだと思います。あと2つの幾何学文様もおそらく自然現象を抽象化したものではないでしょうか。このような民族的な文様はユングの言う「象徴」のようなもので、いくら天才でも個人ではかないません。

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写真2番目は腹文です。お太鼓の意匠からメインである鳥文様を除外して周辺文様だけで構成しています。これこそお太鼓と腹文の関係の基本ですね。

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写真3番目は、お太鼓の裏側です。渡り糸が有るので、模様は全て絵緯糸で表現されていることが分かります。唐織が本業の錦工芸らしいです。先日紹介した「雪の結晶」と「南天」と比較してみると、「雪の結晶」と「南天」は絵緯糸が帯の耳まで通っていませんが、この帯は耳までつながっています。これは横につながる意匠か1つに固まる意匠かの違いです。

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写真4番目は、お太鼓の近接です。メインの鳥文様に近接してみました。

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写真5番目はもっと近接です。鳥文様部分です。留め糸は地色と同じ白であるため模様に色の濁りがなくクリアな印象です。

「雪の結晶」や「南天」と比較してみると、結晶や南天は糸がふっくらとして留め糸が少ないので、模様が立体的であり唐織のイメージに近いです。一方、この作品はそれほど糸にふっくら感が無く留め糸も多いので、模様がやや平面的であり唐織のイメージが少ないです。エキゾチックなモチーフなので唐織っぽさを避けたのでしょうか。

唐織と言われるものも、そう言われない西陣の帯も、どちらも絵緯糸で模様表現をしていることは同じですが、こうして見ると違いがなんとなく分かってきますね。

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写真6番目はもっと近接です。幾何学模様部分です。
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[ 2017/08/10 ] 西陣・綴 | TB(0) | CM(2)

錦工芸の九寸の名古屋帯「南天」

第三千八百二十七回目の作品として、錦工芸の九寸の名古屋帯「南天」を紹介します。

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いちばん上の写真はお太鼓です。雪輪を背景にした赤白の南天です。色の少ない冬の時期に赤い色で目を楽しませてくれるのは南天ですね。地色は雪のような白、雪輪の金地も白味の掛かった金色です。雪の庭から南天の枝と実が首を出したイメージでしょうか。そういうのは帯合わせで生かさないといけませんね。

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写真2番目は、お太鼓の裏側です。裏側は渡り糸で、絵緯糸で模様が表現されているのがわかります。錦工芸と言えば唐織の織屋さんというイメージですよね。

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写真3番目は腹文です。雪輪は半分ずつです。

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写真4番目は、腹文の裏側です。お太鼓と同じ組織です。

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写真5番目は、お太鼓の近接です。

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写真6番目は、腹文の近接です。

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写真7番目は、もっと近接です。糸は唐織特有の撚りの少ないふっくらとした糸を使っています。これで唐織の立体感が出るわけです。赤の色が地味でも派手でもない、ドスが効いているが血のような生臭さが無い、中井淳夫さんが使うような上品なのに存在感がある色です。この赤が、この作品の存在理由の全てじゃないですか。

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写真8番目は、もっと近接です。金色が白みがかって見える仕掛けは、平金糸の留め糸が白であることだけでなく、平金糸の間に白い絹糸がやはり絵緯糸として織り込んであるからです。西陣の織物というのは、視覚効果のあるところ必ず仕掛けがあるものです。
[ 2017/08/05 ] 西陣・綴 | TB(0) | CM(0)

金谷織物の八寸の名古屋帯「北欧宝飾文」の続き

第三千八百二十四回目は、金谷織物の八寸の名古屋帯「北欧宝飾文」の続きです。

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いちばん上の写真は、赤・青・緑の模様の近接です。地は平織、模様部分は金糸を織り込んだ平織、赤・青・緑の部分は、経糸を緯糸で包むように織り表面には緯糸しか見えない綴組織になっています。綴組織部分は立体的になりますし、経緯の色が交じることが無いので赤・青・緑の色がくっきりしています。そのため宝石のように見え、綴組織にする意味があるのです。

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写真2番目は、上の写真と同じ個所の裏側です。綴組織なので渡り糸が有りません。

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写真3番目は、金・銀の模様の近接です。中央の金の玉は平織、その他の金銀糸部分は綴組織のようです。中央の玉だけ少し立体感が無く、金色が白と交っています。金銀だけとはいえ、模様にメリハリがついているんですね。

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写真4番目は、上の写真と同じ個所の裏側です。左右反転させています。平織部分の裏、綴組織部分の裏がわかります。

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写真5番目は、赤・青・緑の模様のさらに近接です。平織部分の特徴は、形状としては平面的で、色としては経緯の色が交じることです。綴組織の特徴は、経常的には立体的で、色としては緯糸だけが表面に露出するので経緯の色が交じらず色が純粋になることです。

この作品は、平織と綴れ組織を併用することで、両者の特徴の違いで作画しているのです。綴れ組織である赤・青・緑は立体的で色が交じらず純粋であることから、宝石が嵌っているのを表現するのにちょうど良いわけです。

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写真6番目は、金・銀の模様のさらに近接です。
[ 2017/08/01 ] 西陣・綴 | TB(0) | CM(0)

金谷織物の八寸の名古屋帯「北欧宝飾文」

第三千八百二十三回目の作品として、金谷織物の八寸の名古屋帯「北欧宝飾文」を紹介します。

赤・青・緑という光の三原色の装飾の弧と金銀の装飾の弧があって、華やかながらクリアな印象の作品です。色の有る部分と色の無い部分がしっかり整理されているのでクリアな印象なのだと思います。また色の有る部分は光の三原色、色のない部分は金銀ということで、華やかさもあるのでしょう。かわいいとも言えるけど媚びてはいないデザインだと思います。

弧を描く模様の形状からすると、元の作品は首飾りのように思えます。北欧の宝飾ということでヴァイキング美術でしょうか。あるいはそれ以前の北方ユーラシア美術に属するものでしょうか。北方ユーラシア美術と言われる金製品などは、たいていギリシアやローマで制作されているということです。いろいろ調べたのですが、この模様に該当するような装飾品は見つかりませんでした。

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いちばん上の写真はお太鼓です。

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写真2番目は、お太鼓の裏側です。裏側を見ると模様部分に渡り糸が無いので、西陣の基本である絵緯糸による模様表現でないことがわかります。綴系の組織ですね。平織部分もありますから綴というより「すくい」というべきでしょう。また「すくいとは綴の仲間のうち紬系のカジュアルなものである」という説もありますが、それと照らし合わせてもこれはすくいと言えるでしょう。

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写真3番目は腹文です。

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写真4番目は、腹文の裏側です。

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写真5番目は、お太鼓の近接です。明日はもっと細部をお見せします。なかなか良く出来ているんですよ。
[ 2017/07/31 ] 西陣・綴 | TB(0) | CM(0)

錦工芸の九寸の名古屋帯「雪文様」

第三千八百十八回目の作品として、錦工芸の九寸の名古屋帯「雪文様」を紹介します。

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いちばん上の写真はお太鼓です。白地に白い雪の結晶という意匠です。

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写真2番目は腹文です。腹文は雪の結晶は2個ずつですが、片側は白と金、儲から側は白だけです。白だけだと模様がよく見えなくて寂しい気がしますが、着物によっては金を使いたくないときもあるはず。それが選択できるようになっています。

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写真3番目は、お太鼓の近接です。白地に対し白だけの結晶と白金の結晶があります。その間の空間を埋めるように金だけの小さい結晶があります。雪の結晶というのは伝統的な唐華文のようでもありますが、唐華文でいえば主文と副文のような関係ですね。

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写真4番目はもっと近接です。

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写真5番目は拡大です。金糸も使ってある結晶を拡大してみました。白い部分は絵緯糸で唐織のようなふくらみのある表現ですが、そこに細い撚金糸が時には縁取りのように、時にはまとわりつくように織り込まれています。

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写真6番目は拡大です。白い部分が唐織のようなふくらみのある表現である点では同じですが、それだけではなく金糸の代わりに細い白い撚糸が金糸の時と同じように織り込まれています。

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写真7番目は拡大です。白金の部分で、唐織で使うようなふくらみのある白い糸と、撚金糸で立体的な表現をしています。

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写真8番目は拡大です。大きい結晶どうしの間隔にある金糸の小さい結晶です。大きい結晶は唐織のような立体感のある表現になっていますから、その合間にある小さい結晶は平面的な表現にしてメリハリをつけるべきです。実際に拡大して見てみると、平金糸を使っていて平面的な表現にしていました。

立体的な部分との相互作用で全体が奥行きのある表現になっているんですね。作品に色が無いわけですから、その分、糸の形はバリエーションを付けているわけです。
[ 2017/07/26 ] 西陣・綴 | TB(0) | CM(0)